第2章 労働力の確保・質の向上に向けた課題 第4節

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第4節 本章のまとめ

団塊世代が後期高齢者となり始め、今後、高齢化や人口減少が本格化する下で、我が国が経済成長を続けていくためには、労働の量と質を確保していくことが一層重要となる。本章ではこうした問題意識から、人への投資の動向と課題について雇用側と企業側の双方から中長期的な観点で考察を行った。

成長と分配から人への投資の課題をみると、人口が減少する中でも女性や高齢者をはじめとする多様な人材の労働参加が進んできたが、一人当たり労働時間の減少もあり、我が国の経済成長は約30年間、緩やかなものにとどまってきた。労働時間当たりの実質GDP成長率は主要先進国と遜色のない伸びを実現してきたものの、資本の寄与は主要先進国で最も低い水準にとどまり、人への投資も十分ではなかった。今後は、投資を拡大するとともに、人への投資を通じて労働の質の向上を図り、生産性の伸びを高めていくことが重要である。

相対的に賃金水準の低い非正規雇用者数等の増加により、一人当たり賃金は伸び悩んできたが、世帯所得の分布をみても高齢者世帯や単身世帯の増加に伴い、低所得世帯の割合が上昇している。世帯主の年齢階級別にみると、35~54歳の世帯の所得の低下が顕著であり、世帯主の非正規雇用者比率が高まったことが大きく影響している。共働き世帯が増加しているものの、配偶者の所得は引き続き50~150万円に集中しており、世帯主の所得の低下を十分に補えていない。

今後、人口減少に伴う労働投入量の減少が見込まれる中で、成長への下押しを緩和していくためには、女性や高齢者をはじめ、働く意欲を持ちながら十分に就業できていない者の労働参加を促していくことが重要である。不本意非正規雇用者や失業者、現在無業者で就業を希望する者は人口の1割弱程度を占めるが、これらの層をいかに希望する就業につなげるかが課題となる。また、短時間就業者で就業時間の増加を希望する者、女性を中心に就業時間を調整している者などに対しても、制度の見直しや効果的な就労支援を通じて、活躍の機会を広げていくことが重要である。

労働投入量の確保に当たっては、労働移動を通じて既に就労している者の活躍を更に促していくことも必要である。感染症下では、労働移動は活発ではなかった一方、正規雇用の転職希望者は増加した。幅広い業種において在籍型出向が行われたが、こうした動きも契機として成長分野への円滑な労働移動が進むことが期待される。男性の30代や女性の40代では賃金の増加を伴う転職が総じて行われ、転職率も上昇傾向にある。それ以外の年齢層の更なる活躍をどのように後押しできるかが今後の課題である。副業・兼業は労働者の職業選択の幅を広げ、多様なキャリア形成に資することも期待されるほか、人手不足に対応するための有効な手段になり得ると考えられるが、現時点では若年層中心にとどまっており、広がりはみられない。成功事例と課題の共有やガイドライン普及等の政府による後押しを通じて、その動きが広がっていくことが期待される。

労働の質を高めていくためには、働き方改革を推進し、男女を問わず希望に応じた柔軟な働き方を選択できるようにするとともに、同一労働同一賃金を徹底し、労働の質に見合った賃金が支払われるような環境を整備していくことが重要である。我が国の男女間の賃金格差は縮小してきたものの、依然として諸外国と比べて大きい。男女間での雇用形態や職位、勤続年数の違いが背景にあるが、女性は正規雇用での就業や年齢の上昇が賃金増加につながりにくいという構造的な要因も影響している。非正規雇用の拡大も労働の質に影響を与えている。高学歴化が非正規雇用の抑制に寄与してきた一方、第三次産業や35~54歳の年齢層での非正規雇用拡大が非正規雇用の拡大に寄与しており、学校卒業後の初職における非正規雇用の割合は高まっている。初職が非正規の者は現職も非正規である割合が大きく、非正規雇用が固定化する可能性もある。

こうした労働市場の状況を踏まえると、リカレント教育やリスキリングの重要性は高まっており、企業や政府による社会人の学びへの支援がより一層活用されることが期待される。企業は指導する人材や時間の不足、労働者は時間や費用負担等が学び直しの課題となっている。また、処遇改善や年収増加に結び付く学び直しは一部にとどまっている。企業側が業務に必要な技術・能力等を明確化することにより、それらに対応した雇用者の学び直しを促し、処遇改善や年収増加につなげていくことが重要である。

最後に、税や社会保障による再分配の状況を1994年と2019年で比較すると、再分配前から再分配後への改善幅は1994年よりも大きくなっており、再分配効果は高まっている。世帯類型別にみると、高齢者層では低所得者層を中心に受益が増加する一方で、就業者数の増加を背景に高所得者層では社会保障制度を支える側に回っていることがうかがえる。子どもを持つ世帯では子育て関連の受益が増加する一方、社会保険料負担も増加している。ただし、ひとり親世帯は年金等の受益も減少しており、厳しい状況に置かれている。再分配後の所得を高めていくためには、労働所得の増加に向けた取組に加え、資産所得の増加につながる環境整備も求められる。

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