第3章 人口減少時代における対外経済構造の変化と課題(第4節)

[目次]  [戻る]  [次へ]

第4節 まとめ

本章では、人口減少が進む我が国の対外経済構造の変化と先行きの展望について、国際収支の観点から整理し、貿易黒字が縮小する中でも、国内総生産(GDP)に海外からの所得と交易利得を加えた国民総所得(GNI)の持続的な成長に向けた課題について検討した。

第1節では、我が国の対外経済構造の長期的な変化について確認した。長らく経常収支の黒字要因となっていた貿易収支は、2000年半ば以降、次第に黒字幅が縮小し、このところ、第一次所得収支が黒字を支える構造に変化している。貿易収支の恒常的な黒字が解消した背景には、新興国の台頭による比較優位の変化や世界全体の貿易の停滞が挙げられるが、輸出数量が伸び悩むなかにあっても、財の高付加価値化は進んでいる。第一次所得収支の黒字拡大は、対外資産の大幅な増加によるが、我が国は28年連続で世界最大の純債権国となっている。

第2節では、とりわけ総人口よりも生産年齢人口の減少が先に生じる我が国において、その対外経済構造の将来像について、先行分析事例を中心に考察した。国際収支の「発展段階説」によれば、我が国は「成熟した債権国」に差し掛かっており、その後は最終段階として位置づけられる「債権取り崩し国」に向かうとみられる。この点について、先行研究では、人口減少が進むと資本は海外に移動するなど、人口動態が経常収支の水準に有意な影響を与えることが示されている。

加えて、経常収支黒字の主因となっている対外資産の運用について検討した。現在、我が国の対外資産の収益率は他の先進国と比べて高いものの、名目GDP対比で測った投資規模は小さく、拡大余地が残されている。特に、ホームバイアスの高い預金取扱機関に集中している資金をホームバイアスが比較的低い年金や投資信託等に振り向けることで、対外証券投資を通じて、より大きな収益を獲得できる可能性がある。また、対外直接投資は、国内企業業績や賃金・雇用の拡大を通じて国内経済にもプラスの効果をもたらし得ることが定量的に示された。

第3節では、対外資産の収益力を維持・強化するために必要な課題のうち、我が国の必須輸入であるエネルギーや食料の対外依存について、コスト面も含めて抑制する方策の検討を行った。

我が国のエネルギーは、9割弱を海外に依存しており、エネルギーの対外依存を低減させることは交易条件面から望ましい。現状、我が国の企業・家計が負担しているエネルギーコストは、他の先進国と比べて高く、エネルギーの対外依存軽減を検討する際には、負担低減に向けた対策も検討する必要がある。これには、エネルギー権益の拡大・分散はもちろんのこと、発電コストの安い原子力発電の安全再稼働や、再生エネルギーの設置費用の低減などに取り組む必要がある。

また、我が国は食料の6割弱を海外に依存しており、就農人口や耕作放棄地の増加を勘案すると、食料自給率は今後も低下するおそれがある中で、食料の対外依存を低減させつつ食料自給率の回復を図るためには、経済連携協定を活用した輸入先の分散化と輸出力強化による国内生産の維持・拡大が求められる。

[目次]  [戻る]  [次へ]