第2章
第1節 企業部門のダイナミズム
企業部門のダイナミズムを高めるためには、大企業に加え、企業部門の中で大きなウェイトを占める中小企業の動向が注目される。本節では、大企業や諸外国との比較を通じて、我が国の中小企業の動向を分析するとともに、中小企業を含む企業部門にみられるダイナミズムの遅れとその背景を検証する。
1 中小企業のプレゼンスと最近の動向
以下では、まず、観察されるデータを基に、我が国経済における中小企業のプレゼンスを概観し、中小企業が経済活動の中で重要な役割を担っていることを確認すると共に、中小企業にみられる最近の変化を検証する。
(経済活動に占める中小企業のウェイトは大きい)
「中小企業」とは、一般的には、資本金額や従業者数などで測る企業規模が大企業に比べて小さい企業として捉えられるが、その概念は幅広く、一言で「中小企業」といっても、いわゆる町工場や商店などでイメージされるような個人事業主からベンチャー企業やニッチトップ企業まで様々な形態・性格の企業が含まれる。また、その定義についても法律や各種の統計調査、対象とする業種などによって異なっている(コラム2-1を参照)。
こうした定義の違いはあるものの、我が国経済に占める中小企業の割合を様々な指標から概観すると、登録された企業(個人経営や会社以外の法人を除く)のうち9割以上2、就業者のうち7割程度、人件費のうち6割弱を占めており、その量的なウェイトは大きい(第2-1-1図、付表2-1)。他方、付加価値、経常利益といった企業活動の成果をみると中小企業の割合は、3割から5割程度と低下する。就業者数など企業活動を行う上でのインプット指標でみる割合に比して、企業活動の成果を表すアウトプット指標でみる中小企業の割合が小さいことは、中小企業の労働生産性が大企業に比べて低いことを示している。
さらに、設備投資総額に占める中小企業の割合は4割、イノベーション活動への取組を示す研究費に占める割合は3%未満と、イノベーションを始めとする成長力向上に向けた取組をみれば、大企業が大きな役割を担っていることが分かる。
売上高に占める輸出額の割合をみても、自動車や電機機械、一般機械等の加工業種を中心に、大企業製造業では3割程度となっているのに対し、国内での活動を中心とする中小企業では2%程度と低い。
(中小企業の数は減少し、就業者数もこのところ減少傾向)
企業数や就業者数等でみる中小企業のウェイトが大きいことをみたが、こうした中小企業のプレゼンスに変化はみられるのであろうか。我が国における企業のほとんどを中小企業が占めるという構造に変化はないが、その数は、1990年代初の520万社(個人経営や会社以外の法人を含む)から、2010年代初には385万社と、20年間の間に約3割程度減少した(第2-1-2図(1))。
こうした動きを業種別にみると、経済のサービス化の動きを背景に、財からサービスへの需要のシフトが生じる中、1980年代以降、製造業では企業数に減少がみられるが、サービス業や小売業においても企業数が大きく減少している。背景の一つには、個人事業者を多く含むサービス業や小売業では、人口減少による需要の縮小や経営者の高齢化を理由とした廃業の増加など社会構造の変化が影響している可能性が考えられる3。また、そもそも、中小企業は国内を中心に活動しているため、国内景気の影響を強く受けると考えられるが、業種を問わず企業数の減少がみられることからも、背景には、バブル経済崩壊以降の内需の弱さといったマクロ的な経済環境が影響している可能性もうかがえる。
次に、中小企業における就業者数の動きをみると、1980年代以降、2000年代中頃まで増加傾向が続いたが、最近では減少している(第2-1-2図(2))。全就業者数に占める割合をみても減少傾向にあるが、依然として7割以上を占めている。
中小企業の4分の3以上の企業がサービス産業に分類されることを踏まえれば、中小企業がサービス分野での雇用の受け皿となってきたといえる。一方、中小企業の生産性は、大企業と比べても低く、雇用の受け皿としての機能を担う中、生産性向上への取組を進めることが課題となっている(第2節を参照)。
(中小企業は、依然として大企業と高い取引関係)
中小企業について、この20年の間に、企業数が減少してきたことをみたが、そうした中、「系列」構造に代表される大企業との関係に変化は生じたのであろうか。中小企業を中心とする下請事業者4と親事業者5間の取引構造を分析するために、親事業者への売上の依存度6をみると、1995年以降、依存度が5割を超える下請事業者の割合は低下してきたが、2014年には依然として4割程度となっている(第2-1-3図(1))。
また、下請事業者が常時取引を行っている親事業者の数をみると、常時取引を行う親事業者の数が5社以内と、限られた親事業者との取引関係にのみ依存していた下請事業者の割合は1995年以降低下してきたが、2014年には上昇し、全体の5割以上を占めている。他方、10社を超える複数の親事業者との取引関係を常時持つ下請事業者の割合は、同期間中に、1割程度上昇したものの、3割程度にとどまっている(第2-1-3図(2))。長期的にみれば、親事業者への依存度には低下もみられるが、中小企業は、依然として大企業との高い取引関係の中で活動しているとみられる。
2 中小企業の収益、投資の動向
我が国の中小企業については、就業者数など企業活動を行う上でのインプット指標でみると、経済活動に占めるウェイトが大きい一方、大企業と比べ、収益の低さや投資の伸び悩みが指摘されてきた。以下では、中小企業の収益や投資の動向について、大企業や諸外国との比較を通じて分析する。
(1990年代半ば以降、中小企業のROAは、大企業に比べて伸び悩み)
中小企業の収益力を大企業と比較するために、まず、企業規模別、業種別に、ROAの長期的な推移をみると、高度成長期以降、1990年代半ばに至るまで、中小企業のROAは、総じて大中堅企業のROAを上回って推移してきた(第2-1-4図)。しかし、1990年代半ば以降、デフレの下、大中堅企業に比べ、中小企業では販売価格へのコスト転嫁が十分に進まず収益環境が厳しかったことや、バブル経済崩壊に端を発するバランスシート調整に直面する中、過剰債務がより深刻であった中小企業において積極的な企業活動が抑制されたこと(後述)、また、大中堅企業と比べて人件費削減等の合理化に向けた取組が遅れたことなどを背景に、中小企業のROAは大中堅企業のROAを下回って推移する傾向を示すこととなった。
最近では、デフレ状況ではなくなる中、コストの上昇を販売価格に転嫁しやすい状態が続くこと、また、原油を始めとする資源価格下落の影響により仕入価格が低下していることなどを背景に収益環境が改善したことを受け、中小企業・非製造業のROAが上昇し、大中堅企業・非製造業のROAと同様の水準となっている。
企業の財務データ7を基に、我が国企業の収益分布を企業規模別にみると、ROAの平均値は、大企業(5.5%)が中小企業(4.2%)を上回る一方、その最頻値は、大企業、中小企業共に、「0%以上5%未満」となっている(第2-1-5図)。収益分布の形状をみると、中小企業の多様性を反映し、分布の広がりは、中小企業で大きくなっている。ROAがマイナスとなる企業の割合をみると、中小企業については17%程度であり、大企業の5%程度と比べて高い。他方、ROAが10%以上ある、収益力の高い企業の割合をみても、中小企業が大企業を上回っている。中小企業の中には、創業間もない企業や、高収益を実現する成長期の企業、さらには、成熟した成長性の低い企業など、大企業と比べ、様々な状況にある企業が含まれるが、成長力の向上に向けては、企業部門のダイナミズムを高め、高収益企業の割合を高めていくことが重要となる。
(中小企業の投資は伸び悩み)
次に、企業の投資行動を分析するために、企業規模別、業種別に、設備投資/キャッシュフロー比率の推移をみると、2011年以降にみられる製造業での動きを除き、総じて、大中堅企業が中小企業を上回る姿となっている(第2-1-6図)。そうした中、バブル経済の崩壊以降、大中堅企業、中小企業の双方において、設備投資がキャッシュフローを下回るといった消極的な投資姿勢がみられている。大企業を含め、企業が投資に積極的になれない背景には、3つの過剰(過剰雇用、過剰設備、過剰債務)に直面していたことや、長引くデフレの下で成長期待が低下したこと、また、リーマンショックに代表される経済ショックへの備えなどを理由に現預金を蓄積してきたことなどが考えられる。特に中小企業・非製造業については、先述のとおり、その多くが国内で活動しているため、国内景気の影響を受けやすくなるが、我が国経済がバブル経済の崩壊以降、20年間にもおよぶ低迷を経験する中で、大企業と比べても投資が伸び悩んできた。2013年度以降、企業収益は過去最高水準となっているものの、設備投資はそれに比して低水準にとどまっており、大中堅企業、中小企業双方の投資姿勢に大きな変化はみられていない8。
(中小企業にみられる「低収益・高レバレッジ」体質)
中小企業のパフォーマンスを財務・経営体質の面から探るために、負債/資本比率と売上高営業利益率の関係をこの5年間の平均でみると、中小企業の負債/資本比率は200%以上となっており、140%程度の大中堅企業と比べて高い(第2-1-7図)。他方、中小企業の売上高営業利益率は、2%程度と大中堅企業に比べて低く、総じてみれば、中小企業は収益率が低く、かつ高レバレッジ体質であることが分かる。こうした状況は、大企業に比べ、中小企業ではレバレッジの拡大が収益の向上に結び付いていない可能性を示唆しているが、経営環境の悪化等のショックに対しても、大企業に比べ脆弱となっている可能性がある。
(我が国の中小企業のROAは、アメリカと比べて低い)
我が国の中小企業の収益力は、大企業と比べて低いことを確認したが、ここでは、アメリカの中小企業の収益力との比較を行う。日米両国における中小企業・製造業の平均的なROAをみると、アメリカでは16%であるのに対し、日本では3%と5分の1程度となっている(第2-1-8図(1))。こうした背景を探るために、日米両国について、企業規模によるROAの違いをみると、日本では、企業規模が小さくなるに従いROAが低くなる傾向が示されているのに対し、アメリカでは、企業規模が小さくなるに従いROAが高くなる傾向がみてとれる(第2-1-8図(2))9。背景には、企業部門におけるダイナミズムの遅れ等を理由に、我が国では、アメリカに比べ、収益率の高い成長期の企業が少ない一方、収益率の低い成熟期の企業が多く中小企業に含まれる結果、全企業規模ベースでみても低い収益力が、中小企業については更に押し下げられている可能性が考えられる。
3 企業部門におけるダイナミズムの動き
我が国の中小企業は、経済活動に占めるウェイトが大きい反面、その平均的な収益率は、大企業と比べても低いことをみた。一方、収益分布の形状をみると、中小企業の多様性を反映し、低収益企業及び高収益企業の割合が大企業と比べても高いことが確認された。我が国の成長力を高めるためには、企業部門におけるダイナミズムを高め、高収益企業の割合を高めていくことが重要となる。
(我が国の開廃業率は国際的にも低く、社齢も高い)
我が国の成長力を高めるためにも、起業による市場への参入や起業後の成長、市場からの退出といった動きを円滑に進め、企業部門のダイナミズムを高めることが重要であるが、我が国の開業率及び廃業率をみると、それぞれ5%程度、4%程度となっており、アメリカやドイツでは開業率が7~8%程度、廃業率が9~10%程度であるのと比べると低い。こうした開廃業率の低さを背景に、日本の中小企業部門では、諸外国と比べて社齢の高い企業の占める割合が高い。実際に、我が国では、創業10年以上の中小企業が全体の4分の3以上を占めるが、多くのOECD諸国では、半分以下となっている(第2-1-9図(1))。また、こうした傾向は大企業についても同様であり、我が国の大企業は、諸外国に比べ社齢が高い。日本の大企業300社のうち、7割以上が1960年以前に設立されているが、これとは対照的に、アメリカでは、大企業の8割程度が1960年以降に設立されている(第2-1-9図(2))。
(開業率と廃業率の間には高い相関)
開業率と廃業率の間には、我が国を含め、国際的にも高い相関関係がみられる(第2-1-10図(1))10。こうした背景の1つとして、開業が活発になると、企業間の競争が促されるために廃業も高まるという可能性が考えられる。「日本再興戦略」においても、開業率・廃業率を10%に引き上げることが成果目標として設定されているが、これは、開業率・廃業率を高めることや事業転換を進めることで、経営資源の速やかな移動が促される結果、雇用の創出等を通じて、経済の中長期的な成長力を高める効果が期待されるためである。実際に、OECD諸国について、開業率・廃業率と経済成長率の関係をみると、緩やかな正の相関が確認される(第2-1-10図(2)、(3))。企業部門、ひいては経済全体の活性化に向けて、開業率・廃業率を高めることの重要性が示唆される。
(中小企業支援とダイナミズム)
企業部門のダイナミズムには、中小企業支援も影響を与えてきた。中小企業支援については、1999年における中小企業基本法の抜本改正以降、創業支援や新事業の創出に向けた支援が中心となったが、同時に、原油・原材料価格の高騰による企業収益の悪化やリーマンショックを契機とした金融危機などのショックに応じ、金融円滑化法、及び緊急保証制度を始めとする様々な金融支援策が講じられてきた。ここでは、特に、ダイナミズム促進の観点から緊急的な支援も含めた信用保証制度11、12の果たしてきた役割について考察する。
一般に、中小企業による資金調達は、間接金融、直接金融を問わず、担保となる資産が少ないことやクレジット・ヒストリー(信用履歴)が短いこと、また株式や社債の発行などにより市場から資金を調達する手段が限られていること等を理由に、大企業に比べてその機会が制約されているとみられる。
特に、景気に対して、例えば、バブル経済の崩壊やリーマンショックといった金融・経済活動を収縮させるようなショックが生じた場合には、金融市場におけるリスク回避的な動きの中で中小企業の資金調達が制約を受ける傾向が強まる。そのため、我が国では、中小企業の資金繰り支援策として、緊急的な支援も含めた信用保証制度が重要な役割を果たしてきた。実際に、信用保証制度に基づく中小企業向け貸出の残高の推移をみると、2005年度には28.8兆円であった規模が、リーマンショックを契機とした景気の落ち込みを背景に、2010年度には35.1兆円にまで拡大した(第2-1-11図(1))。その後、景気の回復基調を背景に、2014年度には27.7兆円にまで縮小したが、依然として、中小企業向け貸出の約1割を占めている。また、GDP比でみても6%程度となっており、諸外国に比べて大きな割合となっている(第2-1-11図(2))。
信用保証制度は、中小企業の資金繰りを改善し、景気の後退期にあっては、企業倒産の抑制に一定の役割を果たしてきた一方で、現行の制度については、企業のライフステージや融資の規模にかかわらず一律で融資の8割の回収が確保されることで、企業の個々の事情やニーズを汲んだ融資、企業へのモニタリングや経営支援といった取組が十分に行われず、結果的に制度を利用する企業も経営改善の努力を行うモチベーションを持ちにくいケースがあるのではないかといった指摘もなされている13。信用保証制度については、多様な危機に対応させ、かつ中長期的に中小企業の成長を促進する制度とすることが求められている14。
ここで、我が国を含め信用リスクの動向を探るため、日本、アメリカ、EUのそれぞれについて、中小企業における赤字企業の借入利率と黒字企業の借入利率の差(スプレッド)をみると、アメリカ、EUについては、信用リスクの違いを反映し、ある程度のスプレッドが発生しているとみられるのに対し、日本では、スプレッドがほとんど発生していない(第2-1-12図)。赤字企業と黒字企業の間で、信用リスクに差があるとすれば、そうした違いが借入利率の差に表れると考えられるが、我が国では、そうした関係が観察されない。
Lam and Jongsoon(2012)では、我が国について、格付けに応じた中小企業に対する銀行の貸出金利と採算金利の関係を分析している。その結果によれば、格付けの高い中小企業への貸出金利は銀行の採算金利を上回る一方、格付けの低い中小企業への貸出金利が銀行の採算金利を下回ること、言い換えれば、信用リスクの高い中小企業に対しては採算の採れない金利で貸出を行っており、そうした背景に、信用保証制度の影響がある可能性を指摘している。
(参入促進による雇用の創出)
起業による市場への参入が進むことにより、雇用の創出や収益の改善という効果が期待できる。企業の財務データ15を基に、2009年からの5年間における中小企業の従業員数の変化をみると、我が国ではアメリカやEUと比べて低いものの、4%程度増加した。従業員数の増加に対する社齢別の寄与をみると、設立10年未満の比較的新しい企業が5割程度寄与していた(第2-1-13図)16。設立10年未満の比較的若い企業において、従業員数がより大きく増加するという傾向は、アメリカやEUにおいてもみられており、社齢の低い企業による雇用創出効果が高い可能性を示唆している。
こうした結果からも、我が国の企業部門における雇用創出力を高めるために、起業活動を促し、新規企業を増やすことが重要といえる。
(ダイナミズムの向上に向けて、M&Aや新しい事業展開も重要)
企業部門のダイナミズムを高めるためには、M&Aや新たな事業展開に向けた動きも重要となる。我が国のM&A件数をみると、最近では、景気回復を背景とした企業環境の改善等を受けて、「IN-IN」を中心に増加傾向にある(第2-1-14図)。社会のニーズや技術の高度化・複雑化が進む中、事業化のプロセスにもスピードが求められるようになると、中小企業に限らず、自社の求める人材や設備を企業内で育成していくことには限界が生じる。そのため、企業の枠を超えて既存の経営資源の組替えを円滑に行なうことを可能とするM&Aの機能は、企業の成長促進や再生の観点からも重要性が増している。
また、既存事業とは異なる事業分野への進出を図る新事業展開を進めることも同様に重要と考えられる。中小企業庁(2013)では、新事業展開を実施した中小企業・製造業の業績見通しは、実施していない企業の業績見通しに比べて改善する傾向があることを示し、大企業に比べて遅れがみられる中小企業による新事業展開を促すことの重要性を指摘している。
(バランスシート調整の進展と企業環境の変化)
中小企業を含む我が国の企業部門における資金の動きを、投資を表す資金需要と貯蓄を表す内部資金に分けてみると、2000年代以降、総じて、資金需要が伸び悩む中、内部資金が増加し、貯蓄・投資バランスは貯蓄超過方向に変化してきた(付図2-2)。
こうした動きを、企業規模別、業種別にみると、2000年代以降にみられる企業部門の貯蓄超過主体への転換には、中小企業・非製造業が中心的な役割を果たしていることが分かる(第2-1-15図(1))。さらに、その内訳をみると、主に、不動産業や卸売・小売業等の分野で貯蓄超過方向への動きが顕著であった(付図2-3)。不動産業は、バブル経済を契機に負債残高を大きく増加させたが、中小企業・非製造業では、バブル経済の崩壊後、こうした業種を中心に、相対的に大きなバランスシート調整の必要性に直面する中、投資を抑制し、内部資金を負債の返済に充ててきたとみられる(第2-1-15図(2))。
しかし、最近では、いずれの規模、業種においても、リーマンショックを契機とした一時的な落ち込みからの回復の中、資金需要が増加している。企業を取りまく環境や企業の行動に前向きな変化がみられる中、企業部門におけるダイナミズムを高めるといった新たな課題の解決に向けて取組が進むことが期待される。
次節では、企業部門のダイナミズムを高めるための諸施策とともに、イノベーションやICT投資を始めとする中小企業の生産性向上策について検討する。
コラム2-1 中小企業の定義と本章での分析データの特性について
「中小企業」を定義する際には、企業の中でも「大企業」との区別を行う具体的な基準が必要となるが、一般的には、資本金額や従業者数といった基準が用いられる。ただし、そうした基準については、法律や各種の統計調査、また対象とする業種などによっても異なっており、必ずしも一つの絶対的な基準が存在するわけではない。
例えば、中小企業基本法では、①「製造業その他」、②「卸売業」、③「小売業」、④「サービス業」と業種を分類した上で、例えば、「製造業その他」については「資本金3億円以下、又は、従業者数300人以下」、「卸売業」については「資本金1億円以下、又は、従業者数100人以下」の企業を「中小企業者」として定義している。ただし、こうした定義は、中小企業政策における基本的な政策対象の範囲を定めた原則であり、法律や制度によって「中小企業者」として扱われる範囲が異なることもある17。各種の統計調査をみても、「経済センサス」(総務省)では、「中小企業」を「資本金額1億円未満」の企業と定義する一方、「全国企業短期経済観測調査」(日本銀行)では、「資本金額2千万円以上1億円未満」と異なる基準が用いられている。
本章では、経済センサスや法人企業統計等の集計データに加え、個票データを用いた分析を行うため、分析データの一部を、Bureau van Dijk社が提供する企業データバンク「Osiris」に依拠している。「Osiris」のデータを大企業と中小企業に区別する際には、便宜的に、「従業者数300人以下」の企業を中小企業として定義している。なお、「Osiris」は上場企業を対象とした企業データバンクであり、上述の基準により抽出された中小企業については、中小企業の中でも比較的規模の大きな企業が中心となっている点には留意が必要である。コラム2-1表では、「Osiris」に基づく分析データの特性を明らかにするため、日本、アメリカ、EUそれぞれについて、抽出された中小企業のサンプル数や平均従業員数、従業員一人当たり売上高等の指標を示している。これによると、日本の中小企業の従業員一人当たり売上高や1企業当たりの研究開発費は、アメリカやEUに比べて低い等の結果が示されている。なお、アメリカの営業利益はマイナスとなっているが、これは、2000年以降に設立された企業の割合が5割程度と抽出されたデータの中に若い企業が多く含まれていることが影響している可能性も考えられる。他方、日本についてみると、その比率は2割程度であり、多くの企業は2000年以前に設立されたことが示されている。