第2章 人口減少時代における働き方を巡る課題(第4節)
第4節 まとめ
本章では、人口減少時代における働き方を巡る課題として、第一に働き方の変化と働き方改革、第二に働き方の変化と就業機会、第三に働き方の変化と社会保障、という三つの分野を取り上げた。
働き方の変化と働き方改革においては、労働時間や労働参加の推移を振り返り、働き方改革の効果を検証した。我が国では、労働時間も長時間労働者数も減少しているが、男性の労働時間はOECD加盟国でも長い。ただし、労働時間の長い国は労働生産性が低いという関係もあり、労働時間を減少させながら生産性を引き上げることは可能である。
また、最近の労働力人口の増加は女性と高齢者によって実現しているが、女性の就業のM字カーブは解消されつつあるが、30歳台以上の女性が継続就業できる環境整備が引き続き望まれる。これは、30歳台以上の女性雇用者が大幅に非正規化する現状を是正することにも資する。その際、長時間労働の男性が多い国では30歳台の女性就業率が低いという関係がある。その背景には、男性の子ども・子育てへの参加状況や働くために必要となる保育所等の社会インフラや環境条件等、様々なものが存在すると考えられるが、何れにしても、女性の労働参加促進と男性の長時間労働抑制という2つの課題には、共通の要因も作用しており、同時解決を目指すべき課題である。
さらに、2019年4月より実施されている働き方改革により、有給休暇の取得といった要因による勤務日数の減少を通じて、労働時間や長時間労働者数の減少が明らかになった。
第二の課題である働き方の変化と就業機会では、景気と就業機会の関係や人口減少時代における雇い方や雇われ方の動き、そして長期に渡って安定的な就業機会を確保し続けるために重要な論点について検討した。経済危機後の雇用機会喪失は世界各国で生じているが、我が国のバブル崩壊後にも長いスランプが生じ、新卒採用枠が少ない時期が存在した。その結果、就職氷河期の大学新卒就職率は平年よりも10%ポイント以上低く、同世代の男性が30歳台になった際の正規雇用比率も過去の世代より低めに止まり、新卒市場の影響が先々まで残ることがうかがえる。
本来は長期的かつ計画的に実施されることが期待される新卒採用だが、中途採用よりも景気に感応的である。こうした採用スタンスが就職氷河期問題を深刻化させた原因とも考えられる。ただし、若年人口が減少する時代においては、新卒採用が困難となる企業もあり、構造が変わるかもしれない。一方、雇用者の視点に立つと、勤労生活は長く、離職・転職がより容易になる環境整備が、長期に渡る安定的な就業機会の確保には必要となる。具体的には、転職が不利になる退職金制度等に含まれる側面を解消し、より中立的な仕組み、ポータブルな仕組みにすることが挙げられる。他方、転職が容易になれば、企業は従業員への投資インセンティブを失うかもしれない。データによると、従業員教育の投資規模は減少傾向となっているが、高齢化の影響を除外するとおおむね横ばいとなっており、現状、企業の人的投資方針に大きな変化は生じていないようである。しかし、従業員自身による人的投資は、時間面で減少傾向となっており、学び直しに向けた動きは低調である。雇用期間の長期化を踏まえ、個人の教育投資を社会的にサポートすることも必要である。
最後の課題である働き方の変化と社会保障については、第3号被保険者を取り巻く状況や就業を促進する上で重要な論点について検討した。過半数の第3号被保険者は既に働いているものの、所得要因等から就業調整を行っている。社会保険の適用拡大によって被保険者とすることや、配偶者の勤め先における手当等にある所得制限を廃止、あるいは別の手当に変えること等を通じ、就労インセンティブを高めることが可能である。また、就労意欲の高い高齢者は多く、特に60歳台前半の高齢者を中心に就労意欲は高い。今次の在職老齢年金制度の見直しも、こうした者の就業を促進することが期待される。また、子育て世帯をサポートしつつ継続就業を促す育児休業給付金の受給者は増加しており、効果を発揮しているとみられる。また、働き方の見直し、ワークライフバランスの改善に向けた取組の成果もあり、就業が出生率にマイナスとはいえない状態を生み出している。保育所増設も就業促進に寄与し、子育てと仕事の両立を図ろうとする者に貢献している。こうした取組の拡充を通じ、人口減少時代においても、経済の活力を維持増進していくことが求められている。