第1章 日本経済の現状とデフレ脱却に向けた課題(第2節)

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第2節 緩やかな回復基調が続く日本経済

本節では、最近のマクロ経済状況について、雇用・消費など家計部門、生産・設備投資など企業部門、輸出入や経常収支など国際収支、住宅・公共投資など建設部門の動向に分けて、やや詳しく概観する。

1 雇用・消費の動向

(正社員の有効求人倍率は初めて1倍を超える)

長期にわたる景気回復により、労働市場では人手不足感が高まり、需給が引き締まる方向にある。失業率はリーマンショック時に5.5%とピークを付けた後、低下傾向が続いているが、2017年2月には3%を割り、2017年11月時点で2.7%となっている。また、有効求人倍率は2013年11月に1倍を超え、2017年11月時点で1.56倍と1974年1月以来の高さとなっている。正社員の有効求人倍率も2004年の集計開始以来、2017年6月に初めて1倍を超えるなど、雇用環境の改善は正社員にも波及している(第1-2-1図)。完全失業者数が減少するだけでなく、その内訳をみると、自発的失業者数がおおむね横ばいで推移する中、非自発的失業者数が大きく減少を続けており、雇用環境が着実に改善していることがうかがえる。

他方で、求人数の増加にみられる労働需要の高まりにもかかわらず、労働需給のミスマッチが生じており、企業は必ずしも必要な人材を確保できていない状況にある。こうしたミスマッチの状況をみるために、企業の欠員率と雇用失業率1の関係をUV曲線2で確認すると、欠員率が4%強となる一方、雇用失業率は3%程度となっており、ミスマッチの程度を表す構造失業率はおおむね3%台前半となっていると推測される。同じように雇用の需給がタイトになっていたバブル期には、構造失業率は2%台前半と推測されることから、当時と比べミスマッチが拡大していると考えられる。また、人手不足が企業経営に与える影響をみると、人手不足によって企業経営に深刻な影響がある、または、一定の影響があると答えた企業の割合は3~4割程度となっている3。企業経営に与える具体的な影響としては、「需要の増加に対応できない」や「技術・ノウハウの伝承が困難になる」などがあり、内需の持ち直しや海外経済の緩やかな回復の恩恵が及びにくくなることのみならず、人手不足による廃業のリスクの高まりにもつながりかねない(廃業の状況について次項にて確認する)。

企業の人手不足感を緩和し、限られた人材を有効に活用するためには、今後はミスマッチの解消が重要である。そこで、以下ではどのような職種においてミスマッチが生じているのかを詳細にみてみよう。まず、ハローワークにおける求人と求職のミスマッチの状況をみると、介護サービスや飲食物調理の職業などで求人超過となっているが、一般事務の職業などでは求職超過となっている。次に、民間職業紹介を通じた転職市場におけるミスマッチの状況をみると、インターネット専門職やシステムエンジニアでは人手が不足しているが、一般事務ではハローワークと同様に求人数以上に求職者数が多い状況になっている。

こうしたミスマッチが生じている背景としては、介護や飲食関係など、賃金や労働時間などの労働条件が求職者の求める水準に及ばないという企業側の要因があることや、情報関連のエンジニアなど、一定の知識やスキルが求められる職種に対して、それに見合った専門性などの求職者の資質が企業の求める水準に達しないという労働者側の要因が存在していることが考えられる。

第1-2-1図 雇用情勢の概況
第1-2-1図 雇用情勢の概況 のグラフ

(男性の高齢者や女性で雇用者数が大幅に増加)

雇用者数は2012年から2017年7-9月期までで約300万人増加している。雇用者数の動きを正規・非正規で分けてみると、これまで正規の雇用者は減少傾向にあったものの、15年以降は増加に転じており、雇用環境の改善が正規雇用にも及んでいる(第1-2-2図)。また、2012年と比較した雇用者数の動きを男女別、年齢別で見ると、男性は主に65歳以上の雇用者が大きく増加している。これは団塊の世代を中心とした高齢者層が定年後も働き続けていることなどが要因と考えられる。また女性については高齢者のみならず15歳~64歳でも大きく増加している。65歳未満の女性の非労働力人口のうち就業を希望する者は、2012年の288万人から2016年は255万人へと大幅に減少したが、その内訳をみると、「適当な仕事がありそうにない」という理由が大きく減少していることから景気回復の長期化により雇用環境が改善していることに加え、「出産・育児のため」の理由が減少していることから保育所の整備などにより出産後も仕事を続ける環境が整備されつつあることも要因と考えられる。

第1-2-2図 正規・非正規雇用者数、男女別・年齢別雇用者数、非求職理由別の非労働力人口
第1-2-2図 正規・非正規雇用者数、男女別・年齢別雇用者数、非求職理由別の非労働力人口 のグラフ

(所得の改善、マインドの持ち直しにより消費は緩やかに持ち直し)

個人消費の動きを見ると、消費税率引き上げ後に落ち込んだものの、その後は緩やかに持ち直しており、特に2016年以降は四半期ベースで2017年4-6月期まで4期連続の増加となった(第1-2-3図)。ただし、2017年7-9月期については、長雨や台風など天候不順の影響が外食などサービス消費にみられたこと等から、個人消費は減少したが、基調としては緩やかな持ち直しが続いている。

2016年以降の個人消費の動向を形態別に見ると、耐久財及びサービス消費がけん引役となっている。耐久財では、特に自動車が新車効果等もあって2016年後半から2017年春頃にかけて大きく増加している。また、サービスでは、「モノ消費」から「コト消費」へのシフトが進む中で、外食4やテーマパーク入場料等5への支出が伸びている。

このように消費の緩やかな持ち直しが続いている背景には、景気回復の長期化による雇用・所得環境の改善がある。一国全体の雇用者の所得を表す総雇用者所得の動きを見ると、特に雇用者数の増加を背景に緩やかに増加している。消費者マインドも、雇用所得環境の改善に加え、株価が上昇傾向で推移したこともあって持ち直しており、消費を下支えしている。こうした中、家計の平均消費性向をマクロの可処分所得や雇用者報酬比でみると、2016年以降についてはほぼ横ばい圏内で推移している(2017年7-9月期の低下は前述の天候要因によるものである)。

第1-2-3図 近年の個人消費及び消費を取り巻く環境の動向
第1-2-3図 近年の個人消費及び消費を取り巻く環境の動向 のグラフ

(若者の消費は伸び悩む一方、アクティブシニアが消費を押し上げ)

家計調査をもとに1世帯あたり(二人以上世帯、勤労世帯)の平均消費性向の推移を見ると、世帯主の年齢が60歳以上の高齢者世帯では平均消費性向は上昇傾向にあるものの、59歳以下、特に39歳以下の若年世帯では長期的に低下している(第1-2-4図)。

このところの平均消費性向の動きについて、可処分所得要因と消費支出要因に分解すると、39歳以下では可処分所得が増加している中でも消費支出を減らしているために消費性向は大きく低下している。また、40歳~59歳では可処分所得は増加しているものの、消費支出がほとんど変化していないため、39歳以下の低下幅よりは小さいものの消費性向は低下している。

若年世帯の消費が伸び悩んでいる理由としては、将来不安から貯蓄を増やしているだけでなく、消費に対し関心が低下しているといった志向の変化も一因と考えられる。実際、特に欲しいものがないという20歳代、30歳代が増加傾向にあるとの調査もあるほか、モノの保有を最小限にとどめるミニマリスト的な志向を持つ若者が増えているとの指摘もある。耐久財の主要品目の一つである自動車の保有率の推移を見ても、近年、未婚化・非婚化もあり20歳代、30歳代で大きく低下している。

一方、高齢者世帯の消費は引き続き活発である。その一因として、旅行や趣味を積極的に楽しむいわゆる「アクティブシニア」の存在が挙げられる。例えば、スポーツクラブ使用料等が含まれる入場・観覧・ゲーム代について、世帯主の年齢階級別に1世帯あたりの平均支出額を見ると、このところの健康志向の高まりから特に70歳以上の高齢者世帯で消費額が伸びている。また、宿泊費についても、幅広い年齢階級で支出が増えているものの、2016年に最も支出額が多かったのは60~69歳の高齢者世帯となっている。一国全体で見ても観光やスポーツ施設等、サービス需要は幅広く増加しており、アクティブシニアの存在が個人消費を押し上げる一因となっている。

今後は、こうした高齢者世帯だけでなく、若年世帯の消費をいかに活性化するかが個人消費の一層の活性化に向けた課題となる。安心して子育てできる環境の整備や教育費の負担軽減等を進め、若年層の将来不安を解消していくことが重要である。

第1-2-4図 年齢別の消費の傾向について
第1-2-4図 年齢別の消費の傾向について のグラフ

(資産効果が消費を下支え)

2017年11月に日経平均株価がバブル崩壊後の戻り値(1996年)を更新するなど株式市場が活況を迎えている6が、こうした株式市場の復調は個人消費にどのような影響を与えているだろうか。

個人消費の長期的な動きについて、所得や資産、高齢化等が与える影響を試算すると、個人消費が緩やかに持ち直している主因は所得の増加であるものの、株式市場の活況を背景とした資産価格の上昇も2015年や2017年には個人消費を大きく押し上げる要因となっていることが示唆される。

日経平均株価と百貨店における美術・宝飾・貴金属売上高の動きをあわせて見ると、株価が高値圏の2015年や2017年は美術品等の売上高が伸びており、株価上昇による資産効果が高額品消費の押し上げに寄与しているとみられる。

このように、最近の個人消費の緩やかな持ち直しの背景には、雇用・所得環境の改善に加え、株高等による資産価格の上昇も一定のプラス効果をもたらしていると考えられる。

第1-2-5図 消費の長期トレンドと高額消費
第1-2-5図 消費の長期トレンドと高額消費 のグラフ
コラム1-2 電子商取引市場の動向

近年、日本国内における消費者向けの電子商取引(EC)市場は拡大を続けており、2016年の消費者向けEC市場(財)の市場規模は8.0兆円と小売売上高の約5%がインターネットを通じて行われるまでに成長している(コラム1-2図)。その背景には、スマートフォンの発達等により消費者が電子商取引にアクセスしやすい環境が整ってきたという需要側の要因に加え、オンラインモールの普及等により企業が電子商取引に出店しやすくなっているといった供給側の要因もあると考えられる。

消費者向けにインターネット販売を行っている企業は2016年時点で18%にとどまるものの、消費者に身近な卸売・小売業では29%の企業が消費者向けにインターネットを通じた財・サービスの提供を行っており、その割合は年々増えている7

こうした従来のB to C(企業対個人取引)に加え、最近では消費者同士が中古品等を売買するC to C(個人対個人取引)のオンライン中古市場も存在感を強めている。ネットオークションを利用したC to C市場規模は3,500億円程度、スマートフォンのアプリ(いわゆる「フリマアプリ」)によるC to C市場規模は3,000億円程度と推計されており、消費者の電子商取引の選択の幅は広がっているとみられる。

2016年のOECDの調査では、電子商取引を利用した日本人の割合は53%、OECD加盟国35か国中20位と、日本よりも利用率が高い国が多く、一層の利用が進む余地は十分にあると考えられる。消費のチャネルが多様化する中で、今後もC to Cも含めた広い意味でのEC市場の拡大傾向は続くと期待される。

コラム1-2図 電子商取引市場の動向
コラム1-2図 電子商取引市場の動向 のグラフ

2 企業部門の動向

(生産活動は電子部品・デバイスや設備投資関連を中心に緩やかに増加)

生産活動は、2016年半ばから持ち直し、緩やかな増加が続いている(第1-2-6図)。業種別にみると、特に、電子部品・デバイスの生産が急速に回復したことが挙げられる。また、輸出が好調な乗用車など輸送機械の生産や、内外の投資の回復を受けて、はん用・生産用・業務用機械の生産も持ち直している。

電子部品・デバイスはスマートフォンやPC、自動車など様々な製品に活用されるが、特にスマートフォン関連が好調で、電子部品・デバイス全体をけん引していることが確認できる。また電子部品・デバイスに含まれる半導体を製造するための半導体製造装置の生産の動向を見ると、世界の半導体の出荷額の伸びに連動し増加しており、我が国の半導体製造装置の競争力が高いことが示唆される。

今後も半導体需要はアジア太平洋向けを中心に堅調に推移すると見込まれ、我が国の生産活動もこれらを背景に、スマートフォン向けの電子部品・デバイス、半導体製造装置などの機械類を中心に堅調に推移することが期待される。

第1-2-6図 生産の動向
第1-2-6図 生産の動向 のグラフ

(業況の改善は中小企業にも広がりが見られる)

景気回復の長期化、企業収益の大幅な改善もあり、企業の業況も改善を続けている。戦後最長の景気回復期間を実現した2000年代半ばと比較すると、大企業の業況は2000年代半ばと同程度の景況感であるが、中堅企業、中小企業で2000年代半ばの水準を大きく上回っており、2000年代の長期にわたる景気回復期には恩恵が及びにくかった中堅企業や中小企業に対しても、今回の景気回復の恩恵が及んでいることがわかる(第1-2-7図)。

中小企業の業況を製造業と非製造業に分けてみると、製造業では2000年代半ばとほぼ同じ程度であるが、今回は非製造業で大きく改善している。2000年代半ばで高水準であった2007年第1四半期と比較してみると、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会需要や都市再開発などを背景に建設業で業況の大きな改善がみられるほか、インバウンド需要などを背景に宿泊・飲食業でも業況を改善しており、景気回復の成果が戦後最長の景気回復局面では届きにくかった中小の非製造業にまで波及している姿を確認できる。

第1-2-7図 業況
第1-2-7図 業況 のグラフ

(設備投資は緩やかに増加)

企業の設備投資は、情報化の一層の進展など技術革新への対応やインバウンドの増加、都市の再開発といった要因によって緩やかに増加している(第1-2-8図)。製造業においては、IoT、ビッグデータの活用や自動車の環境対応や運転支援システムの進化などを背景に、電気機械、輸送機械の設備投資が増加しているほか、電子部品や自動車部品向けの素材などを中心に金属、化学などで設備投資を増やしている。

非製造業においては、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会や都市開発などを背景に不動産関連や建設業関係の設備投資は伸びが続いており、またインバウンドに加え個人消費も緩やかな持ち直しが続いていることから宿泊・飲食サービス業関連や鉄道など運輸業での設備投資も増加が見られる。

加えて、人手不足感の高まりとともに、合理化・省力化投資も伸びてきている。特に労働者の代わりに単純作業などを行う産業用ロボットは2014年以降、高い伸びが続いている。引き続き、建設投資やサービス業での投資に加え、人手不足解消のためのさらなる省力化投資の推進など、設備投資が一層増加することが期待される。

ただし、企業収益は過去最高を更新しているが、企業収益(経常利益)の伸びに比べると設備投資の伸びは緩やかなものにとどまっている。第3章において詳しく分析するが、こうした国内の企業設備投資が緩やかなものにとどまっている背景には、企業が、今後成長が見込まれる海外市場における活動を強化していることや、M&Aなどの証券投資を活発化していること等があると考えられる。

第1-2-8図 設備投資の動向
第1-2-8図 設備投資の動向 のグラフ

(倒産は低水準であるが、後継者不足もあり廃業が過去最多となっている)

景気回復の長期化や企業収益が好調なこともあり倒産件数は減少を続けており、低水準となっている。一方で、少子化に伴う後継者不足や従業員の人手不足もあり、廃業の件数が増加傾向にあり、2016年は過去最多となった(第1-2-9図)。

中小企業を中心に人手不足への対応が課題となっている企業が多い。廃業するとこれまでの技能の蓄積が後世につながらない可能性が高く、今後、後継者不足や人手不足にどう対応していくかが重要である。

第1-2-9図 倒産と廃業
第1-2-9図 倒産と廃業 のグラフ

3 貿易、経常収支の動向

(輸出は持ち直しており、経常収支黒字も緩やかに増加)

輸出については、輸出先の半分を占めるアジア向け輸出を中心に持ち直している(第1-2-10図)。アジア向け輸出が2017年春頃に一時的な調整に入ったことを背景に8、全体の輸出数量も一時的に横ばい圏内の動きとなったが、アジア向けが再び回復するとともに2017年夏以降は再び持ち直している。

2012年末から2015年頃にかけては、為替の円安方向への動きにもかかわらず企業が現地通貨建ての輸出価格の引き下げを抑えて収益増を志向したため輸出数量の伸びが鈍かった。他方、2016年以降において輸出の伸びが大きく高まった背景には、2016年後半以降、海外経済の回復がより明確になったことに加え、中国のスマートフォン向けの電子部品の需要の高まりや世界的な情報関連財の増加の影響、世界的に設備投資需要が回復する中で日本の資本財への需要も高まったこと等が考えられる。

実際に、日本のアジア向け輸出の中で、携帯電話(含むスマートフォン。以下、この項同じ。)の部品を含む電機機器、また携帯電話の部品を作るための半導体製造装置が含まれる一般機械は、それぞれ中国の携帯電話の生産と相関がみられる。また、我が国の産業は前項でも見た半導体製造装置を始め、設備投資関連の機械で競争力を持つ品目が多い。アメリカやEUの設備投資の回復とともに我が国の両地域への資本財輸出は増加しており、今後も世界の設備投資の増加とともに我が国の資本財輸出がさらに増加することが見込まれる。

なお日本の輸出数量の伸びを、主要国の景気指数の変動、為替レートの変動で説明するモデルを推計すると、2016年半ば以降の輸出数量は推計値を上回る伸びとなっており、主要国の景気回復の強まり等の影響に加えて、既に述べたアジアの情報関連財需要の増加や世界的な資本財需要の増加の影響もあると考えられる。

経常収支の動向を見ると、2013年の4.5兆円の黒字から、2016年には20.3兆円の黒字へと黒字幅が大きく増加している。こうした背景には、1原油価格の下落による輸入金額の減少や、最近の輸出の増加もあり貿易収支が2016年以降黒字化したこと、1インバウンドの増加に伴って旅行収支が赤字から黒字に転じたこと、1海外への投資などからの所得収支が高水準で推移していること等の要因が挙げられる。

第1-2-10図 輸出、経常収支の動向
第1-2-10図 輸出、経常収支の動向 のグラフ

4 住宅・公共投資の動向

(増勢が続いていた貸家の着工はこのところ弱含んでいる)

住宅着工は、2016年には貸家着工の大幅な増加もあって前年比10.5%の増加となったが、2017年に入ってからは、横ばいないし弱含みで推移している(第1-2-11図)。利用関係別の動きをみると、貸家については、借入金利の低下による採算性の改善に加え、2015年の相続税に係る税制改正の影響などから増加していたが、2017年に入り金融機関の個人による貸家業への新規貸出額が前年比で減少に転じる中で、2017年後半には弱含んでいる。これは空室率の増加などにより採算性がやや悪化していることに加え、金融機関がアパートローンなどへの貸出しにあたり審査を厳格化9した可能性があることも影響していると考えられる。

なお、これまで増勢が続いていた貸家着工を規模別にみると、主に単身世帯用となる延床面積40m2以下の小規模貸家の着工が増加していたものの、41m2以上の規模ではほとんど着工が増えておらず、増加していた貸家は主に単身世帯用であったことがうかがえる。

一方、持家については2017年央から着工がやや弱含んでいるが、これは資材価格等の上昇により住宅取得コストが高まっている影響などから人々が持家の取得に慎重になっている10ことが要因と考えられる。

第1-2-11図 住宅の動向
第1-2-11図 住宅の動向 のグラフ

(公共投資は経済対策の効果もあり高水準となっている)

公共投資の動向をみると、「未来への投資を実現する経済対策」(2016年8月2日閣議決定)を踏まえた平成28年度第2次補正予算の効果11もあり、2017年春頃から出来高・手持ち工事高ともに高水準となっている(第1-2-12図)。

また、近年の公共投資の特徴として10億円以上の大型工事の割合や工期が複数年にまたがる工事の請負金額が増加している。これは国際競争力の強化や地域の活性化など中長期的な成長につながるインフラへの重点的な投資が増えていることが要因であると推察され、このようなインフラへの投資が今後の日本経済の成長力の押し上げにつながることが期待される。

第1-2-12図 公共投資の動向
第1-2-12図 公共投資の動向 のグラフ
コラム1-3 建設業の労働状況について

建設業の営業利益は年々増加を続けており、営業利益率(売上高に占める営業利益の割合)も2016年度にその他産業を上回っている(コラム1-3図)。

労働時間についてみてみると、所定外労働時間は全産業の合計と同程度であるが、所定内労働時間が大きく上回っており、総労働時間は全産業を大きく上回っている。また、1時間あたりの賃金で比較すると150円程度低くなっている。

労働力人口は60代以上が占める割合が、その他産業と比べて増加傾向にあり、2016年では20代以下が約5%低く、60代以上が約5%高く、今後人手不足による担い手確保の問題が顕著になってくる可能性がある。

こうした中、政府は「建設業の働き方改革に関する協議会」や「建設業の働き方改革に関する関係省庁連絡会議」を設置し、建設業の長時間労働是正など働き方改革の推進に向け、国・地方が一体となった取組を推進している。また、民間企業においても、一般社団法人日本建設業連合会が「働き方改革推進の基本方針」を策定し、週休二日の推進や総労働時間の削減、賃金水準の向上、生産性の向上など、働き方改革に関連する諸課題の解決に向けた取組を推進している。

コラム1-3図 建設業の労働状況について
コラム1-3図 建設業の労働状況について のグラフ

1 自営業者や家族従事者、農林業の雇用者を除いた非農林雇用者を用いて算出した失業率のこと。
2 UV曲線(Unemployment-Vacancy Curve)とは、雇用失業率と欠員率の逆相関の関係に着目し、労働市場の状況を分析するもの。UV曲線上で両者の関係が右下に変化することは労働市場の需給改善を示し、左上に変化することは、需給悪化を示す。また、需給のミスマッチが高まるとUV曲線は原点から遠ざかり、縮小すると原点に近づくことになる。
3 労働政策研究・研修機構「人材(人手)不足の現状等に関する調査」の集計結果から算出した割合。2016年1~2月に行われた調査で、2015年12月末時点での状況を聞いているもの。
4 外食が伸びている要因の一つとして、単身世帯が増えるなど世帯構造の変化もあげられる(内閣府(2017))。
5 2015年の名目家計最終消費支出(SNAベース)のうち「娯楽・レジャー・文化」の消費額のシェアは8.0%、「外食・宿泊」は7.9%となっている。
6 詳細は第3節を参照。
7 総務省「通信利用動向調査」より。
8 アジア向け輸出が17年春頃に一時的に調整した主因として、中国の携帯電話(含むスマートフォン)。生産が調整局面に入ったことが考えられる。
9 この背景として監督当局が貸家不動産への融資動向を注視する姿勢を明確化したことも影響している可能性がある。例えば金融庁は2017年11月の「金融行政方針」において、「アパート・マンションや不動産業向け融資が増加傾向にあることから、不動産市況や地域金融機関の融資動向を注視しながらモニタリングを継続する。」とし、日本銀行も2017年3月の「2017年度の考査の実施方針等について」において、「賃貸不動産向けを中心とする不動産関連貸出や医療・福祉業向け貸出など、金融機関が与信姿勢を積極化させている分野や地域については、審査・管理において、与信期間や事業特性などを踏まえ、事業の将来性を適切に見極めているか、こうした取組みの採算性を組織的に検証しているか、なども点検する。また、不動産関連貸出については、不動産業向けのみならず、不動産業以外の業種や個人事業主も含め、幅広くリスクの所在と管理体制を点検する。」としている。
10 住宅展示場への来場者数は高水準で推移しているものの、商談の長期化もあり受注に結び付きにくい状況が続いている。
11 同補正予算の総額は約4.5兆円。そのうち公共事業関係費は約1.5兆円。
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