第4章 デジタル化による消費の変化とIT投資の課題 第3節

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第3節 本章のまとめ

本章では、デジタル化による消費の変化やIT投資の課題について整理し、考察を加えた。

第1節では、感染症の拡大防止の観点からも注目されるECや、インターネットを活用したシェアリングやサブスクリプションについて整理した。これまで、EC消費支出はEC利用世帯の増加で増えてきたが、EC普及率は欧米諸国と比べてまだ低く、増加の余地がある。最近の増勢が継続すれば、1年程度で欧米並みの8割の普及率に到達できるとも試算されるが、そのためには、ECに対応した物流施設の整備や要員確保といった量的な供給能力の引上げに加え、効率的な受発注システムの構築といった質的な体制整備が必要となる。政策支援38も用意されているが、実需の動向を踏まえて拡充する必要性が高い。

また、シェアリングやサブスクリプションといったサービスは、従来型の消費スタイルや産業・サービスを変えている。具体的には、カーシェアリングが普及すれば、個人の自家用目的の自動車保有は減少するが、自動車の利用頻度が高まることにより、個々の自動車の稼働率が上昇することで、保有資産(自動車)の有効活用および生活の利便性向上につながる可能性がある。音楽業界の事例からは、サブスクリプションとネット配信により、利用者にとっては廉価に多くのサービスを需要できる一方、提供側は固定的なコストを負担せずにサービスの提供が行えるだけでなく、広告や付帯サービスによって追加需要を生み出す機会を得ている。

第2節では、IT・ソフトウェア関連投資の現状について確認したのち、それらが生産性に与える影響を検証したほか、各国比較等を通じてみえてくる課題について整理した。ソフトウェアストックは、従業員一人当たりでみると、一部業種を除いて横ばいであるほか、IT関連投資は、フロー、ストック共に他の先進国に比べて見劣りしている。ソフトウェア装備率は、製造業・非製造業ともに省力化を通じて労働生産性にプラスであり、省力化は感染症対応にもなることから、加速させる必要がある。特に、現場やバックオフィスの省力化に向けたIT投資は、労働時間を削減する効果があり、省力化に向けたIT投資の取組企業が今後増加することが期待される。

こうしたIT投資は、民間部門で必要であるだけでなく、特に我が国では公的部門において必要である。特に、感染症拡大により明るみになった教育分野や一般行政事務といったサービス提供において、IT化の遅れが課題となっている。特に、公的部門のIT化については、欧米各国に比べて我が国はIT人材がIT関連産業に偏っており、それ以外への配置割合が低い。アメリカでは、公的部門にIT人材が1割以上所属しているのに対し、我が国は1%未満しか所属していない。システム構築側だけでなく、システムユーザー側にもある程度のIT人材が所属することで、ユーザーのニーズに合致した、合理的・効率的なIT投資やスムーズなIT運用が進むと期待される。


(38)デジタル化投資の促進に資する主な補助金として、新たにテレワークを導入した中小企業に対して、テレワーク通信機器の導入等を助成する「テレワーク助成金」や、ITツールを導入する中小企業に対するIT導入補助金があるほか、事業プロセスの遠隔操作・可視化・自動制御化を可能とするIT投資(中小企業を対象)や、生産性を向上させる新規投資(中小企業を対象)、事業者が整備する5G投資については、税制面の優遇措置を講じている。
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