第4節 ベンチャー企業をめぐる環境
いわゆるベンチャー企業やそれらに資金を提供するベンチャーキャピタルは,規模という観点からみれば,活動が活発なアメリカにおいても産業全体の中のごく一部を占めるに過ぎないが,新規産業分野における活発な創業活動や急速な企業成長を生み出す存在である。しかし,我が国ではこうした活動がかならずしも活発ではないと考えられるため,その要因を分析し,対応策について考察してみよう。
1 ベンチャー企業の役割
(ベンチャー企業の持つ影響力)
ベンチャー企業については必ずしも明確な定義があるわけではない。しがし,ここではアメリカのベンチャーキャピタルの投資対象となるような「極めて高い成長を達成する可能性を有するものの,その実現には不確実な要素が多く,事業に失敗する可能性も高い企業」をベンチャー企業と位置付け(1),その果たす役割について考えてみる。
こうした意味でのベンチャー企業がその属する産業や経済全体の生産や雇用に与えるの影響力を考える場合,現時点の影響力のみを考えることでは不十分である。成長の実現が不確実な創業期,中小企業期よりも,むしろ「高い成長を実現して不確実性を減少させ,ベンチャー企業時代を卒業後,引き続き高い成長を続けている段階」での影響力について考えることが必要であろう(2)。したがって,ここでは,まず,アメリカにおいてベンチャーキャピタルの中心的な投資先となっている産業分野において,近年に上場・公開し,急激に成長している企業が持つ影響について考えてみたい。
(ベンチャー企業の必要性)
急速に成長し,アメリカの好景気を支えているといわれる産業分野(ソフトウェア,情報通信など)に関しては,「当該産業全体の成長率は高いが,個々の企業の成長率の分散は他の産業と比較して大きい(ハイリスク・ハイリターン)」という特性がある(第3-4-1図)。これは,こうした産業においては,①製品コストのうち,研究開発費やマーケティング費用の占める割合が大きい反面,生産工程にかかるコストが比較的小さいこと,②生産面のみならず需要面でもネットワーク外部性などが働くため,規模に関して収穫逓増のメカニズムが働き,デファクトスタンダードを確立できた企業は大きなシェアをとること,③製品のサイクルが短く価格低下のスピードが速いためデファクトスタンダードを長期にわたって確立し続けることは困難なこと,といった特徴があるためと考えられる。
また,こうした事業分野では,短期間に急成長を遂げる製品,サービスが多いが,そうした成功を比較的小規模な新しい企業が担うケースも数多くみられる。この理由としては,①技術の進歩が早く,革新的な製品・サービスが数多く生じており,既存の大企業が全ての技術・製品の萌芽に対応できないこと,②意思決定に時間がかかる大企業よりも,小規模な企業の方が容易にアイデアを製品に結び付けることができること,③生産物がアイデア重視の知識集約型であり,比較的少ない資本で多くの生産物を生み出せる場合が多く,また,生産工程に資本設備や労働力が大量に必要な場合でも,そうした工程を外注することが従来以上に容易になっていること,などが考えられる。
したがって,こうした産業分野の高い成長を促すためには,ベンチャー企業が生まれ易く,また,速やかに成長できる環境の整備が必要となる。例えば,アメリカのベンチャーキャピタルの代表的な投資先業種である情報サービス産業についてみると,97年時点において日本,アメリカともに上場・公開企業の売上高の約4割が91年以降に上場・公開した企業によって占められており(3),その発展はベンチャー企業の力を抜きにしては考えられない。しかし,日本の情報サービス産業の雇用の伸びは必ずしも高くなく(4),統計によっては91年から96年の間に雇用者数が減少しているものもある(5)。他方,アメリカにおいては,コンビュータ及びデータ処理サービス業は,SIC業種分類の3桁業種ベースで97年における増加雇用者数,伸び率とも最も高い産業となっている(第3-4-2表)。これは,こうした産業に属する企業を速やかに成長させる仕組みが,日本よりアメリカにおいてうまく働いていることを示唆している。
また,成功し,急激に成長しているベンチャー企業は,同一産業内の既存企業に比較して労働生産性が高いのみならず,製品の高機能化,低価格化においても成功している場合が多い。こうした動きは,市場での競争を通じ,既存企業の活動の効率化にも寄与する。この結果,既存企業も含めて成長が促進され,その効果は他の産業にも及び,他の産業の雇用をも増加させる。アメリカでは,GDPの伸びに寄与している業種と,雇用の伸びに寄与している業種が異なり,産業全体では雇用が増加している(第3-4-3図)。ベンチャー企業の活動は,こうした現象をもたらす要因の一つとなっていると考えられる。
2 ベンチャー企業の創出・成長のためのアプローチ
(ベンチャー企業の特色)
ベンチャー企業が創出され,成長していく上で重要なポイントは,企業の構成要素の流動性であると考えられる。ここで言う流動性とは,生産要素,所有形態,経営,生産形態,財務構造といった企業の構成要素が全て流動的で,企業の成長ステージに応じて最適な組合わせが素早く選択されるということである。急速に成長するベンチャー企業は,次々に新しい経営資源を必要とする。
例えば,資本については,創業期にはリスクに対する耐性の高い資金が必要であるが,それ程大きな金額を必要としない場合が多い。他方,成長期,あるいは「ベンチャー」を卒業した時期には,創業期に比べればリスク耐性の高い資金の重要性が低下する一方,より多額の資金を集めることが重要となる。
また,特に創業期のベンチャー企業は,事業に失敗してしまう可能性が極めて大きい。こうした企業に対して必要な経営資源が円滑に供給されるためには,各関係者がリスクに見合った収益を期待できるシステムが構築されていると共に,リスクが顕在化した場合に発生するコストが最小化されている必要がある。
こうした観点から,ベンチャー企業を支えるシステムについて,日米の現状を比較しつつ考察してみよう。
(資金供給)
① 銀行による融資
高い成長可能性を有するものの,事業が失敗する可能性も高いベンチャー企業にとって,元本の保全が要求され,金利を支払うために安定した収益を上げることを要求される銀行借入によって資金調達を行うことは大きなストレスとなる。仮に借入金で調達したとすれば,企業は,リスクの大きい事業ではなく,より確実な収益を上げられる事業に経営資源をシフトし,結果として潜在的に有していた高い成長可能性の実現が阻害される可能性がある。特に,借入金にいわゆる代表者個人保証が付けられている場合は,事業が失敗した場合に企業家に大きなコストが発生するため,企業家をリスク回避的にする可能性が高まると考えられる。
こうした問題を回避するためには,銀行サイドが,貸付けた資金がリスクの高い事業に投入されることを積極的に容認する必要がある。しかし,この場合,貸倒れリスクは高く,モニタリングコストも大きくなる。このため,無担保の場合は極めて金利が高くなるなど,通常の銀行の融資体系からみれば異質のものとなる可能性が強い(6)。
ただし,銀行が高リスクの貸付を低金利で行うことと引き換えに,将来,事業が成功して企業が成長し,大きな資金需要が生じた場合に,銀行に有利な金利で独占的に貸付を行う暗黙の契約が存在すると仮定すれば,こうした融資行動も合理的であるという考え方も成り立つ。従来の日本のように,企業と銀行の間で長期継続的取引関係を前提としたメインバンクシステムが機能している場合は,こうした仮定が成立するケースが多かったと考えられる。しかし,近年,いわゆる各行横並びの金利体系が崩れつつあることや,一定の水準以上の規模及び財務体質を有する企業に対しては直接金融市場が整備されていること,さらには期待成長率が低下していることなどを併せて考慮すれば,リスクの大きい貸付を行うことによって銀行が将来に得ることのできるリターンは従来に比べて縮小し,銀行が取ることのできるリスクの量も縮小していると考えられる。
このように,創業期のベンチャー企業に対しては,貸付という手段ではリスクに見合った収益を期待することが難しくなりつつあることから,成功報酬的な側面を持つ株式を通じた資金供給ルートを充実していく必要があると考えられる。
② ベンチャーキャピタル
ベンチャー企業に対して株式による資金供給を行う主体としては,いわゆるエンジェルやベンチャーキャピタル(7)などが存在し,特にアメリカではこうした者の活発な活動がベンチャー企業の創出・成長を支えている。ここでは,日本とアメリカのベンチャーキャピタルの現状について比較してみよう(第3-4-4図)。まず,投資残高と投資金額を比較すると,97年時点では,日本は投資残高(ストック)でアメリカの18%,投資金額(フロー)で16%程度8に止まっている。しかし,①アメリカのGDPが日本の約2倍であること,②年間投資金額の差は過去に遡ると大幅に縮小すること,③現在のアメリカ経済に影響を与えているような企業に対する投資は過去の時点でなされたものであること,④アメリカにおいてもベンチャーキャピタルが集める資金量はマクロ的に見れば必ずしも大きな量ではないこと9,などを勘案すると,日本とアメリ力のベンチャーキャピタルの差を資金量という面のみからとらえることは適切ではなく,両者の差はベンチャー企業を育成するノウハウの面において大きいと考えることが適当であろう。
次に,日米のベンチャーキャピタルの投資行動の差異を見てみよう。まず,日本のベンチャーキャピタルの97年度における投資回数は4,457回であり,うち,新規の投資先は2,547社である。他方,アメリカの97年の投資回数は2,672回であり,新規の投資先は1,296社である(第3-4-5図)。これは,投資金額が多く,かつ,起業活動が盛んで投資先候補が多いアメリカの方が,日本よりも投資先数を絞っていることを示している。この結果,投資一回当たりの金額は,アメリカの約490万ドルに対して日本は約4,500万円と極めて大きな差が生じている。アメリカのベンチャーキャピタルは複数回に分けて投資を行うことが多いことを勘案すれば,一企業当たりの投資金額の差は一層大きくなる可能性が高い。すなわち,アメリカのベンチャーキャピタルが投資先企業を厳しく選別するとともに,有望な企業に対しては積極的な関与を行って投資リスクの低下を図っているのに対し,日本のベンチャーキャピタルは投資先を多数の企業に分散させ,関与の程度も低いことがよみとれる。
ベンチャー企業の事業リスクが高い要因としては,当該企業の製品に関する市場規模,競争能力,企業家の能力等が未知であり,成長のために必要な人材が企業内部に存在しないことが大きいと考えられる。したがって,こうした企業への投資を成功させるためには,経営指導や,必要な人材のスカウト,適当な取引先の紹介など,投資先企業に欠けている経営資源を補完することが必要となる。このため,ベンチャーキャピタルには,企業に対する資金供給者となるだけではなく,企業家と対等以上の共同経営者として企業経営に参画することが求められる。アメリカのベンチャーキャピタルはこうしたコストのかかる手法を用いることにより,投資先のリスクを速やかに低下させてIPO(10)やM&Aに結び付けて高いキャピタルゲインを獲得し,高いコストに見合った収益率を確保するとともに,企業家サイドのモラルハザードの発生を回避していると考えられる。
このように,日本の従来型のベンチャーキャピタルの投資手法は,特に創業期のベンチャー企業に対して有効とは言いにくい。実際,ベンチャーキャピタルの投資先業種を比較すると,アメリカがハイテク事業分野中心なのに対し,日本は小売業,その他サービス業など非ハイテク事業分野が中心であり(第3-4-6図),投資先企業の企業年齢についても日本の方が高い11。これは,日本のベンチャーキャピタルが創業期のベンチャー企業,とりわけ新市場を開拓するような企業に対する投資に消極的であることを示唆している。
日本のベンチャーキャピタルがこうした投資行動を採る要因の一つとしては,その多くが金融機関の子会社であり,実際に業務を行う者も親会社からの出向者が多く,投資先に長期的・積極的な関与をしにくかったことが挙げられる。また,ベンチャーキャピタルの組織するファンドの出資者の内訳を見ても,日本は投資原資のかなりの部分が銀行によって占められており,アメリカが年金基金など長期間の運用を前提とする投資家の比率が高いことと対照的である(12)。
近年,日本においても,ベンチャーキャピタルの活動に係る法制度の整備が進み(13),今後,資金的,制度的な面がらの制約は一層緩やがになると考えられるが,こうした改革の効果を十分に発揮してベンチャー企業の活動の活発化に結び付けるためには,ベンチャーキャピタル自身の投資能力の改善と,それを厳しく監視・要求する投資家の姿勢が不可欠であると考えられる(14)。
③ 店頭公開市場(15)
成長を続けているベンチャー企業にとって,IPOとは,企業規模の拡大に不可欠なよりコストの低い資金へのアクセスが可能となったことを意味する。したがって,産業全体に大きな影響を与えていくようなベンチャー企業は,IPO以前のみならずIPO以降に大きな成長を実現すると考えられる。一方,こうした企業の存在により,投資家は高い収益率を実現することが可能となり,公開企業に対する投資を更に増加させるインセンティブが働く。こうした循環が適切に働く場合,市場に投資される資金は増加し,公開企業の資金調達が一層容易となり,企業の成長が促進されることとなる(16)。
このような観点を踏まえて日本の店頭市場とNASDAQを比較してみよう(第3-4-7図)。まず,IPO直後の企業の資産規模を比較すると,日本の店頭市場とNASDAQではあまり差がないが,売上高,利益は日本の店頭市場の方が大きい。しかし,日本の店頭市場では,公開企業全体の資産,売上高,利益の規模はIPO直後のものと比べそれほど変化していないのに対し,NASーDAQでは公開後に大きく成長している。これらは,日本の店頭市場が,成長期の企業が資金調達を行う市場としての性格よりも,成長後の企業の株式を流通させるための市場,あるいは証券取引所へ上場するための足がかりの市場としての性格が強いことを示唆している。他方,NASDAQにおいては,「成長する企業」の多さが投資家にとっての大きな魅力となり,売買の注文を増加させ(17),これがマーケットメーカー制度(18)の円滑な運営にも大きく寄与していると考えられる。
日本の店頭市場に「成長する企業」が少ない原因として,アメリカに比べてベンチャー企業が少ないことの他,企業の株式公開を引き受ける証券会社の企業評価が,アメリカに比べて保守的なことが挙げられる。日本の店頭市場とNASDAQのIPO時点での企業年齢を比較すると,NASDAQの方が大幅に低く(19),また,IPO時点の売上高,利益などもNASDAQの方が小さいことは,こうした可能性が高いことを示唆している(20)。日本の店頭市場がベンチャー企業の資金調達の場として機能するためには,引受け証券会社が,より早い段階で企業のリスクと将来性を的確に勘案して企業価値を判断し,株式の公開を進めるためのノウハウを備える必要がある。また,こうした判断が可能となれば,早期に投資先企業のIPOが見込めるため,ベンチャーキャピタルが創業期のベンチャー企業に対する投資を増加させる強いインセンティブになると考えられる。
ただし,「公開後に成長する企業が多い」ということは,企業価値が不安定な段階で株式公開を行うということでもある。アメリカの上場・公開企業の売上の伸び並びに標準偏差の双方が日本よりも大幅に高いことから推察されるとおり,これは公開後に企業の業績が大幅に変動するリスクを伴う(前掲第3‐4-1図)。NASDAQは,日本の店頭市場と比較して,新規登録企業数も多いが登録廃止企業数がそれ以上に多い(第3-4-8図)。したがって,NASDAQ公開企業への投資はリスクを伴っており,株式保有シェアも個人投資家よりもポートフォリオ管理が可能な機関投資家の方が多い。今後,より成長可能性の高い企業の株式を公開していくためには,公開企業の情報開示の透明性を高めて投資家が投資先企業のリスクと成長可能性について適切な判断を行えるようにするとともに,投資家自身がリスク対応能力を高め,自己責任原則に基づいて投資判断を行っていくことが求められる。
(人材)
起業活動が極めて盛んなアメリカにおいてさえベンチャーキャピタルは投資先を相当程度絞っていることを勘案すれば,有望なベンチャー企業を創業し得る企業家は必ずしも多くは存在しないと考えられる。したがって,こうした者が埋もれることなく,より多く積極的に起業活動に向かうような環境を設けることが重要となる。この場合,成功した場合のリターンの大きさのみならず,前述のように失敗した場合の企業家の負担の大きさが問題となる。
また,企業家は失敗から極めて多くのことを学ぶことができる。したがって,能力が同じであるならば,1回目よりも2回目の方が事業に成功する確率は高くなる。このため,失敗した企業家の再チャレンジが可能であるか否かは,ベンチャー企業の成功確率を高める上で極めて重要な要素となる。こうした観点からは,事業が失敗した場合に,その失敗の中味を分析した上で,企業家が再出発することを支援するような意識が投資家に対し求められるとともに,一層高度なリスク管理能力が求められる(21)。
また,ベンチャー企業が速やかな成長を実現するためには,必要な人材を企業外から調達する必要がある。他方,ベンチャー企業は事業に失敗するリスクが大きいため,こうした役員や従業員についても,企業家と同様,リスクに応じた報酬を得ることが可能で,同時に事業が失敗した場合に払うコストを小さくするシステムが必要となる。このためには,①ストックオプションなど,役員や従業員がリスクに応じた高い収益機会を得る報酬形態の導入,②転職者に不利にならない中立的な年金制度,③特定の企業と結び付かなくてもキャリアを向上させられるような人材市場の整備,④大学在籍の研究者が身分を維持したまま民間企業の事業へ参画する道の拡大,といった環境の整備が必要である。
このうち,ストックオプションについては97年5月に一般的に導入されており,今後,ベンチャー企業の人材獲得に大きな役割を果たしていくことと期待される。また,企業年金制度改革については,いわゆる401kプランの導入など労働移動に対して中立的な制度整備を早急に行うことが必要であろう。
3 ベンチャー企業の活発化のために
以上述べてきたように,ベンチャー企業の活動を盛んにする上では,投資家や企業家が高い成長を目指すことに伴うリスクを認めた上で,リスクが顕在化した場合のコストを最小化し,それを適切に分散してシェアする組合せを確立することが重要である。こうした観点からは,エンジェル,ベンチャーキャピタル,NASDAQ,転職が不利にならない人材市場,機関投資家,さらにはこれらの活動を円滑化している公認会計士や弁護士,企業アナリストなどの存在,といったアメリカのベンチャー企業を成長させるシステムについて,制度のみならず,実際の投資活動,事業活動,市場運営のノウハウまで含めて,十分な研究と我が国経済への応用を図ることが必要である。
また,リスクが顕在化した場合に埋没するコストを下げるためには,企業を構成する様々な要素が市場において評価され,高い流動性が確保されていることが重要となる。政策面でも,こうした流動化にとっての障害を取り除いていくことが,ベンチャー企業の活動を活発化する上で重要となると考えられる。
「リスクのコントロール」という考え方は,ベンチャー企業のみならず,般的な企業活動,投資活動についても当てはまる。現在議論されている倒産関連法制の見なおしに関しても,「事業の失敗」が従来に比べ起きやすくなっている中で,失敗の際の負担への心配から起業活動が低迷し,結果として社会全体の効用が低下している可能性がある,という点を念頭におきつつ検討を行う必要があろう(22)。最大限の努力をした者であっても失敗し得るということを社会全体が認識し,再挑戦の機会を獲得できるようにすることが,今後一層重要となると考えられる。