第1章 我が国経済の現状とマクロ面の課題 第1節

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第1節 2021年前半までの経済動向

本節では、GDPなどの集計データを基に、2021年前半までのマクロ的な動向を確認する。その際、内外需別の状況や、家計部門、企業部門での特徴的な動きについても触れる。また、経済活動に影響を与える感染動向と感染拡大防止策等の実施状況についても整理する。

1 マクロの動き

はじめに、マクロ経済全体の動きについて、GDP統計を中心に概観する。その上で、国内外の感染状況や我が国経済を取り巻く外需の動向について確認する。

感染動向に影響されながらも、景気は持ち直し基調を維持

まず、実質GDPの推移をみると、我が国経済は2020年1-3月期以降、感染拡大の影響を受け始め、2020年度は前年度比-4.5%と、大規模な財政出動が実施された中にあっても、比較可能な1995年度以降で年度としては最大の落ち込みとなった1第1-1-1図(1))。2020年度の動向を四半期別にみると、2020年4-6月期は、諸外国においてロックダウンが実施され、我が国においても、全都道府県を対象として緊急事態宣言が発出され、様々な分野の経済活動の抑制や外出自粛、学校の臨時休業の延長などが実施されたことから、個人消費や外需が大きく下押しされ、前期比-7.9%(年率-28.2%)と大幅な落ち込みとなった(第1-1-1図(2))。我が国及び主要国における大規模な財政出動や金融緩和措置が実施され、また感染拡大に一時的な落ち着きがみられる中、国内では社会経済活動の段階的引上げが図られ、諸外国においてもロックダウンの緩和や解除が進んだことから、7-9月期及び10-12月期は、それぞれ前期比5.3%、2.8%(年率22.8%、11.9%)とプラス成長となった。

しかし、2020年秋以降、新規感染者数が再び増加傾向に転じ、地域レベルでは病床等の医療提供体制にひっ迫感が増したことに伴い、経済活動の制限措置が講じられた2。2021年1月には、2020年年末に感染者数の記録的な増加と医療提供体制のひっ迫が確認されたことを受け、一部地域3を対象に、飲食店に対する営業時間短縮要請を中心とした2回目の緊急事態宣言が発出された。このこともあり、2021年1-3月期の実質GDPは、前期比-0.9%(年率-3.7%)と再びマイナスに転じた。

宣言は3月に解除されたものの、再度の新規感染者数の増加等を受け、4月23日には3回目の緊急事態宣言が4都府県4に発出された。その後も対象地域の拡大や期間延長が行われ、一部地域では、宣言解除後もまん延防止等重点措置の対象となった5。したがって、4-6月期においても、対象地域を限定し、酒類を提供する飲食サービスや一定数の人員を伴うイベントを中心にした断続的な経済活動の抑制が実施された。

こうした活動抑制措置が講じられていたものの、旺盛な消費意欲もあり、4-6月期の個人消費は若干のプラスに転じ、設備投資や住宅投資のプラス寄与も伴って、経済全体としては、前期比0.3%(年率1.3%)と、小幅ではあるが、2四半期ぶりのプラス成長となった。

コラム1-1 緊急事態宣言と外出自粛の関係

2020年4月以降、政府は、これまで3回の緊急事態宣言を発出している。宣言発出の基本的な要件は、感染症の専門家による複数の指標を基にしたステージ判定であり、週当たり新規陽性者数といった感染そのものの動向指標から、確保病床使用率や入院率といった医療提供体制側の稼働指標によって構成されている。これらの指標が一定水準を超えると、宣言を発出して人々に行動抑制を促し、あるいは経済活動の制限を求めることを通じて、感染拡大を防止するという仕組みになっている。

こうした緊急事態宣言と外出自粛の関係を分析した渡辺他(2020)では、2020年4-5月の緊急事態宣言の発出時の自粛率の大幅な高まりは、(a)各種施設に対する営業時間短縮の要請などを通じた自粛促進効果(介入効果)だけでなく、(b)介入と直接の関係はなく生じた自発的な外出抑制効果(情報効果)によってもたらされるとしている。情報効果は、<1>自県の感染者数動向等による効果や、<2>報道等で知る全国的な感染状況や政府によるアナウンスへの反応等として各県で共通に観測される効果(時間効果)に区別できる。さらに、時間効果は、1)緊急事態宣言など政府のアナウンスによって生じる効果と2)全国的な感染動向などのそれ以外の要因によって説明できる。

そこで、渡辺他(2020)を参考に、2021年7月までの東京都の外出自粛率(COVID-19 Community Mobility Reportsにおける自宅周辺の滞在時間の増加率)を要因分解した(付注1-1参照)。結果の解釈に当たっては、在宅するかどうかにはカレンダー要因が大きく影響することから、この効果を除いている。2020年4月の1回目発出時の自粛率をみると約23%であったが、10~13%程度は感染者数の増減による情報効果((b)<1>)で説明され、7%強が宣言による介入効果((a))と宣言のアナウンスによる情報効果((b)<2>1))、残りが情報効果のうち、宣言以外によって生じる効果((b)<2>2))となった。(コラム1-1図(1))。

時系列でみると、感染者数の自粛率に対する寄与は継続して大きい。一方、緊急事態宣言の介入効果とその情報効果の大きさは、広く自粛要請を促した1回目では介入効果も宣言に付随する情報効果も大きいが、2回目と3回目は、とりわけ情報効果についてその影響が、小さくなっている。1回目の緊急事態宣言においては、その時点で宣言の対象となっているかにかかわらず、各地で足下の状況が深刻であるとの認識が共有され、こうした心理的な効果も自粛を促したが、2回目と3回目は対象となる地域や業種も限定的であり、冷静な受け止めがなされた可能性が示唆される。なお、足下では、ワクチン接種率の上昇が自粛率の低下を促す方向に寄与する符号になっているが、サンプル期間が短いこともあり、統計的には有意ではない。

次に、(1)で推計した全国共通の時間効果(緑色の破線)の時系列推移をみていこう。上で見た緊急事態宣言に伴う情報効果を除き、全国的な感染者数増減による影響をみると、2020年の6月前後を除いて、おおむね時間効果分に対応しているが、時間効果そのものが実際の感染者数に対して次第に小さくなっており、人々が、全国の感染動向に対して反応が薄くなっている可能性も示唆される(コラム1-1図(2))。

海外経済の回復を背景に外需は増勢が続く

我が国経済を取り巻く世界経済の状況をみると、2020年後半から2021年前半の主要国・地域の経済は、感染状況の落ち着きに伴う経済活動の再開や大規模な財政措置と金融緩和の実施により、プラス成長を実現した国・地域が多い(第1-1-2図(1))。感染拡大が最初に深刻化した中国においては、感染者数の増加ペースも抑えられ、いち早く2019年10-12月期の水準を回復し、プラス成長を続けている。ただし、欧州等では、変異株の流行による感染再拡大への対応として経済活動を抑制したこともあり、ユーロ圏では2020年10-12月期、2021年1-3月期と2期連続のマイナス成長となった。

他方、アメリカでは、ワクチン接種が進展する中で、経済活動の制限が段階的に緩和され、また、大規模な経済対策が実施されたことなどから、景気の着実な持ち直しがみられている。

また、2021年5-7月にかけて公表された、OECD、世界銀行、IMFのいずれの世界経済見通しをみても、世界経済は、先進国を中心としたワクチンの普及とそれに伴う活動制限の緩和や追加的な経済対策の実施、感染が徐々に落ち着いた後のデジタルやグリーン分野への投資や生産拡大を背景に、2021年には持ち直し、2022年も引き続きプラス成長が見込まれている(第1-1-2図(2))。ただし、各試算は、ワクチン接種の着実な進展や感染拡大防止策の緩和を前提としていることから、新たな変異株の出現による感染再拡大やワクチンの供給不足による途上国や新興国における経済活動の抑制等による下方リスクが存在することにも注意が必要である。特に、東南アジアを中心に感染再拡大がみられており、これらの地域における経済活動の制限が、部品調達などの面で我が国企業のサプライチェーンに影響を及ぼすことにも、警戒感を持って注視していかなければならない(付図1-1)。

こうした海外経済の回復を背景に、我が国の輸出は緩やかに増加している。財務省「貿易統計」を利用して推移をみると、対世界の輸出数量は、2021年4-6月期の段階で、既に感染拡大前の2020年1月水準を超えるまでに回復している。特に、輸出金額全体の6割近くを占めるアジア向け輸出が全体を押し上げており、中でも対中国の輸出数量は、2020年1月水準を4割近く上回るようになっている(第1-1-3図(1)、(2))。

品目別に確認すると、2020年夏以降持ち直しの動きが続いていた自動車関連財は、アメリカの大寒波や国内工場の火災による操業停止などの影響による半導体不足などの供給制約もあり、2021年に入って横ばいで推移している。海外市場における日本車の販売台数も増勢が鈍化しており、特にドイツにおいては、2021年1月に再度ロックダウンが実施されたことに加え、2020年に実施されていた環境規制6に対応した電気自動車販売促進の終了などによる影響があると考えられる(第1-1-3図(3)、(4))。一方、設備投資向けの機械などの資本財は増勢が続いており、機械受注の外需をみても増加が続いて2019年を大幅に上回る水準に達していることから、当面は堅調な推移が期待できる(第1-1-3図(5))。また、5G関連などで世界的に需要が旺盛な半導体などの情報関連財の増加も顕著である。世界の半導体出荷見通しにおいても、世界的なDXの動きの下で増加が予測されていることから、情報関連財は今後も堅調に推移すると見込まれる(第1-1-3図(6))。

国内景気の持ち直し基調や輸出の増加が続いていることもあり、輸入にも上向きの動きが続いている。輸出と同様に、全体をけん引してきたのはアジアからの輸入であったが、2021年に入り、EUやアメリカからの輸入にも増勢がみられる(第1-1-4図(1)、(2))。主要財別の増減をみると、テレワークの進展に加え、いわゆる「巣ごもり需要」の増加などを背景に、消費向けの家電製品を含む電気機器が大きく伸びているほか、2020年秋以降、食品類の増勢も顕著である。また、振れはあるものの、生産の持ち直しに伴い、素材や原料品の輸入も増加している(第1-1-4図(3))。

補正予算等の効果もあり、公需も増加傾向

2020年度の実質GDP成長率が大幅マイナスになる中で、補正予算等の効果もあり、公需(公的固定資本形成と政府最終消費支出、公的在庫変動の和)の前年度比寄与は0.9%とプラスであった(前掲第1-1-1図)。四半期別に2020年の公的固定資本形成の動きをみると、緩やかながらも増勢が続いており、災害復旧・復興関連工事や国土強靱化関連工事等の公共事業予算が着実に執行されていたことがうかがえる(第1-1-5図(1))。この点は、公共工事出来高等の月次統計でも確認できる(第1-1-5図(2))。なお、増勢がみられていた出来高は、高水準ながらも4-6月期はやや減少している。これに先行する受注・請負動向も併せてみると、請負金額はおおむね横ばいで推移しているものの、受注額は年度の変わり目以降に大幅な増加がみられている。したがって、出来高の減少は一時的なものと考えられ、予算規模や受注・請負の動向が3~4か月程度のラグを持って現れてくること等も勘案すると、当面の底堅さに大きな変化はないと見込まれる。

また、政府最終消費支出は2020年7-9月期及び10-12月期に大きく増加した。主たる要因としては、同年4-6月期において、感染拡大や緊急事態宣言発出を受けた受診抑制等の動きによって、一時的に減少していた医療費(現物給付)が回復したことに加えて、Go Toトラベル事業費が執行7されたことなどによる(第1-1-5図(3))。2021年1-3月期は、Go Toトラベル事業が一時停止されたことによる反動もあり減少したが、4-6月期には2四半期ぶりのプラスとなった。これは、「貿易統計」において、人用ワクチンの輸入額が1-3月期の335億円から4-6月期には2,820億円に増加していることからも明らかなとおり、感染症のワクチン購入や接種に要する費用が計上8されたことなどによる。

2 家計(所得、消費、住宅)の動き

続いて本項では、家計部門の動向について確認しよう。具体的には、感染症の影響による経済活動の停滞やその後の持ち直しといったマクロ経済の変動が家計所得や家計支出に与えた影響について分析する。なお、家計をめぐる長期的・構造的な動きは3章において取り上げている。

総雇用者所得は持ち直しの基調が続くが、家計消費は一進一退

まず、家計の所得動向の大部分を占める労働所得について、実質総雇用者所得でみると、感染症の影響により、昨年5月に大きく落ち込んだ後、緩やかながらも増加基調を維持している(第1-1-6図(1))。実質総雇用者所得の動きは、雇用者数、一人当たり賃金(定期給与、特別給与)、物価の動きに分解できる。2020年4-5月の緊急事態宣言発出時に大きく減少した雇用者数は、前月比でみると、6月を底に持ち直してきたが、2021年4月以降は横ばいへと転じている。定期給与は、休業者が増加した2020年4-5月に大きく下がったものの、復職が進むにつれて、おおむね前月比プラスで推移している(第1-1-6図(2))。

こうした動きを2019年12月の水準対比でみると、雇用者数はいまだマイナスだが、定期給与は僅かにプラスとなっている。他方、特別給与は、ボーナスの弱さから、マイナスとなっている(第1-1-6図(3))。

このように、雇用者所得は、ボーナスの弱さや雇用者数の戻りの足踏みによって、水準は押し下げられているものの、定期給与を中心に全体としては持ち直しの基調が続いている。しかし、個人消費は、2020年後半は増加したものの、2021年に入り、再び弱い動きに転じている(前掲第1-1-1図(2))。形態別の実質個人消費の動きをみると、耐久財や食料品等必需品の非耐久財は2021年上半期も底堅く推移しているが、衣料品等の半耐久財やサービス支出は外出自粛等の影響から依然として弱い状態にあり、雇用者所得が持ち直す中、消費の戻りは進んでいない(第1-1-7図(1))。

こうした所得に対する消費の弱い動きに加え、特別定額給付金の支給もあり、2020年の家計貯蓄率は11.4%と大幅に上昇し、貯蓄額も前年の6.9兆円から36.0兆円へと約30兆円の増加となった。また、2021年1-3月期においても、家計貯蓄率は8.7%、貯蓄額は26.9兆円(いずれも季節調整済年率換算値、四半期分は約6.7兆円)と高い水準を維持している(第1-1-7図(2))。この点を日本銀行「資金循環統計」における家計部門の資産負債動向からみると、負債側の借入金増減を控除した資産側の現金預金残高は、2019年の増加幅に比べて、2020年末で約30兆円、2021年3月末で約35兆円の上振れとなっている(第1-1-7図(3))。こうした流動性の高い超過貯蓄の存在は、経済活動の抑制措置が緩和された際の家計支出の増加につながるものと期待される。ただし、これまで抑制されてきたサービス消費については、財消費とは異なり、生産と消費に同時性がある。したがって、ペントアップ需要の発現時に混雑状態を発生させないことが重要である。例えば、旅行や外食等であれば、繁忙期と閑散期の平準化を図るインセンティブ措置を講じることが求められる。

集計的な統計によって財とサービスの消費動向をみてきたが、ここでは、具体的な品目について、販売側である業種別売上動向をみていこう。まず、非耐久財について、主に飲食料品を取り扱うスーパー販売額をみると、2021年に入ってからも、巣ごもり需要により、感染症の影響が現れていない2019年と比べてプラスと堅調に推移している(第1-1-8図(1))。耐久財については、代表的な品目である家電販売額と自動車(新車)販売台数の動きをみると、家電販売額は、在宅時間の長期化に伴うエアコンや洗濯機、冷蔵庫の需要の高まり、オリンピック・パラリンピックを見据えたテレビ需要の高まりなどを反映して、2021年1-3月頃は比較的堅調に推移した。しかし、4月以降、需要の一巡がみられる品目もあり、季節商材の振れが大きいものの、2021年年央前後から弱含んでいる。自動車販売台数は、2020年下半期は底堅い動きとなっていたが、2021年に入り、半導体不足など供給面の制約による生産調整が生じていることもあり、平年を下回る水準で推移している(第1-1-8図(2)~(4))。

次に、サービス消費について、主な支出項目の動向をみていこう。まず、旅行関連支出について事業者の旅行取扱高の2019年比をみると、国内旅行は、2020年夏から秋にかけては、Go Toトラベルの効果もあり、持ち直しが進んでいた。しかしながら、11月以降、感染拡大に対する懸念が医療関係者等から発せられたこと等を受けて、こうした支援策が順次適用停止となる中、2021年年初に発出された緊急事態宣言等の影響により、取扱高は2019年に比べて8割近く落ち込んだ。その後、宣言解除を受けて一度は持ち直したものの、2021年4月の宣言再発出に伴い、大幅なマイナスが続いている。また、海外旅行については、各国で感染拡大に伴う入国制限が実施されていることなどから、引き続きゼロ近傍で推移している(第1-1-8図(5))。2021年の国内旅行の動きを宿泊旅行者数の推移からみても、2019年比で-50%前後と弱い動きとなっている(第1-1-8図(6))。

最後に、外食の売上動向をみると、営業時間短縮要請や酒類の提供制限要請などの影響を受け、2021年に入って再び落ち込んでおり、厳しい状況が続いている。外食産業における厳しさは業態間で違いがみられ、ファーストフード店は持ち帰り需要の増加もあって底堅く推移している一方、酒類の提供が主となるパブレストラン・居酒屋においては、極めて低水準となっている(第1-1-8図(7)、(8))。

EC消費の広がりが継続

このように、人為的な経済活動抑制に伴って、対人サービス消費は低水準にとどまり、全体としても一進一退の動きが続く中で、人との接触機会を相当程度抑制できるという観点から、EC消費については、2021年以降も引き続き堅調に推移している。2019年と比較した利用総額の伸びを利用世帯数と世帯当たりEC購入金額に分解すると、世帯当たりEC購入金額が、おおむねプラスで推移する中、特に利用世帯数の増加が大きく押上げている傾向が続いている(第1-1-9図(1))。また、EC消費の増減を世帯主の年齢階層別世帯消費の寄与でみると、若年世帯から高齢世帯まで、万遍なく増加している(第1-1-9図(2))。

こうしたEC化の広がりについて、内閣府(2020)では、2017年時点でのEC普及率(成人人口のうち、何%がECを利用しているか)を各国と比較して、欧米諸国はおおむね8割程度の中で我が国は4割程度にとどまっていると指摘している9。その際、感染拡大をきっかけとしたEC消費の活発化などを踏まえて、我が国のEC普及率が欧米並みの8割に達する時期を推計したが、2021年6月のEC普及率(51.3%)からの到達目安を再計算すると、EC化の動きが早かった2020年の動きが持続する場合には2024年6月、それ以前の動きを成長曲線で延伸する場合には2025年11月から2027年11月頃になると見込まれる(第1-1-9図(3))。

コラム1-2 外出自粛と消費

人々の外出あるいは自粛の動向と消費の間には、安定的な関係がみられることが知られている。消費の6割を占めるサービスは、支出と生産・売上げが同一の場所・タイミングで生じるものが多いことから、人流との相関が高い。もちろん、本文でも紹介しているとおり、感染拡大下において、財だけでなくサービスの一部も含めて、ECを通じた消費が拡大していることも事実である。

コラム1-1でも触れたとおり、人々の外出自粛には様々な要因が影響しているが、概念的に整理すると、ワクチン接種や医療提供体制のレベルといった政策変数が感染動向に影響し、それによって変化した消費者マインドや公的な行動規制の程度によって、消費動向が決定するという因果関係に整理できる(コラム1-2図(1)、(2))。

こうした関係について、実際のデータを基に検証しよう。まず、ワクチン接種と感染の関係について、アメリカ、英国の実績値の推移をみると、ワクチン接種の進展に伴って、新規感染者数や重症者数は減少する傾向がみられた。ただし、最近では、活動制限の解除や変異株の広がりにより、新規感染者数が反転増加している(コラム1-2図(3))。

感染動向に対する人々の心理的な自粛感応度は、新規感染者数以外にも重症化の程度や医療提供体制の確保も関係する10ことから、他の影響を踏まえて解釈する必要はあるものの、新規感染者数の動向と小売・娯楽施設への訪問・滞在時間(外出率)との関係をみると、3か国いずれにおいてもマイナスの関係がある。英国では、外出率が垂直に低下あるいは上昇するというロックダウンの影響がみられるため、それらを除外すると、感染者数の多さに対応する外出率の低下幅は見かけほど大きくない(コラム1-2図(4))。緊急事態宣言やロックダウンの影響をダミー処理した傾向線によれば、1%の新規感染者数変化に対し、我が国の外出率は2%程度変化するが、アメリカ及び英国では0.5%程度であり、我が国の人流はアメリカ、英国よりも大幅に感応的であることが示唆される。

最後に、外出とサービス消費支出の関係をみると、いずれの国でもおおむね一対一の対応関係がみられる(コラム1-2図(5))。したがって、人流を制限することは必然的に消費を抑制することになる。人々の暮らしを考えれば、手洗いやマスクの着用といった平時の感染防止の取組奨励は当然のこととして、時限的な感染拡大防止策としての行動規制や営業規制を実施するうちに、ワクチン接種の加速や医療提供体制の強化確保を行うことが引き続き喫緊の課題である。

なお、総務省「家計調査」により、2021年4-6月期の二人以上世帯の支出について、世帯主の年齢階層別に2019年の同期と比べると、各年齢階層ともにサービス消費支出は減少している一方、財・サービス合計では、39歳以下の世帯主世帯ではプラスである(コラム1-2図(6))。感染拡大防止のために経済活動を抑制する中にあってもなお、活発な消費意欲がみられ、若年世代を中心に人流が減少しづらいという側面が表れているともいえる。

ライフスタイルの変化も反映し、住宅投資は底堅い動き

続いて、家計消費と関連するものとして、住宅投資の動向をみていこう。まず、新設住宅着工戸数の総戸数は、2021年初め頃までは横ばい圏内の動きが続いていたが、3月以降、底堅い動きとなっている(第1-1-10図(1))。利用関係別にみると、2020年後半から持ち直しが続いてきた持家の増勢に加え、減少が続いていた貸家が増加に転じたことが底堅さの背景にある。また、マンション等の共同分譲は、大きな振れを伴いながら横ばいで推移しているが、戸建分譲についても持ち直しの動きがみられ、受注実績(住宅生産団体連合会の住宅景況感指数)をみても、緊急事態宣言が発出された2020年4月を底にして、その後は好調に推移している(第1-1-10図(2)、(3))。なお、持家や戸建分譲のこうした動きの背景には、住宅ローン減税の特例11の効果もあると考えられ、本特例の適用期限が延長されたことから、引き続き一定の効果が期待される。

次に、増勢をみせている貸家について詳しく要因を探ろう。これまでの貸家は、金融機関の個人貸家業者に対する融資態度厳格化などにより減少が続いていたが、建築主別に着工戸数変化率の増減寄与をみると、2021年2月以降、会社(法人12)貸家業者の寄与が大きくプラスに転じている(第1-1-10図(4))。

こうした会社(法人)貸家業者による着工戸数が増加している供給側の要因としては、企業の遊休不動産の利活用、あるいは安定的な居住賃料収入に対する投資家の需要、といった資産運用のニーズが指摘されているが、需要側の要因としては、個人の賃貸物件への需要が底堅い点もあると考えられる13

そこで、首都圏を例にとり、感染拡大後の住宅需要について、購入か賃貸かという観点でみると、購入側である首都圏のマンション販売は、昨年後半以降、圏内各地域において持ち直しがみられている中で、東京都区部における販売は好調である(第1-1-11図(1))。ただし、首都圏の新築マンション発売価格は上昇傾向が続いており、それにあわせて中古マンションの成約価格も上昇している(第1-1-11図(2))。

こうした中、公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会他(2021)のアンケート調査によると、住み替え理由としては、住宅費の抑制とともに、通勤の利便性などを挙げる回答も多く、都心の賃貸物件への需要の高まりがみてとれる。こうしたこともあり、首都圏の貸家着工戸数は、このところ都区部のプラス寄与が続いている(第1-1-11図(3))。

ただし、こうした動きは専ら共同住宅にみられるものであり、戸建については別の動きが生じている。持家や戸建分譲の着工を地域別にみると、都区部以外の郊外地域のプラス寄与が顕著に表れている(第1-1-11図(4)、(5))。こうした戸建の動きについて、例えば、首都圏の新築分譲一戸建購入契約者を対象とした民間のアンケート調査によれば、以前は東京23区に居住していた者のうち、23区以外の首都圏で購入した者の割合が2017~19年の約4割から2020年は約5割に増加している(第1-1-11図(6))。このように、住宅価格の変化に加えて、テレワークの進展を含めた働き方やライフスタイルの変化に伴い、感染拡大後の都心居住者の住替えに伴う住宅需要については、都心では賃貸マンションへのシフトも選択肢となり、郊外では引き続き戸建志向を特徴とした動きがみられる。

3 企業(生産、利益、投資)の動き

家計部門に続き、本項では企業部門の動向についてみていく。まず、国内外の需要の持ち直しを受けた生産の状況を確認した上で、企業収益への影響を概観する。さらに、設備投資の動きについて確認する。なお、企業の長期的・構造的な変化については、2章において取り上げている。

外需に支えられ、生産は増加基調

企業活動について、鉱工業生産指数を用いて概観しよう。生産指数は、2020年5月を底にして、持ち直しが続いている。増勢をけん引しているのは輸出向けであるが、輸出向け出荷の動きを2020年1月対比で主要品目別寄与に分解すると、変動の大半は自動車を含む輸送機械である。ただし、輸送機械は、2020年は持ち直しが続いていたが、世界的な半導体不足の影響もあり、2021年には増勢がみられなくなった。他方、5G関連の電子部品・デバイスや生産用機械は持ち直しが続き、2021年に入ってから、生産全体の増勢をけん引している(第1-1-12図(1)、(2))。

また、非製造業について、業種別に活動指数の動きをみると、緊急事態宣言が解除され、経済活動が段階的に引き上げられたことにより、2020年後半は持ち直しが続いていたものの、感染再拡大の影響を受け、2021年には、緊急事態宣言における活動制限の対象となった「生活関連サービス業、娯楽業」などの対人サービス業を中心に、再び弱さがみられるようになった。中でも、特に、移動の自粛要請の影響を受ける「宿泊業」、営業自粛要請の対象である「飲食店、飲食サービス業」の落ち込みが顕著にみられ、全体としては、持ち直しの動きには足踏みがみられる(第1-1-13図(1)、(2))。

なお、こうした「宿泊業」や「飲食店、飲食サービス業」は、平年であれば、年額5兆円弱のインバウンド消費の恩恵も享受するところ、現状では外国人の新規入国が、特段の事情が無い限り停止された状態であり、観光地を中心に引き続き厳しい状況が続いている。日本政府観光局(JNTO)によれば、2021年1-6月期の訪日外国人数は9.6万人と2019年1-6月期の1,663万人の1%にも満たない水準となっている。

企業収益は、感染症の影響により、引き続き業種間で回復の程度に違いがみられる

経済全体の動きからも明らかなとおり、企業収益も、2020年4-6月期に大きく低下し、それ以降は増加に転じている。ただし、増勢を形作っているのは製造業である。製造業は、生産活動の持ち直しを受けて高い伸びを実現し、水準も既に2020年の感染拡大前を上回っている一方、非製造業では伸び悩みがみられる(第1-1-14図(1))。なお、上場企業決算を集計した2021年4-6月期の経常利益をみると、製造業、非製造業ともに前年及び前々年同期の水準を上回り、特に製造業は、既往最高の水準となっている(第1-1-14図(2))。

こうした動きについて、営業利益率の動向から確認しよう14。製造業においては、業種別にみても、「石油・石炭製品」や「輸送用機械」、「食料品」など、一時的な低下がみられたものも、2020年7-9月期以降は、おおむね感染拡大前の利益率水準を回復している。その一方、非製造業においては、「情報通信業」や「不動産業」などのように、感染拡大前の利益率水準を維持している業種はあるものの、「宿泊業、飲食サービス業」が依然大幅マイナスで推移しているなど、回復の程度に業種間の違いがみられる(第1-1-14図(3))。

なお、業種間だけでなく企業規模別にみた場合にも回復の違いはみられる。日銀短観の企業の景況感をみると、2020年4-6月期を底に、大企業・中小企業ともに改善がみられるものの、中小企業においては、製造業・非製造業ともに、「悪い」が「良い」を上回った状態が続いており、大企業の改善に比べてそのペースは緩やかなものに止まっており、景気の水準評価は引き続き厳しい状況が続いている(第1-1-14図(4))。

利益水準の回復と設備の不足感の高まりを背景に設備投資は増加

2020年度の実質GDP成長率が大幅マイナスになる中で、設備投資の前年度比寄与も-1.1%と大幅なマイナスとなった。しかしながら、企業収益の回復もあり、2021年4-6月期には、プラス寄与となっている(前掲第1-1-1図)。

このように、マクロ経済や利益水準の回復、先行き不確実性の低下は、設備投資を増加させる要因である。OECD15か国の長期データによって、実質GDP成長率と設備投資(対GDP)率の関係を確認すると、1%の成長率上昇は設備投資率を0.4%程度高める効果がある(第1-1-15図(1))。感染拡大の抑制やワクチン接種の進展による経済活動の再開に加え、ポストコロナを見据えたグリーンやデジタル等の成長分野において、政府が呼び水となるような財政出動を実施することで、企業のイノベーションや投資増につながることも期待される。

また、設備投資と経常利益の関係をみると、当期の設備投資水準は、当期を含んだ過去の経常利益水準に連動する傾向がある(第1-1-15図(2))。2000年以降について、景気循環の谷を起点として3期間の関係を描くと、リーマンショック後の2009年3月~2012年11月の循環を除けば、経常利益が1%変化すれば設備投資はおおむね0.5%程度変化するという関係(弾力性)が観察される。ただし、2つの期間の間では、設備投資に対応する利益水準に違いが生じており、過去に比べて、設備投資が生じるために必要な利益水準が上昇している。こうしたシフトが生じている期間は、海外投資が拡大した時期でもあり、また、円高とエネルギーコスト高に起因する国内産業の空洞化が進んだと懸念される時期でもあり、国内投資が増えるための利益基準が厳しくなっているようにみられる。なお、この点は2章において追加的に検討している。

また、設備投資動向には設備の稼働率あるいは過不足感も影響する。日本銀行の短観によると、製造業の設備過不足感(図中の軸は反転させている)は、2019年10-12月期から過剰超に転じているが、2020年7-9月期を底に、過剰超幅の縮小が続いている。また、製造業よりも労働集約的な非製造業の設備過不足感は不足超で推移していたところ、感染症の影響を受け、昨年4-6月期に過剰超に転じた。ただし、今年に入ってからもその水準は小さく、経済活動水準の上昇とともに、再び不足超に転じることが見込まれる(第1-1-16図(1))。重ねて描いている法人企業統計の設備投資額は、設備過不足感の動向にやや遅れる形で変化していることから、今後も回復が続くことが期待される。なお、設備過剰感と投資の関係については、2章1節コラム2-1も参照されたい。

さらに、性質別の設備投資動向をみると、機械投資の増加や構築物投資の持ち直しがみられるとともに、長期的には増加基調のみられるソフトウェア投資も含め、2020年の感染拡大前の水準を回復していることが分かる(第1-1-16図(2))。こうした設備過不足感や経常利益の回復動向を踏まえると、今後、設備投資は増加することが見込まれる。日本政策投資銀行の大企業における2021年度設備投資計画をみても、製造業は、電気機械や化学等の業種を中心に、前年度比18.6%と大幅に増加する見通しとなっている。非製造業についても、運輸や不動産等の業種を中心に、前年度比9.7%と増加する見通しとなっている(第1-1-16図(3))。


(1)リーマンショックの際は、2008年度と2009年度の2年間にわたってマイナスの影響が表れ、それぞれ-3.6%、-2.4%となった。
(2)2020年11月中旬以降、順次、各都道府県において、酒類提供を行う飲食店や接待を伴う飲食店等を対象に、休業や営業時間短縮の要請がなされた。
(3)東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県は、2021年1月8日~2月7日、栃木県、岐阜県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県、福岡県は、2021年1月14日~2月7日の間を対象として、緊急事態宣言が発出された。なお、本措置は、2月2日に、栃木県以外の10都府県を対象に3月7日まで延長されたが、岐阜県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県及び福岡県は、期限を2月28日までに前倒しして解除された一方、首都圏の埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県は、期限を3月21日までとして、再度延長された。
(4)2021年4月25日~5月11日の間を対象として、東京都、京都府、大阪府及び兵庫県に緊急事態宣言が発出された。
(5)詳細は付表1-1を参照。
(6)Corporate Average Fuel Efficiency(CAFE)規制。メーカー全体での1年間の販売台数における平均燃費基準が、一定水準を超えると罰金が課されるというもの。
(7)Go Toトラベル事業により、家計が負担する宿泊・旅行サービスに対する支出が減少し、その分、政府の負担として一般政府の最終消費支出が増加するとして、政府最終消費支出に計上されている。なお、これらは速報段階における暫定の処理であり、国民経済計算におけるGo To事業の扱いについては、2021年末公表予定の「2020年度(令和2年度)国民経済計算」の推計過程で精査を行う。
(8)新型コロナワクチンについては、購入費用はその供給時点において、接種費用は接種時点において、それぞれ政府最終消費支出に計上されている。
(9)内閣府(2020)を参照(第4-1-2図及び第4-1-11図)のこと。ここでのEC普及率は、国連により公表されたEC消費支出及び人口推計を基に算出した値であり、総務省「家計消費状況調査」を用いた値とは若干のずれが生じる。
(10)医療提供体制のぜい弱さについては、経済財政諮問会議における有識者議員提出資料や内閣府政策統括官(経済財政分析担当)(2021)等で既に指摘されている。
(11)消費税率10%が適用される住宅取得等を行った場合、毎年の住宅ローン残高の1%を所得税等から控除する期間を13年間とする特例(11~13年目は建物購入価格の消費税2%分の範囲で減税)について、感染症の影響により、入居が期限(令和2年12月31日)に遅れた場合であっても、所定の要件を満たした上で、令和3年12月31日までに入居すれば、特例措置の対象となるよう、適用要件が弾力化された。特例措置は、令和4年12月31日までの入居が対象となるよう延長され、所定の要件も、一定の期間内に契約が行われていることとして、注文住宅を新築する場合:令和2年10月~令和3年9月末、分譲住宅・既存住宅を取得する場合、増改築等を行う場合:令和2年12月~令和3年11月末とされた。また、感染症による入居遅延は問わないこととなった。
(12)独立行政法人や会社でない法人等を除く。
(13)国土交通省(2021)における不動産鑑定士のコメントでは、賃貸マンションについて、都市部での安定した入居需要を背景とした投資家の取得需要を指摘するものがある。
(14)持続化給付金等の各種企業支援金は、企業の判断により「その他の営業外収益」ないし「特別利益」に計上される。その結果、法人企業統計でみた中堅・中小企業の2020年7-9月期以降の「その他の営業外収益」が前年比で大幅に増加しており、企業支援の効果が表れ、経常利益は感染拡大前の水準となっている。
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