第2章 多様化する職業キャリアの現状と課題(第2節)

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第2節 産業構造の変化が求める人材

前節では、多様なキャリア形成に向けた環境整備の必要性を述べた上、転職、副業・起業の現状と課題について概観した。本節では、将来を見据えて、多様なキャリア形成に向けて、今後どのような人材やスキル等が必要となってくるのかについて、就業構造の変化と技術進歩の2点を軸として考察する。

1 就業構造の変化を踏まえて

ロボット等の導入が進めば、製造業等で必要とされる人員が少なくなるなど、就業構造はよりサービス業へとシフトしていく可能性が高い。ここでは、このような産業構造の変化は、今後、どのような人材や職業を必要とするかについて分析する。さらに、今後の新しい就業形態の一つとしてフリーランスについても考察を行う。

(就業構造のサービス化)

まず、ここ10年の日本の就業構造の変化を概観する。2005~15年度の職種別の就業者数の変化率をみると、製造業では就業者数が減少する一方、第3次産業では就業者数がともに増加しており、就業構造のサービス化の流れが指摘できる(第2-2-1図)。

第3次産業について、就業者数の変化率をより詳細にみると、高齢化を反映して医療・保健、介護等を含む保健衛生・社会事業の伸び率が非常に高い。その他には、不動産業、情報通信業、専門・科学技術、業務支援サービス業等で就業者が増加しており、その内訳として専門的・技術的従業者の増加が寄与していると考えられる。一方、建設業や、公務、金融・保険業では就業者数は減少している。

産業間により求められる人材や必要とされる能力も異なるため、就業構造のサービス化が今後ますます進めば、就業者の仕事の性質も従来と大きく変化していくことが予想される1

第2-2-1図 就業者数の変化率(2005年度~2015年度)
第2-2-1図 就業者数の変化率(2005年度~2015年度) のグラフ

(需給のミスマッチが大きい仕事)

次に、今後はどのような職業が必要とされていく傾向にあるかを考察するが、中長期的な需給動向についての示唆を得るため、現状の需給動向について詳しく分析することとする。ここではハローワークのデータを用いた考察を行う。

第2-2-2図では、職業分類の小分類ベースで、2017年1~9月(月平均)のハローワークにおける需要(求人)超過と供給(求職)超過の動向をみたものである。これをみると介護サービスの職業2は15万人の求人超過であり、人員の不足が最も大きい。また、飲食物給仕係やビル・建物清掃員等についての求人が多い一方、看護師、保育士、建設・土木技術者などの資格が必要な、より専門な業種についても求人が多い。民間の転職情報サイトでは、IT関係の求人倍率が非常に高いが(第1章前掲第1-2―1図(5))、ハローワークでもソフトウェア開発技術者が2万人弱の求人超過であり、IT人材に対する需要が高いことがうかがえる。

第2-2-2図 労働需給ミスマッチの大きい職業
第2-2-2図 労働需給ミスマッチの大きい職業 のグラフ

逆に求職超過となっている主な職業は、一般事務員等の総合事務員や、軽作業員3である。特に総合事務員は、約19万人の供給超過となっており、求人と求職の差が最も多い職業となっている。一般事務が求職超過となっているのは、転職情報サイトでも同様である。

では、労働需給の見通しに対しては、どのようなことが言えるだろうか。機械化という観点からは、現状ではクリエイティブな仕事や、給仕や清掃等の認知・操作等が必要な労働の代替ができていないが、文章作成や事務手続き等の仕事については、既にコンピューターによる効率化・代替が進んでいる(井上、2016)。また、介護関係は高齢化の影響、IT関係はAI等の発展により、需要がさらに伸びる可能性もある。

以上を踏まえれば、介護・看護、給仕係、清掃員、IT関係、建設・土木技術者などの現在需要超過である職業については、少なくとも短期的には需要は引き続き高く推移することが予想される4。また、既に足下でも求職超過となっている総合事務員等については、今後さらに需要が減少する確率が高いことから、人員不足の職業等への転換を促すことが必要となってくると考えられる。

(フリーランスは新しい就業形態となるか)

社会構造の変化や第4次産業革命等により、一つの企業に就業するのではなく、プロジェクト単位で仕事を行う「フリーランス」のように、雇用関係によらない柔軟な働き方が増える可能性が指摘されている。高い専門性を備えて業務単位で請負契約を複数の企業と結ぶインディペンデント・コントラクターや、雇用関係のある主たる仕事を持ちつつも副次的に仕事を行っている者等、フリーランスでも多様な形態がある5。アメリカでは労働力人口のうち36%がフリーランスとして仕事を受注しているとの報告もあり6、世界的にみてもこのような働き方がよりスタンダードになっていく可能性もある。ここでは、日本におけるフリーランスの現状と課題について、働き手側と企業側との両面から整理していく。

まず、働き手側からの視点として、個人事業主やインディペンデント・コントラクター等の雇用関係にない働き方をしている人7に焦点を当ててみてみよう。職種別では、クリエイティブ・専門職が35%と最も多く、次に講師・インストラクター、研究開発・技術・エンジニアと続く(第2-2-3図(1))。雇用関係によらない分、自分たちの強みやスキルを活かして仕事をしていることが推察できる。また、顧客獲得手法では、人脈、取引経験や勤務経験のある企業が多く、様々なネットワークを駆使して仕事を獲得していることがわかる(第2-2-3図(2))。

働き方に対する満足・不満足の背景としては(第2-2-3図(3))、満足だと考える理由には、やりたい仕事を自由に選択できるとの回答が多く、次に時間や働く場所など柔軟な働き方ができることを挙げる割合が高い。一方、不満な点をみると、収入面における不安定性を回答する割合が圧倒的に高くなっている。病気、出産等による休業、受注状況の悪化、事業の廃業などの際、個人事業主に対する公的なセーフティーネットが不十分なため、収入が途絶するリスクがこの不満の背景にあると考えられる8

また、収入の不安定性という側面は、企業との関係が対等でなく、立場が弱いことによる報酬の支払いに関する問題が指摘できる9。フリーランスが多いと言われるアメリカでも、約束の金額が支払われないことや入金の遅延が問題となっていたため、フリーランサーズ・ユニオンの活動により、シェアリング・エコノミー下で働く労働者の賃金を守るための「フリーランサー賃金条例」がニューヨーク市で2016年11月に成立した(山崎、2017)。こうした制度面の整備を行うことがフリーランスとしての働き方を増やし、満足度を高めることにつながると考えられる。

第2-2-3図 フリーランスの現状と課題(フリーランサー視点)
第2-2-3図 フリーランスの現状と課題(フリーランサー視点) のグラフ

次に、企業側からのフリーランスの活用の現状についてみてみよう(第2-2-4図(1))。情報・通信業においては、既にフリーランスの人材を活用しているとの割合が約40%と高いが、その他の業種では10~20%程度であり、活用している業種は限られている。また、情報・通信業を除き、今後の活用も検討していないと回答した企業の割合が最も多くなっている。次に、フリーランスを活用済み、活用を検討している企業を対象に、今後の活用予定を聞くと、増やす・現状維持を考えている割合が多く、減らすと回答した企業はほとんどない。さらに、フリーランスを増やす・現状維持と回答した企業にその理由を聞いたところ、過半数以上の企業で期待通り、または期待以上の効果があったと回答している(第2-2-4図(2))。

こうしてみると、フリーランスを活用した・しようとしている企業では、フリーランス活用に一定程度のメリットを感じている企業が多いと思われるが、そもそもフリーランスの活用が検討対象にすらなっていない企業が多数であることから、最初の活用に至るまでの障壁が高いと考えられる。フリーランスを含めた業務のアウトソーシングについては、費用対効果が不明であることや、ノウハウ等の流出懸念が活用の障壁であると回答する割合が高く、こうした不透明感がフリーランスの活用を検討対象外としている背景だと考えられる10(第2-2-4図(3))。

多様なキャリア形成という観点からは、フリーランスとしての働き方は、魅力的な選択肢の一つとなり得るが、現時点においては、働き手にとっては収入の不安定性、企業にとっては効果の不透明感等がボトルネックとなっていると言えよう。

第2-2-4図 フリーランスの現状と課題(企業視点)
第2-2-4図 フリーランスの現状と課題(企業視点) のグラフ

2 テクノロジーの変化を踏まえて

AI等のテクノロジーの発達は、雇用にどのような影響を与えるのであろうか。ここでは、技術進歩の影響を受ける職業、IT人材など今後の機械化と雇用の関係性について考察していきたい。

(仕事はどこまで変わるのか)

近年のAIの発達を受けて、AIと雇用に関する研究が盛んに行われている。例えば、Frey and Osborne(2017)は、職業別にコンピューターに代替される確率を計算し、アメリカにおいて過半数弱の雇用者が代替リスクにさらされていると試算した。ただし、Arntz et al.(2016)は、各職業でコンピューターが代替できるタスクは一部であり、全てのタスクが代替可能ではないため、職業自体が代替されると仮定するFrey and Osborne(2017)の推計は過大であると指摘している。

浜口・近藤(2017)は、Frey and Osborne(2017)の確率のデータを日本の職業分類に対応させることで、男女別・都市規模別にコンピューターに代替されやすい属性を分析した。彼らの計算した雇用リスク確率を各職業の就業者数で重みづけし、職業大分類別にみたのが第2-2-5図(1)であるが、前述の通り、このリスク確率はAIにより仕事が丸々代替されてしまうというより、仕事の内容や性質が大きく変わる確率と解釈すべきであろう。その上で図をみると、就業者数が最も多く、リスク確率も最も高いのは事務の仕事であり、第2-2-2図でも述べたが、AIにより既に業務の効率化が行われている分野である。また、生産工程や販売といった職業でも就業者数が多い一方、リスク確率が高くなっている。

一方、リスク確率が低いのは、専門的・技術的職業や管理的職業である。前者は主に技術進歩とともに需要が増える職業であると考えられる。また、後者については、AIは、ルールを覚えるのは得意だが、マネジメントはルールに基づき行えるものではないため、管理的職業など、より人間を相手にした職業はリスク確率が低くなっていると考えられる。マネジメント以外にも創造性や社会的知性を必要とするような仕事についてはリスク確率が低いとの指摘もある(Frey and Osborne, 2017)。

AIによって影響を受けると思われる職業や労働者について調査した論文のインプリケーションをまとめたのが第2-2-5図(2)である。日本だけでなく海外も分析対象に入っているが、おおむね共通しているのは、低技能労働者や、教育年数が短い労働者が機械化の影響を受けやすいということであろう。日本では、非正規労働者や、非正規労働者に就業している割合が高い女性労働者が機械化の影響を受けやすいと指摘されている。こうした人々に対する職業訓練が非常に重要であろう。

ただし、機械化の影響を考える上で重要な論点は、代替が可能であることと、実際に代替されるかどうかは別問題であるということである。一つには、機械化のコストが労働者のコストより高い場合、企業が機械化を行うインセンティブはないため、代替は行われない。ただし、中長期的に機械化のコストが下がってきた場合は、機械化のインセンティブが生じる可能性はある。

また、利用者の視点も考える必要があり、消費者がAIによる代替を希望しない場合においては機械化が進まない。森川(2017)より、各サービスについて人間による対応を希望する割合を年齢階級別にみたものが第2-2-5図(3)である。全体的には、保育・教育・医療・介護の分野において、人間によるサービスを希望する割合が高くなっており、こうした分野においてはロボットやAIに代替されることを望まない人々が多い傾向があるため、仕事の代替リスクは低くなる。また、年齢別では、50歳以上の人たちは、人間にやってもらいたいという意識が全般的に強くなっている11。ただし、現在は代替を望まない人々が多い分野でも、世代が交代するにつれ望まない人が減少していく可能性はある。

以上をまとめると、より専門性の高い職業や人間を相手にする職業等が今後より需要が高くなり、単純なルールベースの仕事はAIに置き換わっていく可能性が高いと考えられる。前掲の第2-2-2図では足下のミスマッチの状況を確認したが、現状でも事務職が供給過剰であり、専門的な職業が不足しているという姿はここでの考察結果をある程度反映した姿になっているとも考えられる。

第2-2-5図 AIと雇用
第2-2-5図 AIと雇用 のグラフ

(IT人材に必要なスキル)

技術の進展と共に需要が増えると思われる代表的な人材の一つにIT人材12が指摘できる。ここでは、そのIT人材として求められるものは何かについて考察する。

第2-2-6図(1)は、IT関連産業の給与決定要因をみたものであるが、最も大きいと考えられている要因は、ITスキルのレベルと、コミュニケーション能力であることがわかる。成果や経験等がその後に続き、逆に最も小さいのが年功となっている。ITスキルがIT人材にとって重要なことは言うまでもないが、それと同程度にマネジメント能力を含むコミュニケーション能力が重要視されている。前掲の第2-2-5図(1)でも管理的職業のリスク確率は低かったが、IT化する社会においては、ITの技能だけでなく、コミュニケーション能力や状況判断といった機械にはできない能力が重要になってくると考えられる。

なお、ITスキルについては、保有資格で測ると回答する割合が高く、必ずしも情報系分野の学歴が必要なわけではない(第2-2-6図(2))。資格であれば専門学校等に通うことで得られる可能性が高くなるが、コミュニケーション能力等については、短期間で身につけられるものではない。こうした機械に代替されにくい能力を身に付けていくことが、これまで以上に重要になってくると考えられる。

第2-2-6図 IT人材に求めること
第2-2-6図 IT人材に求めること のグラフ

(使われないITスキル)

今後、一定程度のITスキルの取得が職種にかかわらず重要になってくると考えられるが、日本人のITスキルは国際的にみて決して低いわけではない。OECDが16~65歳を対象に実施した「国際成人力調査(PIAAC)」の調査項目の一つに「ITを活用した問題解決能力13」があるが、このテストで一定の点数以上獲得した者の割合は、日本の男女平均でみてOECD平均並みである14(第2-2-7図(1))。やや男性の方が高く、女性の方が低いものの、ITを使った問題解決能力は、男女ともに日本は他国と比較して遜色ないレベルである。

しかし、問題はそのスキルを仕事で使っていないことにある。仕事でITを使う頻度をみると、日本は男女ともに他国やOECD平均を下回っている(第2-2-7図(2))。この背景として、オンラインでの売買・取引、電子メール・ワープロソフトの使用、オンライン会議の機会等の頻度について、日本は他国と比較して低いことが指摘できる(付図2-3別ウィンドウで開きます )。アメリカと比較して、日本の経営者はIT投資に関する重要性の認識が低いとの調査もあり15、雇用者が十分にITスキルを活用できる環境が整備されていない可能性がある。

また、日本は、ITを使う頻度の差が男女間で非常に大きく、労働時間や職業の要因をコントロールしてもOECD諸国と比較して男女差が最も大きい国となっている(OECD、2016)。PIAACでは、読解力や数的思考力についても調査しており、日本のこれらの技能スコアは、イギリス・アメリカよりも高いが、仕事における読解力や数的思考力の利用頻度でみると、日本はイギリス・アメリカより低く、特に子供のいる女性の利用頻度の低さが顕著である(川口、2017)。

日本人は、国際的にも遜色ない高い能力を持っているにもかかわらず、それを活かしきれていない。IT関連の技能を学ぶだけではなく、活用できる環境を整えていく必要がある。また、育児等による制約から自身の持っている技能を十分に活かせる職業に就けていない女性が活躍できるよう、男女ともに働き方を変えていく必要がある。

第2-2-7図 職場でITを使う頻度
第2-2-7図 職場でITを使う頻度 のグラフ

1 例えば、松本(2016)は就業者によるアンケート調査を元に、産業間で求められる能力の違いについて分析を行い、特に、医療、福祉、IT、小売業等で様々な能力が必要とされていることを指摘している。
2 データの制約上、介護サービスの職業は、中分類ベース。なお、介護サービスの内訳は、施設介護員と訪問介護職。
3 内訳は、工場労務作業員、建設現場労務作業員、小売店作業員、病院作業員、旅館作業員、食堂作業員、会場設営作業員、用務員。
4 ただし、中長期的には、清掃員等についても業務全体が機械に代替されるとの指摘もある(岩本、2017)。
5 ランサーズ株式会社「フリーランス実態調査2017」(2017年2月調査)によると、日本における広義のフリーランスは1,122万人と推計されている。内訳は、約4割が副業系(副業としてのフリーランスの仕事を行う者)、約3割が自営業系(個人事業主等)、25%が複業系(2社以上の企業と契約ベースで仕事をこなす者)、5%が自由業系(特定の勤務先がない独立したプロフェッショナル)である。
6 Upwork Global Inc. and Freelancers Union “Freelancing in America in 2017”
7 士業・自営業(飲食店・卸小売店・農業等)のみの就業者は除く。
8 例えば、労働者では支給対象となる、労災時の休業補償、傷病手当金、出産手当金、育児休業給付などが、個人事業主には原則支給されない(経済産業省、2017)。
9 厚生労働省「在宅ワークの適正な実施のためのガイドライン」(平成29年3月発行)によると、在宅ワーカーのトラブル内容として「仕事内容の一方的な変更」が最も多く、次いで「報酬の支払い遅延」となっている。
10 経済産業省(2017)では、この問題の解決策として、外部人材の活用により得られた積極的効果を事例とともに幅広く周知することなどを指摘している。
11 森川(2017)のプロビット推計の結果によると、人間による対応を希望する割合に対し、「50歳代」、「60歳代以上」のダミーは、介護・看護サービスを除き、有意かつ正の係数になっている。
12 経済産業省(2016)では、IT企業(IT提供側)及びユーザー企業側(IT利用側)における「システム・コンサルタント」、「ソフトウェア作成者」、「その他の情報処理・通信技術者」をIT人材としている。なお、同定義によるIT人材数は2010年約90万人、2015年約100万人となっている(総務省「国勢調査」)。
13 情報を獲得・評価し、他者とコミュニケーションをし、実際的なタスクを遂行するために、デジタル技術、コミュニケーションツール及びネットワークを活用する能力。
14 なお、コンピューター調査を受けた者の平均得点では、日本は参加国中第1位である。
15 JEITA「ITを活用した経営に関する日米企業の相違分析」(2013年6~7月調査)によると、「IT/情報システム投資の重要性」に対して「きわめて重要」と回答した割合は、アメリカでは75%となる一方、日本は16%となっている。
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