まとめ
本章では、世界的な金融危機に伴う急速な景気悪化の後、我が国の景気が持ち直してきた姿を振り返った。
景気持ち直しのテンポをGDPの動きで見ると、過去の多くのパターンと同じ程度である。景気悪化が例のない速さであったので、結果として、景気が持ち直してきても経済活動水準が低い状態のままとなっている。企業部門のうち製造業については、急激な在庫調整の反動もあって、鉱工業生産や収益の改善テンポはやや速い。これに対し、非製造業の動きは、悪化局面、持ち直し局面とも相対的に緩やかである。家計部門では、雇用情勢の悪化にもかかわらず、経済対策の効果もあって個人消費の持ち直しの動きが続いている。ただし、住宅建設は依然として弱めの動きとなっている。
この間、景気をけん引してきたのは、世界景気の改善を受けた輸出の増加と、これまでの経済対策の効果である。また、2008年秋以降の交易条件の改善も民間需要を下支えしていると考えられる。我が国の景気悪化の発端となった輸出激減とその後の持ち直しでは、背景が異なることに注意が必要である。前者は自動車やIT製品の需要が激減し、輸出に占めるそれらの割合が高い日本が特に打撃を受けた。逆に、景気持ち直し局面では日本の輸出の伸びが比較的高めだが、これは需要をけん引している中国等の新興国・途上国への輸出依存度が高いことによる。また、世界各国が経済対策を実施したが、我が国の対策は2009年に効果が集中しており、雇用者報酬の減少にもかかわらず個人消費の刺激効果が比較的大きかった。
経済活動水準の低さは、GDPギャップのマイナス幅の大きさに表れている。企業の期待成長率も低下しており、設備投資や雇用行動が慎重化している背景となっている。特に、製造業の稼働率が低水準にあることは、設備投資の本格的な回復時期を遅らせる可能性がある。非製造業の投資による下支えに加え、製造業を中心にした研究開発や環境対策などを動機とした独立的な投資の動向が注目される。雇用についても、有効求人倍率が低く、製造業における過剰感が依然高い。ただし、生産活動水準との対比では調整圧力が低下しており、製造業でも雇用者数に増加の兆しが見られる。また、厳しい雇用情勢の下でも有効求人倍率が1を超える職種が存在し、ミスマッチへの対応が課題となっている。