第3章 成長力拡大に向けた投資の課題 第4節
第4節 本章のまとめ
本章では、新しい資本主義における重点投資分野のうち、特に脱炭素化とデジタル化に焦点を当てて投資拡大に向けた課題を整理した。感染拡大以降は、非対面型のサービスを実現する手段としてデジタル技術の活用が進み、デジタル化の進捗度が企業業績の優劣につながっている。また、国際社会の脱炭素への移行が進む下で、ロシアによるウクライナ侵略以降はエネルギー価格高騰へ対応する必要性が一層高まっている。過去を振り返ると、我が国企業部門の投資スタンスは諸外国対比で慎重に推移してきたが、こうした社会課題の解決に向けた取組自体を付加価値創造の源泉として成長戦略に位置付け、官民連携で計画的な投資を進めることにより、イノベーションを大胆に推進し企業の投資を喚起することが、我が国の競争力を確保していく上で重要である。
現状、企業の脱炭素に向けた取組は一部に限定されており、企業の予見可能性を高める取組を通じて投資を加速させていく必要がある。2050年までにカーボンニュートラルを達成するためには、過去にないペースで温室効果ガスの排出量を削減する必要がある。ただし、こうした状況は諸外国でも共通しており、むしろ我が国が培ってきた環境技術力を一層高めて、付加価値創出につなげていくことが重要である。特に、補助金と排出量基準・排出量取引制度などを組み合わせた規制・支援一体型の投資促進策が企業の競争力強化に加えて、海外への所得流出の抑制やエネルギー安全保障の観点からも有効であると考えられる。他方、我が国は技術の収益化に課題を抱えてきており、高度人材の育成・産学官の連携強化によるオープンイノベーションの促進や、スタートアップの育成強化を通じて、イノベーションを強化していくことも重要である。脱炭素社会へ移行するためには、脱炭素コストのサプライチェーン上での転嫁も鍵を握っており、イノベーションの促進により再生可能エネルギーコストの低減を進めるとともに、安全性の確保を前提とした原子力発電所の活用も視野に国民負担を軽減する取組も必要である。また、継続的・安定的な賃上げ環境を醸成することも必要なコストの転嫁が可能な経済環境につながる。
デジタル化を推進する上では、そこに携わる人的資本の不足の解消がまず重要である。民間調査によれば、我が国のIT人材の競争力は諸外国に劣後しているほか、IT人材がIT企業に偏在しており、非IT企業においてデジタル化を進めるための人材の不足が深刻である。これらの課題を解決する手段として、企業による教育訓練を量・質の両面で改善すること、外部人材を積極的に活用しつつ義務教育課程からIT教育を強化していくこと、雇用・賃金体系の見直しにより、IT専門人材がIT企業以外でも幅広く活躍できる環境を整備することを提起した。また、デジタル技術は、企業の生み出す付加価値向上だけではなく、脱炭素化に向けたエネルギー利用の効率化(グリーンbyデジタル)や、地方創生に向けた行政コスト負担の低減等、様々な社会課題の解決を促す効果も期待されている。
最後に、本章で検証した脱炭素化・デジタル化を推進する上で、改めて重要性が確認されたのは「人への投資」である。脱炭素化の推進に向けては、ノウハウと人材の不足を障害として認識する企業が多かったほか、デジタル化については、上述の通り、人材の不足感こそが投資実行のボトルネックになっているとみられる。第1章でも確認したとおり、企業業績は持ち直し傾向にあるが、これが賃金や教育訓練などの「人への投資」に波及し、人的資本の充実が更なるグリーン投資やデジタル投資の実行の原動力となることで、経済の好循環の実現につながっていくことが期待される。