第2章 感染症拡大の下で進んだ柔軟な働き方と働き方改革 第4節

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第4節 本章のまとめ

本章では、働き方改革が進む中、感染症の拡大による雇用・生活環境の急変について概観した後、これまでの働き方改革の進捗とその効果についての評価を行った。

第1節では、最近の労働時間の動向の要因について分析を行い、感染症の影響により、休業の広がりを反映して出勤日数が総労働時間の減少に大きく寄与していることを示した。

また、東京を中心に時差通勤とテレワークが大きく普及している姿が明らかとなった。緊急事態宣言解除後も、テレワークを継続している人や企業は多く、感染症によって導入が広まったテレワークは、定着しつつある。

一方、労働時間や通勤時間の減少に伴い、家族と過ごす時間・余暇時間が増えている。この機会に家族との結びつきを深め、これまでの働き方や生活を見直すきっかけとなることが期待される。家族と過ごす時間の増加に寄与したテレワークは、その実施者の多くが今後も日常業務の中で取り入れたいという意向を示している。もちろん、テレワークができる業種もあれば、できない業種もあるが、アンケート調査結果が示すところによれば、同じ業種でもテレワーク経験者の方が未経験者よりも「テレワークができない職種である」との回答が少なく、実際やってみるとテレワークが適用可能な部分が見つかった可能性がある。テレワーク拡大に向けた課題としては、技術導入や慣行の見直しが必要なものがあり、順次解消を進めていくべきである。これらの変化は感染症の拡大の影響でもたらされたものであるが、働き方改革と整合的な部分もあり、テレワーク拡大等の動きは後戻りさせることなく取り組んでいく必要がある。

第2節においては、有休取得推進、残業抑制も含めた働き方改革の進捗の確認と企業の取組の効果や影響について分析した。有休取得推進や残業抑制に向けた企業の取組は、2019年度に向けて加速した結果、有休取得は増加し、残業時間は減少している。一方、長時間労働者は感染症の影響下で減少しているものの、依然として一定割合は存在しており、こうした状況を是正するためには、企業は柔軟な業務の調整ができる体制構築や、社内慣行の見直しに取り組んでいく必要がある。

2020年4月より順次施行されているパートタイム・有期雇用労働法については、2019年6月段階で所定内給与や特別給与の雇用形態間の差は大きく縮小していなかったが、2020年の統計では、特別給与において、パートタイム労働者への一時金支給割合の上昇を反映した動きがみられた。今後は2021年4月の全面施行に向け、企業が説明のできない待遇差を解消しているかを確認するとともに、引き続き政策的な支援を続けていくことが重要である。

第3節では、こうした各企業が実施した働き方改革の取組を定量的に評価・分析した。「有休取得目標の設定」をした企業群では、有給休暇日数が増加し、総労働時間は減少していた。また、「有休促進の定期的なアナウンス及び時間単位の付与」の実施をした企業群では離職率が低下し、全要素生産性は上昇していた。「残業時間の公表」を実施した企業群は、実施していない企業群に比べて残業が抑制されており、「残業時間の人事評価項目への追加」を実施した企業群では、離職率が低下していたことが明らかとなった。

同一労働同一賃金の取組は、非正規雇用労働者の比率の低下や労働時間の減少に有効な取組(給与体系の見直し等)、離職率の低下につながる取組(業務内容の明確化)もあった。今回分析を行ったこれら働き方改革の取組のいずれにおいても、生産性を有意に下げる取組はなかった。また、「残業時間の公表」や「人事評価制度の見直し」などを実施した企業群では、女性や高齢者の雇用が増加した。最後に、感染症拡大の影響下では、特にテレワークが増加した業種において、効率性・生産性が低下したとの主観的な評価があるものの、テレワーク自体は生産性に有意にプラスの効果があることが示された。フレックスタイム制、事業場外みなし労働時間制や裁量労働制といった時間管理などの雇用管理の在り方の見直しと合わせてテレワークを定着させ、生産性上昇に寄与することが期待される。

雇用環境は激変しているが、働き方改革の取組は、労働環境の改善や生産性の向上につながるものであり、テレワークの普及などの変化を十分に活用し、引き続き推進していくべきである。このうち、同一労働同一賃金についても着実に進めていく必要があるが、非正規雇用労働者、女性、高齢者などの雇用縮小につながらないよう、具体的な企業の取組をみていく必要がある。

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