第1章 新型コロナウイルス感染症の影響と日本経済

[目次]  [戻る]  [次へ]

2020年は、新型コロナウイルス感染症(以下「感染症」という。)の世界的流行(パンデミック)による未曾有の経済停滞にさらされた。感染者数は世界で3,000万人を上回り(2020年9月中旬)、中国での最初の症例確認から半年以上が経過した今もなお増加を続けている(付図1-1)。多くの国々では、感染拡大防止のために経済活動の人為的な抑制を余儀なくされ、これにより急激かつ大幅な景気後退を経験するに至った。

我が国経済も、その例外ではない。感染症の拡大に伴い、まずはインバウンド需要の減少から消失、続いて中国の生産活動停滞によるサプライチェーンを通じた供給制約による生産の滞りに見舞われた。さらに、感染拡大防止のために国内の経済社会活動の抑制を余儀なくされ、その後は主要貿易相手国における経済活動停止に伴い輸出が大幅に減少する等、感染症はその経済的な波及経路を拡げながら、我が国経済に甚大な影響をもたらした。感染症による景気の下押しは、我が国経済が2019年10月の落ち込みから持ち直していた過程を直撃した。

こうした難局において、引き続き経済財政運営を適切に行っていくためには、これらの非循環的な要因による下押しを受けた我が国経済の状態を正しく診断することが必要である。また、足下の動向から離れて俯瞰すると、構造的な生産年齢人口の減少が続いたにもかかわらず、2012年末以降、景気拡張局面が長らく続いた背景を分析することで、経済成長を促す要因を明らかにすることも必要である。

以上を踏まえ、本章の第1節では、GDP統計から経済全体の動きを概観した上で、家計部門、企業部門、対外経済活動の3つの側面から、感染症の拡がりによって下押しされた経済状況を確認する。第2節では、世界的にデフレ圧力が高まる中で、我が国の賃金や物価の状況を分析するとともに、金融市場や危機対応の政策について触れる。第3節では、少し長期的な景気循環の動きについて、2012年11月から今回の感染症の影響によって後退に至るまでの景気拡張局面の特徴を検証する。

[目次]  [戻る]  [次へ]