付注2-2 傾向スコアマッチング法による共働きの効果の推計について

1 推計方法

片働き(夫:有業、妻:無業)の世帯が共働きになった場合に世帯年収と消費支出にどの程度の影響が出るのかについて、傾向スコアマッチング法を用いた差の差(difference in differences)の分析を行った。具体的には、夫が有業かつ調査前年から会社組織や事務所が変わっていない世帯について、前年(t-1期)に妻が無業だったものの今年(t期)に妻が有業(共働き)となった世帯と、継続的に妻が無業である世帯の2つのグループに分けたうえで、各々のグループから同様の属性を持った世帯をマッチングし、前者と後者との間で、世帯年収と消費額の前年差にどの程度の差が生じるのかを測定した1

2 使用データ

分析には、慶應義塾大学「日本家計パネル調査」の個票データを用いた。同調査は、2004年の調査開始から現在に至るまで、新サンプルも加えながら、同一の対象者を追跡調査したパネル調査である。本稿では、調査対象者とその配偶者の年齢や学歴等の個人属性に加え、就業状態についての設問を利用し、専業主婦世帯が共働き世帯となることによる影響について分析を行った。なお、データ期間は2009年~2016年とし、世帯年収と夫及び妻の年収、消費支出額については上下1%を除いて分析に用いた。

3 推定式

はじめに、夫が有業かつ調査前年から会社組織や事務所が変わっていない世帯について、t-1期に片働き(妻が無業)であった世帯がt期に共働き世帯に移行する確率を計算した。具体的には、共働きとなった場合に1、それ以外は0をとるダミー変数を被説明変数、以下の個人属性を説明変数とするプロビットモデルを推定した。

推計に用いた説明変数

次に、得られた傾向スコアをもとに、共働きとなった世帯と継続的に専業主婦である世帯をマッチングし、以下のATT(Average Treatment effect on the Treated)の計算式をもとに、差の差分析を行った。

付注2-2 数式1を画像化したもの

4 推定結果

傾向スコアを求めるために行ったプロビット推定の結果は以下の通り。

傾向スコアを求めるために行ったプロビット推定の結果 の表

傾向スコアマッチング法による結果は次のとおり。

傾向スコアマッチング法による結果 の表
1 例えば、新たに共働きとなった世帯の世帯年収の前年差が+30万円で、継続的に片働きであった世帯の世帯年収の前年差が+10万円だった場合、両者の差額である+20万円を共働きによる世帯年収の押上げ効果とみなす。