第2章 労働力の確保・質の向上に向けた課題 第2節

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第2節 人材の活用に向けた課題

人口減少が進む中にあっても、2013年以降、女性や高齢者の労働参加が進んだことによりマンアワーベースの労働投入量(以下、特に断らない限り労働投入量はマンアワーベースを指す。)は増加してきた。団塊世代が後期高齢者となり始め、高齢化や人口減少が本格化する下で、今後、労働力はどの程度確保できるのだろうか。本節では、こうした労働の「量」という観点から、定量的に確認するとともに、労働者の一層の活躍に向けて、就業を阻害している要因や労働移動の促進に向けた課題について概観する。

1 人口減少と雇用の動向

はじめに、人口減少が雇用動向に与える影響を整理し、労働投入量が増加してきた要因を明らかにする。その上で、本格化する人口減少が労働投入量に与える影響を確認するとともに、労働投入量を確保するための対応について検討する。

人口要因による押上げが横ばいとなる中、女性の労働参加により就業者数は増加

前節では、我が国の人口及び15~64歳人口の動向について概観したが、ここでは高齢者を含めた15歳以上人口の推移をみると、少子化が進む一方で寿命の延伸に伴い高齢者数が増加したことから、1990年と比較して2021年には約1,000万人増加した(第2-2-1図(1))。ただし、15歳以上人口は2000年代後半以降横ばいとなり、2017年をピークに減少が続いている。これは少子化の進展により、新たに15歳になる子どもの数の減少が続き、死亡者数を下回るようになったことによるものである。一方、15歳以上人口のうち、就業もしくは求職により労働市場に参加している人の数を表す労働力人口は、1990年代後半から2010年代初めにかけて減少した後、感染拡大前まで再び増加し、感染拡大後は約6,900万人前後で推移している。

この背景には、女性の労働参加が進んだことがある。就業者数を要因分解すると、2010年代半ば以降の就業者の増加は女性の雇用率の上昇によるところが大きいことがわかる(第2-2-1図(2))。一方、男性の雇用率の寄与は小さく、自営業率の低下と併せると、労働参加要因は押下げに寄与している。男女ともに15歳以上人口の増加による押上げ幅は2017年以降、縮小傾向にあり、今後、人口減少が本格化する中でこうした傾向が一層進むと考えられる。なお、男女ともに自営業主や家族従業者として働く者の割合は低下傾向が続いてきたが、2010年以降はおおむね横ばいで推移している。

労働投入量は生産年齢人口や就業時間の減少により減少傾向

前節でみたとおり、我が国の実質GDP成長率に対する労働投入量の寄与は、2000年代は年平均で約0.3%ポイントのマイナス、感染拡大前までの2010年代は約0.2%ポイントのプラスの寄与となったことを示したが(前掲第2-1-4図)、その背景には何があるのだろうか。2000年と比較した労働投入量の変化について、人口、就業率、一人当たり就業時間に分解して確認することとしたい。

男性の労働投入量は、2010年代後半を除いて減少が続いており、その要因としては、65歳以上の人口がプラスに寄与してきた一方で、15~64歳の人口や一人当たり就業時間が押下げに寄与してきたことがわかる(第2-2-2図(1))。

一方、女性についてみると、男性と同様、15~64歳の人口や一人当たり就業時間が大きく押下げに寄与してきた一方で、就業率の上昇が大きくプラスに寄与してきた。これら全体としてみると、減少傾向が続いていた労働投入量は、2010年代半ば以降感染拡大前までの間は増加がみられた(第2-2-2図(2))。

人口減少の下、労働投入量は2040年まで年率0.6~1.1%程度減少

今後の人口減少や少子高齢化の一層の進展はどの程度、労働投入量の下押し圧力となるのだろうか。また、労働参加の進展によりその下押しをどの程度緩和できるのだろうか。その量感を把握するため、人口、就業率、一人当たり就業時間について一定の仮定を置き、2065年までの労働投入量の推移について簡単な試算を行う。

人口については、国立社会保障・人口問題研究所(2017)による人口見通しの出生中位推計と出生低位推計を用い14、人口見通しが公表されている2065年までを試算期間とする。就業率については、2040年までは労働政策研究・研修機構(2019)による成長実現・労働参加進展シナリオとゼロ成長・労働参加現状シナリオの2つを用い、2041年以降は2040年の値で横ばいとする(付表2-1)。以下、出生中位推計と成長実現・労働参加進展シナリオを組み合わせたものを「中位シナリオ」、出生低位推計とゼロ成長・労働参加現状シナリオを組み合わせたものを「低位シナリオ」として、試算結果を述べる。なお、一人当たり就業時間は働き方改革の進展もあり、これまでの減少傾向から大きな変化はないと想定し、2023年以降は一定水準で横ばいと仮定する15。これらの組み合わせにより試算を行うと、中位シナリオでは2025年から2040年にかけて年率平均0.6%程度のペース、2041年以降は同1.0%程度のペースで減少し、2065年の水準は2019年比で7割程度となる(人口は同72%程度)。低位シナリオでは、年率平均1.1%程度の減少ペース、2041年以降は同1.3%程度のペースとなり、2065年の水準は2019年比で6割程度にまで減少する(人口は同68%程度)(第2-2-3図)。その結果、2065年時点で中位シナリオの労働投入量は、低位シナリオの労働投入量の1.2倍程度となる。

これらを踏まえると、人口減少下における労働面からの成長への下押し圧力を緩和していくためには、女性や高齢者等の労働参加の促進と労働力の質の向上に取り組むとともに、少子化をできる限り早期に反転させていくことが必要である。

2 雇用形態の多様化と労働参加の促進

前項では、人口減少や少子高齢化の下、今後も労働投入量は減少が見込まれること、少しでもその下押しを弱めるためには、女性や高齢者等の一層の労働参加の促進が必要であることを確認した。それでは実際に、今後どのような層において更なる労働参加等が見込まれるのだろうか。本項では、雇用情勢の全体像を確認した上で、長期失業者や短時間就業者、無業者の動向を把握し、これらの者の労働参加の促進に向けた課題を整理する。

不本意非正規雇用・失業者・就業を希望する無業者は人口の1割弱程度

我が国においては、多様な雇用形態での労働参加が進んだとはいえ、全ての者が希望どおりに就業できているわけではない。はじめに、我が国の2021年の雇用情勢を概観し、今後の労働参加が期待される者の属性や規模感を明らかにしたい。男女別の15歳以上人口を65歳未満・以上に分けて就業状況別に分類すると、65歳未満では男性の約7割・女性の約4割が自営業や正規雇用の形態で就業しており、自発的に非正規の形態で就業している者を含めると、それぞれ約8割・約7割となる(第2-2-4図(1)、(2))。一方で、不本意非正規雇用者や失業者、現在無業者で就業を希望する者などを合計すると、男女それぞれ人口の1割弱程度であり、これらの就業を希望している層をいかに本人の希望する就業につなげるかが課題である。

また、65歳以上で自営業や正規雇用、自発的に非正規の形態で就業している者は、男女それぞれ約3割・約2割と低水準にとどまっている中で、家事等以外の理由により、就業を希望していない者が約6割・約5割と高い水準にある(第2-2-4図(3)、(4))。一方で、不本意非正規雇用者や失業者、現在無業者で就業を希望する者は男性では4%程度、女性では2%程度にとどまっている。65歳以上については、65歳未満に比べて割合は低いが、これらの就業を希望している層の希望を実現することも重要である。

感染症の影響もあって長期失業者や短時間就業者の就業時間増加希望者は増加

次に、失業者の動向について確認する。就業を希望しているにもかかわらず、1年以上失業状態にある長期失業者数の推移をみると、リーマンショックの影響により、2010年から2013年にかけて男女ともに高水準にあったものの、感染拡大前までは減少傾向が続いていた(第2-2-5図(1))。2021年には、感染症の影響を受け、男女ともに再び増加した。理由別にみると、男女ともに「希望する種類・内容の仕事がない」ことを理由に長期失業状態にある者が最も多く、求人と求職のミスマッチが引き続き大きいと考えられる(第2-2-5図(2))。こうした中、特に就職氷河期世代16に対しては、ハローワークに専門窓口が設置され、就職から職場定着までの一貫した支援や様々な教育訓練プログラムの提供などの就業支援の取組が実施されてきた。このような就職氷河期世代を対象とした取組の経験も踏まえつつ、就業経験のない者の就労を支援するトライアル雇用助成金や雇用保険を受給できない者の就労を支援する求職者支援制度などの一層の活用により、長期失業者の就労支援を強化していくことが求められる。

続いて、一週間の就業時間が35時間未満の短時間就業者数の推移を確認すると、多様な働き方の進展もあり、35歳以上の女性を中心に2019年まで増加傾向で推移し、2020年以降は、感染拡大を受けた休業や就業時間削減を背景に、更に増加している(第2-2-6図(1))。

短時間就業者のうち就業時間の増加希望者は65歳以上の男性や35~64歳の女性に多かったが、感染症下では全ての年齢層で増加し、男女ともに短時間就業者数の10%強が就業時間の増加を希望していることがわかる(第2-2-6図(2))。これらの層の希望を実現していくことも今後の労働投入量の確保につながるものと考えられる。

制度要因を背景に、女性の短時間就業者の多くが就業調整を実施

このような短時間就業者数の動向を踏まえ、女性の短時間就業者の年収動向を確認すると、その過半を占める年収100万円未満の者はおおむね横ばいで推移している。年収100~149万円の者は45歳以上の層を中心に増加傾向にあり、特に2018年以降、顕著に増加している(第2-2-7図(1))。

また、女性非正規雇用者の年収分布と就業調整の実施状況をみると、年収50~149万円の者のうち、4割程度を占める「配偶者のいる女性」が実際に就業調整を行っていることがみてとれる17第2-2-7図(2))。

こうした女性の就業調整の背景の一つとして、経済財政諮問会議(2022b)において有識者に指摘されているような、いわゆる「106万円・130万円の壁」18,19といった制度的要因が存在すると考えられる20。こうした中、女性の国民年金第3号被保険者(会社員、公務員などの第2号被保険者の被扶養配偶者)についてみると、人口構成の変化等の影響も考えられるものの、全体では減少が続いている中で、45~59歳の年齢層において緩やかな増加傾向にあることがわかる(第2-2-8図(1))。

加えて、第3号被保険者の就業割合が年々高まる中で、被保険者の適用対象外となる従業員規模の小さい企業に勤務する者も含まれている点については、注意が必要であるものの、一週間の就業時間は被用者保険の適用対象となる20時間をわずかに下回る「15~20時間未満」が最も多く、月額の賃金額をみても適用対象となる8.8万円(年収換算約106万円)をわずかに下回る「7.8~8.8万円」が最も多い状況となっている(第2-2-8図(2)~(4))。これらの点については、社会保険料は労使折半であることから、本人だけでなく勤め先の意向もあると考えられる21。こうした制度について、働き方に中立的なものにしていくことが重要である。被用者保険の適用対象は段階的に拡大されており、勤め先の企業規模要件の引下げにより、今後も更なる対象者の増加が見込まれている22。このような被用者保険の適用要件の見直しや最低賃金の引上げが進むことなど23により、就業調整の解消が進むことが求められる。

就業を希望する無業者等の労働参加の促進も重要

これまで失業者や短時間就業者の動向についてみてきたが、次に無業者の動向について確認することとしたい。まず、無業者のうち就業希望者について確認すると、全体の人数が減少傾向にある中、男性では65歳以上の高齢層が多くを占めているのに対し、女性では35~44歳を中心に幅広い年齢層において就業希望者が存在していることがわかる(第2-2-9図(1))。また、就業を希望する理由としては、特に女性において、1990年代は大多数を占めていた「収入を得る必要が生じた」を理由とする者が減少する一方、「社会に出たい」、「知識や技能を活かしたい」、「時間に余裕ができた」といった積極的理由を挙げる者はおおむね横ばいで推移している(第2-2-9図(2))。

次に、無業者のうち、非就業を引き続き希望する者について確認すると、男女ともに65歳以上の高齢層が多くを占めている(第2-2-9図(3))。次に15~24歳の若年層が多いが、これは当該年齢層に学生が多いことによるものと考えられる。これらの年齢層を除いた25~64歳の男女について、非就業を引き続き希望する理由をみると、男性では「病気・けがのため」、女性では「出産・育児・介護・看護・家事のため」が多数を占めている中で、「特に理由はない」や「仕事をする自信がない」といった理由による者が男女ともに一定数存在している(第2-2-9図(4))。就職氷河期世代の非就業者については、政府による就職氷河期世代支援策により、正規雇用への就業などの成果が上げられてきた24。これらの取組を継続するとともに、就職氷河期世代以外の者に対しても後述の教育訓練の提供等を通じて、活躍の機会を広げていくことが重要であると考えられる。

3 多様な働き方と労働移動の促進

第1項及び第2項では労働投入量の増加余地について確認したが、本項では労働移動の現状や感染症下での雇用維持の状況について整理し、既に就労している者の一層の活躍に向け、労働移動、副業・兼業等の課題について概観する。

感染症下で正規雇用の転職希望者が増加

はじめに、一般労働者の離職率及び入職率から2000年以降の労働移動の状況を確認すると、2000年代に比べて2010年代は、男女ともに離職率は低く、入職率が高い傾向にあった。また、男性よりも女性の方が離職率・入職率ともに高い傾向にあり、その要因としては、女性の方が男性よりも、結婚や出産、子育て等に応じて離職や転職、再就職を行う傾向にあること、女性の労働参加が進んだことなどが挙げられる。ただし、感染症下の2020年は、離職率・入職率は低水準にあり、労働移動は活発に行われなかった(第2-2-10図(1))。

一方、2013年以降の転職希望者数の推移をみると、男女ともに非正規雇用者では横ばいで推移する中、正規雇用者では、男女ともに増加が続き、感染症下においては、増加ペースが加速した(第2-2-10図(2))。2021年は合計で約837万人の転職希望者が存在している。この背景には、感染症の影響が大きかった業種を中心に、転職希望が高まった可能性や、テレワークの普及など働き方に変化が生じる中で、キャリアの見直しを考える者が増加した可能性があると考えられる。

ただし、転職者数と転職希望者数の合計に占める転職者数の割合(ここでは、転職希望実現率、という。)をみると、男女ともに3割程度にとどまっている(第2-2-10図(3))。人手不足が続く下で、このような転職希望者の円滑な労働移動を促していくことが求められる。

雇用調整助成金は引き続き失業率の上昇を抑制

一方、休業措置により雇用維持を図る企業に対する雇用調整助成金等25の政策支援等もあり、雇用が維持され、失業率の上昇が抑制されたことは、これまでも指摘されてきた26。雇用調整助成金の支給決定件数を業種別にみると、飲食店や宿泊業等のサービス業を中心に活用されている(第2-2-11図(1))。雇用調整助成金の毎月の支給決定額を毎月勤労統計調査の定期給与額で除することにより、簡易的に支給対象延べ人数を試算すると、2020年8月をピークにその人数は減少している(第2-2-11図(2))。これを受け、雇用調整助成金の支給対象延べ人数が労働力人口に占める割合は、ピーク時には3%台後半程度、2021年以降もおおむね1.0~1.5%程度で推移している。感染拡大後、失業率が2%台後半から3%程度で推移してきたことと比較するとその規模は大きく、依然として失業率の抑制に寄与している(第2-2-11図(3))。

幅広い業種において在籍型出向を実施

このような休業措置に加え、企業は産業雇用安定助成金を活用し、グループ企業やそれを超える形での在籍型出向により雇用の維持を図ってきた。業種別にみると、航空運輸業を含む運輸業・郵便業や製造業、宿泊業・飲食サービス業といった業種を中心に、幅広い業種において、同業種・異業種問わず、在籍型出向を実施している(第2-2-12図(1)、(2))。本助成金の活用に当たっては、雇用者は出向期間終了後、元の事業所に戻って働くことが前提とされており、出向先で新たな知識や技能を身に付け、出向元で還元することが期待されている27

このような労働力の過不足状況に応じた労働移動が感染症下のみならず日常的に実施されることになれば、雇用者の人材育成やキャリアアップにつながるとともに、企業も雇用者の知識や技能を有効に活用することが可能となることから、在籍型出向の活用・浸透が進むことが期待される。加えて、こうした在籍型出向の広がりを契機として成長分野への円滑な労働移動が促されることが期待される。

副業・兼業は若年層中心に行われ、現時点で広がりはみられない

次に、副業・兼業の実施状況について確認したい。リクルートワークス研究所の「全国就業実態パネル調査」を用いて副業・兼業の実施状況を男女別・年齢別に確認すると、男女ともに若年層ほど実施率が高く、特に29歳以下の女性では、2017年から感染拡大前の2019年にかけて、副業・兼業実施率が5%ポイント程度上昇している。一方、30~50代の女性の実施率は10%超程度の水準で横ばいで推移している。男性では年齢が高くなるほど実施率が低下する傾向にあるが、そうした中で30代や50代では、2019年にかけて実施率がわずかながら上昇している(第2-2-13図(1))。副業・兼業からの年収をみると、男性においては年齢が高くなるほど高い傾向がみられる(第2-2-13図(2))。また、感染症下では特に29歳以下の男性の副業・兼業からの年収が高まる動きがみられた28

副業・兼業の内容について確認すると、主業の職種と同職種の副業・兼業に従事している者の職種別構成割合は、男女ともに若年層ではサービス職が大きい一方で、年齢が高くなるにつれて、事務職や医療等の専門職で大きくなることが特徴として挙げられる(第2-2-13図(3))。なお、50代男性の副業・兼業からの年収が高い背景としては、管理職の立場の者が同様の立場での副業・兼業を行っており、得られる収入が大きいことがあると考えられる。一方、主業の職種と異なる職種の副業・兼業に従事している者の副業の種類別構成割合をみると、若年層を中心に、アンケートへの回答や飲食・コンビニでの就業等、比較的手軽に取り組みやすい内容の副業が行われている(第2-2-13図(4))。

副業・兼業実施者が実感する効果としては、収入面に加え、新しい知識やスキルの獲得、仕事のやりがいなどを挙げる割合が大きい(第2-2-13図(5)<1>)。一方、副業・兼業の難しさとしては、休息時間の減少や体力面や健康面の管理、本業・プライベートとの両立を挙げる割合が大きく、期待したほどの収入が得られないことを挙げる声も多い(第2-2-13図(5)<2>)。副業・兼業者を受け入れた企業は、社内人材にはない知識やスキルを持った人材を確保することができたことや、人手不足解消、イノベーション創発等の効果を挙げる割合が大きい(第2-2-13図(6)<1>)。一方、課題としては情報漏えいや長時間労働、利益相反のリスクなどが挙げられている(第2-2-13図(6)<2>)。

副業・兼業を実施する働き手や受け入れ企業が実感する効果を踏まえると、副業・兼業は労働者の職業選択の幅を広げ、多様なキャリア形成に資することも期待されるほか、人手不足に対応するための有効な手段になり得ると考えられる。副業・兼業の成功例や課題克服の経験の共有、ガイドライン普及等の政府による後押しを通じて、取組が広がっていくことが期待される。

30代の男性、40代・50代の女性の転職率が上昇傾向

最後に、転職を伴う労働移動の状況についてみていきたい。常用労働者29の労働移動について、2000年以降の転職入職率(常用労働者のうち過去1年間に転職により入職した者の割合)の推移をみると、男性では29歳以下の若年層や40~50代が横ばい圏内で推移する一方、30代は2010年以降、緩やかに上昇している(第2-2-14図(1))。女性については、2010年以降、40代や50代の転職入職率が緩やかな上昇傾向にある。なお、結婚や出産、子育て等による影響や労働参加の進展から、30~40代では男性に比べてその水準が高い。転職理由としては、男女ともに、若年層では労働条件の悪さや職場の人間関係を挙げる割合が大きいのに対し、30~40代になると男性では会社の将来への不安や自身の能力・個性・資格が生かせないこと、女性では収入の少ないことを挙げる割合が高まっている。50代になると、定年・契約期間の満了や会社都合といった、いわゆる非自発的な理由による転職割合が大きい。

それでは、このような転職は賃金の増加を伴っているのだろうか。2020年は感染症の影響が表れている可能性があることから、2019年における一般労働者間での転職入職者の前職からの賃金変動状況を確認すると、男性では30代以下、女性では30~40代で賃金が増加した者の割合の方が減少した者の割合よりも大きい(第2-2-14図(2))。50代になると、男女ともに転職後の賃金が減少した者の割合の方が増加した者の割合よりも大きい。

この点について、正社員から正社員に転職した者の転職前後の年収の推移について確認すると、データのサンプルサイズが限定されることには注意が必要であるが、34~49歳では、同業種間転職を行った者の方が異業種間転職を行った者に比べて転職前年、転職1年後ともに年収は高い傾向にある(第2-2-14図(3))。また、同業種間・異業種間ともに49歳以下では転職1年後の年収が転職前に比べて増加している一方、50歳以上では減少する傾向にある。さらに、49歳以下における転職1年後の年収の上昇率は異業種間転職よりも同業種間転職の方が高い。こうした背景には、年功型賃金の存在もあり、未経験者として採用される若年層では転職後も賃金が上昇する余地がある一方、年齢が高いほど経験者として採用され、賃金が伸びる余地が大きくないこと、50歳以上では、上述の非自発的な理由により相対的に年収が高い企業から年収が低い企業への転職が行われていることなどがあると考えられる30。なお、異業種間転職者の34歳以下や34~49歳において、転職前に比べて転職した年の年収が減少しているが、これは転職年には賞与が支給されないケースがあることなどによるものと考えられる。

こうした動向を踏まえると、転職入職率が上昇傾向にある男性の30代や女性の40代では、総じてみると賃金の増加を伴う転職が行われているとみられる。一方、男性の40代や50代については、賃金の増加を伴う転職が相対的に少ない中で、転職入職率が低い水準で横ばい圏内の動きとなっている。こうした年齢層の人材が十分に活躍できているか、一層の活躍を後押しするためにはどのような方策が有効かの検証は今後の重要な課題であると考えられる。


(14)厚生労働省「人口動態統計」によると、2021年の出生数は、感染症の影響もあり、約81万人と過去最少となり、出生中位推計の水準(約89万人)を下回っている。
(15)本試算では、週休三日制導入等の制度的な変更に関する影響は考慮していない。「経済財政運営と改革の基本方針2022」(2022年6月7日閣議決定)においては、「選択的週休三日制度については、子育て、介護等での活用、地方兼業での活用が考えられることから、好事例の収集・提供等により企業における導入を促進し、普及を図る」こととされている。また、リクルートワークス研究所(2022)では、各国の週休三日制導入事例を紹介しており、その場合、一週間の労働時間は変わらないか減少している。
(16)内閣官房(2022)では、就職氷河期世代の明確な定義は存在しないものの、おおむね1993~2004年に学校卒業期を迎えた者を指すとしている。浪人・留年等を経験していない場合、2022年4月現在、大学卒であればおおむね40~51歳、高校卒であればおおむね36~47歳を迎えた世代であるとされており、大学卒であれば1971~82年、高校卒であれば1975~86年生まれとなる。
(17)年収50~149万円の女性非正規雇用者のうち、配偶者なしで就業調整を行っている者は15~24歳が多く、学生アルバイトによるものと考えられる。
(18)「106万円・130万円」の壁については、短時間労働者に対する被用者保険の適用が年収106万円(月額賃金8.8万円)以上等の要件を満たすこと、健康保険及び国民年金の被扶養者認定基準が年収130万円未満であることによるもの。被扶養者が、被用者保険の適用事業所で就労し被用者保険に適用された場合や、被用者保険を適用されずに年収が130万円以上となった場合は、自身で保険料を負担する必要が生じる。
(19)経済財政諮問会議(2022b)では、女性の労働参加が進む中で、「特に子育て世帯では、依然として106万円・130万円等の壁を背景に非正規雇用にとどまる傾向が顕著」であるとされ、女性の活躍促進に向けて、「同一労働同一賃金の推進、被用者保険の適用拡大、非正規雇用を含めた人材投資の強化など正規・非正規の処遇格差や男女の賃金格差を徹底して是正し、106万円・130万円等の壁の是正に取り組むべき」とされている。
(20)納税者本人が配偶者控除を受けられなくなる配偶者の年間の給与収入が103万円、配偶者特別控除額について満額での適用が受けられなくなる税制上の基準額が年収150万円であり、これらを超えると、増加分に対して課税がなされ、控除額が減額される。これらの基準額を超えることにより可処分所得が減少することはないため、これらは「壁」ではない。ただし、配偶者手当が支給されている企業において、これらの基準額が配偶者手当の支給基準として援用されている場合もあることから、配偶者の就業に影響を与えているとみられる。内閣府(2021)第3-2-5図を参照。
(21)例えば、第10回社会保障審議会年金部会(2019年9月27日)参考資料1の29ページを参照。
(22)2020年6月に公布された「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第40号)により、被保険者の適用対象となる勤め先の企業規模要件は、現行の従業員数500人超の企業から、2022年10月以降同100人超の企業に、2024年10月以降同50人超の企業に順次拡大される。
(23)被用者保険に加入することの様々なメリットについては、事業主、労働者双方に対して周知広報が実施されている。
(24)内閣官房(2022)によると、ハローワークの職業紹介により、2020年4月~2022年3月までに就職氷河期世代の不安定就労者・無業者の約20万人が正社員に就職した。また、2020年度から、地域若者サポートステーション事業の支援対象年齢が従来の15~39歳から15~49歳に引き上げられた。
(25)雇用調整助成金・緊急雇用安定助成金、休業支援金・給付金は、累積でそれぞれ約5.9兆円(2020年4月以降、2022年7月1日時点)、約3,160億円(2020年7月以降、2022年6月30日時点)の支給が決定されている。
(26)内閣府政策統括官(経済財政分析担当)(2021)第2-3-5図を参照。
(27)厚生労働省(2021)によれば、産業雇用安定助成金を活用して在籍型出向を実施した企業や出向労働者に対するアンケート調査の結果、在籍型出向のメリットとして、<1>出向元企業は労働意欲の維持・向上(63%)、能力開発強化(59%)、<2>出向先企業は自社従業員の業務負担軽減(75%)、即戦力の確保(52%)、<3>出向労働者は能力開発・キャリアアップ(67%)、雇用の維持(46%)を主な理由に挙げている。
(28)内閣府政策統括官(経済財政分析担当)(2022)において、2020年は、感染症の影響により、男女の非正規雇用者において、生計維持や貯蓄・自由に使えるお金の確保を理由として、副業・兼業を実施した者の割合が2019年に比べて上昇していることが指摘されている。
(29)「雇用動向調査」でいう常用労働者とは、<1>期間を定めず雇われている者、<2>1か月以上の期間を定めて雇われている者、のいずれかに該当する者をいう。
(30)阿部(2005)や児玉他(2005)は、<1>年齢が高いほど、<2>異業種間で転職した者ほど、<3>自発的転職よりも非自発的転職を行った者ほど、転職前後の賃金変化に負の影響が大きいことを示している。
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