第1章 感染症の危機から立ち上がる日本経済(第4節)

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第4節 まとめ

本章では、2020年後半以降の経済の動きを概観した上で、内需・外需の状況や、家計部門、企業部門での特徴的な動きについて確認した。我が国経済は、昨年5月末の緊急事態宣言解除以降、感染防止を図りながら社会経済活動の水準を引き上げるとともに、大規模な財政出動と緩和的な金融措置により、総需要の下支えが図られたことから、年後半以降、内需面では個人消費を中心に持ち直しが続いた。また、諸外国における経済活動再開にともない、輸出についても持ち直しが続いた。しかし、秋以降の新規感染者数の増加を受けて、地域レベルで経済活動の制限が拡がり、本年1月には再び緊急事態宣言が発出された。

ただし、今回の緊急事態宣言では、これまでの経験・知見や専門家の分析を踏まえて、感染の起点といわれる飲食とそれにつながる人流を抑える措置を講じた。昨年4、5月の時のように、全国において経済活動を幅広く人為的に止めたわけではないため、マクロ経済的な影響は相当程度抑制されたものと見込まれるが、消費については弱い動きとなっている。

また、雇用・賃金の動向をみると、総じてみれば弱い動きに止まっているものの、政策支援の効果もあり、雇用者数等には持ち直しの動きがみられるなど、ある程度の底堅さがみられている。また、金融市場は大規模な金融緩和政策の実施を背景として、企業の資金需要を吸収し、引き続き緩和傾向にある。ただし、物価の動向をみると、企業の予想物価は下振れしており、GDPギャップは縮小傾向にあるものの、依然として大きなマイナスとなっており、消費者物価への下押し圧力も続くと見込まれることから、デフレリスクは残っている。したがって、感染防止を図りながら需要水準を押上げることが重要である。

最終節では、感染症の影響下での対外収支と海外投資の動向や為替レートの変動要因について分析した。国際的な人の移動の制限から、サービス収支は赤字で推移したものの、経常収支全体では黒字を維持し、また、対外直接投資の動向をみると、当面は、感染症の影響が比較的軽微なアジア向けの直接投資を企業が優先させていることが明らかになった。足下では、欧米向けを中心に対外直接投資・証券投資の下押しが確認されており、我が国の製造業企業へのアンケート調査結果をみても、海外事業に対して慎重な姿勢がみられることから、こうした動きが今後海外の投資先の変更や国内への投資回帰をもたらすのかが注目される。また、感染拡大による経済変動の大きさに比べて、為替レートは安定的であったが、これに関連し、近年では、為替レートの変動に応じた輸出企業の価格設定行動に変化がみられること、また、企業収益に与える影響が低下していることから、経済全体への影響が緩和されている可能性があることを指摘している。

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