第1章 日本経済の現状とデフレ脱却に向けた課題(第1節)

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第1節 日本経済の現状

本節では、最近の景気動向を概観するとともに、2012年末から続く今回の景気循環が、過去と比べても長期化している背景について分析する。

1 最近の景気動向

(内外需の伸びに支えられ実質GDPは堅調な伸び)

我が国経済は2012年11月を底に緩やかな回復基調が続いている。実質GDP成長率は、2014年度に消費税率引上げの影響もあってマイナスとなったものの、2015年度1.4%、2016年度1.2%と持ち直し、2017年度も4月から9月までの平均で前年度比1.9%となっている。また、名目GDPの実額は、2017年7-9月期で549兆円と過去最高となっている。

最近の経済動向について、四半期の実質GDP成長率の動向を見ると、2016年1-3月期から2017年7-9月期まで7四半期連続のプラス成長となっている(第1-1-1図)。これを内需と外需の寄与に分けてみると、2016年央以降、輸出の伸びが一段と高まる中で外需の寄与が大きくなっていることに加えて、内需についても、個人消費や設備投資の寄与が高まっているほか、2017年に入ってからは平成28年度第2次補正予算の効果もあり公需もプラスに寄与しており、内外需ともに実質GDPの伸びに貢献している。

第1-1-1図 経済成長の内容
第1-1-1図 経済成長の内容 のグラフ

(2016年以降の堅調さの背景①:海外経済の回復と情報関連財需要の増加)

こうした2016年以降の堅調な実質GDP成長率の推移の背景の一つには、海外経済の緩やかな回復や世界的な情報関連財の需要増加がある。

海外経済の動向については、2015年以降、中国をはじめとするアジア新興国や資源国経済の減速が続いていたが、2016年には原油など資源価格の上昇もあって悪化していた資源国経済も徐々に底打ちに向かうとともに、2016年秋以降、中国経済が政策的な景気下支え策の効果もあって持ち直しに向かう中、先進国にみられた弱めの動きも持ち直し、海外経済は緩やかな回復を続けた。また、世界の半導体生産の動向をみると、新興国におけるスマートフォンの普及拡大に加え、自動車や家電製品などの情報化の動きや、IoT及びビッグデータの活用の拡大などを背景に、2016年から2017年にかけて、需要が大幅に伸びた。

こうした世界経済の回復や情報関連財需要の高まり等を背景に、それまで緩やかな増加にとどまっていた世界の貿易量も2016年後半から伸び率が加速した(第1-1-2図)。特に、世界経済の回復によって、各国の設備投資も持ち直し、貿易比率の高い資本財の需要が高まっている1ことも、世界貿易の回復に寄与している。こうした中、我が国の輸出についても、2012年末に今回の景気回復が始まってから緩やかな伸びにとどまっていたが、2016年以降は伸びが大きく高まっている。特に、財別にみると、情報関連財や資本財の輸出の伸びが高まっている。輸出の増加に伴い、これらの財を中心に国内の生産も緩やかに増加している。

(2016年以降の堅調さの背景②:企業収益や雇用・所得環境の改善)

個人消費や設備投資の持ち直しが継続している背景には、国内における企業収益の増加や雇用・所得環境の改善がある。

2015年後半以降、中国経済の減速や、英国EU残留・離脱を問う国民投票など海外経済の不確実性の高まり等を背景にした為替の円高方向への動きなどもあり、2015年7-9月期以降の企業の経常利益は前年比のプラス幅が縮小し、2016年前半には前年比マイナスとなる局面もあったが、2016年後半以降から2017年にかけては、為替が円安方向に戻ったことや、海外経済の回復、インバウンドの増加、国内需要の堅調さなどにより増益となり、企業収益の額としては、2016年度は75兆円と過去最高を更新している(第1-1-3図)。

雇用・所得環境については、雇用者数が2016年、2017年と高い伸びを続けるとともに、その内訳についても正規雇用の伸びが非正規雇用の伸びを上回っている。また、一人当たり賃金についても0.5%程度の緩やかな伸びを続けていることから、一人当たり賃金に雇用者数を乗じた総雇用者所得は、実質でみても2015年半ば以降前年同期比プラスで推移している。加えて、良好な雇用・所得環境を背景に、消費者マインドも2016年後半以降は改善を続けており、個人消費の緩やかな持ち直しに寄与している。

第1-1-2図 資本財・情報関連財の動向
第1-1-2図 資本財・情報関連財の動向 のグラフ
第1-1-3図 企業収益及び雇用・所得環境の改善
第1-1-3図 企業収益及び雇用・所得環境の改善 のグラフ

(潜在成長率の低下傾向に歯止めがかかる中で、GDPギャップもプラスに)

今回の景気回復局面においては、景気回復が長期化するとともに、これまで低下傾向にあった潜在成長率の低下に歯止めがかかり、若干ながら上昇に転じている。こうした中で、実際のGDPの伸びが潜在成長率の伸びをさらに上回る状態が継続したことから、両者の差を示すGDPギャップもプラスに転じている(第1-1-4図)。

内閣府で推計している潜在成長率について、データの入手可能な第10循環(1983年2月-1985年6月)以降の動向をみると、バブル期にあたる1990年頃までは、4%台で推移していたが、バブル崩壊以降、1%台に大きく低下した。この背景には、①バブル期の大幅な投資によって積みあがった資本ストックの過剰が意識されるようになり、資本投入の寄与が低下したこと、②労働時間の短縮や生産年齢人口の伸びの低下もあり、労働投入の寄与が大きく低下したこと、③ICT資本の利活用の遅れや設備の老朽化等により、全要素生産性の伸びが低下したこと2がある。こうした潜在成長率の低下傾向は、2000年代においても、デフレ・マインドが定着し、生産年齢人口が減少を続ける中で継続した。他方、2012年末から始まる今回の景気回復局面においては、潜在成長率が上昇に転じている。この背景には、保育の受け皿拡大や高齢者雇用の促進などの各種政策の効果もあって、女性や高齢者の労働参加が増加したこと等により、少子高齢化に伴う人口減少の中で、長期的に潜在成長率を下押ししていた労働投入要因がプラス寄与に転じたことが挙げられる。ただし、資本投入や全要素生産性の伸びが引き続き低い水準にとどまっている中で、GDPギャップもプラスに転じ、需要不足の局面ではなくなっていることから、今後は、一人ひとりの人材の質を高める「人づくり革命」や成長戦略の核となる「生産性革命」などの各種政策により、潜在成長率をさらに引き上げていくことが重要である。

第1-1-4図 景気回復局面における潜在成長率、GDPギャップの推移
第1-1-4図 景気回復局面における潜在成長率、GDPギャップの推移 のグラフ

(景気動向に関するリスク)

内外の経済状況をみると、潜在的なリスクとして、海外経済の不確実性や金融資本市場の動向には注意が必要である。海外経済については、特に、中国における高い水準にある不動産価格や過剰債務問題の動向、欧米における政策の不確実性などには注視する必要がある。また、金融資本市場については、2018年にかけて引き続きアメリカなどで金融政策の正常化が継続されると見込まれることから、その影響を注視する必要がある。

参考までに、経済政策に対する不確実性(Economic Policy Uncertainty)を客観的な指標で把握する手法の一つとして、スタンフォード大学のブルーム教授らのグループは、新聞記事において経済政策の不確実性について言及された頻度に基づき、世界の経済政策の不確実性を数値化した経済政策不確実性指数(Economic Policy Uncertainty Index)3を公表している。この動向をみると、2016年に入り英国のEU離脱方針に関する国民投票などにより不確実性が高まったが、2017年には落ち着きを取り戻している。こうした新聞のテキスト・データを用いた分析は、最近広く活用されるようになっており、ほぼリアル・タイムで迅速に動向の変化を把握することできるというメリットがある。

第1-1-5図 経済政策不確実性指数の推移
第1-1-5図 経済政策不確実性指数の推移 のグラフ
コラム1-1 テキストデータを用いた消費者マインドの動向分析

近年、ビッグデータを経済分析に利用する試みが進んでいる。ビッグデータにはPOSデータやクレジットカード情報、テキストデータ等、様々な種類がある。中でも公的文書、ニュース記事、SNSの書き込み等のテキストデータは、このところ分析が活発に行われている注目度の高いビッグデータのひとつである。

テキスト分析を行うことの利点は、定性的な情報を数値データとして利用することが可能になり、速報性・リアルタイム性の高い新しい指標の作成や、既存のマクロデータを補完する分析等が可能となることにある。こうしたテキスト分析が広まっていることの背景には、電子化されたテキストデータへのアクセスが容易になってきているほか、フリーソフトの普及等により分析用ソフトの導入コストも低下してきたこと等が挙げられる(岡崎・敦賀、2015)。

テキストデータを活用した研究例をみると、高杉・山名(2015)は、国会議事録を数値化したデータを利用して、GDP等のマクロ経済指標の予測に活用し、一定程度の予測精度を持つことを示した。また、片倉・高橋(2015)は、金融市場ニュースにおけるポジティブ・ネガティブの度合いを推計し、金融市場との相関関係を分析した。さらに、塩野(2016)は、日本銀行の公表文書を分析することで、次回会合で金融政策決定の変更が行われるか否かを予測するAIを開発した。

こうした近年の動向を踏まえ、本稿では、ニュース記事データを用いて消費者マインドと相関が高いと思われる指標(インデックス)の作成を行った(コラム1-1図)。インデックスの目的は、消費者マインドの変化に対して速報性が高い情報の提供とその背景を説明する材料の一つとして活用することである。

今回作成したインデックスは、概念的には、世の中にあふれる景気に関するニュース記事が、どの程度明るいものであるかを示すものである。作成に当たっては、インターネット上のニュース記事から、「景気」というキーワードを含む記事を取得し、取得した記事のポジティブ・ネガティブの度合いを、機械学習により判断させている。機械学習には、内閣府「景気ウォッチャー」の景気の現状判断コメントを使い、異なる2つの学習手法(①ナイーブ・ベイズ及び②ニューラルネットワーク)を用いた(詳細は付注1-1別ウィンドウで開きます )。

結果を見ると、両モデルとも、消費者マインドの変化とおおむね似通った方向感で推移している。消費者態度指数は毎月15日が基準であるため、15日時点での相関係数を計算すると、インデックス①は0.36、インデックス②は0.33と、いずれも緩やかな正の相関関係が確認することができる。

ただし、インデックスとマインドの動きが異なる部分もみられることから、速報性の高い情報として活用する際には、更なる改善が必要であると思われる4。異なるキーワードでのニュース記事の分析や、賃金等他のデータと組み合わせる等により、消費者マインドの変化の背景についてより詳細に分析していくことが課題となる。

コラム1-1図 ニュース記事を用いた消費者マインドの動向把握
コラム1-1図 ニュース記事を用いた消費者マインドの動向把握 のグラフ

2 今回の景気回復の特徴、長期化の背景

今回の景気回復は、戦後2番目の長さとなった可能性がある。本項では、今回の景気回復の特徴や長期化の背景について分析する。

(景気回復長期化の背景)

今回の景気回復局面においては、2014年4月の消費税率引上げに伴う駆け込み需要とその反動減がみられたことなどから、一時的に弱含む局面もみられたが、それを乗り越えて景気回復の力が継続している。その背景をみるために、個別の経済指標について、今回の景気回復局面での動向をみると、おおむね回復期間を通して継続的に改善がみられている指標としては、企業収益の動向、有効求人倍率など雇用関係の動向、建設投資の動向などが挙げられる(第1-1-6図)。他方、景気と密接な関係を持つ生産面の動向をみると、消費税率引上げ後には弱めの動きがみられた時期があったこともあり、緩やかに改善している。

そこで、以下では、企業収益、雇用、建設投資の動向に注目し、その改善の背景について分析する。

第1-1-6図 今回の景気拡張期における個別指標の伸び
第1-1-6図 今回の景気拡張期における個別指標の伸び のグラフ

(企業収益は改善に広がり)

企業の経常利益は、海外経済の緩やかな回復等を反映して改善傾向が続いており、2013年度以降、過去最高の水準を更新し続けている。こうした経常利益の伸びについて、これまでの景気回復局面ごとにみると、今回の景気回復局面における伸びは、第15循環(2009年3月-2012年3月)におけるリーマンショックにより大きく落ち込んだ後の持ち直しを除けば、戦後最長の景気回復となった第14循環(2002年1月-2008年2月)を抜いて、バブル景気(第11循環、1986年11月-1991年2月)以降で最も大きな改善幅となっている(第1-1-7図)。また、今回の景気回復局面において、企業業績は、大企業製造業のみならず、幅広い企業規模や業種で改善がみられる。バブル景気(第11循環)や戦後最長の景気拡張期(第14循環、2002年1月-2008年2月)の経常利益の改善幅を部門別にみると、これまでの景気回復局面においては、経常利益の改善幅の大部分を大企業製造業が占めていたのに対し、今回の景気回復局面においては、建設業や卸売業などを中心に非製造業においても、製造業と同程度の経常利益の改善がみられる。また、規模別にみても、中堅・中小企業でも改善がみられ、景気回復の恩恵が多くの企業に広がっているとみられる。

第1-1-7図 企業収益の動向
第1-1-7図 企業収益の動向 のグラフ

(交易条件の改善等により国民所得も改善が続く)

企業収益が改善を続けた一つの背景として、資源価格が低位で推移したことにより交易条件が改善していることや海外での企業の稼ぎの増加の影響があると考えられる。輸出価格を輸入価格で除した交易条件の推移をみると、輸出デフレーターが横ばいで推移する中、輸入デフレーターの上昇により交易条件は長期的に悪化傾向で推移していたが、2015年以降、輸入デフレーターが原油価格の下落などもあり低下したことで交易条件は改善傾向にある5(第1-1-8図)。加えて、日本人が海外で稼いだ所得を含む国民概念でみると、近年は、企業の海外での稼ぎが増加するとともに、資源価格が比較的低位で推移していることから交易利得は増加しており、企業収益にとって追い風となっている。このうち、企業が海外で稼いだ所得の純受取の増加については、これまでの企業の海外活動拠点の拡大やM&Aの活発化などを反映している。このため、交易利得と海外からの所得純受取を合わせると、2012年末から2017年7-9月期までの間に実質で13兆円増加している。これを反映して、実質GNI(国民所得)は、実質GDPの伸び以上に増加している。

第1-1-8図 交易条件、交易利得の動向とその背景
第1-1-8図 交易条件、交易利得の動向とその背景 のグラフ

(雇用は明確に改善)

2012年11月の景気の谷以降、我が国の雇用環境は改善が続いている。有効求人倍率は1974年1月以来の高水準、企業の雇用人員判断DIも2013年から不足超となるなど人手不足感は四半世紀ぶりの水準となるなか、女性や高齢者の労働参加により、雇用者数の増加がみられる。また、所得環境についても、春季労使交渉の結果、2%程度の賃上げが4年連続で実現し、最低賃金も2017年度までの5年間で全国加重平均額で計99円の引き上げとなるなど、改善が進んでいる。こうした雇用・所得環境について過去の景気回復局面と比較してみると、失業率は、これまでの景気回復局面と比べても最大の改善幅となり、有効求人倍率や雇用者数の伸びも、第11循環(バブル期)に次ぐ大きな改善幅となるなど、明確に改善している(第1-1-9図)。

第1-1-9図 雇用関係指標の改善度
第1-1-9図 雇用関係指標の改善度 のグラフ

(建設投資の動向)

我が国の実質建設投資額は、2010年頃に長期的な減少傾向から底を打ち、足下まで安定的に増加を続けている。建設投資については、住宅や商業施設の建て替え等を背景に20年程度の周期があることが知られており(クズネッツ循環)、こうした循環要因が増加局面に転じていることに加えて、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会や都心の再開発、インバウンドの増加等による建設需要の増加が建設投資額の押し上げに寄与しているとみられる(第1-1-10図)。

第1-1-10図 建設循環の動向
第1-1-10図 建設循環の動向 のグラフ

(景気回復の広がりも景気回復の長期化に貢献している可能性)

上述の3つの指標の改善に加えて、これまで景気回復の影響が及びにくかった分野まで景気回復の効果が広がりつつあることも、景気の持続性を高めている可能性が考えられる。

第一に、雇用・所得環境の改善の影響は、我が国の格差の状況を示す指標の改善にも及んでいる。相対的貧困率は長期的に上昇傾向にあったものの、今回の景気拡張期間に入ってから低下に転じ、特に子どもの貧困率は集計開始以来最大の低下幅を記録している(第1-1-11(1)図)。こうした背景には、子育て世帯の収入が増加したことがあると考えられる。また、ジニ係数の動向をみると、所得再分配後のジニ係数は、近年の雇用・所得環境の改善や、社会保障、税による所得再分配が機能した結果、おおむね横ばいで推移している。

第二に、これまで景気拡大の影響が十分に及びにくかった地方においても明るい動きがみられている。全国的に人手不足感の高まりがみられており、有効求人倍率は、2016年に1963年の統計開始以来、初めて47全ての都道府県で1倍を超え、2012年と比較し、全ての地域で改善がみられる(第1-1-11(2)図)。こうした地域経済の回復の背景の一つには、訪日外国人旅行者の増加が寄与している。政府の成長戦略の一環として取り組んできたビザ発給要件の緩和などのインバウンド政策の効果もあり、訪日外国人旅行者数は2016年度には2,482万人となり、景気の谷となった2012年度から約3倍へと増加した。地域別にみても、2012年の景気の谷から足下の2017年までですべての地域で外国人訪問者数が増加していることが確認できる。

第三に、中小企業においても改善がみられる。企業の経常利益が中小企業まで含めて改善を示すなかで、地域別の倒産件数は、景気の谷であった2012年から全ての地域で減少した。また、こうした企業業績の改善等を反映し、業況判断は改善しており、2012年と直近の2017年1~9月平均を比べると、地域別、企業規模別の全てで改善がみられる(付図1-2別ウィンドウで開きます )。

第1-1-11図 景気回復の広がり
第1-1-11図 景気回復の広がり のグラフ

(景気回復の長期化にはマインドや為替、原油等の外的要因の影響も)

以上の分析では、定性的に今回の景気回復の長期化の背景を分析してきたが、定量的な分析手法によって景気回復の持続性を分析してみよう。Castro(2010)では、先進国の景気拡張や景気後退が終わる要因を分析している。ここでは、こうした先行研究に則り、医療経済学等の分野でよく使われている生存時間分析の手法を用い、1971年以降の我が国の景気拡張期について、景気の山を1、それ以外を0とするダミー変数を作り、回帰を行うことで、どのような要因によって景気拡張が継続するかを確認した(第1-1-12図)。

本推計では、説明変数の係数がプラスの場合には景気拡張が終わる確率が上昇すること、マイナスの場合には景気拡張が終わる確率が低下することを示す。その上で、推計結果をみると、景気拡張は、その期間が長ければ長いほど景気の山を迎える可能性が高い。また、景気拡張を継続させる外的要因として、①人々のマインド、②市場の変動、③海外景気、④公共投資による下支えが影響する可能性が示唆された。まず、1つ目の要因の人々のマインドについては、その代理変数である株価の前年比が有意にマイナスとなっており、景気が回復するなかで、人々が景気回復を好感し、株価が上昇するような局面では、景気の山は遠のき、景気拡張が継続する可能性が高いと考えられる。2つ目の要因として、原油価格や為替レートといった市場の変動も我が国の景気拡張期の継続に影響を与える可能性がある。原油価格の上昇は、原油を輸入する企業にとって、コストの増加につながり、為替レートの減価は、輸入価格上昇の影響はあるものの、我が国の輸出企業の業績にプラスの影響を与えると考えられる。今回の推計においては、円建ての原油価格の前年比や実質実効為替レートの前年比は、有意にプラスを示しており、原油価格の低下や為替レートの減価は、景気拡張を継続させる可能性が高いことが示された。3つ目の要因として、アメリカが景気の山を付けた場合には、我が国の景気も山を付ける可能性が有意にみられており、アメリカなど海外の景気が回復している局面においては、外需の高まりを通じて、我が国の景気も好況になる可能性が高いとみられる。最後に、政府による公共投資には一定の景気刺激効果があると考えられる。今回の推計においても、公共投資の前年比は有意にマイナスを示しており、政府による景気下支えの取組も我が国の景気拡張の継続に一定の効果を発揮してきたとみられる。

第1-1-12図 景気拡張期間に関する生存時間分析 推計結果
第1-1-12図 景気拡張期間に関する生存時間分析 推計結果

1 OECD(2017)。
2 内閣府(2015)。
3 グローバルEPUは、我が国を含む18か国におけるEPUを各国のGDPで加重平均したものである。各国のEPUは、それぞれの国の主要紙(日本の場合は4紙)において、「経済」、「政策」、「不確実性」を指す用語をすべて含んだ記事の数が全体に占める割合を用いて作成している。我が国の場合は、「経済」または「景気」を含み、かつ税制、課税、歳出、政府債務、規制、日本銀行など政策に関係する用語を含み、かつ「不透明」、「不確実」、「不確定」、「不安」のいずれかを含む記事を「経済政策の不確実性に関する記事」としている。詳細は Baker et.al. (2016)やhttp://www.policyuncertainty.com/index.htmlを参照。
4 今回は「景気」というキーワードを含むニュース記事を自動で取得するプログラムを作成したが、得られた記事数に限りがあるため、長期的な傾向は確認できておらず、取得した記事が必ずしも日本経済に関するものではないものもあった。テキストデータの量と質を向上させることが必要である。また、記事からセンチメントを判断する際も、使用する分析手法や設定方法により結果が変わり得るため、適切な分析手法等について検討の余地がある。
5 交易条件は、原油価格が上昇に転じたこと等により、2016年に一時的に悪化していることに留意する必要がある。
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