第1章 日本経済の現状とデフレ脱却に向けた課題(第4節)

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第4節 まとめ

本章では、最近の景気動向を概観するとともに、現在の景気長期化の要因、人手不足感が高まる中での雇用・所得環境の状況や消費の状況などについて確認した。また景気回復が長期にわたる中、デフレ脱却に向けた動きについても検証した。

景気回復の長期化の要因としては、企業収益が大企業だけでなく中小企業でも改善していることや交易条件の改善により国民所得も改善が続いていること、さらには雇用環境の改善も寄与している。また、これまでの景気回復期にはその恩恵が届きにくかった中小企業や地方経済まで及びつつあることが挙げられる。この背景の一つには、訪日外国人の増加の影響もあると考えられる。なお、景気回復長期化もあり相対的貧困率や子どもの貧困率が低下するなど、子育て家庭などの雇用・所得環境も着実に改善している。また、長期的に低下傾向が続いていた潜在成長率も、今回の回復局面では上昇に転じている。ただし、潜在成長率は依然として低い水準であるため、少子化により生産年齢人口が減少する中、今後も生産性向上などが重要である。

最近の景気動向をみると、海外経済の緩やかな回復に加え、新興国におけるスマートフォンの普及拡大やIoTの拡大などを背景に情報関連財需要が高まっていることから生産や輸出が持ち直している。こうした動きを背景に企業収益が過去最高を更新している。雇用・所得環境の改善に加え、資産効果もあり、消費も持ち直しが続いているが、年齢別にみると若年層の消費性向は長期的に低下傾向となっており、この要因として、若者の消費に対する意識の変化も考えられる。

デフレ脱却に向けた動きについては、GDPギャップがプラスに転じ、前述の通り企業収益が過去最高を更新、人手不足感が四半世紀ぶりの高水準になるとともに、一部のサービス業で値上げの動きが見られるなどデフレ脱却に向けた局面変化がみられている。ただし、雇用のミスマッチが残るため、雇用情勢のひっ迫を成長率の押し上げに最大限には活用しきれていないことや、企業収益が過去最高であることや人手不足のわりには特に一般労働者の賃上げが緩やかにとどまっていること、さらには非製造業を中心に労働生産性の伸びが十分でないことなどの課題が残る。現在の局面変化をデフレ脱却に確実に結び付けるためには、「人づくり革命」や「生産性革命」を推進することで、生産性を向上させるとともに、これまで以上に力強い賃上げを実現することが重要である。

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