第3章 雇用をめぐる変化と課題 第3節

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第3節 本章のまとめ

本章では、雇用と働き方について、感染拡大以前からの動きも踏まえつつ、最近の変化と関連する政策上の課題を整理した。第一に、日本の人口は2008年の1億2,808万人をピークに減少に転じる一方で世帯数は増加し、世帯構成の単身化が進むと同時に高齢化も進んでいる。こうした中、雇用をめぐる変化としては、まず、いわゆる共働き世帯の増加にみられるように、続柄が世帯主の配偶者にある女性の就業が進んでいることに加え、2010年代に単身女性の雇用者も大きく増加していることを示した。また、男性については高齢期の雇用増も反映し、契約社員や嘱託等の雇用形態が増加している。さらに、いわゆる不本意非正規と呼ばれる者の割合は、2013年に比べて大きく減っていることも示した。感染拡大前の2019年までの一人当たり労働時間の減少の5割程度は、女性も含めた、65歳以上の高齢期の雇用の増加といった、雇用構造の変化(パートタイム労働者比率の上昇)によるものと分析した。

第二に、2020年以降の感染拡大に伴い、雇用変化には国内外に類似の傾向がみられている。それは、感染対策として営業の自粛を余儀なくされている業種での雇用減だけでなく、そうした業種での雇用者は、雇用形態ではパートタイム、属性としては若者及び高齢者、男性よりも相対的に女性、学歴にみる教育期間別では短期間が多いということである。我が国をみると、こうした業種での雇用は2021年に入ってからも依然戻っていないが、女性は他業種への移行を含めた形で再就業をする例もあり、65歳以上の女性は、正規・非正規のいずれの雇用形態においても、2019年に近い水準で推移している。64歳以下の女性は、正規が増加傾向、非正規は減少傾向で推移している。こうした動きの背景としては、医療・福祉業などにおける基調的な正規雇用者の増加があるほか、いわゆる働き方改革の一環として、パートタイム・有期雇用労働法が2020年4月から大企業(2021年4月から中小企業)に対して施行されたことが影響している可能性も考えられる。

第三に、テレワークの広がりである。テレワークができる雇用者割合は、おおむね3割程度という推計もあり、業種レベルでのテレワーク率をみると、ルーティン化した仕事はテレワークには馴染みにくいという傾向も確認できる。また、テレワークは通常の職場勤務に比べて、雇用者が感じる主観的な労働生産性は「低下した」という回答が多く、2020年に比べると、2021年は全体の実施率の水準が高まった中で、テレワークを中心とした者の割合は低下している。主観的な労働生産性が低下する要因としては、同僚や取引先等とのコミュニケーションの難しさに伴うもの、との指摘が多くみられており、実際のテレワークの動向をみても、職場勤務とテレワークを組み合わせる型へ働き方の移行もみられ、労働生産性の改善が期待される。また、感染防止の観点からは、弾力的にテレワークの実施率が高められるような仕組みが必要である。

次に、雇用をめぐる課題として、雇用者に対する投資と就業促進に向けた社会保障制度の見直しについて整理した。労働生産性を引き上げるためには、設備だけでなく人への投資も重要であるが、統計の示すところによると、企業の従業員への投資機会や金額は低迷している。他方、アンケート調査への回答を見る限り、いわゆるリカレント教育へのニーズは一定程度みられており、その動機については、現在の仕事にいかすためが多いものの、転職活動に備えるため、今後のキャリアの選択肢を広げるためといった先を見据えたものも多い。「経済財政運営と改革の基本方針2021」においても、ライフステージに応じたリカレント教育機会の積極的な提供についても取り組んでいく方針が示されており、こうしたニーズを満たしつつ、成長に資する人的投資が増加することが期待される。

最後に取り上げた社会保障制度の見直しは、高齢期の雇用を促す年金制度の改革や女性の雇用を促す社会保険制度の改革の進捗確認である。いずれも制度変更が段階的に施行されているところであるが、追加的な課題としては、例えば、企業が支給する配偶者手当の支給要件にみられる配偶者の収入制限によって生じる就業調整へのインセンティブを解消すること等がある。加えて、感染拡大を契機として、第二のセーフティネットを強化しているところだが、社会経済構造の変化に伴って生じる雇用の流動化等に雇用者が対応しやすいように、退職金の算定方法等にみられる離転職へのディスインセンティブを解消することも課題として指摘している。

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