まとめ

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本章では、デフレや財政状況、財政収支と長期金利の関係などを議論した。2009年の物価動向は、原油価格高騰の反動など一時的に物価を押し下げている要素が強かったことなど、2001年頃のデフレ期とは異なっていた。また、当時はITバブル崩壊に伴う景気後退局面であり、国内的には不良債権の重石が残る状態でデフレスパイラルへの懸念が高まっていたのに対し、今回は持ち直し局面であり、金融システムの安定性も維持されているなど内外の景気局面も異なっている。人々のインフレ予想についても、低下基調にはあるものの、これまでのところ当時ほどは低下していない。しかし、リーマンショック後の大幅な需給ギャップが今後の継続的な物価下落圧力となる可能性は高く、人々の期待が変化すれば、デフレが長期化する懸念は払拭できない。さらに、更なる金利低下余地が限られる中、人々にいったんデフレ予想が定着すれば、実質金利の上昇などデフレの弊害が顕現化しやすい状況にある。人々のインフレ予想をこれ以上低下させないことが政策運営では重要になる。

財政については、特に日本の場合、景気の持ち直しによる受動的な財政改善には限界があり、意識的な財政再建努力が必要であることが示された。また、世界的に見て、財政収支と長期金利には長期的に負の相関関係、すなわち財政赤字の拡大は長期金利の上昇につながりやすい傾向があることが確認された。財政状況の悪化は、リスクプレミアムとして長期金利の上昇圧力になりかねない。経済財政運営に当たっては、長期金利への影響を従来以上に意識した政策運営が求められる。

金融資本市場については、日本の株価回復の相対的な鈍さが円高や金融機関の株式保有比率の高さと関連している可能性を指摘した。また、銀行の自己資本規制の強化等についての国際的な議論を背景に、金融機関は財務強化に取り組んでいるものの、短期的にはそれが株価の押下げ圧力になるなど、金融資本市場の変動の影響が景気を下押しするリスクを注視する必要がある。金融政策については、持ち直しテンポが緩やかな景気動向やデフレ状況にある物価動向を踏まえた試算によれば、低金利政策による下支えは相当程度の長期間にわたり必要であることが示唆された。

財政政策、金融政策いずれについても、細心の注意をもった政策対応が求められている。人々の期待形成に配慮しつつ、先を見据えた政策運営を行っていく必要がある。

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