第1章 経済財政の動向と課題 第4節

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第4節 本章のまとめ

本章では、感染症後の経済動向について、マクロ面から整理した。最初にGDP統計等を用いて最近の経済全体の動きを概観した上で、家計部門、企業部門の感染症後の状況を確認した。また資源価格が上昇する中で、我が国の物価上昇に与える影響やその広がりを確認するとともに、デフレ脱却に向けた進捗、賃金上昇に向けた課題を点検した。最後に、感染症下も含めてこれまでの財政状況を振り返りながら、財政健全化も含めた今後の経済財政運営についての課題を整理した。

我が国経済は、ウィズコロナの考え方の下で経済社会活動を極力継続できるよう取り組んだことにより、感染拡大が経済に与える影響は以前と比べて小さくなっている。個人消費についても、2022年3月以降は持ち直しの動きがみられており、特にワクチン接種の進展などにより重症化割合が低下する中で、今後は、若者を中心に消費が活性していくことが期待される。一方で、ウクライナ情勢の長期化などが懸念される中での原材料価格上昇や供給面での制約、金融資本市場の変動等が我が国経済の下振れリスクとなっている。このため、こうした景気の下振れリスクに適切に対応し、感染症の影響下での経済社会活動の回復を確かなものとすることが重要である。これに加えて感染症後は、出張や歓送迎会の減少、テレワークの普及等を通じた新たな働き方や暮らし方の可能性の広がりなど、新たな行動様式による影響もみられ始めている。また、世界的な供給制約によるサプライチェーン再構築、世界的に進展するデジタル化・グリーン化など、企業は新たな課題に対応する必要に迫られている。こうした変化に対応しつつ、家計部門については、2020年に大幅に拡大した貯蓄超過が当面、個人消費を下支えし、継続・安定的な賃上げ等を通じて個人消費の回復が力強さを増していくことが期待される。また、2000年代を通じて貯蓄超過が続く企業部門については、新しい資本主義の下、より積極的な投資を引き出す取組を進めることで「成長と分配の好循環」を実現し、経済を民需主導の自律的な成長軌道に乗せていくことが重要である。

原材料価格の上昇等を背景として、我が国物価はエネルギー・食料品だけではなく、それ以外の品目にも価格上昇の広がりがみられている。こうした物価上昇がマインドの悪化や実質購買力の低下を通じて、民間消費や企業活動を下押しするなど、実体経済への影響が顕在化する可能性に注意が必要である。こうした中で、原材料価格の上昇を受けて我が国経済がスタグフレーションに陥るリスクを指摘する声もある。しかし、我が国経済は持ち直しの動きが続いており、また現時点で原油価格等の上昇に起因する輸入インフレにとどまり、消費者物価上昇率や期待物価上昇率も欧米と比較しても著しく高い状況ではないことから、いわゆるスタグフレーションと呼ばれる状況にはない。今後、我が国経済がスタグフレーションに陥らないためにも、むしろ今こそ、継続的・安定的な賃上げと需給ギャップの着実な縮小が求められる。このため、賃金引上げの社会的雰囲気を醸成していくとともに、経済や物価動向等に関するデータやエビデンスを踏まえ、適正な賃上げの在り方を官民で共有し、継続的・安定的な賃上げが行われる環境を作っていくことが重要である。また、所得流出による景気の下押し圧力に適切に対応し、需給ギャップを着実に縮小させていくため、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する取組を一体的に進めていくことが求められる。

感染症下では、PB赤字が拡大し、債務残高が大きく積み上がったが、増加傾向が続いてきた医療費が減少するという動きもみられた。一方、一日当たりの医療費の大幅な増加や感染症以外の病気による死亡者数の減少など、過去に経験したことのない動きもみられた。こうした過去に類例のない動きの中に今後の医療サービスの質の向上や効率化につながる要素がないかを検証していく必要がある。また、大規模な経済対策等により事業や雇用など成長の基盤が維持されたことで税収の落ち込みは回避されたが、この基盤を持続的な経済成長へとつなげていくことこそが重要な課題である。第2次安倍内閣発足以降の財政状況を振り返ると、歳出改革に加えて、経済成長が財政の改善に果たした役割が大きかった。経済あっての財政であり、経済をしっかり立て直した上で、官民連携での計画的な投資等を通じた経済成長の実現、持続可能な社会保障制度の構築、財政健全化を一体的に推進していくことが必要である。

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