第2章 労働力の確保・質の向上に向けた課題 第3節

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第3節 労働の質の向上に向けて

人口減少に対応していくためには、前節で論じた労働の量を確保するための取組を進めるとともに、人への投資等を通じて労働の質を向上させていくことが不可欠である。本節では、男女間の賃金格差や非正規雇用と労働の質との関係、労働の質を高めるための仕組みの現状と課題について整理するとともに、所得再分配の現状と課題についても概観したい。

1 就業者の属性の動向

ここでは労働の質の動向を推計するために一般的に用いられる手法31を踏まえ、就業者の主な属性として、雇用形態、学歴、勤続年数の動向について概観する。

2010年代は正規雇用者が増加に転じる中で非正規雇用者の割合も上昇が継続

男性では、正規雇用者数は1990年代後半のピーク時の9割程度にまで減少しているものの、非正規雇用者数は、感染拡大前までは正規雇用者数の減少幅を上回る増加を続け、約30年間で456万人程度増加した。一方、女性については、正規雇用者数は2010年代半ば以降の大幅増加を背景に過去最高水準に達しており、非正規雇用者数も、感染拡大前までは大幅な増加を続け、約30年間で836万人程度増加したことがわかる(第2-3-1図(1))。

非正規雇用者比率は、こうした動きを反映して、男女ともに2010年代に入っても上昇が続いている32。男性の非正規雇用者比率は中長期的に上昇傾向にある(第2-3-1図(2))。若年層の働き方の多様化等を背景に2010年代半ばまで25~34歳を中心に非正規雇用者比率が上昇してきたこと、高齢者の労働参加が進む中で55~64歳、65歳以上の非正規雇用者比率も上昇してきたことが背景にある。なお、55~64歳の男性の非正規雇用者比率が2014年以降低下傾向にあるが、定年延長や継続雇用の取組もあり、正規雇用の形態での雇用割合が高まったことによるものと考えられる。一方、女性の非正規雇用者比率は、上昇傾向が続いてきたものの、2010年代半ば以降は低下傾向にある。男性と同様、高齢者の労働参加が進む中で55~64歳、65歳以上の非正規雇用者比率が上昇傾向にある一方、25~34歳、35~44歳、45~54歳の幅広い年齢層において2010年代半ば以降、低下傾向に転じたことが背景にある。

高学歴化が進む中で、学歴別の賃金には大きな差が残る

次に、時系列での変化が確認できる一般労働者の学歴別構成割合を確認すると、男女ともに、1990年時点では7~8割程度を占めていた中学卒業・高校卒業者の割合は、2000年では6割程度、2010年では5割程度、2021年には3~4割程度にまで低下しており、高学歴化が進んでいることがわかる33第2-3-2図(1))。ただし、一般労働者と比べて、短時間労働者では中学卒業・高校卒業者の割合が男女ともに大きく、就業者に占める短時間労働者の割合は上昇傾向にある34

こうした中で、学歴別の時給の動向をみると、高専・短大卒の時給が近年増加傾向にあるものの、学歴別の時給の差に大きな変化はみられない(第2-3-2図(2))。また、短時間労働者の時給は、大学・大学院卒以外は一般労働者に比べると極めて低い水準にある。

平均勤続年数は若い世代を中心に低下傾向

一般労働者の同一企業での平均勤続年数35の推移をみると、定年年齢の引上げや継続雇用の取組36が進んだことにより、男性を中心に、1990年以降、60歳以上の平均勤続年数が一貫して伸びていることがわかる(第2-3-3図)。一方、40代の男性では2000年頃以降、30代の男性では2000年代半ば以降、平均勤続年数が徐々に短くなっている。この背景には、高学歴化に伴い就職年齢が上昇していることや、以前に比べて転職が行われるようになっていることなどがあると考えられる。女性については、男性に比べて平均勤続年数は短い傾向が続いているが、20代から40代では2000年から2010年にかけて平均勤続年数が緩やかに低下する動きがみられ、20代・30代では2010年代以降は横ばい圏内で推移している。一方、40代の女性では、2010年代に入り平均勤続年数が緩やかに伸びる傾向にある。これには、出産・子育てのために退職していた女性が育児休業制度の活用37等を通じて、就業継続を選択しやすくなったことなどがあると考えられる。

転職の増加は、成長産業やより活躍できる場への労働移動を通じて、賃金上昇や労働者の満足度の向上につながる効果が期待される一方、勤続年数の低下により、同一企業において勤続年数を重ねることを通じて得られる職務経験蓄積や職業能力形成の機会の逸失につながる可能性もある。若い世代を中心に平均勤続年数が男女ともに低下傾向にある中で、労働の質を高めていくためには、希望する者がやりがいを持って長い期間働き続けることができるような環境を整備することが必要である。加えて、企業特殊的ではなく汎用性の高い職務経験や能力向上に向けた人材投資への支援、年齢ではなく能力や成果に応じた給与・処遇への見直し等を通じ、賃金上昇等を伴う前向きな転職を後押ししていく必要があると考えられる。

正社員以外の者や相対的に学歴の低い者は、OFF-JTの受講割合が低い

このように就業者の働き方や属性が多様化する中で、人材投資はそれらに対応してきたのだろうか。雇用形態別にOFF-JTの受講割合をみると、リーマンショック後に大幅に低下した後、正社員では感染拡大前まで小幅ながら高まる動きがみられた(第2-3-4図(1))。一方、正社員以外の受講割合はほぼ横ばいにとどまり、正社員に比べて20%以上低い状況が続いている。また、最終学歴別にみると、正社員では大学卒とそれ以外との受講割合の差が大きい状況が続いている(第2-3-4図(2))。

労働の質を高めていく上では、雇用形態や学歴等の労働者の属性によって給与や処遇が決まるのではなく、同一労働同一賃金の考え方の下、能力や成果に応じて賃金が支払われ、誰もが教育訓練を受けられるようにしていく必要がある。そこで、以下では男女間の賃金格差や非正規雇用拡大の背景、教育訓練の在り方に焦点を当てて、労働の質の向上に向けた課題を検討する。

2 男女間の賃金格差の動向

本項では、第1節で確認した男女間の賃金格差の現状や背景について整理する。その際、賃金水準に影響を与える傾向がある年齢、学歴、勤続年数といった様々な属性に関する男女間の違いとそれ以外の要因に分けて動向を確認する。

男女間の賃金格差は縮小してきたものの、諸外国と比べて大きい

前節では、今後も人口減少が進む中で、女性や高齢者の労働参加が更に進んだとしても、労働投入の増加には限界があることが示された。こうした中では、労働者の属性にかかわらず希望する者が教育訓練等を通じて労働の質を高めることができるとともに、賃金や処遇面で適切な評価が行われるような環境を整備し、働く者の意欲と能力を引き出していくことが必要である。以下では、賃金カーブの変化に伴い男女の間の賃金格差の変化を確認した後、労働の質に見合った賃金が労働者に支払われることが重要であるとの考えに立ち、同じ属性であっても男性に比べ女性の賃金が低いという課題があることを示す。

はじめに、男女間の賃金格差の状況についてOECD加盟国間で比較すると、我が国は欧米諸国に比べて依然として格差が大きいことがわかる(第2-3-5図<1>)。一般労働者の所定内給与額で男女間の賃金格差をみても、30年間でその差は縮小してきたものの、女性の平均賃金は男性の75%程度にとどまっている(第2-3-5図<2>)。

賃金カーブは男女ともに緩やかに

次に、世代別での賃金カーブから男女間の賃金格差の変化について確認したい。我が国においては、長きにわたり、新卒一括採用・終身雇用制度・年功型賃金等の下で初任給が低く抑えられる代わりに、同一企業内で年齢が高まるにつれて賃金が増加してきた。出生年代別に各年齢階級の実質賃金を25~29歳の水準38と比較してみると、男女ともに50代半ばまで賃金が増加している(第2-3-6図)。

ただし、出生年代が遅いほどその後の実質賃金の伸びが小さくなる傾向は男女で共通している。男性の方が賃金カーブの傾きが大きかったため、その傾きが緩やかになる動きは顕著となっているものの、男女間での賃金カーブの傾きの差は引き続き残っている。一方、25~29歳の実質賃金の水準についてみると、男性では出生年代が異なっても大きく変化していない一方、女性では着実に上昇しており、若年層での男女間の賃金格差は着実に縮小している(付図2-239

雇用形態や職位、勤続年数の違いなどが男女間の賃金格差に寄与

先行研究によれば、森口(2017)では、高度経済成長期を通じて、男性が外で働き、女性が家庭を守るという明確な性別役割分業の下で、企業は男性に対し長期安定雇用を提供してきたことが指摘されている。こうした状況下で女性は家庭を守る存在であるという認識が社会で共有されていたため、男女間の賃金格差が生じやすい社会であったとされている。この点に関連して、山口(2021)では、我が国における男女間の賃金格差の要因として、男性に比べて女性では非正規雇用者が多いことや、日本の正規雇用者は労働時間が長く、これが女性のハンディキャップや企業の女性への統計的差別40を生み出していることなどを指摘している。このような男女間での役割分業やそれを前提とした勤務時間等が限定されない正規雇用とそれ以外の非正規雇用という二極化された働き方が日本企業において一般的となる中で、男女間での雇用形態、最終学歴や勤続年数の差(前掲第2-3-2図第2-3-3図)が生じ、男女間の賃金格差につながってきたと考えられるが、その要因について以下ではより詳しくみていこう。

以下では男女間の賃金格差の現状について定量的に確認する。その際、単純な男女間の平均賃金差にとどまらず、「全国就業実態パネル調査」の2016年から2021年の個票を用いて、最近の男女間賃金格差がどのような要因によってもたらされているのか、Blinder-Oaxacaの分解方法を用いて分解することにより明らかにしたい(付注2-1)。男女間の賃金格差に影響を与える要因として、「企業規模」要因(従業員数30人未満の事業所に比べて、より規模の大きい事業所で格差が生じる傾向にあるか)、「学歴」要因(小学校・中学校・高等学校を卒業した者に比べて、それより上の学歴の者で格差が生じる傾向にあるか)、「職位」要因(非管理職に比べて、職位がより高い場合に格差が生じる傾向にあるか)、「雇用形態」要因(非正規雇用者に比べて、正規雇用者で格差が生じる傾向にあるか)に着目する。なお、雇用形態要因については、正規・非正規の別と、「年齢」要因(年齢が高まるにつれて格差が生じる傾向にあるか)や「勤続年数」要因(勤続年数が長くなるにつれて格差が生じる傾向にあるか)、高齢層かどうかといった他の要因とを組み合わせる形でみていくこととする。これらを踏まえ、まず、<1>勤め先の企業規模や学歴、職位、雇用形態別の年齢や勤続年数といった様々な属性についての男女間での構成割合の差が、どの程度男女間賃金格差に寄与しているかを分析する41(以下「構成効果」という。)。その上で、<2>それぞれの属性が同一であるとき、男女間の違いがどの程度男女間賃金格差に寄与しているか42を分析する(以下「構造効果」という。)。

まず、構成効果についてみると、特に「企業規模」、「職位」、「正規」、「勤続年数正規」の各要因が男性に比べて女性の賃金を低くしている(第2-3-7図(1))。押下げ寄与が最も大きいのは「正規」要因であり、男性に比べて女性の非正規雇用者割合が大きいことが表れている。また、「企業規模」要因については、中小企業で女性比率が高い一方、大企業で女性比率が低いことが女性の賃金の相対的な低さに寄与している。「職位」要因については、雇用者に占める女性管理職の割合が男性管理職の割合に比べて低いこと、「勤続年数正規」要因については、特に正規雇用の女性の平均勤続年数が男性に比べて短いことが相対的な女性の低賃金につながっている(前掲第2-3-3図)。

女性は正規雇用での就業や年齢の上昇が賃金増加につながりにくい

次に、構造効果についてみると、「企業規模」、「正規」、「年齢」要因が相対的に女性の賃金を低下させている(第2-3-7図(2))。「企業規模」要因については、男性は企業規模が大きくなるに従い、より高い賃金を得る一方で、女性の賃金水準は企業規模によって男性ほど大きな変化がみられないことを表している。また、構成効果と同様、「正規」要因が女性の賃金の押下げに最も大きく寄与しているが、これは、女性では非正規から正規になっても賃金が男性ほど高まらないことを表しており、女性に比べて、男性の方が正規・非正規間での賃金格差が大きいことを反映していると考えられる(第2-3-7図(3))。「年齢」要因については、正規・非正規ともにマイナスに寄与しており、女性の賃金は雇用形態にかかわらず、年齢が高まっても上昇しにくい構造になっている。

一方で、「学歴」はプラスに寄与しており、これは、男性に比べて女性の大卒以上比率が小さいため(前掲第2-3-2図(1))、大卒以上の女性は同程度の学歴の男性に比べて賃金面で評価されやすいことが背景にあると考えられる。

以上は、男女間の属性の違いを考慮してもなお格差が残されていることを示しており、その解消に向けた取組が求められる。働き方改革を推進し、男女を問わず、希望に応じた柔軟な働き方を選択できるようにするとともに、同一労働同一賃金を徹底し、労働の質に見合った賃金が支払われるような環境を整備していくことが重要である。

3 非正規雇用の動向

非正規雇用が拡大している要因や雇用形態の固定化の懸念について整理する。その際、前項と同様に、雇用者の性別や年齢、学歴、勤続年数といった他の属性との関係についてもみていきたい。

若年層の不本意非正規比率は低下

前述のとおり、若年層の非正規雇用者比率は、男性では2010年代半ばまで上昇してきたものの、女性では2010年代半ば以降、上昇傾向から低下傾向に転じている(前掲第2-3-1図(2))。こうした動向を踏まえ、非正規雇用者比率の上昇と低下がみられた25~34歳の若年層に着目し、非正規雇用での就業を選択する理由をみると、データの制約上、2013年以降の変化ではあるが、男女ともに「正規の職員・従業員の仕事がないから」を理由とする、いわゆる不本意非正規比率は大幅に低下している(第2-3-8図)。一方、「自分の都合の良い時間に働きたいから」をはじめ、自発的に非正規雇用での就業を選択している割合が緩やかに上昇している。

高学歴化が非正規雇用のなりやすさを大きく抑制

それでは、若年層において、このような個人の選好以外のどのような要因が非正規雇用の形態での就業につながっているのだろうか。ここでは、「就業構造基本調査」の個票を用いて、やや長期的に、1982年と比較した43非正規雇用者比率の変化要因について、「非正規雇用者になる確率」/「非正規雇用者にならない確率」で示されるオッズの変化をBlinder-Oaxacaの分解方法を用いて分解することで、明らかにしていきたい(付注2-2)。

非正規雇用のなりやすさに影響を与える要因として、「性別」要因(女性に比べて男性が非正規になりやすいか)、「年齢」要因(年齢が高まるにつれて非正規になりやすいか)、「学歴」要因(小学校・中学校卒業に比べて、それより上の学歴の者が非正規になりやすいか)、「産業」要因(第一次産業従事者に比べて、第二次・第三次産業従事者が非正規になりやすいか)、「世帯」要因(単身者に比べて、それ以外の者が非正規になりやすいか)の5つに着目する。これらを踏まえ、各年の22~34歳44の若年層と35~54歳の年齢層について、まず、<1>性別や年齢、学歴、従事する産業、世帯構成といった属性の構成割合の1982年との変化が、どの程度非正規雇用のなりやすさに寄与しているかを分析する(以下「構成効果」という。)。次に、<2>同じ属性内での1982年との変化がどの程度非正規雇用のなりやすさに寄与しているかを分析する(以下「構造効果」という。)。

まず、構成効果についてみると、22~34歳・35~54歳ともに、特に「学歴」要因が非正規雇用者へのなりやすさへのマイナス寄与のほとんどを占めている(第2-3-9図(1)<1>、(2)<1>)。これは、第1項でもみたとおり、雇用者の学歴別構成比をみると、1982年以降、小学校・中学校卒業者に比べて、高校卒業者や大学・大学院卒業者等が占める割合が上昇し、高学歴化が進む中で(付図2-3(1))、学歴が高い雇用者は非正規雇用になりにくい傾向にあることを表している。

第三次産業での非正規雇用拡大が非正規雇用のなりやすさに大きく寄与

次に、構造効果についてみると、22~34歳・35~54歳ともに、「産業」要因が非正規雇用のなりやすさに継続してプラスに寄与している(前掲第2-3-9図(1)<2>、(2)<2>)。これは、1990年代以降、主に第三次産業において、非正規雇用の形態で就業する雇用者が増加してきたことを反映している(付図2-4(2))。

また、「性別」要因は、22~34歳では、2002年以降、非正規雇用のなりやすさにプラスに寄与している一方、35~54歳では継続してマイナスに寄与しているものの、マイナス幅は縮小している(前掲第2-3-9図(1)<2>、(2)<2>)。これは、22~34歳では、1990年代後半以降、男性の非正規雇用者比率が大きく上昇しており(付図2-4(4))、男性であっても非正規雇用になりやすくなっていることを表している。前述のとおり、男性の若年層で自発的に非正規雇用での就業を選択している割合が高まっていることも一因と考えられる(前掲第2-3-8図)。35~54歳では、2000年以降、男性の非正規雇用者比率が緩やかに上昇しており、非正規雇用のなりやすさに性別が影響を与えにくくなっている。

2000年代初め以降、35~54歳では女性を中心に非正規雇用としての労働参加が拡大

構造効果については、「年齢」要因にも特徴的な動きがあり、22~34歳と35~54歳では異なった傾向がみられる。22~34歳では、非正規のなりやすさに「年齢」要因が2002年に大きくマイナスに寄与し、その後マイナス寄与が徐々に縮小しているのに対し、35~54歳では、2002年以降、プラス寄与が拡大している(前掲第2-3-9図(1)<2>、(2)<2>)。

まず、2002年における22~34歳(1968~80年生まれの者)は、その中で特に1978~82年生まれの年齢の低い者が非正規比率の高い年代であったため(付図2-5(1))、非正規のなりやすさは年齢が低いほど高くなり、「年齢」要因のマイナス寄与が大幅に拡大したと考えられる。こうした動向について、堀(2019)では新卒の正社員比率は2000年代前半にかけて低下したことを指摘している。1978~82年生まれの20~24歳時点及びその後の非正規雇用者割合は1978年より前に生まれた者と比べても高く、労働市場に参入する際の景気動向などが新卒時の雇用形態に影響していると考えられる(付図2-5(2))。

次に、35~54歳の「年齢」要因の動向について整理する。出生年代別の非正規雇用者割合の寄与をみると、1997年から2002年にかけて全ての年代にわたって非正規雇用者割合が大幅に高まっている(前掲付図2-5(1))。また、2002年以降も1963~72年生まれの者が非正規雇用者全体に占める割合は拡大傾向で推移している。このような1963~72年生まれの者が35~54歳の層において相対的に高齢になっていく動きが2002年以降の構造効果への「年齢」の押上げ寄与の拡大(言い換えれば、1982年に比べて、2002年以降は、この年齢層の中では、年齢が上がるほど非正規割合が下がる度合いが小さくなっていること)につながっているものと考えられる。これらについては、阿部(2010)や森口(2017)で指摘されているように、女性が非正規雇用の形態で労働市場に参加する動きが大きく進んだことや、2000年以降、契約社員や派遣労働者といった形態で雇用される者が増加したことなどが反映されていると考えられる。

以上の分析を踏まえると、22~34歳、35~54歳のいずれにおいても高学歴の者の割合が高まるという構成効果が非正規雇用のなりやすさの押下げに寄与しており、労働者の能力ではなく学歴という属性が雇用形態に大きな影響を与えている。能力に見合った処遇や働き方を広げていく必要がある。

また、第三次産業での非正規雇用の拡大、35~54歳の年齢層での非正規雇用の増加といった構造効果は非正規のなりやすさの押上げに寄与し、構造効果の押上げ寄与は構成効果による押下げ寄与をおおむね上回った。第三次産業で比較的割合の高い短時間労働という就労形態が非正規雇用という雇用形態につながっている可能性もあることから、多様な正社員など柔軟な働き方を広げていく必要がある。また、年齢にかかわらず希望する者が能力を高めつつ、多様な形で正社員として働けるようにしていくことが求められる。

若年層では学卒後初めての職が非正規の割合が高く、非正規の固定化も

出生年代が遅いほど、若年時点での非正規雇用者割合が大きいが(前掲付図2-5(2))、この非正規雇用には学生アルバイトも含まれる。そのため、これらを除いた学校卒業後の最初の就業(以下「初職」という。)状況について確認すると、現在の若年層ほど初職として非正規雇用での就業を選んだ者の割合が大きく、女性では就職氷河期世代を含む35~44歳においても学卒後の初職が非正規だった者の割合が大きい(第2-3-10図(1))。

さらに、初職の就業形態と現在の就業形態をみると、男性を中心に、初職が正規の者は現職も正規である割合が大きいのに対し、初職が非正規の者は、若年層ほど現職も非正規の者の割合が大きく、非正規の固定化の可能性も示唆される(第2-3-10図(2))。

初職が非正規の者の現職の就業形態を業種別に傾向をみると、男性では25~34歳の者でも同業種で非正規の形態で働く者の割合が大きく、初職の雇用形態に左右される傾向がみてとれる(第2-3-10図(3))。35歳以上の者では、他の業種への転職を通じて、正規雇用の形態で働く者の割合が上昇しているが、初職が卸小売業や宿泊・飲食サービス業の非正規だった35~44歳の者は、他業種に転職しても非正規で働く者の割合が比較的大きい。一方、初職が医療・福祉の非正規だった者については、年齢が高くなるにつれて、同業種で正規雇用の形態で働く者の割合が大きくなっている。女性についてみると、年齢や初職の業種、現在の業種にかかわらず、非正規で就業している者の割合が大きい。女性は、初職の雇用形態にかかわらず、結婚や出産に伴い、30~50代で非正規での就業を選択する傾向があることがこうした結果の背景にあると考えられる。以上を踏まえると、初職の雇用形態や業種を問わず、希望する形態・業種での就業を可能とするような就業支援・転職支援の強化が必要と考えられる。

4 リカレント教育・リスキリングの促進

労働の質を向上させていくためには、雇用形態にかかわらず、各労働者が新たな技術・社会変化に対応できるような教育訓練を働きながらいつでも受けることができる環境を整備していくことが重要である。こうした観点から、人材育成の現状や課題について整理したい。

博士課程等における社会人学生の割合は上昇傾向。学びへの支援の一層の活用が期待

社員への教育に当たっては、体系的な学習・新たな課題への対応の必要性等もあり、OJTに加え、OFF-JTのニーズが高まっている45。また、社会人の大学院進学者数は増加傾向にあり、大学院入学者全体に占める社会人学生の割合も、男女ともに博士課程、ビジネススクールや法科大学院等の専門職学位での進学を中心に上昇傾向にある(第2-3-11図)。

こうした中で、企業や政府による社会人の学びへの支援は十分に活用されているのだろうか。企業による自社の労働者のOFF-JTや自己啓発支援への支出額は、年によって振れもあるものの横ばい傾向にある(第2-3-12図(1))。さらに、企業規模別に人的資本形成の動向をみると、規模の小さい企業の労働者ほど、職種に特有の実践的スキル向上ニーズが高い一方で、規模の小さい企業ほど労働者の自己啓発支援を行っていない割合が高く、OJTやOFF-JTの実施割合が低いことから、これらによる人的資本形成の機会提供が十分になされていないこともみてとれる(第2-3-13図)。

また、政府においても在職者や求職者、企業を支援する様々な教育訓練制度や人材開発支援制度が整備されてきた。これらの制度は一定程度活用されているものの、例えば感染症下の2020年度において、公共職業訓練の実績は伸び悩んでいる(第2-3-12図(2))。

企業は指導する人材や時間の不足、労働者は時間・費用負担等が学び直しの課題

それでは、企業や労働者にとって、学びを阻害している理由はどのようなものなのだろうか。社員の能力開発や人材育成に関する企業側の問題点をみると、指導する人材や人材育成を行う時間の不足を挙げる割合が高いほか、4割程度が人材を育成しても社員が辞めることを懸念していることがわかる(第2-3-14図(1))。

労働者側の自己啓発の問題点をみると、正社員を中心に仕事が忙しいために時間がないことを挙げる割合が大きい。また、正社員・正社員以外に共通する問題点として、費用負担の大きさに加え、必要な自己啓発の内容が把握できていないこと、キャリアパスが描けていないこと、自己啓発の結果が社内で評価されないことなども挙げられている(第2-3-14図(2))。

実際に、2019年には自己啓発を行っていなかった者46で、転職は行わず、2020年に新たに自己啓発を行った者の就業時間の増減をみると、就業時間が減少した者ほど自己啓発を開始している傾向が表れている(第2-3-15図)。感染症下においては、飲食店や娯楽施設の営業制限等もあったことから、就業時間の減少で生まれた時間を自己啓発に充てたこと、企業からのOJTやOFF-JTの提供が十分に行われない中で自ら学ぶことを選択した者が多かったことなどが示唆される。

処遇改善や年収増加に結び付く学び直しは一部にとどまる

このように、社会人が学びを開始するに当たっての課題として、様々なものが挙げられるが、実際に学んだ者には処遇やキャリアの変化がみられるのだろうか。大学等で学んだ者の2割程度が希望の仕事への転職を実現し、2割弱で年収が増加するなど、学び直しで成果を上げた者は一定程度存在している一方、業績向上、昇進、希望部署への異動に結び付いている割合は1割を下回っている(第2-3-16図(1)、複数回答)。また、2017年以降も同一企業で就業している者について、2017年以降のOFF-JTや自己啓発の継続実施の有無と年収の動向をみると、正規・非正規問わず、OFF-JTや自己啓発を実施している者ほど、継続して年収は高い(第2-3-16図(2))。

学びと年収増加との関係を把握するために、学歴や年齢、子どもの有無、従事する産業等の個人の属性による影響を制御した上で、OFF-JTや自己啓発を実施した者について、実施しなかった者と比較した際の同一企業内での年収の経年変化をみていきたい(付注2-3)。OFF-JTのみを実施した正規雇用者については実施2~3年目で年収が増加する傾向にある一方で、非正規雇用者については実施1~2年目で既に年収増加の傾向が表れている(第2-3-16図(3)<1>)。この背景として、OFF-JTを提供する企業が労働者に対し、即戦力としての活躍を期待し、学習機会を提供していることが考えられる。一方で、自己啓発のみを実施した者については、非正規雇用者で実施2年目の者を除いては、年収増加の効果は明確には確認できない(第2-3-16図(3)<2>)。なお、OFF-JT、自己啓発の双方を実施した者については、正規雇用者では継続的に、非正規雇用者においても実施2~3年目に年収増加を実現している傾向がみられる(第2-3-16図(3)<3>)。これらを踏まえると、OFF-JTを伴う学び直しは年収増加につながりやすい傾向にあるといえる。

これは、OFF-JTでは企業がその内容や時期を計画し、労働者の評価や処遇に反映しやすいのに対し、自己啓発は企業の求める内容と必ずしも適合しているとは限らず評価が難しいことが背景にあると考えられる。なお、自己啓発のみによる年収増加の効果は明確に確認できない一方、自己啓発のみを行っている正社員の年収はOFF-JTのみを行っている者に比べて高い傾向にある(前掲第2-3-16図(2)<1>)。これについては、元々年収の高い者が継続的に自己啓発を行っていることによるものと考えられる。

これらを踏まえると、企業側が中長期的に業務に必要な技術や能力等を明確化することにより、自己啓発を含めて、雇用者がそれらに対応した学び直しに一層取り組むことが可能となり、処遇改善や年収増加につながっていくことが期待される。

我が国の社会人学習は柔軟性に欠け、労働市場のニーズも満たしていない

仕事に関連する社会人学習への参加率をOECD加盟国間で比較すると、我が国においては、特に勤務先の費用負担がある学習への参加率が諸外国に比べて低く、OECD平均を下回っている(第2-3-17図(1))。OECD(2021b)によると、我が国においては、企業規模の違いに加えて、雇用形態・年齢等の違いにより、提供される学習機会に差が生じていることが指摘されている。また、提供される学習の内容・形態により、参加できる主体が限られることなども参加率を低くさせていると考えられる。

今後、デジタル化やグリーン化等を通じた構造変化が進展する中では、各自が就業しつつ、そのような変化に対応できるような新たな技術をどれだけ身に付けられるかが重要となる。このような問題意識の下、OECD調査における仕事に関連した社会人学習の整備度をみると、我が国においては「柔軟性とガイダンス」・「(市場ニーズとの)整合性」のスコアが非常に低い(第2-3-17図(2))。「柔軟性とガイダンス」のスコアの低さは、労働者に提供される学習機会が時間的制約や距離、費用面での制約を伴うものであることなどによる可能性が考えられる。また、「整合性」のスコアの低さは、教育訓練の内容が市場のニーズに十分に対応できていないことを示している。社会人による学び直しを後押ししていくためには、費用面での支援だけでなく、教育訓練内容を市場ニーズに対応したものとするとともに、デジタルも活用しつつ、より柔軟性の高いものとしていくことが求められる。

5 税・社会保障による再分配の現状と課題

我が国の税や社会保障を通じた再分配の仕組みは、国民の生活の安定に貢献してきている。ただし、受益は高齢世帯に大きく偏っているともいわれている47。再分配を通じた受益が様々な制度の整備により、現役世帯にどの程度広がっているのか、こうした中でどのような世帯が厳しい状況に置かれているのかを確認するとともに、資産形成の動向についても概観する。

ひとり親世帯の再分配前所得は厳しさが増している

年齢や子どもの有無等により社会保障給付・負担等に大きな違いがあることから、ここでは世帯類型別に1994年から2019年までの25年間の世帯当たりの所得分布の変化について確認する。以下、特に断らない限り、本項では、高齢者世帯以外の世帯類型の世帯主年齢は60歳未満である。はじめに再分配前の所得分布をみると、共働き世帯の増加もあり、夫婦のみ世帯では世帯所得が600万円以上の世帯、夫婦と子どもからなる世帯では世帯所得が1,000万円以上の世帯の割合が上昇している(第2-3-18図<2>、<3>)。また、単身世帯においては、世帯所得が300万円台の割合が最も大きい状況に変わりはないものの、300万円未満の割合が低下する一方、500万円以上の割合が総じて上昇している(第2-3-18図<1>)。しかしながら、ひとり親世帯では、世帯所得が300万円未満の世帯が6割以上を占める一方、300万円以上の世帯の割合が総じて低下しており、厳しさが増している。なお、高齢者世帯の所得分布には大きな変化はみられない(第2-3-18図<4>、<5>)。

税や社会保障による再分配効果は25年前と比べて向上

こうした中で税や社会保障による再分配はどの程度機能してきたのだろうか。2019年の全世帯の再分配前と再分配後の所得分布をみると、再分配後は100万円未満や700万円以上の世帯の割合が低下する一方、100万円から600万円までの世帯の割合が上昇しており、再分配機能は引き続き機能していることが分かる(第2-3-19図)。ジニ係数を簡易的に試算すると、2019年の再分配前のジニ係数は0.51であり、単身世帯や高齢者世帯の割合の上昇等を背景に、1994年(0.42)と比べて格差は拡大している。こうした再分配前の所得分布を反映し、2019年の再分配後のジニ係数(0.36)も1994年(0.33)より小幅高い水準にあるものの、再分配前から再分配後への改善幅は1994年よりも大きくなっており、再分配効果は高まっている48

ひとり親世帯は子育て関連の受益が増加する一方、年金等の受益が減少

続いて、再分配による各世帯における受益額・負担額をみていきたい49。単身世帯や夫婦のみ世帯は主に税や社会保障を負担する側であり、1994年に比べて2019年はその負担が増加している(付注2-4第2-3-20図<1>、<2>)。ただし、所得税・住民税は高所得者層を中心に負担額が減少している50。夫婦と子世帯やひとり親世帯では、児童手当の拡充や2019年から開始された幼児教育・保育の無償化等の影響により、児童手当を含む年金以外の現金給付等や保育、教育の受益が増加している(第2-3-20図<3>、<4>)。ただし、税や社会保険料負担は増加しており、受益の増加分は相殺されている。特に、ひとり親世帯においては、ひとり親になった理由が25年間で変化していることもあり51、低所得者層ほど年金52等の受益が減少するとともに、税や保険料の負担が増加しており、合計でみると負担の増加が受益の増加を上回る。なお、年金や介護等の主な受益者を含む高齢者世帯では、医療・介護の現物給付による受益の増加や所得税・住民税の負担減少により、ネットでの受益が増加している。一方、高齢者の就業者が増加する中で高所得世帯を中心に保険料負担が増加しており、社会保障制度を支える側に回っていることもうかがえる(第2-3-20図<5>)。

また、年金以外の現金給付等については、前述のとおり子どもを持つ世帯で受益が増加している一方、単身世帯や夫婦のみ世帯、高齢者世帯では受益が減少している。これらの受益増加の背景には、児童手当の支給対象年齢の引上げや所得制限の緩和、1995年の育児休業給付の創設とその後の給付率の引上げ、育児休業給付の受給者数の増加などがあると考えられる。

投資等による資産形成の促進が必要

最後に、年齢階級別に2019年の世帯当たりの資産負債の構造について確認したい。年齢が高まるにつれて、預貯金や株式等の有価証券保有額は増加しているものの、いずれの年齢層においても金融資産は預貯金中心となっている(第2-3-21図)。また、54歳以下の世帯では、金融資産に比べて住宅・土地購入等のための負債が大きく53、特に44歳以下の世帯では純金融資産はマイナスとなっている。

今後、人口減少・少子高齢化が一層進む下で再分配後の所得を高めていくためには、これまでみてきたような労働所得増加に向けた取組の着実な実施に加え、預貯金の一部を株式等の有価証券への運用に充当し、資産所得の増加につながる環境整備も求められている。「骨太方針2022」にも、NISA(少額投資非課税制度)の抜本的拡充やより豊かな老後生活を送るためのiDeCo(個人型確定拠出年金)制度の改革が盛り込まれている54。同時に、官民・金融機関・教育機関が連携し、子どもから高齢者まで幅広い層を対象とし、各年齢層に応じた金融経済教育プログラムを提供することも個人が将来に向けた資産形成に取り組むことに資すると考えられる。


(31)労働の質は、同じマンアワーの労働投入であっても、労働者が提供する労働サービスの違いによってGDPへの貢献が異なることを考慮するために推計される。一般的には、従業上の地位(雇用者・自営業主)、雇用形態(正規・非正規)、就業形態(一般・短時間)、年齢、学歴、勤続年数、企業規模といった属性により労働者を区分し、それぞれの属性グループの賃金と労働時間から得られる労働投入量の変化からマンアワーベースの労働投入量の変化を差し引いて計測される。詳しくは、牧野・高橋(2022)を参照。
(32)非正規雇用者比率は、2000年代から2010年代にかけて、男性では16.6%から21.5%に、女性では51.4%から55.7%に上昇している(2000~10年、2011~19年の平均)。
(33)一般労働者のうち大学・大学院卒業者、短大・高専卒業者の割合はそれぞれ以下のとおり。
(大学・大学院卒業者)
男性:1990年:約25%、2000年:約31%、2010年:約37%、2021年:約41%
女性:1990年:約5%、2000年:約12%、2010年:約20%、2021年:約29%
(短大・高専卒業者)
男性:1990年:約5%、2000年:約9%、2010年:約11%、2021年:約15%
女性:1990年:約19%、2000年:約29%、2010年:約32%、2021年約35%
短時間労働者のうち大学・大学院卒業者の割合は、男性約25%、女性約14%、短大・高専卒業者の割合は、男性約9%、女性約28%(2021年)。
(34)短時間労働者の割合はそれぞれ以下のとおり。
男性:2000年:約9%、2010年:約15%、2021年:約21%
女性:2000年:約36%、2010年:約43%、2021年:約49%
(35)労働者がその企業に雇い入れられてから、調査対象期日までに勤続した年数の平均。
(36)高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和46年法律第68号)に基づき、1986年10月、定年を定める場合の60歳以上定年が努力義務化され、1990年10月には、事業主に対し、定年到達者の65歳までの雇用の努力義務が課された。また、1998年4月には、60歳以上定年が義務化された。その後、2006年4月には、65歳までの高年齢者雇用確保措置が義務付けられた。雇用確保措置とは、<1>65歳までの定年引上げ(段階的な引上げ)、<2>定年制の廃止、<3>65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入(一部経過措置あり)、のいずれかの措置をいう。さらに、2021年4月には、65歳から70歳までの労働者に対し、事業主は就業確保措置を講じることが努力義務となった。就業確保措置とは、<1>70歳までの定年引上げ、<2>定年制の廃止、<3>70歳までの継続雇用制度の導入、<4>希望する場合は70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入、<5>希望する場合は70歳まで継続的に、事業主が自ら実施する社会貢献事業あるいは事業主が委託、出資等する団体が行う社会貢献事業に従事できる制度の導入、のいずれかの措置をいう。
(37)育児・介護休業法(平成3年法律第76号)は1992年4月に施行され、その後も育児休業期間の延長や時間外労働の制限など、累次の改正がなされてきた(1992年当初は育児休業法)。厚生労働省「雇用均等基本調査」によると、女性の育児休業取得率は、1996年度の49.1%から2002年度には64.0%、2010年度には83.7%と上昇が続いた。2020年度の取得率は81.6%(2020年10月1日時点)。
(38)ここでは、学歴に応じて就職年齢が異なること、データの制約上、1956~60年生まれについては、20~24歳時点での賃金水準が把握できないことから、各出生年代の25~29歳時点での実質賃金を100としている。
(39)女性では、男性に比べて出生年代別にみた20代時点の実質賃金の水準変化が大きく、また出生年代が遅いほど、同世代の男女間での20代時点の賃金水準の差が縮小している(付図2-2)。この背景には、前述の学歴の変化に加え、1986年に施行された男女雇用機会均等法(昭和47年法律第113号、前身は勤労婦人福祉法)の影響によるところが大きいと考えられる。
(40)過去の統計データに基づいた合理的判断から結果的に生じる差別。例えば、女性は男性に比べて育休や産休を取得するケースが多く、結婚や出産により退職する場合もあり、これらのデータを基に、企業が「女性は退職する可能性があるため、重要なポストに配属できない」と考えるのは統計的差別に当たる。
(41)例えば、女性は採用してもすぐに離職するとの見方が事業主間で共有され、男女間で能力等に差がないにもかかわらず、女性の正規雇用採用が控えられる場合には、男女間の正規・非正規雇用割合の差という構成要因による賃金の差が生じることとなる。
(42)例えば、事業主が大卒女性の能力は大卒男性より高いと考えて賃金を高く設定した場合、学歴への評価という構造要因により、男女間の賃金の差が生じることとなる。
(43)「就業構造基本調査」が5年に一度実施されるようになった最初の年が1982年であり、第2-3-3図の出生年代別の実質賃金カーブとして、1956~60年生まれの者の20代時点の状況を確認していることから、本分析に当たっては1982年からの変化について分析している。
(44)非正規雇用者のうち、可能な限り高校生や大学生等のアルバイトを除くため、22~34歳を対象としている。
(45)厚生労働省「能力開発基本調査」によると、正社員に対してOFF-JTを実施した事業所割合は、2010年度調査の約67%から2019年度調査では約75%に、正社員以外に対してOFF-JTを実施した事業所割合は、約31%から約40%に上昇している。
(46)2019年に1週間の就業時間が35時間以上あった者を対象としている。
(47)例えば白波瀬(2021)では、日本の再分配効果は大きく高齢層に偏っており、特に高齢一人暮らしや高齢夫婦世帯が再分配の恩恵を受けていることを指摘している。
(48)世帯人員の変化を加味した等価ベースでは、ジニ係数は以下のとおり。
(再分配前)1994年:0.40、2019年:0.48
(再分配後)1994年:0.29、2019年:0.31
(49)世帯類型別にみた再分配前・再分配後の所得分布は、付図2-6を参照。
(50)この背景には、所得税・個人住民税の税率の引下げ(付表2-2)に加え、世帯所得に占める配偶者所得の割合が高まった一方、適用される税率は個人単位のため、世帯の所得額が同一階層である世帯を比較する際に世帯としての税負担額が減少していることがあると考えられる。
(51)厚生労働省「全国ひとり親世帯等調査結果報告」(「全国母子世帯等調査結果報告」)によると、ひとり親世帯になった理由別の世帯構成割合は、以下のとおり大きく変化している。
(母子世帯)
・1993年…死別:24.6%、生別:73.2%(うち離婚:64.3%)
・2016年…死別:8.0%、生別:91.1%(うち離婚:79.5%)
(父子世帯)
・1993年…死別:32.2%、生別:65.6%(うち離婚:62.6%)
・2016年…死別:19.0%、生別:80.0%(うち離婚:75.6%)
(52)老齢年金に加え、障害年金、遺族年金、恩給を含む。
(53)総務省「住宅・土地統計調査」により2018年の持ち家率をみると、34歳以下では14.7%、35~44歳では50.2%、45~54歳では62.6%となっている。
(54)「経済財政運営と改革の基本方針2022」(2022年6月7日閣議決定)においては、「投資による資産所得倍増を目指して、NISA(少額投資非課税制度)の抜本的拡充や、高齢者に向けたiDeCo(個人型確定拠出年金)制度の改革、国民の預貯金を資産運用に誘導する新たな仕組みの創設など、政策を総動員し、貯蓄から投資へのシフトを大胆・抜本的に進める」こととされている。
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