第2章 人手不足による成長制約を乗り越えるための課題 第3節
第3節 我が国における外国人労働者の現状と課題
我が国で働く外国人労働者数は増加傾向で推移し、2023年10月末時点で、我が国の外国人労働者数は約205万人38と過去最高を更新し、全雇用者の約3.4%を占めるまでにプレゼンスが高まっている。現在、製造業・非製造業ともに企業の人手不足感が歴史的に高い状態にあり、少子高齢化に伴う労働力人口の下押し圧力が続く中にあっては、今後も労働市場における外国人労働者の重要性は高まりこそすれ、低下することはないと見込まれる。他方で、一般論として、外国人労働者数の増加が、経済全体の賃金水準の低下等につながるのではないかとの懸念の声もある。本節では、我が国における外国人労働者の雇用動向や外国人労働者受入れに関する制度を概観した後、外国人労働者と日本人労働者の賃金差、その背景にある要因について分析を行い、政策的な課題を展望する。
1 外国人労働者の雇用動向と受入れ制度の変遷
ここでは、まず、我が国における外国人労働者数増加の推移とその内訳を確認した後、現在、外国人労働者がどういった産業・地域において雇用されているのかを明らかにする。また、外国人労働者数が増加する中における、政府の外国人労働者受入れ制度整備の変遷について概観する。
(外国人労働者数は一貫して増加傾向にある)
まず、外国人労働者数の推移について確認すると、基本的には一貫して増加傾向で推移しており、特に2010年代半ば以降はその伸びが顕著になっている(第2-3-1図)。ただし、2011~2012年、2020~2021年の外国人労働者数はほぼ横ばいとなっており、2011年3月の東日本大震災や2020年以降の新型コロナウイルス感染拡大が影響していた。
現在、我が国で就労している外国人労働者の国籍をみると、多い順から、ベトナム、中国、フィリピン、ネパール、ブラジルとなっており、全体の半数近くを東南アジア国籍の労働者が占めている(第2-3-2図(1))。また、在留資格別には、「専門的・技術的分野の在留資格(特定技能以外)39」が最も多く、次いで、「技能実習」、「永住者」、「留学」、「身分に基づく在留(永住者以外)40」となっている(第2-3-2図(2))。
外国人労働者数の伸びが顕著になった2010年代半ば以降、どのような外国人労働者が増加しているかについてみると、国籍別では、ベトナムやフィリピンといった東南アジアからの労働者が全体の伸びの半数弱を占めており(第2-3-3図(1))、在留資格別では、「専門的・技術的分野の在留資格(特定技能以外)」の労働者の伸びが最も高く、次いで、「技能実習」、「永住者」という順になっている(第2-3-3図(2))。
(外国人労働者の就労する産業や地域には偏りがある)
次に、どういった産業・地域において、外国人労働者が就労しているかを確認する。
まず、産業別では、製造業の方が、非製造業に比べて外国人労働者割合が高く、特に食料品製造業や繊維工業、輸送用機械器具製造業などで高くなっている(第2-3-4図)。ただし、非製造業の中でも、飲食業と宿泊業については、製造業全体の水準よりも外国人労働者が高くなっている。
次に、都道府県別に外国人労働者割合をみると、東京都の高さが際立つが、北関東(茨城、栃木、群馬)や東海地方(愛知、静岡、岐阜、三重)も他地域と比較して、幾分高い水準にあり、これら3つの地域で外国人労働者全体の半数以上を占めている(第2-3-5図)。また、北関東や東海地方では、製造業で働く外国人労働者が全体のおよそ4~5割を占めている一方で、東京都や大阪府といった人口の多い地域では、製造業の割合は低く、代わりに卸売・小売や教育、飲食・宿泊、情報通信といった産業の割合が高くなっており、多様な産業で外国人労働者が雇用されていることが分かる。
このように、我が国の外国人労働者が就労している産業・地域を確認すると、産業別では、日本人労働者と比べると、一部製造業や飲食・宿泊サービス業に従事する外国人労働者が多く、地域別では、東京都だけでなく、北関東や東海地方で就労する外国人労働者が多いなど、偏りがあることが分かる。
(外国人労働者受入れ制度は徐々に拡大されてきた)
少子高齢化や企業の人手不足を背景に、我が国で働く外国人労働者が増加する中、政府は、外国人労働者受入れに関する制度改正を行ってきた。ここでは、我が国の外国人労働者受入れに関する制度の変遷を概観する(第2-3-6図)。
1980年代後半から1990年代前半にかけて、経済社会の国際化が進む中、バブル下における企業の人手不足感の高まりや円高の進行、近隣アジア諸国との経済格差の広がりによる国境を超えた労働移動のメリットの拡大などを背景に、外国人労働者が増加していた(内閣府政策統括官(経済財政分析担当)(2019))。こうした中、政府は、1989年に出入国管理及び難民認定法41(以下「入管法」という。)を改正し、「人文知識・国際業務」や「定住者」といった在留資格を創設することにより、専門的な技術や技能を持つ外国人労働者や日系ブラジル人・日系ペルー人といった日系人等を対象とした制度の整備を行った。また、1993年には、研修により、一定水準以上の技能を習得した外国人が、研修終了後、より実践的に技能習得が可能となる技能実習制度が開始された。
その後、日本の経済成長等に貢献することが期待される高度な能力や資質を持つ外国人の受入れを推進するため、2012年には「高度人材ポイント制42」の運用が開始され、2014年の入管法改正では、新たに在留資格「高度専門職43」が導入された。また、2014年の入管法改正では、同時に、在留資格「投資・経営」から「経営・管理」への変更や在留資格「技術」と「人文知識・国際業務」の一本化など、専門的な技術や技能を持つ外国人労働者の受入れ体制の整備も行われた。
さらに、労働需給がひっ迫化する中、中小・小規模事業者を中心に、深刻な人手不足が生じていたことから、2018年の入管法改正によって、新たに「特定技能44」の在留資格が創設された。この制度改正により、技能実習2号を良好に修了した者については、原則として、技能実習の職種・作業にかかわらず日本語試験が免除され、さらに、従事しようとする業務と技能実習2号の職種・作業に関連性が認められる場合には技能試験も免除された上で、在留資格を「特定技能1号」へと切り替えることができるようになり、より長期の在留が可能となった。
このように、外国人労働者受入れに関する制度は、時々の経済情勢等に合わせて改正されてきた。直近でも、技能実習制度について、その制度目的と運用実態のかい離や対象となる職種等が特定技能制度における特定産業分野と必ずしも一致していないなどの問題45が指摘されていることから、技能実習制度に代えて、新たに「育成就労制度」を創設することを盛り込んだ入管法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律46(以下「技能実習法」という。)の改正法案が国会に提出され、本年6月14日に成立したところである。
2 外国人労働者の賃金水準の実態
前項では、現在までの我が国の外国人労働者雇用の動向と外国人労働者受入れ制度の変遷について確認した。ここでは、我が国で雇用されている外国人労働者の属性について整理した上で、日本人労働者と外国人労働者の賃金水準を比較し、両者の間に賃金格差は確認されるのか、その要因はどういったものが考えられるのかについて考察する。
(外国人労働者は年齢が低く、勤続年数が短いなど、日本人と属性が大きく異なる)
増加を続ける外国人労働者の賃金水準と日本人労働者の賃金水準の比較を行うに先立って、外国人労働者の年齢や勤続年数、学歴といった基本属性について確認する。
まず、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」の調査票情報を用い、年齢の分布を確認すると、日本人労働者は、40代後半から50代前半が多くを占めている一方で、外国人労働者は20代に山があり、若年層に偏っていることが分かる(第2-3-7図)。在留資格別にみると、専門知識や技能を持つと考えられる比較的高技能な外国人労働者47や特定技能・技能実習の資格で働く外国人労働者の分布は、外国人労働者全体の分布と同様、若年層に大きく偏っている一方で、永住者や定住者など、身分に基づく在留資格で働く外国人労働者は、30~50代が多くを占めている。特に、永住者については、永住権取得に必要な資格を得ることに相応の時間がかかることもあって、40~50代が多く、若年層が少なくなっている。
次に、勤続年数の分布をみると、先に確認したように、外国人労働者の方が、年齢が低いこともあり、勤続年数の短い労働者が顕著に多くなっている(第2-3-8図)。在留資格別では、特定技能・技能実習、高技能外国人、永住者などの身分に基づく在留資格の順に勤続年数が長くなっており、年齢が高くなるとともに、勤続年数も長くなる傾向が見て取れる。
最後に、学歴について確認すると、日本人と外国人労働者全体を比較した場合には、顕著な差はみられない(第2-3-9図)。ただし、外国人労働者の中でも、在留資格別にみると、大きな差があり、高技能外国人は7割超が大学又は大学院を卒業している一方で、特定技能・技能実習は高校以下の学歴が約8割となっている。一方、身分に基づく在留資格については、日本人と学歴構成に顕著な差はみられない。
このように、日本人労働者と外国人労働者との間には、年齢や勤続年数に大きな差が存在しており、外国人労働者の方が若く、勤続年数が短い労働者が多いことが確認された。また、外国人労働者の間でも、在留資格別にみると差がみられ、高技能外国人や特定技能・技能実習は、年齢が若く、勤続年数が短い傾向が顕著であること、学歴については、高技能外国人と特定技能・技能実習の間に大きな差があることが分かる。
(日本人労働者と外国人労働者の賃金水準には、属性をコントロールしても差がある)
次に、日本人労働者と外国人労働者の賃金水準の分布を比較すると、時給換算で1,000円台前半で働く労働者が最頻値となっていることには変わりはないものの、外国人労働者の方が分布の山が高くなっており、日本人労働者と外国人労働者の賃金分布には差がみられる(第2-3-10図)。また、在留資格別にみると、特定技能・技能実習の在留資格を持つ外国人労働者は時給換算1,000円台前半で働いている割合が非常に高い一方で、高技能外国人労働者や身分に基づく在留資格を持つ外国人労働者については、分布が右方向にスライドしており、日本人と比べ、より高い賃金を得ている労働者も一定数存在しているなど、外国人労働者の中でも大きな差異があることが分かる。
このように、日本人労働者と外国人労働者との間には一定程度の賃金水準の差が存在しており、その差は外国人労働者の間においてもみられる。ただし、先に確認したように、外国人労働者が就労している産業や地域には、偏りがあることに加え、日本人労働者と外国人労働者、また、各在留資格の間には、年齢や勤続年数、学歴などの個人属性に差があるため、両者の賃金水準を比較するためには、こうした企業属性と個人属性をコントロールする必要がある。
このため、是川(2023)を参考に、個人属性(学歴、年齢、勤続年数、同職種の経験年数、性別、就業形態)と事業所属性の差異をコントロールした上で、日本人労働者と外国人労働者の賃金を比較した(第2-3-11図(1))。この結果によると、各種属性の差異をコントロールしなかった場合、日本人労働者と外国人労働者との間の賃金差は28.3%であるが、差異をコントロールした場合、その差は7.1%となる。この結果から、日本人労働者と外国人労働者との間にある賃金差のうち、約4分の3は、労働者個人の属性や勤め先の事業所の属性によって説明される一方で、それらでは説明されない部分が約4分の1残ることも明らかになった。
しかし、先に確認したとおり、外国人労働者間においても、在留資格ごとに年齢や学歴などに差がみられ、賃金水準も異なっている。そのため、外国人労働者を高技能外国人と特定技能、技能実習、永住者、その他身分に基づく在留の5つに分けて、日本人労働者との賃金差を確認した48。これによると、高技能外国人と特定技能、技能実習は、日本人と比べて賃金が低くなっている一方で、永住者やその他の身分に基づく在留資格の賃金は日本人の賃金と差がないことが確認された(第2-3-11図(2))。
こうした日本人労働者と外国人労働者との間の賃金差が、どのような職種で顕著にみられるのかを把握するため、サンプルサイズが大きく、比較的安定した結果が得られていると考えられる、専門的・技術的職業従事者と事務従事者、生産工程従事者について取り上げると、職種間においても、日本人労働者と外国人労働者との賃金差の関係には、違いがあることが分かった(第2-3-11図(3))49。具体的には、特定技能の中では、生産工程従事者において、日本人労働者よりも15%程度賃金が低いことが確認されたほか、技能実習の中では、今回取り上げたいずれの職種においても日本人労働者より20%弱から30%強ほど賃金が低くなっていることが分かる。また、高技能外国人についても、職種ごとに差はあるものの、日本人労働者よりも賃金が低いことが確認された。また、全サンプルを対象とした分析では日本人労働者と賃金差が確認されなかった永住者については、専門的・技術的職業従事者や事務従事者では日本人労働者よりも賃金が高い一方で、生産工程従事者では日本人労働者よりも賃金が低くなっており、永住者の中でも差があることが分かった。
(技能実習や特定技能の賃金には、転籍制限やスキルの移転制約が影響している可能性)
こうした分析の結果を踏まえ、在留資格別に、外国人労働者と日本人労働者との間に有意な賃金差がみられる背景について考察したい。
まず、高技能外国人について、その賃金が平均的にみて日本人よりも低くなる背景としては、高技能外国人のうち、日本在留歴の長い労働者は、永住資格を取得し、永住者のカテゴリーに移行している可能性が高いことが挙げられる。
就労資格を得て働いている外国人労働者のうち、在留期間など50の条件を満たす者は、永住権の取得が可能となる。就労資格で働く場合、日本で就くことができる職業は、就労資格において定められている範囲のものに限られるが、永住権を取得すれば、こうした制限は無くなるため、日本に長く在留し、条件を満たしている労働者にとっては、永住権を取得するメリットは大きい。そのため、今回の分析において、高技能外国人と分類している外国人労働者は、日本での在留歴が比較的短く、日本での就労経験や日本の企業文化への適応、日本語能力など、今回の分析では、データの制約上、コントロールしきれていない面で賃金に差が生じている可能性がある。
次に、特定技能や技能実習においては、多くの職種において、日本人労働者とは15%程度以上の賃金差があることが確認されたが、これには、橋本(2022)と是川(2023)において指摘されているように、技能実習における転籍制限や、特定技能におけるスキルの移転制約が影響している可能性がある51。
技能実習制度においては、技能実習2号から技能実習3号へ移行する場合を除き、原則として転籍が認められていない。橋本(2022)では、こうした制限により、労働者を自社にとどめておくため、高い賃金を支払うというメカニズムが働かず、独自の固定的な相場が形成されると指摘している。ただし、是川(2023)では、技能実習生を雇用する際、雇用主は、入国後講習に要する費用や送出機関に支払う費用など、様々な費用が必要となり、賃金の11~25%に相当するコストが上乗せされることから、技能実習生は、いわゆる「安い労働力」には当たらないとされており、その点には留意が必要である。
また、技能実習と違い、転籍制限が無いにもかかわらず、特定技能においても日本人労働者との賃金差が確認される理由について、是川(2023)では、技能実習2号及び3号を修了後、職場を変更せずに特定技能1号に移行した労働者に関しては、日本人との賃金格差は確認されなかったものの、職場を変更して特定技能1号に移行した労働者に関しては、知識やスキルが評価されないという「スキルの移転制約」に直面し、日本人よりも賃金水準が低下する可能性が指摘されている。実際、労働政策研究・研修機構(2023)では、自社での経験の長さなどを理由に、自社で技能実習を修了した特定技能労働者の賃金を、他社で技能実習を修了した特定技能労働者の賃金よりも高く設定している企業もあることをヒアリング調査によって明らかにしている。今回の分析に用いたサンプルでは、特定技能1号労働者の一定程度が他社からの転籍とみられ、日本人労働者と特定技能労働者の賃金差の背景には、こうしたスキルの移転制約も一因となっている可能性がある52。
(永住者の中でも、就労資格を得た者は、人的資本が蓄積されている可能性)
最後に、永住者の結果について考察する。永住者の中でも、職種によって賃金に差が生まれる背景には、一括りに永住者と言ってもその特徴は多種多様であることが挙げられる。
職種別に外国人就業者の国籍を確認すると、専門的・技術的職業従事者や事務従事者では、中国や韓国、アメリカといった国が上位を占めている一方で、生産工程従事者はベトナムやブラジル、フィリピンといった国が多くを占めている(第2-3-12図)。この中でも韓国やベトナムは特別永住者や特定技能・技能実習の資格で在留している者が多いため、永住者については、専門的・技術的職業従事者や事務従事者は中国やアメリカ国籍、生産工程従事者はブラジルやフィリピン国籍を持った労働者が多いことが推測される53。
その上で、外国人在留者が永住者の在留資格を取得するまでのルートについて考えると、その経路は多岐にわたるが、大きく分けると、<1>前述したように、「技術・人文知識・国際業務」などの就労資格を得た外国人が日本で永住許可を満たす年数就労し、永住権を得たケースと、<2>定住者などの身分に基づく在留資格を持つ外国人が永住権を得たケース、の2つが考えられる。永住者を除く在留資格全体に占める就労資格(特定技能・技能実習以外)の割合をみると、中国とアメリカについては30~40%となっている一方で、ブラジルとフィリピンではその割合は10%を切っており、代わりに身分に基づく在留資格の割合が非常に高くなっている(第2-3-13図)。こうしたことから、永住者の中でも、専門的・技術的職業従事者や事務従事者については、<1>のルートで、生産工程従事者については、<2>のルートで永住権を取得した外国人労働者が多い可能性がある。
ここで、<1>のルートで永住権を取得した外国人と<2>のルートで永住権を取得した外国人を比べると、前者の方が、就労資格取得の際に相応のスキルや能力を有していることを求められる上に、永住権を取得の条件を満たす年数、日本で滞在・就労していることから、後者に比べて、日本の労働市場でより高く評価される人的資本が蓄積されており、高い賃金を得ている可能性がある。例えば、学歴を比較すると、専門的・技術的職業従事者については、日本人労働者の大学卒・大学院卒業者の割合は約50%なのに対し、永住者の大学卒・大学院卒業者の割合は90%を超えており、日本人労働者と比べても高い人的資本を備えていることが示唆される。一方、生産工程従事者については、日本人労働者の中学卒業者割合が約4%に対して、永住者の中学卒業者割合は約13%となっており、日本人労働者以上の知識・技能を備えているとは必ずしも言えない可能性がある(第2-3-14図)。
(高スキルの外国人労働者の定着支援が重要)
ここまでの分析からは、<1>日本人労働者と外国人労働者の間には、単純な比較では28%程度の賃金格差があるものの、その4分の3は、事業所の業種や規模、本人の年齢や勤続年数、学歴など属性の違いで説明されること、<2>一方で、4分の1の7%程度の賃金格差は、個人や事業所の属性を統計上可能な範囲でコントロールしても説明できないことや、<3>さらに、こうして残された賃金格差の背景は、外国人労働者の在留資格や職種により異なること等がわかった。例えば、特定技能外国人については、職場を変更した場合、知識やスキルが評価されない「スキルの移転制約」が賃金水準に影響している可能性や、高技能外国人の中には、日本での在留歴が比較的短く、日本語能力や企業文化への適応等の面で相対的に低い賃金水準に置かれている場合がある可能性が示唆された。
歴史的な人手不足感の高まりに直面する我が国において、これを緩和する観点から、国際的な人材獲得競争の中で、引き続き外国人を惹きつけ、労働力として活躍してもらうことを可能とするためには、合理性のない賃金格差を生み出すような制度や慣習を見直していくことが必要である。また、専門的・技術的職業に従事する永住者のように、高いスキルや技能を持っている労働者を受け入れたうえで、そうした労働者により長く、我が国で働いてもらうことが重要である。例えば、万城目(2024)では、日本語能力が高い労働者ほど、仕事への満足度が高いという関係性を示した上で、受け入れた外国人労働者の仕事と生活の満足感を高めるためには、日本語学習や日本語教育をいかに効果的に行うかが重要と指摘されており、外国人労働者の定着を図るためには、日本企業の海外人材獲得を支援するとともに、言語の面での障壁を下げるよう、各種手続の多言語化や「やさしい日本語54」の活用を推進し、日常生活における支障を取り除くことで、高スキルを持つ労働者を我が国に呼び込み、定着させることが重要と言える。また、佐藤(2022)では、2019年に「技術・人文知識・国際業務」の就労資格を取得した外国人の32%、「医療」の就労資格を取得した外国人の47%が、国内の学校での留学から在留資格を切り替えた者であると指摘されているとおり、留学生は高技能外国人の重要な供給源となっている。そのため、国内大学への留学促進や、留学生の日本での就職支援など、海外学生の呼び込み、定着支援といった取組も重要であろう。
最後に、外国人労働者の受入れに当たっては、単なる労働力としてではなく、日本社会、地域社会を構成する一員として受け入れ、日本人と外国人が互いに尊重し、安全・安心に暮らせる共生社会を実現していくことが重要である。日本人と外国人の共生社会の実現のためには、外国人に対し、責任ある社会の構成員としての行動を促すことに加え、子どもに対する教育や、母子保健をはじめとする生命に関わる医療サービスなど、誰しもが享受すべきものに、全ての外国人が、適切な負担の下にアクセスできるような環境整備が求められよう。特に、外国人労働者の増加に伴い、外国にルーツを持つ子どもは増えていくことが想定される。学校教育の場などにおいて、一人一人の日本語能力を的確に把握しつつ、きめ細やかな指導・支援を行うことにより、外国人児童生徒等が必要な学力を身に着け、自信や誇りを持って自己実現を図ることができるよう、引き続き支援していく必要があろう55。