第1章 我が国経済の現状とマクロ面の課題 第2節
第2節 需給変動による雇用、物価、金融の動き
本節では、マクロの需給動向をみた上で、雇用動向とともに、賃金や物価などの価格面を中心に、2021年前半までの動きを確認する。あわせて、日本銀行の金融政策の動向についても概観する。
1 需給バランスと雇用
はじめに、マクロの需給動向を確認した上で、感染症が雇用に与えた影響などについて確認する。
●需給ギャップは残るものの失業率の上昇は抑制
需給状況をGDPギャップの動きから確認すると、大規模な財政出動を実施する中にあっても、2020年4-6月期は-10.5%と大幅に悪化した。その後、GDPギャップのマイナスは縮小傾向で推移したものの、2021年1-3月時点でも依然として-4%程度のGDPギャップが残っている(第1-2-1図(1))15。マイナスのGDPギャップは、失業者数の増加要因となるが、失業率は3.0%程度で推移している(第1-2-1図(2))。
こうしたGDPギャップと失業率との関係について、時差相関を踏まえた長期推移を描いてみると、右下がりとなる。ただし、両者の関係は政策介入によって一様ではなく、例えば、リーマンショック時には、GDPギャップが大幅マイナスとなり、失業率も2009年7-9月期には5.4%にまで上昇したが、感染症の影響を受けた昨年以降は、企業による雇用維持の取組と雇用調整助成金等16の政策支援等もあって、失業率の上昇は抑制されている(第1-2-1図(3))17。このように雇用面への政策効果は大きかったが、経済回復に向けては、民需の回復が不可欠であり、当面の間は、一定程度の財政による下支えを続けつつ、民需中心の自律的な成長への円滑な移行を図ることが重要である。
●就業率の回復程度には、年齢や性別による違いが残る
マクロ的な失業率の上昇が抑制されているということは、就業意欲のある者の失業を回避できていることにはなるが、就業を諦めて非労働力へ移動した可能性は残る。そこで、就業率の動きをみると、全体としては2020年の感染拡大前の水準へ回復しているものの、男女別・年齢階層別には違いがみられる。
2020年1-3月期を基準にした指数によって推移をみると、男性の25~64歳の就業率は、感染拡大を受けて若干低下したものの、2020年後半以降にはおおむね感染拡大前を回復し、安定的に推移している(第1-2-2図(1))。一方、男性の15~24歳の就業率は、感染拡大後に大きく低下しており、その後は回復したもののいまだ感染拡大前には戻っていない。こうした若年就業者は、対人サービス業種に多く就業しており、勤め先の休業や事業縮小によって離職し、失業や非労働力へと転じたことがうかがえる18。男性の65歳以上の就業率についても、感染拡大後に低下がみられたが、年後半にはそれ以前の水準へと回帰していた。ただし、2021年4月以降に大きく低下しており、この背景を産業別の就業者数の変化からみると、製造業や建設業の減少寄与が大きいことが分かる(第1-2-2図(3))。
次に、女性の就業率についても年齢階層別に推移をみると、2020年の感染拡大直後には、全年齢階層で就業率が大きく低下した。子育て世代を含む25~64歳については、学校の臨時休業の影響もあって就業率は低下したが、2020年後半にはこうした要因も解消されたこともあり、2021年には感染拡大前の水準を回復している(第1-2-2図(2))。また、65歳以上の就業率は振れが大きいものの、2020年後半には感染拡大前の水準へ戻っている。しかし、15~24歳の就業率は、振れを伴いながら緩やかに上昇していたものの、2021年4月以降に再び急落している。男性高齢者と同様、産業別の就業者数の動きをみると、15~24歳の女性就業者は、緊急事態宣言の影響を受ける小売業や生活関連・娯楽業を中心に減少している(前掲第1-2-2図(3))。このように、就業状況には、性別・年齢による違いが生じているが、総じてみると、2021年に入り、高齢男性や若年女性の就業回復が遅れ気味となっている(感染症下の雇用動向は、3章も参照)。
●産業別にみると、生産性の低下を伴いながらも雇用拡大を図る業種もある
こうした就業動向について、ここでは企業側の統計から動きをみていこう。企業の中では、生産活動の程度に応じて雇用者数や労働時間が変化すると考えられるため、鉱工業生産指数及び第3次産業活動指数の生産活動量、労働投入量(労働時間、雇用者数)、それらの比率である労働生産性の推移をみていく19。
まず、製造業をみると、生産活動量は、2020年5月に20%程度(2020年2月対比)低下した。生産減少に合わせた投入量減少の半分程度は労働時間の減少によるものであり、また、生産減少に対して労働投入量の減少は大きくなかったことから、結果として労働生産性も同程度低下していた。その後、2021年に入り、生産活動量はおおむね感染拡大前の水準に戻って推移している(第1-2-3図(1))。非製造業については、全体でみる限り、感染拡大後の落ち込みは製造業の3分の2程度にとどまっており、その後は若干のマイナス(2020年2月対比)で推移しているが、業種間の違いが大きい。
特に、経済活動制限の対象となった宿泊業・飲食サービス業や生活関連サービス業・娯楽業では、2020年の緊急事態宣言時に50~60%の生産活動量の低下(2020年2月対比)がみられ、その後も30~40%程度のマイナスが続いている。これらの業種では、労働時間の減少と労働生産性の低下のみならず、雇用者数の減少寄与も目立っており、やむを得ずに雇用量を減らしている様子がうかがえる。一方、情報通信業や教育・学習支援業においては、雇用者数が増加に寄与しているものの、生産活動量は横ばいで推移しているため、結果的に労働生産性は低下傾向を示している(第1-2-3図(2)~(9))。これは、感染終息後にも期待される業務拡大、あるいは教育などではICT活用への事業展開も視野に、当面の労働生産性は低下することを許容しつつ、雇用拡大を図っているとも考えられる。なお、雇用減少が生じている宿泊業・飲食サービス業や生活関連サービス業・娯楽業では、雇用者に占める若年女性の比率が高いことからも、雇用者側からみた動向と整合的な結果となっている。
2 賃金と物価の動き
マクロ面の需給バランスは需要不足であることから、賃金や物価には下押し圧力が生じている。他方、労働市場では、政策による下支えに加えて、労働力が減少していくという企業側の見込みもある。物価については輸入物価による押上げもある。こうした複数の要因を踏まえながら、本項では、こうした賃金や物価の動向について概観していく。
●一般・パートの賃金はいずれも持ち直し
雇用者の賃金動向について、現金給与総額の推移を感染拡大前の2019年と比較すると、2020年後半以降持ち直しがみられ、ボーナスを含む特別給与の影響が大きい月を除けば、現金給与総額のマイナス幅は縮小傾向を示している(第1-2-4図(1))。一般労働者・パートタイム労働者それぞれの現金給与総額について、所定内、所定外、特別の給与項目別寄与をみると、一般労働者については、所定内給与は2020年の後半からマイナス幅の縮小が始まり、2021年にはプラスへと転じている。残業時間に連動する所定外給与のマイナス寄与は、生産活動の持ち直しに合わせて縮小傾向が続いており、ボーナスを含む特別給与の一時的な押下げを除けば、おおむね2019年と比較して同水準へと回復している(第1-2-4図(2))。一方、パートタイム労働者については、感染対策に伴う休業実施等の影響もあり、所定内給与に不定期の減少がみられる。所定内の労働時間が減少していることに加え、残業時間も低水準となっており、所定外給与もマイナス寄与が続いている。ただし、一般労働者とは異なり、ボーナスを含む特別給与は、2020年の夏以降、非正規雇用の処遇改善を反映し、プラスで推移している。これらの結果、2020年後半以降の現金給与総額は、振れを伴いながらも横ばいで推移している(第1-2-4図(3))。
このように、賃金動向については、対面型のサービス業を中心に人為的な活動制限が続いていることから、勤務時間に連動する所定外給与やパートタイム労働者の所定内給与等には引き続き弱い動きが残るものの、一般労働者の所定内給与等には底堅さがみられることから、経済活動の制限が緩和されるにつれ、増勢が顕在化していくものと期待される。
●市況品を中心に価格上昇はみられるものの、業種により価格転嫁の程度には違いがみられる
次に、物価動向について確認しよう。まず、海外からの輸入物価は、2021年に入り、大幅に上昇している。これは、2020年前半には大幅に下落していた原油価格が、世界的な経済活動の再開に伴って需要が増加し、上昇したことによる。こうした動きは、石油・石炭・天然ガス、金属等の資源価格にもみられる(第1-2-5図(1))。国内企業物価をみても、このような市況の動向を反映し、石油・石炭製品や非鉄金属、また化学製品のプラス寄与を背景に、2021年に入り、上昇がみられている(第1-2-5図(2))。
他方、企業向けサービス価格については、2020年夏以降の経済活動再開に伴う内需の持ち直しを背景に持ち直しがみられ、2021年に入ってからは、特に前年大きくマイナスに寄与した広告や不動産が、プラスに転じている。また、人件費要因が影響しやすい諸サービスについてもプラスに寄与している(第1-2-5図(3))。
資源等の市況品の価格上昇により、国内企業物価にも動きがみられているが、日銀短観により、化学や石油・石炭製品、鉄鋼、非鉄金属等の素材業種とそれ以外の加工業種の疑似交易条件(販売価格DI-仕入価格DI)の動きをみると、素材業種では、仕入価格DIほどではないものの、販売価格DIも上昇しており、交易条件の変化は抑制されている。他方、加工業種においては、販売価格DIは余り上昇しておらず、利ざやの縮小が生じる可能性もある(第1-2-6図(1))。
こうした疑似交易条件の変化について、2020年12月と2021年6月を比較し、より細かく業種別にみると、木材・木製品、運輸・郵便、化学といった業種において、悪化幅が大きい。今後、これらの業種では、販売価格を引き上げることで転嫁を進めなければ、収益悪化につながるリスクが顕在化する(第1-2-6図(2))。
●消費者物価はおおむね横ばいで推移
前述のとおり、企業が直面する価格体系においては、輸入財を中心に上昇がみられるものの、企業物価内での価格転嫁は加工型製造業を中心に進展していない面もある。一方で、輸入価格の上昇は、時間経過とともに消費者物価へと転嫁されることになる。現状の物価動向について、生鮮食品を除く総合(コア)をみると、企業物価の動きにラグを伴いながら、ガソリン代や電気代等によって構成されるエネルギーの寄与がプラスに転じている。また、2020年に実施されたGo Toトラベル事業等に加え、2021年4月以降は、携帯電話の低料金プランの提供開始による携帯電話通信料の引下げの影響20が現れており、これらを政策等による特殊要因として除外した系列の動きをみると、緩やかな上昇がみられる(第1-2-7図(1))。
こうしたコアからエネルギー品目を除いた総合(コアコア)の動きをみると、2020年は押下げ要因となった宿泊料等を含む個人サービスや、電気代等の公共料金の寄与がプラスに転じていることもあり、前年比はプラス圏で推移しており、前月比でみても2021年に入ってゼロ近傍と横ばいの動きとなっている(第1-2-7図(2))。
●需給が改善すれば、緩やかではあるが物価も賃金も上昇
上述のとおり、マクロの需給動向や価格面の動きをみてきたが、マイナスのGDPギャップが残る状況が長期化すれば、賃金や消費者物価が一段と下押しされるリスクが続く。こうした中で、物価版のフィリップス曲線(消費者物価上昇率とGDPギャップ)をみると、1980年代には及ばないものの、2012年からの景気循環局面においては、デフレ期を含む90年代後半や2012年までの(景気循環の谷を起点とした)期間に比べれば、GDPギャップがゼロの場合の基調的な物価上昇率は僅かとはいえプラスとなっており、需要回復を図ることでデフレリスクを封じることが期待できる(第1-2-8図(1))21。
また、賃金版のフィリップス曲線(名目賃金上昇率と失業率)をみると、過去3期間に比べて傾きが多少は緩やかになっているものの、失業率の低下に応じて、時給賃金は上昇する(第1-2-8図(2))22。ただし、前述のとおり、失業率は政策効果によって低水準に抑制されていることから、需給状況が示唆する賃金上昇率はフィリップス曲線が示唆する水準よりも低い可能性がある。
3 需給バランスと金融
前項では、需要不足による物価や賃金に対する下押し圧力は残るものの、政策による下支えもあり、労働市場の需給悪化を起因とした賃金所得への下押しリスクへの転嫁はみられないことを確認した。他方、輸入物価の上昇により企業物価も上昇していることは、転嫁が進まない場合には企業利益への下押しリスクになることも示された。本項においては、こうした動きに加え、日本銀行の金融政策の動向についても概観したい。
●感染症対策の金融緩和により市中資金量は増加し、その背景には国債の増加も
感染症の影響による景気後退への対応として、我が国においても、財政措置とともに、大規模な金融緩和政策が講じられてきた(付表1-2)。日本銀行は、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持の観点から、新型コロナ対応金融支援特別オペを導入するなど、金融緩和を推進している。こうした下、金融機関の貸出態度は緩和的な状態が続き、企業の資金調達コストも落ち着いた動きとなっている。
この結果、2020年の感染拡大前までは、平均残高500兆円程度、前年比で3%程度の伸びで推移していたマネタリーベースは、平均残高650兆円程度にまで増加している(第1-2-9図(1))。また、マネーストック(M2)も、企業の事業環境の悪化等による資金需要の高まりを背景とした、銀行貸出の増加を受け、感染拡大前の平均残高1,000兆円程度から1,200兆円近くまで増加している(第1-2-9図(2))。
市中資金量の増加の背景として、日本銀行のバランスシートをみると、その大部分を占める長期国債の増加に加え、2020年以降、短期国債やETF、その他に含まれる貸付金の増加などがみられる(第1-2-9図(3))。感染症対策に対応した大規模な金融緩和は、我が国以外の中央銀行でも実施されており、アメリカやユーロ圏においても、量的緩和の実施に伴い、2020年以降、バランスシートの規模は拡大している(第1-2-9図(4))。
●企業の販売価格見通しは上昇しているが、その価格形成は粘着性が強い
こうした金融緩和には物価上昇率にプラスの効果があると考えられるものの、最近の物価、特に企業物価にみられる上昇は、輸入物価の上昇による外生的なものである(前掲第1-2-5図(2)参照)。企業物価の動きを受けて、日銀短観における企業の販売価格や物価全般の1年後の見通しには上昇がみられる。物価全般の見通しは緩やかな上昇にとどまるものの、2020年4-6月時点での見通しが前年比マイナスにまで大幅に低下した1年後の販売価格は、2021年1-3月期にプラスへと転じ、その後も上昇率は高まっている(第1-2-10図(1))。また、1年後の販売価格の見通しについて、製造業・非製造業に分けてみると、いずれもプラスで推移しており、特に大きく下落していた製造業の回復が大きい(第1-2-10図(2))。
ただし、企業が実際に販売価格を上昇させるという選択をするかどうかは明らかではない。実際、消費者物価指数(総合)を構成する品目のうち、前年比が±0.5%とゼロ近傍にある品目の占めるウエイトの割合をみると、消費税率導入・引上げ時期を除けば、90年代後半まではおおむね10~20%程度で推移していたものの、消費者物価上昇率がマイナスとなった99年には50%程度にまで増加していた。その後も振れはあるものの、高い割合で推移しており、多くの品目の価格が前年程度に据え置かれていることを示している。いまだ、企業の価格決定には粘着性が高く、ゼロ近傍期待形成には変化はみられていないことから23、引き続き金融緩和政策を続けていくことが期待される(第1-2-10図(3))。
コラム1-3 日米の物価動向
世界的に経済活動が再開する中で、物価動向に注目が集まっている。特に、アメリカでは消費者物価上昇率が5%台となり、金融政策変更をめぐる議論の中で、大きな関心を呼んでいる。そこで、日米の比較を通じて、足下の物価動向を整理する。
まず、物価動向を取り巻くマクロ経済環境を確認しよう。
第一に、経済全体の需給状況を示すGDPギャップをみると、アメリカでは経済活動の再開に伴い、マイナス幅が急速に縮小しているのに対し、日本では2020年10-12月期以降、マイナス幅は同程度となっている(コラム1-3図)。今後、日本において、経済の活動水準が引き上げられる中で、GDPギャップのマイナス幅が縮小していくことが重要である。
第二に、費用面からの物価上昇圧力を示す単位労働コストをみると、アメリカでは労働市場の需給に依然として緩みがある状況にあっても賃金上昇が継続している。日本における賃金引上げに向けた努力もあって、日米の単位労働コストの違いは、同程度まで縮まってきたものの、2020年後半以降、再び差が広がっている。今後とも賃金引上げの取組やリカレント教育、成長分野への労働移動等を通じた賃金上昇が重要である。
その上で、日米の物価指数の動向をみると、消費者物価でもGDPデフレーターでもアメリカの物価上昇率が日本を大きく上回っている。日米の物価上昇率の差には、以下のようにそれぞれの国に特有な要因の影響もみられることから、その評価に当たっては、一時的な要因と基調的な要因を見極めていくことが重要である。
第一に、足下のGDPデフレーターは、アメリカで上昇する一方、日本では低下している。国内で原油を生産するアメリカでは、原油価格の上昇がホームメイド・インフレを示すGDPデフレーターの上昇につながるのに対し、原油を輸入に依存する日本では、国内価格に転嫁していくまでの間はGDPデフレーターの押下げにつながることが背景にある。我が国企業においては、コスト上昇を販売価格に転嫁することが難しいという課題もあることから、今後の動向には留意が必要である。
第二に、消費者物価をみると、アメリカでは「エネルギー」や中古車を含む「輸送機器」といった特定品目に価格上昇が集中しており、消費者物価上昇率の加速は一時的なものにとどまるとの見方24にもつながっている。日本においては、「エネルギー」はアメリカと同様にプラス寄与となっているものの、例えば、アメリカと比べて支出に占めるガソリンのウェイトは小さい25ため、寄与は小幅にとどまるなど、エネルギー価格変動の影響が相対的に小さくなっている。
第三に、日本では、2021年4月から「交通・通信」のマイナス寄与が大きくなっている。これは、物価の基調に影響する経済の需給バランスの変化というより、携帯電話の通信料の大幅引下げという政策的影響を反映したものである。
以上のような違いに加え、消費者物価の「その他」の寄与をみると、アメリカでは2%前後を維持しているのに対し、我が国では0.5%程度にとどまっている。本文でも指摘しているとおり、我が国企業の価格形成はアメリカ企業に比べて粘着性が高く、過去の物価動向がゼロ近傍であったことの履歴効果による面があると考えられる。こうしたこともあり、日本の予想物価上昇率もアメリカと比べて低い水準にとどまっている。
これらを踏まえると、日米の物価上昇率については、それぞれ一時的な要因が含まれるため、両者の差がそのまま基調の差とは考えられないが、日本にとっては、上述のマクロ経済環境が引き続き重要であろう。
アメリカでは、物価上昇率の加速が一時的なものにとどまるかどうかが当面の課題である。日本と比べるとマクロ経済環境からみた物価上昇圧力は強い一方、労働市場の需給の緩みは依然として残っている。このため、過度なインフレにつながる賃金上昇はみられないとする見方がある一方、過去最高水準となる自発的離職者数と求人数が今後、急速な賃金上昇につながるとの二つの見方があり、今後の労働市場と物価の動向については、それが金融政策の動向に影響を与えるという意味でも注目される。