第1章 新型コロナウイルス感染症の影響と日本経済 第4節

[目次]  [戻る]  [次へ]

第4節 本章のまとめ

本章では、最初にGDP統計を用いて最近の経済全体の動きを概観した上で、家計部門、企業部門、対外経済活動の3つの側面から、感染症の拡がりによって下押しされた状況を確認した。我が国経済は、感染症対策として要請した自粛等の影響により、個人消費を中心とした大幅な内需の減少と、より強制力のある感染症対策を実施した諸外国への輸出の大幅な減少により、これまでにない厳しい状況に陥った。しかし、全体としては、4、5月を底として持ち直しの動きがみられており、経済活動を引き上げていく局面に入っている。政策支援の効果もあって、消費は大きく反転したが、感染症患者数の増加がマインドや行動抑制へとつながり、需要の下振れが顕在化するリスクは小さくない。同様のことは輸出にも当てはまり、諸外国における感染動向とそれに対する防疫措置が、我が国に与える影響には十分留意する必要がある。

こうした需給の緩みは世界中で生じており、当面はデフレ圧力の顕在化に注意を払う必要がある。実際、企業の予想物価は下振れしており、今後、需要回復のテンポが鈍化すれば、物価には下押し圧力が高まることになる。他方、需要の弱さは設備投資にも影響し、投資不足が長引けば、潜在成長力が低下することになる。潜在成長力の低下は、短期的なデフレリスクを緩和するものの、それは豊かさの喪失であり、中長期の成長経路が下振れするという、より深刻なリスクの顕在化を意味している。したがって、早急に「新たな日常」を構築するために求められる投資を促進し、同時に、感染防止を図りながら需要の顕在化、回復を図ることが極めて重要になっている。

本章の最終節では、2012年11月から始まった大型の景気拡張局面が終わったことを受けて、景気動向を把握するポイントや今次の循環にみられた特徴について分析した。その結果、我が国においては、これまで以上に雇用者数の増減が景気変動に影響していることが明らかになり、雇用構造の変化が外生的な経済ショックへの頑健さを生み出しつつ、自律性の高い生産、所得、消費の循環を形作っていたことを示した。当面、感染症の影響は残るものの、経済活動との両立を図ることが必要であり、外需の持ち直しに期待しつつも、内需を持ち上げていくことが自律的な循環を再び取り戻すためにも必要である。特に、ソフトウェアやIT投資、人的投資を促すことで生産性の高い供給体制を構築し、同時に、感染防止策を講じる下において需要を十分発現させることが出来れば、再び自律性の高い経済成長軌道へ復することは可能である。

[目次]  [戻る]  [次へ]