第2章 人手不足による成長制約を乗り越えるための課題 第2節

[目次]  [戻る]  [次へ]

第2節 労働移動に係る現状と課題

前節でみたとおり、コロナ禍を経て企業の人手不足感が再び急速に高まり、労働需給がひっ迫する一方、少子高齢化と人口減少が進む我が国においては、労働供給の面で一定の制約を受けざるを得ず、経済の成長力が抑制される要因となる。こうした中にあって、労働市場における資源配分の効率性を高めること、すなわちセクター間の労働移動を円滑化することは重要な課題である。物価と賃金が動き出した経済においては、賃金がシグナルとなって、価格メカニズムが機能し、希少な労働力が、より生産性の高い部門やニーズが高い部門に移動することが期待される。この下で、経済全体の効率性が高まり、少子高齢化と人口減少にあっても、我が国の成長力を維持・向上させることにつながると考えられる。本節では、こうした労働移動、特に労働市場のミスマッチと産業間の労働移動に焦点を当て、これらの現状と課題について考察していく。

1 労働市場のミスマッチに係る現状と課題

人手不足感が拡大する中、希少で限られた労働力を効率的に就業に結び付けること、すなわち、労働移動によって効率的な資源配分を実現することが重要であり、そのためには、円滑な労働移動を実現するようなマッチング・メカニズムが機能する必要がある。こうした問題意識の下、以下では、労働市場におけるミスマッチの動向と課題について詳細に分析していく。

(UV曲線からみたミスマッチは1990年代以降大きく悪化した後、幾分改善)

まず、労働需給のミスマッチを示す基本的なデータとして、企業側の人手不足の度合い(欠員率)と失業率の関係を示すUV曲線について、過去30年超の長期的な動向を確認する。一般に、欠員率と失業率は負の関係にあり、欠員率の上昇と失業率の低下は人手不足の拡大を、欠員率の低下と失業率の上昇は需要不足による失業を意味する。他方、失業中の労働者が企業側の求人に対して就職を申し込んでも、職種、業種、経験や技能等の違いから、企業側のニーズと労働者側のニーズが合わないこと(ミスマッチ要因)、また転職や職探しのプロセスには一定の時間を要すること(摩擦的要因)等から、欠員と失業とが同時に生じる。UV曲線と45度線との交点は、労働市場の需給が一致した状態であるため、そのときの失業率は、労働市場のミスマッチや摩擦的な要因によるものと解釈される。二つの異なる期間において、UV曲線における欠員率と失業率の組合せが右上方にシフトしているときは、より大きい欠員率と失業率が併存していることから、ミスマッチ等の要因による失業が増加していることを示す。

1990年代以降の我が国のUV曲線をみると(第2-2-1図)、45度線上に位置した1990年代初頭と2010年代半ばの二時点を比べると、UV曲線が右上にシフトしており、この間、長期的にミスマッチ失業や摩擦的失業が拡大していたことが分かる。その後、2010年代後半の労働市場の需給改善、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた2020年の急速な需給悪化、コロナ禍の影響が和らぐ中での需給改善を経て、UV曲線は幾分左下にシフトしている。ミスマッチ失業や摩擦的失業は、1990年代初頭と比べれば高い状態にあるが、現時点においては、2010年代半ばより改善していることが分かる26

(我が国では、失業のリスクは低い一方、失業した場合に長期化しやすい構造)

次に、我が国における失業を通じた労働移動の度合いについて、諸外国との比較により確認してみよう。

失業を経た労働移動は、就業者のうち失業する者の平均的な割合(失業確率)と、失業者のうち就業する者の平均的な割合(就業確率)によって、その程度を推察することができる(第2-2-2図(1))。2013年から2022年までの10年間の平均値でみると、我が国では、失業確率、就業確率ともに、OECD諸国の中では相対的に低い状況にある。失業確率が低いことは我が国の失業率を低くする要因となる一方で、就業確率が低いことは平均的な失業期間を長くする要因となる。OECD諸国における失業確率と平均失業期間との関係をみると、我が国の失業期間は相対的に長くなっている27

また、失業率と、失業者のうち一年以上失業している長期失業者の割合を、主要先進諸国と比較すると、我が国の失業率はこれらの国の中で最も低い水準にある一方、長期失業者の割合はドイツに次いで高い(第2-2-2図(2))。

以上を踏まえると、我が国では、諸外国に比して、失業するリスクは低いものの、一度失業した場合にはその状態が長期化しやすい構造にあると言える。

(我が国の労働市場におけるマッチングの効率性は、諸外国に比べて低い)

このように、我が国では、コロナ禍を経て、企業側の人手不足が拡大(欠員率が上昇)し、それに伴い失業率もコロナ禍以前の水準に近づくなど労働需給が改善している一方で、諸外国と比べると、就業確率が相対的に低く、就業を希望しながらも失業状態が一年以上続く長期失業者の割合が相対的に高いなど、労働市場における資源配分の効率性に課題があることが示される。

ここで、我が国の労働市場におけるマッチングのしやすさ(効率性)について、一定の仮定の下、マッチング関数を推計することにより、諸外国と比較してみよう(第2-2-3図)。具体的には、新規雇用者数、失業者数、求人数を用いてマッチング関数を推計し、その結果を基に、失業者に対する新規雇用者の割合をマッチング効率性として、日本、アメリカ、ドイツの3か国の動向を比較した28

結果をみると、第一に、いずれの国でも、失業者数に対する求人数の割合が上昇すると、マッチング効率性が上昇する傾向にある点は変わらない。

第二に、マッチング効率性の水準を比較すると、アメリカが最も高く、次いでドイツ、日本の順となっている。失業者と同数の求人がある場合(横軸が1.0の位置にあるとき)、アメリカでは1か月の間に失業者の8割程度が新規雇用に結びついているのに対し、日本は3割強に過ぎず、失業状態を経た新たな就業への労働移動の円滑度に差がある様子がうかがえる。

第三に、推計期間を前後半の2015年以前と2016年以降で分けてみても、各国のマッチング効率性はほとんど変化しておらず、日本は恒常的に低い水準に位置している。

(ミスマッチ率は2010年代半ばまで低下傾向であったが、近年は上昇)

こうした我が国の労働市場における需給のマッチング効率性は、職種別や地域別にみたときにどのような特徴があるだろうか。先行研究では、我が国労働市場における需給ミスマッチの主な発生要因は都市部における職種間ミスマッチであることが指摘されている29。ここでは、川田(2019)の分析手法を参考に、厚生労働省「職業安定業務統計」の詳細なデータを用いて、2012年度から2022年度までの10年程度における我が国労働市場における需給ミスマッチ率を推計した30。以下、推計結果を基に我が国の労働市場のマッチングの現状と課題を考察していく。なお、ハローワークについては、新規入職経路の割合が2割を切るなど長期的に重要性が低下しているが、民間職業紹介等について同様の分析を行うデータに制約があるため、ここではハローワークのデータに特化している。このため、推計結果やそこから得られる含意の解釈については一定の留意は必要である。

まず、我が国労働市場におけるミスマッチ率の推移をみると(第2-2-4図(1))、2012年度から2016年度にかけては緩やかに低下しており、川田(2019)とも整合的な結果が示された。他方で、2017年度からは緩やかな上昇に転じ、その後、2020年度には大きく水準を切り上げていることが分かる。2022年度には若干低下しているものの、ミスマッチ率は11%を上回る高い水準にある。これは、新規雇用の11%以上が労働市場のミスマッチによって失われていることを示唆しており、ミスマッチ解消による効率的な資源配分の重要性を物語っている。

ここで、ミスマッチ率を、<1>職種間での求人と求職に差異があることで生じている「職種間要因」と、<2>都道府県をまたいだ労働の移動や求人と求職の調整が困難なことで生じている「都道府県間要因」とに分解してみよう。結果をみると(第2-2-4図(2))、職種間要因については、推計期間を通じて緩やかな低下傾向にある一方で、都道府県間要因が2010年代後半に僅かに上昇傾向で推移した後、コロナ禍の2020年度に大幅に上昇している。かつてはミスマッチの大部分が職種間要因によってもたらされていた31が、近年は両者の関係が逆転し、都道府県間要因がミスマッチ拡大の主要因となっている。

(都道府県間ミスマッチは、コロナ禍の影響により、幅広い職種で拡大)

このような2020年度以降の都道府県間ミスマッチの急速な拡大は、言うまでもなく、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響によるものであると考えられる。すなわち、コロナ禍では感染拡大防止の観点から人流抑制・行動制限が行われ、人々もまた感染予防のために移動や活動を制限したことで、職業安定所における都道府県をまたぐ求職者の再配分を行うことが困難となったことが背景にあるとみられる。都道府県間のミスマッチ率を職種別にみると、2020年度には幅広い分野でミスマッチ率が上昇しており、コロナ禍による影響の大きさがうかがえる(第2-2-5図)。

他方で、コロナ禍という特殊要因によって上昇したミスマッチは、その影響が和らぐにつれて徐々に元の水準へと戻る方向で動くことが想定される。実際、販売の職業やサービスの職業については、2021年度から2022年度にかけて、僅かではあるがミスマッチ率が低下している。2023年5月に新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが5類感染症となったこと等を契機として、経済社会活動は急速に正常化へと向かったことなどを踏まえれば、2023年度以降については、都道府県間ミスマッチ率は更に低下へと向かうものと期待される。ただし、コロナ禍前後で、労働者の都道府県間移動に何らかの行動変容が生じた場合には、都道府県間ミスマッチ率が十分に低下しない可能性もあり、十分な注視が必要である。

(職種間ミスマッチは、全国的に低下しているものの、大都市圏で高い水準)

次に、推計期間を通じて、全体としては低下傾向が続いている職種間ミスマッチについて、都道府県別の動向を確認しよう。都道府県別の職種間ミスマッチ率を、直近5年間における変化とともにみてみると、以下のような特徴がある(第2-2-6図)。

第一に、東京都を除いた道府県においては、程度の差はあれども、いずれも2017年度から2022年度にかけて職種間ミスマッチ率が低下している。マクロでみた職種間ミスマッチの低下は、特定の地域によりもたらされたのではなく、各地域それぞれの中でのミスマッチ低下が積み重なったことによるものであると言える。

第二に、職種間ミスマッチ率の水準は、大都市圏において高い。抜きん出て高いのは東京圏であるが、大阪圏、名古屋圏のほか、北海道、宮城県、岡山県、広島県、熊本県など、政令市が所在する地域の大宗で全国平均を上回った水準であり、職種間ミスマッチの程度には人口規模が影響している可能性が示唆される。

(都市部を中心に事務や販売職は供給過剰、その他職種は広く供給過少)

職種間ミスマッチは、過剰供給となっている職種から、過少供給となっている職種への労働移動を促すこと、あるいは、過少供給となっている職種において労働と代替的な資本を導入することによって緩和・解消が可能である。では、各都道府県において、いかなる職種において労働力の過剰供給や過少供給が生じているのか。以下では、この点を確認するため、各都道府県別の職種別ミスマッチの動向をみていこう。

第2-2-7図は、各都道府県における職種別の就職件数と、効率的なマッチングが実現した場合の就職件数のかい離度を示したものである。ここで、効率的なマッチングとは、各都道府県内における求職者の職種間配分を最適化することであり、かい離度がプラスとなるときは、当該職種の求職者供給が当該地域内で過剰であることを示し、マイナスとなるときは供給が不足していることを示す。結果からは、以下のような特徴がみてとれる。

第一に、事務的職業や販売の職業については、全国的にみて供給が過剰となっている。中でも、大都市圏やその他政令市所在道府県など、都市部の供給過剰度合いが深刻であり、かつ直近5年間で過剰度合いが増していると考えられる。マクロでみたミスマッチを改善するためには、都市部におけるこれらの職種の供給過剰の状況を改善させることが重要である。

第二に、介護等を含むサービスや、建設・採掘、生産工程、輸送・機械運転の職業については、東京圏など一部を除き、全国的に供給が過少となっている。また、これらの地域では、不足の度合いが、2017年度から2022年度にかけてほとんど変化しておらず、過少供給が構造的な課題であることもうかがえる。事務や販売など供給過剰の職種から、これら供給不足の職種への労働移動の促進や、人手不足対応としての省力化・省人化投資の促進などが重要であることが示される。

(これまでの労働移動は同一職種内が大宗であり、職種をまたぐ移動には課題)

では、職種間の労働移動の実態はどうなっているであろうか。ここでは、職種間の労働移動の実態を把握するため、「労働移動性向」の動向を確認してみよう。労働移動性向とは、ある職種(以下「職種A」という。)から別の職種(以下「職種B」という。)への移動確率と、移動者全体からみた職種Bへの移動確率の比をとることで、職種Aから職種Bにどの程度移動しやすいかを示す指標であり、その値が1を超えているときには当該職種間の労働移動が相対的に行われやすいことを示す。第2-2-8図は、5年おきの統計である総務省「就業構造基本調査」を基に、2012年、2017年、2022年それぞれの調査時点において、直近1年間で現職に就いた者を対象に、前職の職種別の労働移動性向を示したものである。これによると、以下の点が特徴として挙げられる。

第一に、いずれの職種においても、前職が現職と同一の職種である場合の労働移動性向が最も高く、労働移動の大宗は同一職種内における移動であることが分かる。輸送・機械運転や建設・採掘など、専門的な技能や資格が求められる職種では、同一職種内の労働移動性向の水準が特に高い。

第二に、各職種別の労働移動性向の水準は、時系列で比較してもほとんど変化がみられない。変化している点を挙げるとするならば、事務と専門的・技術的職業における同一職種内の労働移動性向は、2012年から2022年にかけて若干低下しているが、その他の職種からの労働移動性向が高まってはおらず、逆に、販売、サービス職業、生産工程、輸送・機械運転、建設・採掘などでは、2012年から2022年にかけて同一職種内の労働移動性向が上昇している。すなわち、これまでのところ、前職から現職にかけて職種が変化する労働移動は限定的であることが分かる。

第三に、職種別にみると、サービスから販売や、運搬・清掃・包装等と生産工程、輸送・機械運転、建設・採掘の間などでは、労働移動性向が1を上回っており、同一職種内の労働移動を大きく下回るものの、これら職種間の労働移動は相対的に行われやすいことが分かる。これは、職務内容や求められる技能などに相対的に親和性・類似性があることが背景にあるものと考えられる。

このように、これまでの労働移動は同一職種内が大宗であり、職種をまたぐ移動には課題がある。先述した労働需給のミスマッチとの関係でみると、事務や販売など供給が過剰である職種から、他の供給が過少である職種への移動は、販売からサービスへの移動を除いて、相対的に行われにくい。また、建設・採掘、生産工程、輸送・機械運転などの供給が過少である技術的職種では、それら職種間での移動は相対的に行われやすい一方、供給過剰職種からの移動は行われにくいというのがこれまでの実態である。

(ミスマッチ改善には、リ・スキリングや省人化投資の促進などの取組が重要)

以上の分析でみたとおり、我が国の職種間ミスマッチは、全体としては緩やかな低下傾向であるものの、地域別には大都市圏で深刻な状況にあり、職種別には事務的職業や販売職業が全国的に供給過剰である一方、その他の職種では供給が過少となるなどの構造的な課題がある。また、こうしたミスマッチが顕在化している一方で、これまでの労働移動の実態は、同一職種内での移動が大宗であり、職種をまたいだ移動は限定的である。これらの分析結果は、少子高齢化が進展する中、限られた労働供給を効率的に就業に結び付ける上で重要な政策的な含意をもっている。

第一に、過剰供給となっている職種から、過少供給となっている職種へと、職種をまたいだ労働移動を円滑化することが重要である。この点、職業訓練や教育訓練などに関する各種給付制度を通じたリ・スキリングによる能力向上支援は、最も重要な取組の一つであろう。また、ジョブディスクリプション(職務内容記述書)によって、求められる職務の内容や必要となるスキルを明示化すること32などを含め、ジョブ型人事の導入を進めることは、求職者の予見可能性を高め、職種をまたいだ労働移動に向けたリ・スキリングへのインセンティブとなる効果も考えられる。ミスマッチの改善という観点からも、三位一体の労働市場改革を進めていくことが重要である。

また、これに関連して、全国的に供給が過剰となっている事務的職種などでは、今後、デジタルやAIに関するさらなる技術の発展、それら技術の社会実装の進展につれて労働が代替され、将来的に労働需要が低下する可能性が考えられる。本章第1節でも用いたアンケート調査においては、自動化やAIによる業務の代替状況及び将来意向について、定型的な書類作成、労務管理、スケジュール等調整、会計・財務・税務といった事務的性格の強い業務を、将来的に代替したいと回答する企業の割合が高い結果が示されている(第2-2-9図)。これらが顕在化した場合、現時点で既に深刻となっている事務的職種の供給過剰が、一層深刻化することとなる。このため、他職種への労働移動とそのためのリ・スキリングの重要性は、事務的職業従事者において相対的に高いと言える33

また、リ・スキリングに際しては、労働需要側のニーズ、すなわち企業側がどのような人材を求めているか、という点が重要である。この点、企業が正社員に今後求める能力について、アンケート調査における2019年と2024年の結果を比較してみると(第2-2-10図)、「コミュニケーション能力・説得力」や「協調性・周囲との協働力」などを挙げる企業が増えるなど、コロナ禍を経て対人コミュニケーションの重要性が高まっているほか、「ITを使いこなす能力」を挙げる企業の割合が相対的に大きく上昇している。企業において、デジタル化の進展とともに、新技術を実装するための人材へのニーズが増している様子がうかがえる結果であり、ITやデジタルなどの分野は、リ・スキリングにおける重点分野と考えられる。

第二に、サービス、建設・採掘、生産工程、輸送・機械運転など、東京圏を除き全国的に労働供給が過少となっている職種の雇用者を必要とする産業においては、他の産業と比べ、人材の維持・確保のために賃金水準を引き上げる重要性が相対的に高いと言える。これに加えて、こうした分野においては、より少ない人手であっても高い付加価値を生み出す、すなわち生産性を引き上げることができるような省力化・省人化投資の実行が重要である。これにより、資本による労働力の代替と生産性向上の実現が期待される。このように、賃金を通じた市場メカニズムが機能する下では、賃金を十分に引き上げることができない、あるいは政府の支援があっても生産性向上に取り組むことが難しいという企業も出てくることが考えられる。そうした中で、企業の新陳代謝や事業・業界の再編が促されることとなれば、人材獲得を巡る過度な競争が緩和され、かつ業界全体としての生産性の向上につながることも考えられる。なお、こうした省力化投資が活発になれば、企業側では、導入した設備やソフトウェアを使いこなすことのできる人材への需要が高まることも考えられ、この点は、第一の点で述べたリ・スキリングとも密接に関係している。

第三に、ミスマッチ改善の観点からも、東京一極集中の是正を含めた地方創生の取組が重要である。大都市圏では職種間ミスマッチが深刻な水準にあり、特に東京圏では、他の地域で不足となっている職種であっても供給が過剰であるなど、過度な人口の集中の結果として、ミスマッチが深刻になっている。三大都市圏の人口が総人口に占める割合は約53%であり34、これらの地域におけるミスマッチの改善は、経済全体のミスマッチの改善に大きく貢献する。この点、デジタル化を推進することで、全国どこでも誰もが地理的な制約なく働くことができる環境が整備され、大都市圏への人口集中の是正と地方における人口増加を実現することができれば、結果として、労働市場における大都市圏の過剰供給と地方における過少供給の改善に寄与することが期待される。

2 産業間の労働移動の現状と課題

ここまで、限られた労働力を効率的に配分するという観点から、労働市場におけるミスマッチに焦点を当てた分析を行ってきたが、本項では、産業間の労働移動、特に成長分野への労働移動の現状と課題、また、労働移動がマクロ的な生産性に与える影響について考察していく。

(我が国の労働移動は2000年代を通じて長期的には低下傾向で推移)

まず、我が国における産業間の労働移動の現状を確認しよう。ここでは、生産性に関するデータベースであるEU-KLEMSを利用して「リリエン指標」を計測することにより、我が国における就業構造の変化を確認する。「リリエン指標」とは、各産業における労働者数の増減率と、マクロ的な労働者数の増減率のかい離を集計したものであり、その値が大きいほど産業間における労働移動が活発であることを示す指標である。

計測結果をみると、以下のような特徴がある(第2-2-11図)。第一に、我が国のリリエン指標は、2000年代を通じて、低下傾向で推移している。リリエン指標が高めの水準であったのは、主に計測対象期間初期の2001年から2005年の間であったことが示される。この期間においては、我が国経済は、バブル崩壊を経て、1990年代以降、企業部門が抱えていた雇用・設備・債務の3つの過剰を解消していく過程にあり、結果として、労働を含め産業間の資源配分の効率化が進んだと考えられる35。一方、その後の期間においては緩やかな低下傾向にあり、計測対象期間終期の2016年から2019年36の平均値は、2001年から2005年までの平均値の半分程度まで縮小している。

第二に、各産業における労働者数の変動率を、経済全体(全産業平均)の労働者数の変動率と対比させ、全体を上回る場合はプラス、全体を下回る場合はマイナスとし、産業ごとの労働者数でウェイト付けすることにより、リリエン指標に対する産業別の寄与を近似する。これによると、過去20年間を通じて、プラス寄与とマイナス寄与を示す業種の構造に大きな変化がみられず、労働変動が全産業平均に比べて一貫して高かったのは、医療・福祉、専門・科学技術、業務支援サービスなど、後述するように生産性が相対的に低い部門であることが分かる。逆に、相対的に生産性が高い分野である製造業では、過去一貫して労働変動が全産業平均を下回っていることが確認される。

このように、我が国の産業間の労働移動の活発度合いは、長期的には低下傾向で推移している。また、労働移動のダイナミズムは、高齢化が進行し、経済におけるサービス部門の拡大が進む中で、医療・福祉をはじめとする労働集約的で相対的に生産性の低い部門を中心としたものであったが、これらの部門も含めて、産業間の労働移動は、2000年代を通じて緩やかに低下していることが分かる。

(マクロの生産性上昇には、産業間の労働移動よりも、産業内の生産性上昇が影響)

次に、産業間の労働移動と労働生産性との関係を確認するため、上記と同様、EU-KLEMSを利用し、労働生産性の変化率とその要因を分析する。ここでは、マクロの労働生産性を時間当たりの実質GDPとし、労働生産性上昇率を実質GDP成長率と労働投入量(マンアワー)上昇率の差と定義している。その動きは、<1>業種ごとの労働生産性の上昇率(以下「純生産性要因」という。)、<2>業種ごとの名目付加価値のシェアの変化による影響(以下「ボーモル効果」という。)、<3>業種ごとの労働投入量のシェアの変化による影響(以下「デニソン効果」という。)の3つの要因に分解できる。このうち、「ボーモル効果」は、生産性の上昇率が相対的に高い業種の名目付加価値シェアが上昇すること(あるいは、生産性の上昇率が相対的に低い業種の名目付加価値シェアが低下すること)により、マクロの生産性が押し上げられる効果である。経済におけるサービス化の進展、すなわち労働集約的で労働生産性上昇率が相対的に低いとされる業種が多いサービス分野のシェアが拡大する場合、それによってマクロの生産性上昇率が鈍化するメカニズムを説明する概念である。また、「デニソン効果」は、生産性の水準が相対的に低い業種から高い業種へと労働が移動することにより、マクロの生産性が押し上げられる効果である。

ここでは、EU-KLEMSで取得できる2020年までのデータのうち、コロナ禍の影響を強く受けた2020年を除いた2019年までのデータを用いて、我が国の労働生産性の上昇率とその要因分解を行った(第2-2-12図37。まず、労働生産性上昇率は、2000年代から2010年代にかけて、僅かに低下している。

次に、要因別にみると、労働生産性上昇率に最も大きく寄与しているのは、業種ごとの生産性上昇率である「純生産性要因」であり、「ボーモル効果」や「デニソン効果」がもたらす影響は相対的に小さいことが分かる。また、「純生産性要因」のプラス寄与幅は、2000年代と2010年代とを比べてもおおむね変化がなく、我が国の労働生産性上昇率を支えてきたと言える。

「ボーモル効果」については、期間を通じてマイナスとなっているが、寄与幅は小さい。すなわち、生産性上昇率の低い業種の名目シェアが上昇してマクロの生産性を鈍化させるという状況は、過去20年間を通じて、さほどみられていない。

「デニソン効果」については、「純生産性要因」と比べてその幅は小さいものの、プラスの寄与となっており、産業間の労働移動が労働生産性の押上げに一定程度寄与していたことが分かる。一方で、2000年代から2010年代にかけてはプラス寄与幅が小さくなっている。前述のリリエン指標の低下が示すように、産業間労働移動の度合いが低下してきたことにより、それがマクロの生産性に与える影響が弱まってきたものと考えられる。

(デニソン効果の寄与は、生産性の低い業種でプラス・マイナスともに大きい)

次に、我が国の労働生産性上昇率の変化について、上記の3つの要因ごとに、業種別の状況をみていく(第2-2-13図)。

第一に、マクロの労働生産性上昇率に最も大きな影響を及ぼしている「純生産性要因」について、2001年から2019年までの平均値では、コンピュータ・電子機器等のプラス寄与が突出しているほか、卸売・小売、専門・科学技術、業務支援サービス、金融・保険などで高い寄与となっている。一方で、期間を2001年から2010年、2011年から2019年で分けてみると、これらの業種における「純生産性要因」は、金融・保険を除いては、プラス寄与が大幅に縮小しており、生産性の上昇が2010年代に鈍化したことが分かる。

第二に、「ボーモル効果」については、プラスの業種とマイナスの業種がそれぞれであるが、中でもコンピュータ・電子機器等のマイナス寄与が大きくなっている。これは、相対価格がICT化の進展やグローバル化等を背景に下落した一方で、需要がそれほどには伸びず、結果として名目付加価値のシェアが低下したことによるものと考えられる。また、2000年代にはプラス寄与幅が大きかった輸送用機械、建設、金融・保険、専門・科学技術、業務支援サービスなどでは、2010年代にはマイナス寄与ないしプラス寄与が大幅に縮小している。

第三に、「デニソン効果」については、農林水産、繊維製品、建設、卸売・小売、宿泊・飲食サービスなどで相対的に大きいプラス寄与となっている。これら業種については、いずれも労働生産性が全産業平均と比べて低い業種であるため、労働投入の減少がマクロの生産性を押し上げている。逆に、「デニソン効果」のマイナス寄与が突出しているのは、保健衛生・社会事業である。少子高齢化が進展する中、介護サービスなど相対的に生産性が低い分野で労働投入が増加していることが、マクロの生産性上昇率にマイナスの効果を与えていることが確認できる。そのほか、生産性が相対的に高い化学や機械関連の製造業部門では、「デニソン効果」の寄与がほとんどみられない。また、2000年代にはプラス寄与が大きかった農林水産、繊維製品、建設、卸売・小売、情報通信などでは、いずれも2010年代にプラス寄与幅が大きく低下している。

(我が国製造業では、大宗の業種で労働節約的な生産性改善が進んできた)

以上の分析を踏まえると、我が国の産業間労働移動がマクロの生産性を押し上げる効果は一定程度確認できるものの、その程度は2010年代に低下したこと、また、業種別にみると、その効果は低生産性部門から高生産性部門への労働移動によってもたらされているわけではなく、低生産性部門間における雇用の増減のバランスによってもたらされたことが確認できる。

ここで、我が国において、低生産性部門から高生産性部門への労働移動は生じているかという観点から、「デニソン効果」に関連して、各業種における労働生産性の水準、生産性の伸び率と労働投入量の変化率との関係性を、より詳細に確認してみよう。第2-2-14図(2)は、縦軸を労働生産性の伸び率、横軸を労働投入量の変化率として、各業種の計数をプロットしたものであり、生産性の水準が産業計の平均より高ければ赤色、低ければ青色のマーカーで色分けしている。

まず、製造業についてみると、およそ全ての業種において、2001年から2019年までの累積でみて、労働生産性上昇率がプラス、労働投入量の変化率がマイナスとなっている。すなわち、製造業においては、過去20年間で、労働節約的な生産性の改善が進んできたことを示す結果となっている。「デニソン効果」との関係では、化学や機械関連などの高生産性部門における労働投入の減少は、「デニソン効果」にマイナスとなる一方、繊維製品など生産性が相対的に低い業種の労働投入の減少は「デニソン効果」にプラスとなる。これら業種の労働投入減少については、グローバル化の進展と新興国の台頭による価格競争の激化といった構造変化も影響してきたものと考えられる。

次に、非製造業についてみると、業種によって状況がかなり異なっていることが分かる。労働投入量の変化がプラスである業種をみると、生産性の水準が相対的に低い業種では、医療や介護を含む保健衛生・社会事業や、広告や物品賃貸などの対事業所サービスを含む専門・科学技術・業務支援サービスがあり、これら業種は「デニソン効果」もマイナス寄与となっている。また、保健衛生・社会事業については、生産性の水準が低いことに加え、生産性の上昇率もマイナスとなっている。逆に、相対的に生産性の高い産業である情報通信業の労働投入の増加は、「デニソン効果」にプラスとなる。情報通信業は、生産性の上昇率もプラスであり、高生産性部門かつ成長分野でもあることが確認される。

労働投入の変化がマイナスである業種は、農林水産業、建設業、宿泊・飲食サービス、卸売・小売、運輸業など、相対的に低生産性業種が多く位置しているが、これらの業種の多くは、少子高齢化による担い手不足などを背景に労働投入が減少しているものと考えられる。また、金融・保険業は、生産性の水準が高く、かつ伸び率もプラスである一方で、労働投入が減少しているが、これは、製造業の多くと同様に、労働節約的な形での生産性の改善が進んでいる結果であると考えられる。

(医療・介護等を中心に、投資促進等による産業内の生産性向上が重要)

以上を概観すると、過去20年という長期の動きとしては、第一に、生産性の水準が産業計の平均を大きく上回り、かつ伸び率がプラスである成長分野については、情報通信を除き、労働投入を増加させている業種は存在せず、この間、労働節約的な形で成長を実現させてきたと言える。人手不足に対して労働節約的に対応したという側面もあると考えられるが、一方で、内閣府政策統括官(経済財政分析担当)(2024b)で指摘したような、四半世紀にわたる企業のコストカットの行動の結果でもあると考えられる。

第二に、生産性が相対的に低い分野であり、労働投入を減少させてきた業種の中で、労働投入の減少度合いが大きいのは、製造業では繊維製品等の素材系業種、非製造業では農林漁業や建設業等の担い手不足が深刻な業種であり、経済のグローバル化や国内人口構造の変化による影響を受けているものと考えられる。

第三に、生産性の水準が低く、かつ伸び率もマイナスでありながら、労働投入を増加させてきたのは保健衛生・社会事業であり、マクロの生産性上昇という観点ではマイナスの影響を与えている。一方で、これらは、医療や介護など社会的なエッセンシャルワークの部門であり、市場原理には馴染まず、必要な人材を確保することが重要な分野であると考えられ、省力化投資の取組なども含む部門内の生産性の改善がより重要と言える。

(コロナ禍を挟む近年も、高生産性部門への労働移動の活発化はみられない)

以上の分析では、成長分野への労働移動について、2001年から2019年までの長期の動向に焦点を当ててきたが、以下では、別のアプローチから、より直近の動向を確認したい。

「デニソン効果」がマクロの生産性に対してプラスに寄与するためには、生産性の水準の高い業種への労働移動が必要であるが、ここでは、生産性の相対的水準が相対賃金に反映されていると考え、厚生労働省「毎月勤労統計調査」を用い、より詳細な業種別に、コロナ禍以前の2018年から、直近の2023年までの常用雇用の増減と、産業計の平均に対する相対賃金との関係をみていく。第2-2-15図は、横軸を相対賃金、縦軸を常用雇用伸び率として、各業種の計数をプロットしたものである。相対的に高賃金の業種で雇用が増加し、相対的に低賃金の業種で雇用が減少する傾向がある場合、すなわち、図中の第一象限と第三象限に業種が集積し、業種の分布に右肩上がりの傾向がみられる場合には、低賃金(低生産性)部門から高賃金(高生産性)部門への労働移動が進んでいるものと解釈できる。

まず、製造業については、産業計に対する相対賃金が多くの業種で1.0を上回るなど賃金の水準が高い一方で、常用雇用の増減をみると、全体的には雇用が減少している業種が多い。具体的には、情報通信機械、輸送用機械、業務用機械、はん用機械、電気機械など機械関連業種の多くや、家具・装備品、パルプ・紙・紙加工品、ゴム製品など相対的に高賃金な業種で雇用が減少している。一方で、半導体等の電子部品・デバイス、半導体製造装置や建設・鉱山機械などの生産用機械など、近年の特徴的な成長分野では雇用が増加していることも確認できる。

次に、非製造業では、相対賃金と雇用増減のいずれにおいても、製造業と比べて業種間のばらつきが大きい。相対賃金が1.0を上回る高賃金の業種では、ソフトウェア業や情報処理・提供サービス業などが含まれる情報通信や、士業や経営コンサル業が含まれる学術研究、専門技術サービスで雇用の増加率が大きいほか、不動産・物品賃貸、医療業でも雇用が増加している。一方で、金融・保険、卸売、鉱業・採石等では雇用が減少しており、相対的に高賃金な業種の中でも状況にはばらつきがみられる。また、非製造業では、相対賃金が1.0を下回る低賃金業種において、生活関連サービス・娯楽を除き、全ての業種で雇用が増加している点が特徴的である。中でも、社会保険・社会福祉・介護、学校教育以外の教育・学習支援等の雇用増加率が高い。また、宿泊・飲食サービスのほか、職業紹介や労働者派遣業を中心にその他サービス、飲食料品を中心に小売業も雇用を増加させている。

このように、情報通信や学術研究等、電子部品・デバイスや生産用機械など一部の成長分野で雇用の増加がみられる一方で、製造業では相対的に高賃金であるものの雇用が減少する業種も相応に多く存在する。さらに、非製造業では、介護等に代表されるように相対的に低賃金の部門で、社会的な需要の増加に対応する形で雇用が大きく増加するケースや、逆に、相対的に高賃金の部門で雇用が減少するケースが散見される。このように、全体としてみた場合、コロナ禍前から直近までは、業種間の賃金格差を埋めるような方向での労働移動、つまり業種間における低生産性部門から高生産性部門への労働移動が活発になっているとは必ずしも言い難い面がある。

(労働移動活発化、人への投資拡大、生産性向上の流れが循環的に生じることが重要)

以上の分析結果を踏まえ、我が国における産業間労働移動の現状と課題を整理しよう。

第一に、我が国の産業間労働移動の度合いは、長期的にみれば低下傾向で推移してきた。また、コロナ禍以前から直近までの動向をみても、これまでのところ、全体的には労働移動が活発になっているとは言い難い。一方で、転職を希望する就業者数はコロナ禍を経て増加傾向にあり、2023年半ば以降は1,000万人を上回るなど、転職への機運が高まっている様子もうかがえる(前掲第2-1-4図)。この点、産業間の労働移動を活発化させるためには、こうした機運の高まりを逃すことなく、働く個人への直接支援の拡充などを含めたリ・スキリングによる能力向上支援が重要である。特に、デジタル関係など、企業の労働需要も高く、今後成長が期待できる分野への重点的な取組が重要と考えられる。

第二に、成長分野への労働移動によるマクロの労働生産性引上げ効果(デニソン効果)は、これまでのところ、相対的に大きくない。業種別の動向を、2000年代以降の長期間でみると、製造業や金融・保険などの相対的に高生産性部門では雇用を減少させつつ生産性を向上させるなど労働節約的な生産性改善が進展しており、逆に、医療・介護などの相対的に低生産性部門が雇用を増加させてきた。こうした動きはいずれも「デニソン効果」を押し下げる方向に働くものである。生産性の押上げに最も重要な経路は、各産業における生産性の上昇(純生産性要因)であることも踏まえると、労働移動の活発化がマクロの生産性を向上させるためのメカニズムとして機能するためには、

<1> 賃金という価格シグナルにより転職の増加など労働移動が活発になることを通じて、外部労働市場が拡大する。

<2> 企業間の人材獲得が一層競争的となる中で、企業側は人材獲得のために賃上げや人への投資に一層取り組む必要性が生じる。

<3> その原資を獲得するためにも、企業は業務改革や設備投資に積極的に取り組むことで生産性を改善させる必要性が高まる。

<4> このように効率化し、新技術・設備が導入された職場において能力を発揮できる人材への需要が更に高まり、これが労働者側のリ・スキリングの重要性を高める。

という形で、労働移動の活発化、賃上げ・人への投資の拡大、生産性の向上が連続的に生じていくことが必要である。その意味で、労働移動は必ずしも産業間である必要はなく、また、低生産性部門から高生産性部門へと限ったものではない。重要なことは、成長産業への労働移動だけではなく、同産業内の企業間も含めた労働移動の活発化が、上記のようなメカニズムを通じて、各産業や各企業における生産性の向上につながることであると考えられる。


(26)なお、ここでのUV曲線は公共職業安定所(ハローワーク)におけるデータを基にしているが、ハローワークについては、第1章第1節で述べたとおり、新規入職経路の割合が長期的に低下し、直近では15%程度まで低下している点に留意が必要である。
(27)2022年の平均失業期間は、OECD平均では8.5か月であるのに対し、日本では11.0か月である。
(28)推計方法の詳細は、付注2-6を参照。
(29)川田(2019)は、公共職業安定所(ハローワーク)のデータを用い、2012年から2016年までの我が国労働市場における需給ミスマッチの度合いを職種間要因と地域間要因とに分けて推計し、ミスマッチの主な発生要因は都市部における職種間ミスマッチであることを指摘している。
(30)推計方法の詳細は、付注2-7を参照。なお、分析対象期間を2012年度以降としているのは、川田(2019)も述べているとおり、2012年以前と以後とでは職業分類が改定されており、データの正確な接続が困難であるためである。また、雇用形態については、川田(2019)と同様、フルタイム労働者(一般労働者)とパートタイム労働者を合算した値を用いている点に留意。
(31)2016年度までのデータで、主に職種間要因がミスマッチをもたらしていたという川田(2019)の結果とも整合的である。
(32)内閣府(2023)において、雇用者のうち職務内容述書を受け取った、また書類は受け取っていないが口頭で説明を受けたなど、採用に際して職務内容について何らかの説明を受けた者の割合が、諸外国では8割以上であるのに対し、我が国では4割未満にとどまっていることが示されているように、職務内容等の明確化は我が国雇用慣行における重要な課題の一つである。
(33)内閣府政策統括官(経済財政分析担当)(2024a)においては、IMFによる英国等の国際的な分析に基づき、事務補助員については多くの雇用がAIに代替される可能性があることが示されている。
(34)ここでの三大都市圏とは、東京圏(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)、名古屋圏(岐阜県、愛知県、三重県)、大阪圏(京都府、大阪府、兵庫県、奈良県)の合計。これら大都市圏が総人口に占める割合は、東京圏で29.7%、名古屋圏で9.0%、大阪圏で14.4%(総務省「人口推計(2023年10月1日現在)」)。
(35)内閣府(2005)
(36)EU-KLEMSでは2020年までのデータが取得できるが、コロナ禍による急激な雇用変動の影響を除いてみるため、2019年までを計測対象期間としている。
(37)推計方法の詳細は、付注2-8を参照。
[目次]  [戻る]  [次へ]