第4章 識者の意見
クリスティーナ・アメージャン
一橋大学大学院商学研究科教授
「日本企業の生産性は低く、若者はキャリアプランを持っていない変わるべきは組織と社会」
日本企業の生産性はとても低く、グローバルな競争力は総じて低い。新しいことに取り組む企業は少なく、イノベーションが起こりづらくなっている。 日本企業の経営には専門性が乏しい。「暗黙知」は、現場のカイゼンに寄与する部分はあるが、企業経営に役立つものではない。企業経営に専門性が乏しいがために、暗黙知や飲みにケーションのようなものに頼っていると感じる。また、日本の組織では、非常にリーダーシップを発揮しづらいという面もある。何か新しいことに取り組もうとすると、上からも下からも横やりが入り、とっても大変な思いをして、やがて新しいことにチャレンジしなくなってしまう。女性の登用に関しては「女性社員は管理職になりたがらない」など、そのモチベーションを問題視する意見を耳にするが、これも組織の問題である。このような特徴を有する日本の大企業では、若い人はみんなやる気を失ってしまうのではないかと心配している。
現在の日本企業を評価する場合は、20年前の日本企業と比較するのではなく、現在の外国企業を比較対象とするべき。日本企業は、成果主義や自己評価などを導入して徐々に変わりつつあるが、大きくは変わっていない。いまだに、仕事のOutputよりもInput、つまりどれだけ頑張ったかを評価する風潮がある。以上のような特徴を背景として、生産性が低いということが、日本企業の最も重大な問題だと考えている。
日本の高校生、大学生には、将来のキャリアプランを持ってもらいたい。外国の学生はいつどの様な職種を経験して、その後どういったキャリアを積みたいかといったプランを持っていることが多いが、日本の学生はそうでないことが多い。この原因の一つに、自分のキャリアは組織の上の者によってコントロールされてしまうために、考えない方が幸せであるという意識があるように思う。日本の若者には、自分がどのような人生を歩みたいか、いかにして社会に貢献するかということを、しっかり考えていてほしい。
女子学生については、例えばアメリカの女子学生は今後の自分の人生において、仕事や家庭、出産などに関してどの様な課題やチャレンジがあるのかを強く意識しており、それらに対するはっきりした自分の考えを持っている。しかし、日本の女子学生にはそういったことに対する意識、関心がほとんどないために、十分な知識もない。しかし、子どもを持ちたいと思う女性はかなり多いと思う。生まれてくる子どもの数を増やすためには、子どもを持つことがハンデにならない、子どもを産んでもよい環境をつくることが何よりも重要。例えばフランスでは、子どもがいてもストレスなく仕事を続けることができ、5人くらいの子どもがいてもハンデにならない。また、子どもを持つことに関して、母親だけでなく両親のための教育がある。
昨今は、アベノミクスや円安、原油安といったことを背景として、経済が上向いている傾向があることに加え、2020年東京オリンピック・パラリンピックといった明るい話題もある。しかし、この好況がいつまでも続くと安心して新しいことにチャレンジしなくなると、日本の成長が止まってしまうと強く危惧している。
しかし、日本には、良いところがたくさんある。日本人は優しく平和的で、まじめで一生懸命であるし、東京の街は暮らしやすく治安も良い。日本には世界のRole Modelになってもらいたいし、世界にJapanese Modelを広めることができれば良いと思う。日本には、世界のためにぜひ頑張ってほしい。