第1節 海外生産移転の進展
我が国では、製造業の海外生産移転が継続的に進み、円高局面を迎えるたびに「空洞化」懸念の高まりが見られる。
1980年代後半には、プラザ合意後の円高、輸出自主規制・輸入制限等の貿易制限措置の増加、ヨーロッパの経済統合を見越した動きなどから、アメリカやヨーロッパへの生産移転が進んだ。この時期には、生産コストの低下を企図して賃金の低いアジア地域に生産拠点を移す動きも見られたが、こうした動きは、90年代半ばの大幅な円高の進行の下で加速した。2000年代央には、逆に円安に振れたことから「空洞化」に対する警戒感は薄れたものの、海外生産移転は、生産コスト削減を企図したものから、新興国の経済発展を背景として海外現地市場の獲得を企図したものにシフトする形で増加した。近年では、リーマンショック以降に円高が進行したこともあって、再び「空洞化」の懸念が指摘されている。
そこで、本節では、製造業の海外生産移転の状況を分析する。次に、海外に生産拠点を移した企業が調達、販売、収益などの面でどのような影響を受けているのかを分析する。最後に、非製造業に目を転じ、非製造業の海外進出の状況と課題について分析する。
1 製造業の海外生産移転と「空洞化」懸念
ここでは、まず、製造業の海外生産移転やいわゆる「空洞化」についての概念整理をした上で、製造業の海外生産移転の状況を明らかにし、「空洞化」の現状を確認する。また、最近の動向として、「コア技術(競争力の源泉として、戦略上、重要な位置づけにある技術)」の海外への移転が生じるなど、将来における生産性の低下を懸念させる事例が見られることを示す。
(製造業の海外生産移転の性質1)
海外生産移転とは、対外直接投資(FDI;Foreign Direct Investment)により国内の生産活動を海外の生産活動で代替することである。
「対外直接投資」を、企業の海外生産移転の動機に基づいて整理すると、①類似した生産要素が存在している国に財・サービスの生産拠点を設置し、需要に近接する地点で最終財の現地生産を行う「水平的直接投資(Horizontal FDI)」と、②異なる生産要素が存在している国に、財・サービスの生産工程の一部を移転し、両国に存在する生産要素の差異を利用して工程間分業を行う「垂直的直接投資(Vertical FDI)」に分けて考えることができる(第3-1-1表)。
企業は、海外生産移転によるコストとベネフィットを比較して、海外生産を行うか国内生産を行うかを決定する。
「水平的直接投資」は、例えば、米国に自動車の完成品工場を設立する場合が該当するが、工場から市場までの輸送コストや関税等の貿易コストを節約しつつ、米国という一大需要地の需要を取り込むことができる(現地市場獲得型)。しかし、企業はこれまで日本で行っていた生産活動を米国に分散することで、工場建設の固定費用などのコストが新たに発生するほか、1か所の工場で大量一貫生産することによる「規模の経済」を喪失する。
一方、「垂直的直接投資」は、例えば、ベトナムに裁縫工場を設立する場合が該当するが、労働集約的な生産工程を日本から賃金の低いベトナムに移管・代替することで、コストを節約することができる(国内生産代替型)。他方、生産工程が分離するため、企業は、日本とベトナムの間の貿易コストが発生することなどから、生産工程間の「統合の経済」を喪失する2。
海外生産移転による自国の輸出入への影響については、3つの効果が考えられる。第1に、最終財の生産を海外に移管することにより、部品等の中間財の自国からの輸出や、海外現地法人の設備投資に用いられる資本財の自国からの輸出が増える効果である。この効果は、「輸出誘発効果」と呼ばれる。第2に、海外生産拠点で生産された最終財が現地販売されたり、第三国向けに輸出されることで、本国からの輸出が減少する効果である。この効果は「輸出代替効果」と呼ばれる。第3に、海外生産拠点で生産された財の輸入が増加する効果である。この効果は「逆輸入効果」と呼ばれる。ミクロデータを用いた実証分析によると、生産ラインごと移管する「水平的直接投資」には輸出代替効果が、工程間分業が発生する「垂直的直接投資」には輸出誘発効果があるとされている3。
(「空洞化」とは)
海外生産移転が国内経済に与える影響について考えてみると、輸出誘発効果が輸出代替効果と逆輸入効果に比べて大きい場合には、国内の生産は増加すると考えられる。雇用については、労働移動が円滑であれば失業は生じないが、急激な海外生産移転が生じ労働市場の調整が遅れるような場合には、失業が生じ雇用が減少する可能性もある。生産性についても、生産拠点の配置の効率化によって企業レベルでの生産性は高まると期待されるが4、産業集積が外部経済効果を持つ場合には、ある企業が海外に生産拠点を移転すると集積が低下し、他の企業、ひいては産業レベル、マクロレベルの生産性を低下させる可能性がある。
このように海外生産移転はさまざまな動機に基づいて行なわれ、その影響も多面的であることから、「空洞化」という言葉については、論者によりさまざまな定義が用いられているのが実状である。ここでは「空洞化」を「海外生産移転によって国内の生産や雇用が減少し、国内産業の技術水準が停滞し、低下する現象」と定義して用いることにする5。
以下では、こうした概念整理の下で、我が国の製造業における海外生産移転の状況を明らかにし、我が国の製造業の「空洞化」の現状を確認する。
(製造業の海外生産移転は進んでいるが、国内の生産は増加)
製造業の海外生産比率(海外現地法人売上高/(国内法人売上高+海外現地法人売上高))、海外従業員比率(海外現地法人従業員数/(国内法人従業員数+海外現地法人従業員数))を見ると、90年度以降上昇傾向にある(第3-1-2図(1))。この間、2000年代半ばには円安が生じたが、海外生産移転のペースが落ちたわけではない。また、海外設備投資比率(海外現地法人設備投資額/(国内法人設備投資額+海外現地法人設備投資額))は、やはり同期間に上昇傾向にあるが、バブル崩壊後の90年代初、アジア通貨危機後の90年代末から2000年代初、リーマンショック後の2000年代末には上昇がやや一服している。これらの時期は景気が悪い時期に当たることから、企業収益が低迷し海外設備投資も抑えられた(第3-1-2図(2))。
こうした中、国内における製造業の就業者数は趨勢的に減少しているが、生産額(製造業の実質GDP)は横ばいで推移し、労働生産性(製造業の就業者一人当たり実質GDP)も上昇している(第3-1-2図(3))。
このように、我が国では、製造業の海外生産移転が進展するにつれて製造業の雇用は減少しているものの、生産性を向上させつつ生産水準を維持してきた。
(中間財では輸出誘発効果が発現)
海外生産移転が進んでも生産が減少していない理由の一つとして、輸出誘発効果が働いている可能性がある。そこで、輸出入の動向や貿易構造の変化について概観しておこう。
財の種類別(素材、中間財、資本財、消費財)に輸出入額を見ると、いずれの財も輸出入ともに増加している(第3-1-3図(1)及び(2))。特に中間財の伸びが大きく、生産工程の国際分業が進展し輸出誘発効果、逆輸入効果が働いていることを示唆している。
また、貿易特化係数6(純輸出額/(輸出額+輸入額)))を見ると、中間財は90年から2010年にかけてほぼ横ばいとなっている一方、同期間に資本財と消費財は低下している(第3-1-3図(3))7。ただし、資本財については、依然、高い輸出競争力を維持している8。貿易特化係数を業種別に見ると、中間財では、素材業種(繊維、化学、窯業・土石)で横ばいから上昇傾向にある一方、加工業種(輸送機械、電気機械、一般機械)で低下傾向にある(第3-1-4図(1))。例えば、電気機械については、韓国、台湾が競争力を高めてきていることがその背景となっていると考えられる9。また、一般機械については、中国が中間財の供給センターとしての存在感を増していることが影響していると考えられる10。資本財については、輸送機械が概ね横ばいで推移する中で、電気機械と一般機械は低下している11(第3-1-4図(2))。また、消費財については、輸送機械を除いて各業種で低下している。繊維は大幅な輸入超過の状態が続いており、電気機械や一般機械でも海外生産移転の進展や新興国の技術水準の高まりを背景に輸入超過に転じている。他方、輸送機械は、輸出単価の高い大型車、高級車の需要が海外で高く、それらを国内で生産して輸出する体制が維持されていることなどから、高水準の輸出超過を維持している(第3-1-4図(3))。
このように、我が国は、東アジアを始めとする海外との間で分業体制のネットワークを構築している。そうした調達と販売のネットワークの中で、消費財については、電気機械や一般機械などで、中国が我が国に代わり供給センターとなっており、輸出代替効果や逆輸入効果が働いていると考えられる。一方、加工品・部品からなる中間財については、我が国が中間財の供給拠点として役割を維持することで輸出誘発効果をもたらし、国内生産を下支えしている面があると見られる。
(一般機械、化学、窯業・土石でも海外生産移転が進展)
次に、産業別に海外生産移転の状況を見てみよう(第3-1-5図)。ここでは、海外生産移転が早くから進んでいた輸送機械、電気機械、繊維に加え、海外生産比率が輸送機械、電気機械に次いで高い一般機械、化学と窯業・土石をとりあげ、海外生産比率の動向を見ることとする。
輸送機械や電気機械では、貿易摩擦を回避するため、アメリカ、ヨーロッパを中心に80年代から海外生産移転が進んでいた。90年以降も、円高や生産工程の国際分業の進展等から、海外生産移転が進み、2010年には、輸送機械の海外生産比率は39.2%に、電気機械のそれは20.9%にそれぞれ上昇している。
最近では、一般機械や化学、窯業・土石といった素材業種においても、海外生産比率が上昇している。例えば、窯業・土石では、自動車メーカーの海外生産移転に関連してガラスなどの素材を提供するメーカーが進出するといった事例が見られている。
(繊維では国内の就業者数と生産が減少)
このように各業種で海外生産移転が進む中で、それぞれの業種の国内における就業者数、生産、労働生産性にはどのような影響が出ているのであろうか(前掲第3-1-5図)。
国内の就業者数については、輸送機械は幾分増加しているが、他の各業種は減少傾向にある。特に、繊維は、2010年の就業者数が90年対比で4分の1まで低下している。国内の生産については、繊維が大きく減少、窯業・土石も減少傾向にあるものの、他の各業種は減少傾向にはない12。労働生産性については、各業種とも低下傾向にはない。
こうしたことから、大半の産業では、就業者数が減少しているものの、国内の生産や生産性は減少傾向とはいえない。しかし、繊維については、国内の就業者数と生産が減少傾向にある中で、生産性は概ね横ばいで推移している。繊維は全体として縮小しており、いわゆる「空洞化」が懸念されてきた産業である。
(「空洞化」に関する懸念の強まり)
最近の報道を見ると、①輸送機械の大企業が市場獲得を企図して海外で開発から部品製造、組立てまで、一貫して生産する工場を新設する、②複数企業がコア技術や研究開発拠点の海外移管を計画しているなど、将来の生産性の低下につながりかねない兆候も見られる。その背景には、企業が経済成長の著しい新興国で、現地の需要に合ったきめ細かな対応により、市場を獲得したい、グローバルな市場で最適な生産立地を行って製造費用を最小化したいとの意図がある。
実際に、輸送機械や一般機械における海外設備投資比率の直近の動きを見ると、比率の上昇が加速しているように見える(図3-1-6(1))。また、コア技術の海外移管に関するアンケート調査では、既に海外「移管済」という先が半数程度に及び、今後の移管の「可能性有り」とする先も多い(図3-1-6(2))。さらに、研究開発拠点や高付加価値製品などの海外移管を決定した先も多い。
我が国の製造業においては、雇用が減少しているものの、生産性を向上させつつ生産水準を維持しており、「空洞化」の定義に照らしてみれば、90年代、2000年代に「空洞化」が進んできたとは必ずしもいえない。しかし、上記のような「空洞化」の進展を示唆する兆候が見られており、こうした動きが強まっていくと、雇用に加えて生産の縮小や生産性の低下が生じる懸念もあると考えられることから、今後の動向には注意が必要である。
2 製造業の海外現地法人の特徴
ここでは、我が国製造業の海外生産移転が進展する中で、製造業の海外現地法人の設立目的の変化や、部品等の調達構造、製品等の販売構造の変化を見る。特に、海外現地法人を設立する企業を、生産コストの低下・逆輸入を企図した「国内生産代替型」と、海外現地市場の獲得を企図した「現地市場獲得型」に分け、その特徴と設立後の収益の変化等を分析する。
(海外生産移転の目的は現地市場獲得型にシフト)
製造業の海外現地法人の設立目的の変化について見てみよう。「海外事業活動基本調査」では、海外投資を決定する際のポイントを聞いているが、これによると、進出先の国やその近隣国13での需要を取り込むことを目的としているという主旨の回答(「現地市場獲得型14」)の延べ数は、生産コストの低下や我が国への逆輸入を目的としているという主旨の回答(「国内生産代替型15」)の延べ数を上回っている。また、「現地市場獲得型」の回答のシェアが高まる一方、「国内生産代替型」の回答のシェアは低下しており、その差は拡大している(第3-1-7図(1))。
「海外事業活動基本調査」における投資決定のポイントでは、項目を3つまで選択する形式になっているため、「国内生産代替型」の項目と「現地市場獲得型」の項目を同時に選択する企業も多い。そのため、個票データを用いて、調査年度に海外現地法人の新規投資・追加投資を行った企業のうち、設立目的を国内生産代替型に特化した企業と現地市場獲得型に特化した企業を区分した16上で、それら企業の割合の変化を見てみよう。2004年度には、国内生産代替型企業の割合は現地市場獲得型企業の割合を上回っていたが、2005年度には逆転し、それ以降、現地市場獲得型企業のシェアが上昇する一方、国内生産代替型企業のシェアは低下している(第3-1-7図(2))。
このように、製造業の海外現地法人の設立目的は、国内生産代替型から現地市場獲得型にシフトしており、最近では、現地市場獲得型の方が多くなっている。すなわち、新興国等の高成長を取り込むことを目的として海外生産移転を進める企業が多数を占めるようになっている。
(海外現地法人による現地市場でのビジネスは拡大)
こうした中で、海外現地法人による部品等の調達と製品の販売の構造にも変化が見られる。すなわち、海外生産移転が進むとともに、海外現地法人の調達額と販売額は着実に増加している17。それぞれの内訳を見ると、日本からの調達と日本への販売、第三国からの調達と第三国への販売も増加しているが、現地調達と現地販売の伸びの方が大きい(第3-1-8図)。
このように、海外現地法人は、調達・販売の両面で、日本との関係よりも現地との関係を強めている。海外に進出した企業から、「現地に進出している欧米の企業から、日本国内では考えられない規模の受注を受ける」との指摘が聞かれるように、進出企業が現地でのビジネスを拡大している姿がうかがわれる18。
(現地市場獲得型企業は企業規模が大きい)
製造業の海外現地法人の設立目的に関して、国内生産代替型に特化した企業と現地市場獲得型に特化した企業の間で国内本社の属性に違いがあるかを見る19。現地市場獲得型企業は、売上高、輸出、経常利益、従業員数、労働生産性(一人当たりの売上高)の全ての項目において、国内生産代替型企業に比べて高い傾向にある(第3-1-9図)。
すなわち、現地市場獲得型企業は、国内生産代替型企業に比べて企業規模が大きく、経営体力があり、生産性も高い。これは、海外現地市場に参入し市場を獲得しようとすると、現地市場の需要見通しやニーズの調査、ニーズに合わせた商品の開発、生産、販売活動などに莫大な費用が発生することから、費用を負担することができる一定以上の規模の企業でないと海外現地法人の設立に踏み切れないためであると考えられる。
また、国内生産代替型企業は、生産コストを削減するために生産コストの低い途上国に進出する場合が多い。そのため、国内生産代替型企業は、もともと国内での生産性の低い企業が多い。
(現地市場獲得型企業は大きく成長)
最後に、国内生産代替型企業と現地市場獲得型企業の国内本社の売上高、輸出、経常利益、従業員数、労働生産性の変化を比較してみよう。まず、全ての指標について、いずれの型の企業も改善している(第3-1-10図)。また、現地市場獲得型企業は、国内生産代替型企業よりも、相対的に企業規模が大きいにもかかわらず、海外生産移転後に売上高や輸出、経常利益、労働生産性の伸びが大きいという特徴がある。これは、海外での新規市場開拓による販売拡大に伴って、現地市場獲得型企業の業績が改善するためであると考えられる。
このことは、製造業において現地市場の獲得を目指す「攻めの海外生産移転」が、我が国の国内における企業活動の活発化にも繋がることを示唆している20。
3 非製造業の海外進出
これまで、製造業の海外生産移転について、その状況と国内経済に与える影響を見た。また、移転先の海外現地企業の販売、調達活動、あるいは海外生産移転した企業の売上、収益動向の特徴を見た。ここでは、目を非製造業に転じ、非製造業における海外進出の状況を確認し、その課題を検討する。
(進む非製造業の海外進出)
非製造業では、従来、製造業に比べて海外進出が難しいとの認識があった。これは、①進出先の顧客の経済的あるいは文化的な環境が国内の顧客のそれと大きく異なるため、国内で培ったノウハウが活かし難いこと、②対人サービスであることから進出先の言語や慣習、法制度等に伴う参入障壁が製造業に比べて大きいことなどによるものであった。
実際、非製造業21の対外直接投資残高は、2005年には18.3兆円と、製造業(27.3兆円)の7割弱の水準にとどまっていた。もっとも、グローバル化が進展する中で、各国・地域において金融や運輸・通信の分野で外資規制や直接投資の認可要件の緩和等の規制緩和・制度整備が進んだこと、ITの普及によりグローバルに展開される事業拠点間の情報共有が容易になったこと等を背景に、非製造業の海外進出も進んでいる。非製造業の対外直接投資残高は、2010年には38.9兆円と2005年の2倍以上に増加しており、製造業を上回る水準となっている(図3-1-11(1))。ただし、我が国の非製造業の直接投資残高は、対GDP比で8.1%にとどまっており、他の主要国と比べると、依然低い水準である。
海外事業活動基本調査により、非製造業の海外現地法人について、海外売上比率、海外従業員比率、海外設備投資比率を見ると、90年以降、いずれも趨勢的に上昇している22(第3-1-11図(2))。このうち、海外設備投資比率は毎年の振れが大きいが、円高局面で上昇する傾向がみられる。これは、円高によって円の購買力が高まるため、我が国企業にとってみれば、海外企業を買収しやすくなることも影響していると考えられる23。
次に、業種別に見ると、海外売上比率、海外従業員比率、海外設備投資比率のいずれにおいても、商業(卸売・小売業)、鉱業が上昇基調にある(第3-1-11図(3))。商業(卸売・小売業)では、進出先の国における購買力増加を背景とした旺盛な現地需要に支えられ、中国を始めとするアジアの海外現地法人の売上高が趨勢的に増加している。また、製造業の海外生産移転が現地市場獲得型にシフトしていることもあり、海外現地企業の販売機能強化のため、製造業の子会社として卸売やサービス等の非製造部門の機能を担う海外現地子会社が増加傾向にあることも影響していると考えられる24。鉱業では、2000年代中頃以降資源価格が高騰したことや、資源確保のためオーストラリア向け等に積極的に海外投資が行われていることが、海外現地法人売上高の増加に寄与していると考えられる。
(非製造業海外現地法人の収益は増加)
非製造業の海外進出の目的は、主として拡大する海外市場においてビジネスを行うことであり、現地市場獲得型の性格が強い。したがって、国内経済に及ぼす影響という観点からは、海外現地法人がどれだけ収益を上げ、その収益をどれだけ国内に還流するかが重要である25。
非製造業の海外現地法人の収益と利益還流の状況を見てみよう(第3-1-12図)。まず、非製造業の海外現地法人の経常利益額は増加傾向にあり、2010年に5.3兆円を超え、製造業の海外現地法人(5.6兆円)と遜色のない水準に達している。これを受けて、非製造業の海外現地法人による日本側出資者向け支払額は急増している。ただし、非製造業の海外現地法人による支払額は、製造業の半額程度にとどまっている。これは、近年、中南米、オセアニア地域において、非製造業の経常利益額が増加しているのに対して、当該地域からの日本側出資者向け支払額がそれほど伸びていないことが影響している。オセアニア地域については、鉱業の直接投資が多く、収益の多くが現地での再投資に向けられていることが一因と考えられる。
我が国経済が海外の成長を取り込むためには、非製造業の海外進出を促し、海外現地法人が現地で得た収益を国内に円滑に還流していくことが重要である。
(非製造業の海外進出における課題)
このように非製造業の海外進出は進展しているが、課題も指摘されている。
日本貿易振興機構(ジェトロ)実施のアンケート調査を見ると(第3-1-13図(1))、現地の「外資参入規制」や「出店等規制」、「事業展開における許認可等の事務手続」を課題として挙げている日本企業は、30%を超えている。
また、OECDのFDI制限指数によると、第三次産業の直接投資規制は、2003年から2012年の間に低下しているものの、製造業と比較して依然として高水準にあることが分かる(第3-1-13図(2))。特にインド、インドネシア等、今後日本企業にとって有望な市場において高水準となっている。
こうした参入規制や事業展開における許認可等の事務手続きは、非製造業の海外進出のコストやリスクを高め、その大きな障害となっている。今後、進出先の制度等の情報・ノウハウの共有をさらに進めることなどを通じて、日本企業が現地でニーズに合ったサービスを提供できるよう海外進出の障害を減じる取組を進めていくことが望まれる。