第2章 感染症拡大の下で進んだ柔軟な働き方と働き方改革 第2節

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第2節 働き方改革の進捗

第1節では、主に2020年に入ってからの労働時間の動きについて、新たに広がった時差通勤やテレワークの動向等を観察することで、労働に対する感染症拡大の影響を確認した。本節ではより長期的な観点から、働き方改革の取組の進展と長時間労働及び同一労働同一賃金の進捗状況について分析を行う。具体的には、内閣府企業調査を用いて、企業による有休取得、残業抑制、同一労働同一賃金の取組の進捗状況を明らかにし、平均有休取得日数や残業時間、賃金格差の動向について公的統計や内閣府企業調査で観察する。それら有休取得日数や残業時間やその他の雇用環境と企業の取組の間の因果関係については、続く第3節で分析を行う。

コラム2-1 いわゆる働き方改革関連法の内容と施行期日について

働き方改革に係る包括的な法律の正式な名称は、働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法第71号。以下「働き方改革関連法」という。)であり、<1>働き方改革の総合的かつ継続的な推進、<2>長時間労働の是正及び多様で柔軟な働き方の実現等、<3>雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保の3点を意図している。

2018年7月6日に成立、順次施行されているが、<2>と<3>が主たる制度改正事項である。<2>の具体的な内容としては、時間外労働の上限規制、年5日の年次有給休暇の確実な取得、月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率における中小企業への猶予措置の廃止、高度プロフェッショナル制度の創設、勤務間インターバル制度の普及促進、産業医・産業保健機能の強化等が含まれる。このうち、時間外労働については、基本的に、月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)を限度に設定されている。また、年次有給休暇については、使用者が10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、少なくとも年間5日の有給休暇を、時季を指定して与えなければならないこととされている。

<3>は、同一労働同一賃金の実現のための規定の整備等に関する事項であり、主な内容としては、1.不合理な待遇差の禁止、2.労働者に対する待遇に関する説明義務の強化、及び3.行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争解決手続き(行政ADR)の整備からなる。まず1.は、基本給、賞与、役職手当、食事手当、福利厚生施設、教育訓練休暇等全ての待遇について、職務内容、職務内容・配置の変更の範囲、その他の事情のうち、当該待遇の性質・目的に照らして適切と認められるものを考慮して正社員との間の不合理な待遇差を禁止(均衡待遇規定)するとともに、職務内容、職務内容・配置の変更の範囲が同じ場合に差別的取扱を禁止(均等待遇規定)するもの。2.については、非正規雇用労働者は事業主に対して、賃金、福利厚生施設、教育訓練等の内容(雇入れ時に説明義務)、待遇決定に際しての考慮事項、待遇差の内容と理由といった、正社員との待遇差の内容や理由などについて説明を求めることが出来るようになった。3.については、都道府県労働局において、均衡待遇等に関する事業主と労働者との間の紛争について、裁判をせずに解決する無料・非公開の手続きが整備された。

施行期日は、<2>は2019年4月1日を基本としつつ、時間外労働の上限規制に係る改正規定と割増賃金率の見直しに限って、中小企業への適用時期をそれぞれ2020年4月1日、2023年4月1日としている。<3>については、大企業が2020年4月1日、中小企業が2021年4月1日に適用となっている(派遣会社については、企業規模に関わりなく2020年4月1日に適用)。中小企業の定義は中小企業基本法に依拠し、小売業、卸売業、サービス業、その他の4業種に分類した上で、それぞれに示される出資金の額または常用労働者数いずれかの基準を下回った企業を中小企業としている。

1 有休取得、残業抑制に向けた企業の取組と労働時間

本項では、働き方改革の中で、長時間労働是正の観点から、2019年4月に一足早く完全施行された有給休暇取得義務化と2020年4月に中小企業にも適用された残業上限規制について、企業の取組と全体的な進捗状況を確認し、さらなる働き方改革の進展に向けた課題について整理する。

有休取得促進に向けた取組は2019年度に向けて拡大、取得日数は増加

まず、有給休暇取得の取組の進捗を概観する。内閣府企業調査によれば、有休取得義務化に向けて、77.6%の企業が有休取得促進の定期的なアナウンスを実施していた。また、有休取得目標の設定(48.2%)、連続休暇取得の促進(34.6%)、有休取得目標又は結果の公表(30.8%)、アニバーサリー休暇等、有休の計画的付与(30.7%)、時間単位の有休付与(29.6%)といった対応に取り組んだ企業の割合も2019年度にかけて増加した。一方、有休取得にインセンティブを付与した企業はほとんどなかった(1.1%)(第2-2-1図(1))。

また、回答企業の平均有休取得日数18は、2015年から2019年の間に6.3日から7.9日へと1.6日増加している(第2-2-1図(2))。年間有休取得日数が有休取得義務の5日を下回る企業19の割合は、2015年の34.3%から2019年には13.1%へ低下している一方、「5、6日」及びそれ以上の選択肢を選んだ企業割合は65.8%から86.9%へと21.1%増加し、全体として有給休暇の平均取得日数は増えている。このように、企業の各種取組の進展を背景に有休の取得は進んでいる。なお、企業の取組と有休取得の増加の因果関係については、本章3項においてさらに分析を行う。

残業抑制に向けた取組は2019年度に向けて拡大し、残業時間は短縮

次に、残業時間上限規制の効果について確認する。2019年4月に大企業、2020年4月には中小企業を対象として残業時間上限規制が適用されたことを受けて、各企業の残業抑制に向けた取組は加速した。内閣府企業調査によると、残業抑制の手段としては、労働時間の管理の徹底を行った企業割合が最も高く(69.7%)、次いで、残業の事前申告制度の導入(52.4%)、ノー残業デーの設置(31.2%)、残業時間の公表(29.7%)、人事評価項目への追加(13.8%)といった取組を実施した企業割合が高かった(第2-2-2図(1))。

また、回答企業の正社員の一か月当たり平均残業時間20は、2015年の25.4時間から2019年には20.9時間へと4.5時間減少している。平均残業時間の分布をみても、21時間以上と回答した企業割合は、49.0%から38.9%へと減少している。また、働き方改革関連法の単月上限規制21を超える月間平均残業時間が46時間以上となる回答企業割合は、13.9%から6.0%と大幅に減少している(第2-2-2図(2)22

このように、企業の各種取組の進展もあり残業時間は減少し、長時間労働は削減されている。なお、企業の取組と有休取得の増加の因果関係については、本章3項においてさらに分析を行う。

長時間労働是正のため、業務の柔軟な調整や社内慣行の変更に課題

上記にみたような有給休暇の取得の増加や残業時間の縮減の結果、総労働時間はどの程度減少しているだろうか。同じく内閣府企業調査によると、回答企業の正社員の一か月当たり総労働時間23は、2015年の177.8時間から2019年には173.2時間へと4.7時間減少している。非正規雇用労働者についても、2015年の121.1時間から2019年には119.9時間へと1.3時間減少している。正社員の月間総労働時間の分布をみても、201時間以上と回答した企業割合が15.0%から8.5%へと減少している(第2-2-3図(1)(2))。このように、平均してみると、総労働時間は減少している。

一方、長時間労働を行っている者は引き続き存在する。仮に所定内労働時間が一日当たり8時間、月に20日働けば160時間となり、残業規制の上限である、年360時間(月30時間)、月45時間を加味すると、月の労働時間はそれぞれ190時間、205時間となる。総務省「労働力調査」を用いて、おおむね規制対象となる一か月201時間以上の労働を行う雇用者数の推移をみると、大企業の残業上限規制が始まった2019年度までに緩やかに減少したものの、2019年度平均で正規職員には768万人、非正規職員は92万人、役員を除く雇用者全体では860万人(総数の15.1%)も201時間以上労働を行った者が存在する(第2-2-3図(3))。

2020年度に入り、5月には感染症の影響もあり正規職員、非正規職員ともに2019年より低水準になったものの、6月以降増加しており、7月にはそれぞれ771万人、79万人、役員を除く雇用者全体で850万人となっている。長時間労働の是正に向けた取組は引き続き必要である。

なお、内閣府企業調査によれば、有休取得、残業抑制に向けた取組への課題としては、業務量が多い、人員が確保できない、業務を柔軟に調整できない、社内慣行等を変えることが難しいなどの回答が多い(第2-2-3図(4))。柔軟に人員・業務の調整ができる体制の構築や、社内慣行を変えていく企業の取組を進めていくことが重要である。

2 同一労働同一賃金の取組と賃金の動向

2020年4月より大企業でパートタイム・有期雇用労働法が施行されたが、本項では、同一労働同一賃金の制度の内容をおさえた上で、それに向けて企業の取組がどのように進んでいるか、待遇の改善が進んでいるか確認する。

2020年4月より大企業でパートタイム・有期雇用労働法が施行

同一労働同一賃金の導入は、同一企業・団体におけるいわゆる正社員(無期雇用フルタイム労働者) と非正規雇用労働者(パートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指している(第2-2-4図)。

パートタイム・有期雇用労働法等においては、正社員と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差の禁止、待遇に関する説明義務の強化、それらに関する労働者と事業主の間の紛争に対して裁判によらない無料・非公開の紛争解決手続きを利用できること等が定められている。

では、実際の正社員と非正規雇用労働者の待遇差はどうなっているのだろうか(第2-2-5図(1))。独立行政法人労働政策研究・研修機構が実施した企業調査24(2019年7月)によると、パートタイムや有期雇用の労働者を雇用している企業を対象に通勤手当や他の制度の支給・適用状況を調べた結果、定期的な昇給、人事評価・考課、賞与、退職金、家族手当、住宅手当、精皆勤手当について、正社員とパートタイム労働者・有期雇用労働者が支給・適用対象になっている割合に差がみられる。同じく労働者調査25では、業務の内容等が同じ正社員と比較して納得できないと回答したパートタイム又は有期雇用労働者の割合は、賞与で37.0%、定期的な昇給で26.6%、退職金で23.3%、人事評価・考課で12.7%となっている(第2-2-5図(2))。

同一労働同一賃金に向けた動きは特別給与で顕在化

次に、同一労働同一賃金に向けた企業の取組の進捗状況について確認する。内閣府企業調査によると、2015年以前から2019年度までの動きをみると、企業の各種取組の実施率は年々上昇し、業務内容の明確化、給与体系の見直し、諸手当の見直し、福利厚生制度の見直し、人事評価の一本化等を行った企業の割合は、2019年度末でそれぞれ35.2%、34.0%、31.3%、21.2%、17.7%に達している(第2-2-6図)。大企業・中小企業26別では、2020年4月にパートタイム・有期雇用労働法が施行された大企業の方がいずれの取組についても実施割合は高いものの、中小企業においても取組の実施割合が上昇している。

こうした企業の取組による給与面での動きをみると、大企業(常用労働者1,000人以上)に雇用される正社員・正職員(雇用期間の定め無し)と正社員・正職員以外の一時間当たり所定内給与額では、男女とも、正社員・正職員は近年増加傾向にある一方、正社員・正職員以外は雇用期間の定めの有無に限らず、正社員・正職員ほどは増加していない27第2-2-7図(1))。他の規模についても、100~999人規模で正社員・正職員の一時間当たり所定内給与額が下がっているのを除いて同様の傾向となっている(付図2-7(1))。

年間賞与その他特別給与額については、男性正社員・正職員が2018年から減少している一方、男性正社員・正職員以外(雇用期間の定め無し)や女性正社員・正職員は2019年に増加している。大企業も含まれる100~999人規模においても同様の傾向がみられるが、同一労働同一賃金の適用が2021年度からとなる中小企業が多く含まれる10~99人規模においては、男性正社員・正職員以外(雇用期間の定め無し)は減少しており、動きが異なっている(付図2-7(2))。厚生労働省「毎月勤労統計」によると2020年夏の特別給与(6-7月平均)28は、一般労働者が-3.8%と減少し、204,388円となったものの、パートタイム労働者は前年比18.2%と増加し、6,333円となった(第2-2-7図(2))。これは、2020年4月のパートタイム・有期雇用労働法の大企業への施行に伴い、パートタイム労働者に対しても賞与が支払われるようになった事業所が増加したことを示唆している(第1章参照)。引き続き、2021年4月の中小企業のパートタイム・有期雇用労働法の適用に向けて企業における取組が進むことを期待したい。

同一労働同一賃金の達成には、費用や慣習の変更に関する懸念の解消が必要

最後に、同一労働同一賃金に向けた課題について、19年7月と20年3月時点の調査の比較を通じて整理する。2019年7月時点の調査29によると、93.2%の企業が法改正については知っているものの、うち62%が内容は分からないと答えており、当時は同一労働同一賃金の認知が十分ではない、という課題があった(第2-2-8図(1))。こうした中で、不合理な待遇差の解消に向けて行政に求めたい支援として企業が挙げていたのは、「法改正やガイドライン等の内容を説明した、ホームページの公開や資料の配布」が最も多く(30.2%)、「法改正やガイドライン等の内容を解説する、セミナーの開催」(22.7%)が続いており、当時の企業は、十分に改正内容に関する情報を得ていないと感じていた様子がうかがえる。そのほか、「他社の取組事例の収集と紹介」(25.0%)、「法改正の内容を問合わせたり、自社の状況を相談できる電話等窓口の設置」(16.4%)など、具体的な対応を考えるための情報を求める企業も存在した(第2-2-8図(2))。

2020年3月時点の内閣府企業調査でも、同一労働同一賃金の実現に向けた課題について質問している(第2-2-8図(3))。そこでは、「費用がかさむ」との回答割合が30.4%と最も多い一方、「取り組むべき内容が不明確」(19.5%)、「効果的な対応策がない、分からない」(16.5%)といった規制や対応策に関する情報不足に関連する回答を選んだ企業も依然として一定数存在している。また、「社内慣行や風習を変える事が難しい」、「業務の柔軟な調整」を課題とした企業はそれぞれ18.7%、16.1%に上った。このように、同一労働同一賃金に向けては、<1>費用負担、<2>情報不足、<3>慣習や業務改革が課題として挙げられており、企業と政府それぞれの取組が必要である。

2019年7月時点の調査では、事業主に対する助成を求める回答割合は20.9%だったが、2020年3月時点の調査で「費用がかさむ」を課題に挙げる企業が最も多い(30.4%)。こうした企業、事業主への支援としては、既に、非正規雇用労働者の正社員化、処遇改善の取組を実施した事業主に対して助成する制度であるキャリアアップ助成金30がある。

また、情報不足に悩む企業に対して、厚生労働省は同一労働同一賃金特集ページ31を開設し、解説動画やパートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書、不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル等の、自主点検ツールを公開しているほか、働き方改革推進支援センターによる無料の相談窓口を設けている。こうした支援策の活用が期待される。


(18)回答企業の選択式回答から、それぞれの回答のあった選択肢の中央値等について平均を取ることにより簡易的に計算。
(19)義務づけの対象は年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者であり、短期間の労働者が多いなど、必ずしも法令違反とならない企業も含まれる。
(20)回答企業の選択式回答から、それぞれの回答のあった選択肢の中央値等について平均を取ることにより簡易的に計算している。
(21)45時間。臨時的な特別な事情がある場合は単月100時間、複数月平均80時間。
(22)2020年4月より中小企業においても残業規制が敷かれており、この数字はさらに下がっているものと期待されるが、引き続き実態の調査が必要である。
(23)回答企業の選択式回答から、それぞれの回答のあった選択肢の中央値等について平均を取ることにより簡易的に計算している。
(24)独立行政法人労働政策研究・研修機構「『パートタイム』や『有期雇用』の労働者の活用状況等に関する調査」(企業調査)
(25)独立行政法人労働政策研究・研修機構「働き方等に関する調査」(労働者調査)
(26)中小企業基本法に基づく資本金と常用労働者数に関する基準を機械的に適用して分類。
(27)厚生労働省「賃金構造基本統計調査」により作成。各年の賃金は6月時点。今回は例として、40~44歳の男女について、常用労働者1,000人以上の企業に雇用される正社員・正職員のうち雇用期間の定め無し、正社員・正職員以外のうち雇用期間の定め無し、正社員・正職員以外のうち雇用期間の定め有りについて推移を確認。他の規模については、付図2-7を参照。
(28)5人以上事業所の平均。本系列。
(29)独立行政法人労働政策研究・研修機構「『パートタイム』や『有期雇用』の労働者の活用状況等に関する調査」(企業調査)。
(30)キャリアアップ助成金は、有期雇用労働者等に以下の<1>~<7>の処遇改善を実施した場合に支給される。<1>正規雇用労働者等に転換または直接雇用した場合、<2>基本給の賃金規定等を増額改定し、昇給した場合、<3>有期雇用労働者等を対象とする「法定外の健康診断制度」を新たに規定し、延べ4人以上実施した場合、<4>正規雇用労働者と共通の職務等に応じた賃金規定等を新たに作成し、適用した場合、<5>正規雇用労働者と共通の諸手当制度を新たに設け、適用した場合、<6>労使合意に基づく社会保険の適用拡大に伴い、その雇用する有期雇用労働者等について、働き方の意向を適切に把握し、被用者保険の適用と働き方の見直しに反映させるための取組を実施し、当該措置により新たに被保険者とした場合、<7>短時間労働者の週所定労働時間を延長するとともに処遇の改善を図り、新たに被保険者とした場合。2020年度予算は1,201億円。
(31)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144972.html
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