第3章 ストックの力で豊かさを感じられる経済社会へ

[目次]  [戻る]  [次へ]

本章においては、我が国がこれまで蓄積してきた豊富な「ストック」に着目し、フローの経済活動において有効に活かされているのか─例えば、資産が効果的に活用され新たな所得を生んでいるのか、あるいは、既存の資産が市場で価値が適切に評価され、円滑に流通しているのかなど─、そうでない場合、どのような課題があるのかを考察していく。

「国民経済計算」から、我が国における一国の総資産をみると、1994年末の約8,600兆円から、2022年末には約1京2,650兆円と約1.5倍に増加し、同じ基準で遡れる1994年末以降で過去最高となっている。その内訳は、住宅や設備、社会資本等からなる資本ストック等が約2,260兆円、土地等が約1,320兆円、現金・預金や債券、貸出、株式・投資信託等からなる金融資産が約9,070兆円となっている。これに対して、一国の負債は約8,650兆円であり、総資産から負債を控除した正味資産(国富)は約4,000兆円1と、やはり1994年末以降で過去最高となっている。

部門別にみた場合、この国富の7割に当たる約2,850兆円を有しているのが家計部門2である。家計部門の資産・負債構造をみると、総資産は約3,240兆円に対し、負債は約380兆円であり、家計の正味資産はほぼ総資産で説明される。その総資産の内訳は、約1,160兆円が住宅・土地資産3、約2,030兆円が金融資産となり、これらの資産で家計の総資産の大宗が占められている。このように、家計部門を全体としてみると、統計上、豊富な住宅関連資産及び金融資産が蓄積されている。

本章では、主に、こうした家計部門の保有するストックについて、第1節では金融資産、第2節では住宅資産に焦点を絞って分析を行い、ストックを活かして豊かさを感じられる経済の実現に向けた課題を整理する。加えて、第3節では、家計の人的ストックという観点から、今や就業者の2割超を占める高齢者について、その高い就業意欲を後押しし、高齢労働者が培ってきた経験や知識といった無形のストックを社会で有効に活用していくための課題を検討する。


(1)金融資産と負債については、その多くが、国内における部門間の債権債務関係(例えば、家計の国内銀行への預金資産は、金融機関の預金負債)があるため、正味資産(国富)を構成するのは、日本の居住者が海外に対して保有している純資産分(対外純資産:2022年末で約422兆円)となる。この対外純資産に、資本ストックや土地等の非金融資産額を加えたものが正味資産となる。
(2)家計部門には個人企業を含む。
(3)うち住宅資産は約410兆円。なお、一国計の住宅資産は約470兆円であり、9割弱は家計部門が保有している(残りは、非金融法人企業部門の保有する民営や公営の賃貸住宅からなる)。
[目次]  [戻る]  [次へ]