第3章 人口・経済・地域社会をめぐる現状と課題
第2節 経済をめぐる現状と課題
Q12 今の豊かさは将来も続けられますか。
A12
●経済成長の実力(潜在成長率)
日本の潜在成長率は、<図表3-2-12-1>のとおり低下傾向にあり、今の傾向が続くならば将来は1%を下回る成長率が定着せざるを得ないと考えられる。経済成長の要因を労働投入、資本投入とTFP(全要素生産性)の寄与度に分けて分析するのが成長会計であるが、潜在成長率低下の要因を成長会計に従い3つに分解すると、2001年から2010年の潜在成長率に対する労働投入の寄与度はマイナス(▲0.3%)であり、資本投入の寄与度、TFPの寄与度も低い伸びにとどまっている(それぞれ+0.5%、+0.6%)。
近年、経済成長の実力が低下している主な理由としては、1980~1990年代に土地をはじめとする資産価格の高騰・急騰を経験したこと、その後モノの価格が上昇しない「デフレ」が続くようになり経済・金融全体が停滞気味になったこと、2000年代頃から新興経済との競争が厳しさを増したこと、2000年代後半以降交易条件の悪化によって海外への所得移転が続いたことなどがあげられる。
ただし、最近ではこれら課題への対応が進んできていることや、2020年開催の東京五輪に向けた投資や海外からの人の往来が増していることなどによって、若干景気は上向くようになっている。このため需要の不足(潜在成長率と実際の成長率の差をGDPギャップという。下図参照。)が解消されつつあり、これを契機として潜在成長率が上向くことが期待される。
●これまでの経済成長
<図表3-2-12-3>は、1970~2009年までの40年間について、西暦の各10年代ごとに、一人当たりGDPの初期水準とその後の平均成長率の関係を表したものである。
主要国の一人当たり実質GDPの初期水準(1970、1980、1990、2000年)とその後の10年間の平均成長率の関係は傾向線(上図の黒い斜線)で示されているが、日本は近年、この傾向線から下方に位置しており、本来達成すべき伸び率が達成できていない。このことから、現在の日本の生産性(TFP)は、目指すべき成長・発展の経路に対して、上昇力が弱く、下方に離れた経路上にあるといえる。
また、日本の1970年代~2000年代にかけての傾向線(上図中の黒い点を結んだ線)は、主要国全体としての傾向線と比べ傾きが急である。これは、日本が改革を進めずに主要国の傾向線に回帰しない場合には、成長率が一段と低下する可能性があることを示唆している。こうした日本の傾向線を主要国全体の傾向線に回帰させていくような、大きな改革努力が必要であることを意味していると言える。
●生産性の向上のための改革
生産性を向上させていくためには、イノベーションを通じて、経済全体の効率性を高めていくことが重要である。イノベーションは単なる技術革新だけでなく、新しいビジネスモデルの構築や社会経済の変革をも含む幅広い範囲での創意工夫であるととらえられる。
現在の生産性は目指すべき成長・発展の経路に対して上昇力が弱く、下方に離れた経路上にある。この状況を突破するために、2020年代初頭までに集中的な改革を行い、その上昇力(傾き)を高めるとともに、新たな経路へ移行する必要がある。そうした成長・発展の力は、つまるところ一人ひとりの「人」の力から生み出される。「人」を育て、その多様性を活かし、大切にしていくことができるかどうか、必要な改革の焦点はそこにあるといえる。