第3章 「Society 5.0」に向けた行動変化 第2節

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第2節 イノベーションの進展と日本の競争力

前節では、近年進展している第4次産業革命の世界的な動向と、それが経済社会に与え得る影響について整理した。

本節では、こうした第4次産業革命に関するイノベーションが進展する中、我が国経済が国際的にみて優位性を保つため、日本企業やそれを取り巻くビジネス環境にはどのような変化が求められるかについて考察する。

具体的には、第4次産業革命に向けたイノベーションを実現する力について、<1>知識、人的資本、技術力、研究開発などの「イノベーションの基礎力」と、<2>組織の柔軟性、起業家精神、ルール・制度などの「イノベーションへの適合力」の2つの大きな要素に分けて、国際比較を交えながら日本の強みと弱みを整理する。

1 企業レベルでみたイノベーションの現状とグローバル競争力

イノベーションをどう捉えるか

まず、詳細な比較に入る前に、「イノベーション」の概念を整理する。我が国では、「イノベーション」は「技術革新」という言葉の置き換えとして用いられることが多いが、イノベーションという言葉を経済学で最初に用いたシュンペーターは、これをより広義で捉えていた。すなわち、経済発展の原動力として、イノベーションの役割を特に重視し、これを、企業における「新しい商品の創出」、「新しい生産方法の導入」、「新しい市場の開拓」、「新しい資源の獲得」、「新しい組織の実現」という5つのタイプに分類している。このように、イノベーションとは、企業が新たな需要を獲得するために行う様々な新しい取組であり、技術という要素に限定されない、非常に広い概念である。

イノベーションのアウトプットをどのように捕捉するかについては、世界的に共通する方法論はいまだ確立していないものの、現在有力な指針となっているのがOECDのオスロ・マニュアル(Oslo Manual:イノベーションに関するデータ収集と解釈のためのガイドライン)である18。オスロ・マニュアルの定義によれば、イノベーションとは「自社にとって新しいものや方法の導入」であり、たとえ他社が先に導入していても自社にとって新しければイノベーションにカウントされる。ここでのイノベーションは技術的なものと非技術的なものに分類され、技術的イノベーションとしては、製品・サービスを刷新する「プロダクトイノベーション」と、生産工程、配送方法、それらを支援する活動等からなる「プロセスイノベーション」がある。また、非技術イノベーションとしては、業務慣行、職場編成、対外関係に関する方法としての「組織イノベーション」に加え、製品・サービスのデザインの変更、販売・価格設定方法、販路などに関する「マーケティングイノベーション」が含まれる。このように、オスロ・マニュアルのイノベーションは技術的イノベーションが2種類(プロダクト、プロセス)と非技術的イノベーションが2種類(組織、マーケティング)、合わせて4種類からなる。

以下では、OECDによる調査結果(OECD Science, Technology and Industry Scoreboard)を基に、オスロ・マニュアルの定義に沿ったイノベーションの実現状況を国際比較する。まず、我が国のイノベーション活動について、企業規模別にみると、大企業が67%、中小企業が47%となっており、欧州の主要国が大企業で80%台から90%台、中小企業で60%台から70%台となっていることと比較すると、日本は大企業、中小企業ともに相対的に実現割合が低いことが分かる(第3-2-1図(1))。イノベーションの内訳についてみると、日本企業は、大企業では、技術的イノベーションと非技術的イノベーションの両方を実現している企業の割合が36%と最も高く、他の先進国と同様の傾向がみられるが、中小企業では、非技術的イノベーションのみを実現している企業の割合が21%と最も高くなっている。

次に、業種別にみると、どの国も概して製造業の方がサービス業よりイノベーションを行っている企業の比率が高く、日本では、製造業が50%、サービス業が47%となっている(第3-2-1図(2))。また、イノベーションの内訳についてみると、日本企業は、製造業では、技術的イノベーション、非技術イノベーション、あるいはその両方を実現している企業の割合がおおむね同程度となっている一方、サービス業では、非技術的イノベーションのみを実現している企業の比率が最も高くなっている。

なお、この調査では、イノベーションとその成果(業績の向上等)が結び付けられていないため、国全体のイノベーションの実現度や経済的効果を推し量ることはできないことには注意が必要である。また、企業へのアンケート調査であるため、イノベーションを実現したという判断が回答者によって大きく異なる可能性もあるため、調査結果の解釈は幅をもってみる必要がある19

第4次産業革命を支えるイノベーションの基礎力と適合力

近年の第4次産業革命と呼ばれるイノベーションの進展も、プロダクト、プロセス、マーケティング、組織の4つの類型を併せ持っていると考えられる。

具体的には、プロダクトイノベーションについては、インターネットとつながった様々なスマート製品(携帯電話、家電、コネクテッドカー等)や電子コンテンツ、シェアリングなどの新たなサービス形態が出現しつつあり、さらに無人自動走行による自動車などの開発が進んでいる。

プロセスイノベーションについては、IoT、ビッグデータの解析、AI、ロボットの導入等によって、工場やオフィスの作業効率や稼働率が向上するなど、大きな進展がみられている。

マーケティングイノベーションについては、インターネットの閲覧履歴やPOSデータなどのビッグデータの活用によって、BtoCにおいて顧客と商品・サービスのマッチング効率が改善するなど、この面でも既に進展がみられている。

組織イノベーションについては、通信機器やAI等の導入あるいはクラウドサービスの活用等によって、意思決定プロセスの短縮化、権限の分散化、バックオフィス業務の機械化・アウトソーシング化などの動きがみられている。

第4次産業革命が進行する中で、日本がイノベーションにおける国際競争力を保つためには、こうしたイノベーションの4つの類型(プロダクト、プロセス、マーケティング、組織)のそれぞれにおいて、優位性を確立していく必要がある。そこで、以下では、イノベーションの多元的要素を考慮して、日本のイノベーションにおける強み、弱みを様々な側面から国際比較することで確認する。

具体的には、分析のフレームワークとして、第4次産業革命に向けたイノベーションを実現する力を、「イノベーションの基礎力」と「イノベーションへの適合力」の2つの大きな要素に分けて整理する20。まず、「イノベーションの基礎力」とは、研究を担う人的資本、論文数や特許件数などで表される知識の創出、第4次産業革命の核となるIoT、AI、ロボットなどの技術、研究開発の効率性を指す。これらは、主にプロダクトイノベーションを推進する源泉となるものと考えられる。次に、「イノベーションへの適合力」とは、新技術導入に向けた組織の柔軟性やイノベーションに対応した人材育成のあり方、ICT(情報通信技術)投資を含む無形固定資本への投資、新たな技術や商品を生み出す起業家精神やリスクマネーの供給、規制や電子政府の進展度など主に第4次産業革命の進展を促す制度面を指す。これらは、プロダクトイノベーションのみならず、プロセス、マーケティング、組織のイノベーションに幅広く関連するものと考えられる。

2 イノベーションの基礎力:人的資本、知識、技術力、研究開発の課題

ここでは、「イノベーションの基礎力」として、研究を担う人的資本、論文数や特許件数などで表される知識の創出、第4次産業革命の核となるIoT、AI、ロボットなどの技術、研究開発の効率性について国際比較を行う。

日本は研究者の割合は多いが、国際的な流動性が低い

まず、技術的イノベーションの源泉となる基礎研究や応用研究、開発などに携わる研究者の数について確認する。雇用者千人あたりの研究者数をみると、我が国は2015年で10人となっており、OECD加盟国の平均である8人より多く、OECD諸国の中では11番目の高さとなっており、英国やアメリカ、ドイツといった国よりも多い(第3-2-2図(1))。また、研究者の活動の場について、企業もしくは政府・学術研究機関等に分けてみると、我が国の企業研究者の割合は73%となっており、イスラエル、韓国に次いで、世界第3位となっている(第3-2-2図(2))。

ただし、日本の研究者の大きな特徴として、国際間での流動性が極めて低いことが挙げられる。海外からの流入者が研究者全体に占める割合(2016年中)は、日本は1%であり、主要国の中では、英国の7%、ドイツの4%、アメリカの4%と比べて極端に低い。同様に、海外への流出者が研究者全体に占める割合についても、日本は3%となっており、英国の9%、ドイツの7%、アメリカの5%と比べて、やはり低くなっている(第3-2-2図(3))。

日本は科学分野における論文被引用の割合が低い

次に、基礎研究や応用研究などの成果(技術的イノベーションのための中間アウトカム)である論文被引用数について、我が国の立ち位置を確認する。

過去15年間に、科学分野全般において最も多く引用された論文(論文被引用数上位10%のもの)について、各国のシェアをみると、アメリカが25%、次いで中国が14%を占めている。この2か国に次いで欧州主要国の占める割合が高い一方、我が国は3%と低く全体では7位となっている(第3-2-3図(1))。

また、例えば、AIの技術として用いられる機械学習に関する論文についてみると、論文発表数ではアメリカがトップであるが、次いで、中国、インドが続いている(第3-2-3図(2))。なお、機械学習の分野において最も多く引用された論文(論文被引用数上位10%のもの)に占める各国・地域の論文数をみると、アメリカ、中国、英国、インドの順となっている(第3-2-3図(3))。

このように、アメリカや欧州主要国のみならず、中国やインドなどの新興国も、影響力の強い科学分野での取組を積極化させている一方で、我が国は、欧米の主要国や中国などと比べて、相対的に低い立ち位置にとどまっている。

日本のICT関連の特許件数のシェアは高い

さらに、技術的イノベーションの中間アウトカム指標として、特許件数を比較する。ICT(情報通信技術)に関連するものとして、音響・映像技術、コンピュータテクノロジー、半導体、デジタル通信、近距離通信技術(無線LAN、Bluetooth等)、決済プロトコルについて、2012年~15年の間の特許件数のシェアをみると、中国、台湾、韓国、日本、アメリカの5つの国・地域で全体の7割以上を占めており、特に、日本と韓国は、ICTの様々な領域においてイノベーションを進めている状況がみられる(第3-2-4図(1))。

また、世界で上位5つの国・機関の特許庁(IP5)で特許認定された発明数をみると、AIに関する特許件数は、2010年~15年にかけて毎年平均6%程度増加しており、全特許の年間平均増加率の約2倍の増加率となっている。このAI関連の特許件数の国・地域別のシェアをみると、日本が33%とトップであり、次いで韓国が20%、アメリカが18%となっている(第3-2-4図(2))。

以上を踏まえると、企業で働く研究者の割合が高いこともあり、ICTやAIの特許シェアが国際的に高く、我が国の新技術の実用化の能力は高いと考えられる反面、国際的に引用される論文の少なさや国際的な研究者の交流の少なさについては、革新的なアイデアを創出する上での課題であると考えられる。

日本のICT関連産業の割合やインターネット利用率は高い

ここでは、第4次産業革命を支えるインフラともいえるICT関連産業の付加価値やインターネットの利用率について確認する。

コンピュータや光学機器などのICT関連財は、情報通信業などをはじめとする様々な業種で活用されるため、ICT関連財を生産する業種とそれを活用する業種を合わせたベースで、付加価値がGDPに占める割合をみると、我が国は10%強となっており、アジアNIEs(台湾、シンガポール、韓国)や欧州の技術先進国(アイルランド、スイス)に次いで、高い割合となっている(第3-2-5図)。

また、インターネットの利用者の割合をみると、日本は98%となっており、アイスランドに次いで世界第2位となっている(第3-2-6図)。このように、第4次産業革命のインフラとなるICT産業やインターネットへのアクセスについては、日本は国際的にも十分な基盤を持っていると考えられる。

日本は製造業におけるロボット化が進んでおり、それを活用するスキルも高い

第4次産業革命の技術的イノベーションを進展させる技術として、ロボット化の度合いと、それを効果的に活用するための労働者のスキルを比較してみたい。

まず、製造業の付加価値額に対する産業用ロボット(ストック額)の比率をみると、我が国は、韓国に次いで世界第2位となっており、製造業におけるロボット化が進んでいることが分かる(第3-2-7図(1))。

次に、労働者千人当たりのロボット数と、労働者のICT関連技術を有効活用するスキルを示すICTタスク集積度21の相関関係について、国・地域ごとのプロットをみると、日本や韓国、ドイツ、アメリカなど製造業の活動が活発な国においては、双方の指標が高くなっており、ロボット化の進展とともに、それを有効活用するためのスキルも高くなっているという、補完性があることが分かる(第3-2-7図(2))。

日本の研究開発支出は大企業を中心に多いが、自前主義の傾向

次に、イノベーション活動そのものともいえる研究開発費の動向を確認する。数多くの先行研究22が指摘するように、研究開発活動はマクロ経済でみた生産性や経済成長にも大きな影響を与えるものである。

国全体の研究開発支出の大部分を占める、企業の研究開発支出の対名目GDP比率をみると、日本は2016年で2.5%となっており、アメリカの2.0%、ドイツの2.0%といった他の主要先進国と比べて水準が高めとなっている23第3-2-8図(1))。また、企業規模別にみると、各国とも大企業が中心となっているが、我が国の大企業が占める割合は約9割と、他国と比べても高いことが特徴である(第3-2-8図(2))。

一方、研究開発資金の調達元をみると、日本企業は他の先進国企業と異なり、海外や政府からほとんど調達していない(第3-2-8図(3)、(4))。これは、日本企業が自社内での技術開発を重視する「自前主義」の傾向が強い可能性を示唆している24

また、産業別にみると、各国で差があるものの、自動車やコンピュータ・電子製品等のICT関連分野、医薬品などの割合が大きい(第3-2-8図(5))。

研究開発支出の担い手をみると、各国とも、一部の企業が大部分を担っている。我が国は、研究開発費上位50社が全体の6割程度、上位100社が全体の7割程度を占めており、研究開発活動が一部の企業に集約されていることがうかがえる(第3-2-9図)。

研究開発活動が企業内での漸進的なものにとどまっている

我が国企業の研究開発活動の特徴をみると、企業内での研究開発が漸進的なものにとどまり、革新的な製品開発に慎重な可能性がある。

民間機関による企業アンケート調査によると、「既存の製品やソリューションを改良する漸進的イノベーション」と「新しく市場に対する破壊力を持った製品を投入する革新的イノベーション」のどちらのアプローチが当てはまるかを聴取したところ、漸進的なアプローチと回答した企業の割合は日本では7割超にのぼり、他の国と比べても相対的に高くなっている(第3-2-10図(1))。また、研究開発の進め方に関して、他企業や大学との技術協力やオープンソース技術の利活用ではなく、自社内での技術開発を重視する企業が多い(第3-2-10図(2))。さらに、自社内で事業化されなかった技術やアイデアについては、検討の継続や他の組織での活用が行われることなく、そのまま消滅してしまうことが多い(第3-2-10図(3))。

これらの点を踏まえると、我が国の研究開発活動は、どちらかというと漸進的なものにとどまっており、大きな変革を主導したり、外部からのアイデアを受け入れる力が弱い可能性が示唆される。

日本は研究開発における国際連携の度合いが低い

画期的なイノベーションを生み出すためには、多様な視点から物事をみたり考えたりすることが重要となるが、そうした点では、研究開発の国際連携は重要性を持っていると考えられる。そこで、我が国の研究開発について、国際的な連携の動向を確認する。

既に前掲第3-2-2図(3)でみたように、我が国の研究者数に占める海外への流出者や海外からの流入者の割合は、どちらも国際的にみて極めて低い。こうしたことも背景にあり、全体の論文数に占める国際連携によって行われたものの割合25をみると、日本は約14%と、諸外国と比べて非常に低い水準となっている(第3-2-11図(1))。

さらに、ICT関連分野の発明に関して、世界で上位5つの国・機関の特許庁(IP5)で特許認定された発明数に占める国際連携を伴うものの割合をみると、日本は最下位となっている(第3-2-11図(2))。

以上のことから、我が国の研究開発における国際連携は、非常に限定的なものにとどまっていることがうかがえる。

3 イノベーションへの適合力:組織、人材投資、起業、ルール・制度面の課題

前項でみたように、我が国におけるイノベーションの源泉となる「イノベーションの基礎力」は、諸外国と比較しても、相応に存在していると考えられる。こうした「イノベーションの基礎力」を有効に活用し、プロダクトイノベーションや生産性向上につなげていくためには、組織の見直しや教育訓練、起業家精神の発揮、イノベーションを促す制度的な枠組みなど、イノベーションに適合するための対応が必要となる。

そこで、以下では、我が国の「イノベーションへの適合力」をみるために、新技術導入に向けた組織の柔軟性や人材育成のあり方、ICT投資を含む無形固定資本への投資、新たな技術や商品を生み出す起業家精神やリスクマネーの供給、規制や電子政府の進展度など、第4次産業革命の進展を促す制度面に焦点を当てて、国際比較を通じて現状を概観する。

日本のICT戦略や組織体制は、アメリカと比べると向上の余地

イノベーションを生産性向上につなげていくためには、企業組織の柔軟性も重要な要素となり得る。例えば、高度な技術を持つ企業でも、研究開発投資や組織変更などといった意思決定がある程度柔軟に行われなければ、先進的なビジネスモデルを創造することは難しくなるだろう。また、企業の研究開発の進め方や人的資本投資のスタンスによっては、新たな技術が生まれていても、それを製品・サービスの開発につなげられず、労働者の技能を高められなければ、企業の成長が阻害される可能性がある。

企業組織の柔軟性という観点では、ICTに関する取組が今後も重要であると考えられる。この点に関して、Brynjolfsson and McAfee(2011, 2014)は、ICTは電気や内燃機関と同じ「汎用技術(General Purpose Technology)」であり、その恩恵は特定の分野や産業にとどまらず、経済社会全体に及ぶことを強調している。また、Jorgenson(2001)は、ICT投資の拡大は、省人化や作業効率の改善を通じて、ICTを利用する全ての産業の生産性向上に資すると指摘している。

ここで、日本とアメリカの企業の取組に関して、JEITA(電子情報技術産業協会)による企業アンケートの結果をみると、ICTに期待する効果として、「顧客の嗜好やニーズの把握」、「将来の市場動向・トレンド予測」といった新たなビジネスモデルの創出につながる効果や、「意思決定の迅速化」、「人件費の削減」といった業務効率化・コスト削減等につながる効果を挙げる企業が多い(第3-2-12図(1))。この調査は、日本については2017年、アメリカについては2013年時点の情報であることには注意が必要であるが、特に、日本企業は、アメリカ企業と比較して、「意思決定の迅速化」や「人件費の削減」など、プロセスイノベーションに資する効果をより期待している点も特徴である。

また、ICTの利活用に関する戦略について、アメリカ企業では、最高情報責任者(CIO:Chief Information Officer26を設置している企業が多く、専任のCIOを設置している先の割合は、2013年時点でも、全体の7割程度と高い。一方で、日本企業において専任のCIOを設置している企業は、2017年時点でも、全体の2割程度にとどまっており、意思決定の分権度を高め、企業組織の柔軟性を高める余地がいまだ残されている(第3-2-12図(2))。

こうした中、ICT予算の増減見通しをみると、アメリカ企業は2013年時点でも全体の8割程度がICT支出を増やす計画にある一方、日本企業は2017年時点でもICT支出の増加を見込んでいる企業は全体の半分程度にとどまっている(第3-2-12図(3))。

日本は人的資本投資の水準が低い

第4次産業革命によるイノベーションをプロセスイノベーションにつなげて生産性を向上させていくためには、企業の人材の再訓練や働き方の見直しが重要になる。

そこで、企業の人的資本投資が粗付加価値に占める割合を国際比較すると、日本では、製造業で4%程度、非製造業で3%程度となっており、欧州諸国(製造業で6%~8%程度、非製造業で8%~10%)やアメリカ(製造業で4%程度、非製造業で6%程度)と比較すると、かなり低い水準にとどまっている。人的資本投資の割合を製造業、非製造業別にみると、日本の場合、特に非製造業において人的資本投資が相対的に低い水準にとどまっていることが分かる(第3-2-13図(1))。

また、人的資本投資の種類別にみると、日本では、国際的にみても職場におけるOJT(On-the-Job Training)の比率が比較的高い点が特徴となっているが、職場外でのフォーマルな研修については、国際的にみてかなり低い水準となっている27第3-2-13図(2))。

こうした中、日本のICTを仕事で使う頻度(ICTタスクの集積度)は、OECD加盟国の中間程度に位置しており、日本国内でのばらつきは相対的に小さくなっている(第3-2-13図(3))。

以上の事実を踏まえると、日本では、ICTタスクは仕事の中で相応に大きな比重を占めている中で、人的資本への投資については、職場外でのフォーマルな研修を中心に投資不足となっている。このため、今後さらに加速すると見込まれるIoTやAIの職場への導入に対して、適切にスキルを引き上げて対応することができるかが課題となると考えられる。

日本の無形資産投資の割合は低い

新しい技術を有効に活用するためには、それを既存の技術やアイデアと適切に組み合わせたうえで、仕事の進め方や組織のあり方を見直す必要がある28。このように、資本や労働などの経営資源を有効に活用するための組織としての仕事の進め方や仕組み、労働者の習熟度や技能度、そして研究開発によって蓄積された技術やアイデアといったものを総称したものが、無形資産と呼ばれる29。こうした無形資産は、生産設備など有形資産への投資や労働投入を補完することで、企業のパフォーマンスを向上させると考えられる。

無形資産は、これまでみてきた人的資本への投資や研究開発投資、ソフトウェア投資などが含まれる包括的な概念であるが、一部の項目以外では、基礎データの制約が大きいため、その計測が難しい。ここでは、一定の仮定を置いたうえで主要先進国の無形資産を包括的に推計した宮川ほか(2015)の結果をもとに、無形資産投資の国際比較を行う。

名目GDP対比でみた無形資産投資は、各国とも増加傾向にあるが、2000年代の日本は、アメリカ、英国と比べて、低い水準にとどまっている(第3-2-14図)。各国の産業構造や推計に使用している基礎データの定義が異なることを踏まえると、幅をもって解釈する必要があるが、こうした結果は、我が国では、特に2000年代において厳しいリストラが行われる中で、ソフトウェアや組織・人的資産などへの投資が十分に行われてこなかった可能性を示唆している。

日本は既存企業の“企業年齢”が高く、参入・退出が不活発

イノベーションを生産性向上につなげていくための経路や効率性の追求という観点では、資本や労働といった経営資源を再配分するメカニズムが有効に機能することも重要である。Baily et al.(1992)やFoster et al.(2001)によれば、高度な技術あるいは先進的なビジネスモデルを持つ企業が新たに市場に参入する、あるいは技術の陳腐化等により生産性が低下した企業が市場から退出することにより、経済全体のTFP(Total Factor Productivity:全要素生産性)成長率は高まると考えられる。

中小企業の企業年齢別の割合をみると、日本は、企業年齢10年以上の企業が全体の7割程度を占めており、設立後2年以内のスタートアップ企業の割合は、諸外国の中で最下位となっている(第3-2-15図(1))。

また、開業率や廃業率をみると、日本はそれぞれ4%から5%程度の水準であり、アメリカ、英国、ドイツと比べて低い水準となっており、企業の参入・退出が相対的に不活発であることが分かる(第3-2-15図(2))。

直近の動向について、日本の開業率はやや上昇しているものの、廃業率が低下している点には留意が必要である。OECD(2017)が指摘するように、仮に、 需要構造の変化に十分に適応できない企業や、技術の陳腐化を食い止められない企業の退出が行われていない場合、そうした生産性成長率の低い企業に、資本や労働が固定化してしまう可能性がある。この場合、新しい技術やアイデアを持っており、高い生産性を実現しうる新規参入企業などへと、経営資源が適切に再配分されず、経済全体の平均的な生産性が低下する可能性が考えられる30

日本で企業の新規参入を妨げている要因

日本で新規参入企業が少ないことの背景としては、諸外国と比べて、起業家精神が低いことがあると考えられる。

Global Entrepreneurship Monitorの調査31によると、日本では起業する意思のある人の割合が極端に低いが、その背景をみるために起業に関連した質問の回答状況をみると、失敗に対する恐れが大きいこと、成功した企業家に対する尊敬度合いが低いこと、起業家の女性比率が低いことなどが示されている(第3-2-16図(1))。

こうしたリスク回避的な姿勢の背景の一つとして、OECDの調査をみると、「学校教育において事業経営のスキルやノウハウを提供していると考えるか」という質問に対する回答状況は、日本でそう思うと回答した人の割合は対象国の中で最も低く、これまでの日本の教育において起業家精神を養うという観点が薄かったことが影響している可能性が考えられる(第3-2-16図(2))。

また、日本で起業する際に苦労した点について、日本政策金融公庫のアンケート調査をみると、「顧客・販路の開拓」に次いで、「資金繰り、資金調達」といった金融面の問題や経営面の問題が多く挙げられている(第3-2-16図(3))。こうした事実の背景としても、起業にあたって資金や経営ノウハウをどのように確保するのかといったことに関する教育や支援が十分になされていないことや、ロールモデルとなり得る起業家が少ないことなどが影響している可能性が考えられる。

日本はリスクマネーの供給が少ない

資本や労働などの経営資源の再配分の観点では、銀行部門や金融市場が果たしている金融仲介機能も重要な役割を担っている。こうした金融仲介機能が不活発である場合、資本移動が妨げられ、新しい投資案件が実施されなくなってしまい、革新的な技術やビジネスモデルを持つ企業の成長が阻害される可能性が考えられる32

我が国の金融仲介の構造について、資金循環統計を用いて確認すると、家計、企業ともに、アメリカやユーロ圏と比べて、資金余剰の度合いが大きくなっている(第3-2-17図(1))。家計の金融資産については、規模は大きいものの、現預金比率が高く、欧米と比較して投資信託やファンド等リスク性資産の割合が少ないことが特徴である(第3-2-17図(2))。また、企業の負債構成をみると、間接金融とりわけ銀行等による負債性資金が相対的に多く、資本性の資金の割合がアメリカと比べて低くなっている(第3-2-17図(3)33

また、研究開発の動向が先鋭的に現れやすいベンチャーキャピタル投資の動向をみても、我が国の投資規模は、諸外国と比べて低い水準に止まっている(第3-2-17図(4))。なお、投資分野をみると、日本は、インターネット、モバイル通信などのIT関連が最も多く、次いでヘルスケアなどの医療関連が多く、特に医療関連はアメリカと比べて相対的に割合が高いことが分かる(第3-2-17図(5))。

イノベーションを促す規制の見直しや電子政府の推進

イノベーションが進展する中で、これまでの規制の枠組みでは念頭になかった新たな商品やサービスが提供されるようになっており、そうしたイノベーションに合わせて規制のあり方をスピード感を持って見直していくことは、イノベーションを促進する上で極めて重要である。

具体的な事例として、近年急速に増加している民泊については、多様化するニーズに対応した宿泊手段の一つとして定着しつつある半面、公衆衛生の確保や地域住民とのトラブル防止、無許可で旅館業を営む違法民泊への対応などが課題となったことから、2018年6月から住宅宿泊事業法が施行され、住宅宿泊管理業者の事前届け出制などが導入された。また、現在開発が進む自動運転についても、事故が起きた時の法的責任の所在など多くの法制面での課題が存在している。加えて、プラットフォーム・ビジネスの巨大化に伴い、プラットフォーム上で収集された個人データのポータビリティの問題や、プラットフォームの取引上の有利な立場を濫用するような行為の問題など、諸外国においては、競争政策等の観点からも多くの論点が指摘されている。

このように、新技術の社会実装による効果を十分に生かしつつも、安全性の確保、外部不経済の適正な抑制、公正な競争条件の維持などを図るための法制度の見直し等を同時に進めていく必要がある。イノベーションは世界中で予測困難なスピードと経路で進化するため、社会を巻き込んで試行錯誤をしながら、失敗しても再び挑戦できるプロセスが有効であり、完全なデータと証明がないと導入できない従来の硬直的一律の制度設計では世界に後れを取る可能性がある。こうしたことから、参加者や期間を限定することにより試行錯誤を許容する、規制の「サンドボックス」制度の導入が進められている。

また、第4次産業革命の成果を行政に活かし、規制改革、行政手続の簡素化、オンライン化などを一体的に推進することも重要である。こうした観点から、行政サービスのインターネット化について国際比較をすると、日本は、行政サービスをインターネット経由で利用する人の割合が、OECD加盟国を中心とする34か国の中で最下位となっている(第3-2-18図)。この背景としては、個人情報などをインターネット経由でやり取りする際のセキュリティに対する不安や、ワンストップ化の遅れ・添付書類の多さ・押印の必要性など本人確認手段の問題といった手続上の問題、一部のオンライン行政サービス利用に必要な初期コストの存在(例えば、ICカードリーダーの購入等)などが影響している可能性が高い。こうした点を踏まえ、子育て、引越し、相続などライフイベントに係るサービスのオンライン化、ワンストップ化などを「フラッグシップ・プロジェクト」として進めるなど、行政サービスの利便性の一層の向上が求められているところである。

4 第4次産業革命の加速への挑戦

日本の強み・弱み

本節では、第4次産業革命を進める上での日本の強みと弱みについて、イノベーションの源泉となる知識や人的資本、技術力、研究開発などの「イノベーションの基礎力」と、組織の柔軟性、起業家精神、ルール・制度などの「イノベーションへの適応力」の2つの観点から整理した。

まず、「イノベーションの基礎力」の観点では、我が国は、研究者数が多く、ICT関連の特許件数のシェアが高いほか、製造業におけるロボット化が進んでおり、それを活用するスキルも高いなど、諸外国と比較しても相応の競争力を有しているといえる。一方で、研究開発の進め方をみると、自前主義の傾向がみられるほか、革新的イノベーションよりも漸進的イノベーションを志向する企業の割合が高いこと、研究開発における国際連携の度合いが低いことなどが指摘できる。

一方、「イノベーションへの適応力」の観点では、ICT戦略を進める上での企業内での組織体制に向上の余地があること、人的資本投資をはじめとする無形資産投資の水準が低いこと、企業の参入・退出が不活発であり、起業家精神の低さや起業家教育の不十分さが企業の新規参入を妨げている可能性があること、リスクマネーの供給が少ないことなど、様々な点で弱みが存在することが確認できる。

日本のイノベーション能力の総合ランキングは最近数年間で低下

最後に、イノベーションについて、代表的な機関が提示している総合ランキングを確認する。

世界経済フォーラムの最新調査をみると34、日本の総合ランキングは世界第8位と、アメリカやドイツなどの主要先進国と比べて、やや低い順位となっている。内訳をみると、「特許協力条約に基づいた特許申請」や「企業の研究開発投資」といった項目における順位は相対的に高い一方で、「研究開発における産学連携」や「先進技術に対する政府調達」といった項目では順位が低くなっており、これまで確認してきた我が国の特徴点と同様の傾向が確認される(第3-2-19図(1))。また、総合ランキング及び、多くの内訳項目の順位は、5年前の調査と比べて低下している(第3-2-19図(2))。

また、IMD「デジタル競争力ランキング」をみても35、我が国の順位は調査対象国・地域の中で27位と低く、中でも将来に向けた準備度の不足が順位を押し下げており、具体的には、「適応力」、「ビジネスでの臨機応変さ」、「ITの利活用」といった項目で課題がみられている(第3-2-19図(3))。

白書の注目点<3>:新たなイノベーションでの日本の強みと弱みは

「Society 5.0」に向けたイノベーションの進展

◇AI、IoT、ビッグデータなど第4次産業革命と呼ばれるイノベーションが急速に進展しています。例えば、人間や機械の位置・活動状況など、これまでデータ化されていなかった情報を、センサー等を通じてデータ化し、AIで解析することによって、新たなサービスが次々と生まれており、国民生活も大きく変わり始めています。

◇こうした新技術の経済社会への実装を進め、人口減少・高齢化、エネルギー・環境制約などの様々な社会課題を解決できる新しい経済社会である「Society 5.0」の実現を進めていくことが期待されています。そうした中、自動車の無人自動走行といった次世代モビリティ・システムや、医療・介護分野における次世代ヘルスケア・システムなどの実現に向けた動きが始まっています。

イノベーションにおける日本の強みと弱み

◇第4次産業革命を進めるためには、単に研究人材・知識・技術力・開発力といったイノベーションの「基礎力」だけでなく、新しいイノベーションに対応した「適合力」も重要になります。

◇「イノベーションの基礎力」でみると、日本は、AI関連の特許件数、ロボット等の技術力といった面では、国際的にみても高い水準にあります(1)。

◇他方で、「イノベーションへの適合力」をみると、相対的に弱い面があります。具体的には、IT化に対応した企業組織の体制面に向上の余地があること、人材への投資の水準が国際的にみて低いこと、新規事業を起こす起業家の割合が少ないことなどが挙げられます(2)。イノベーション力を強化するには、こうした課題にスピード感を持って対応していくことが重要です。

イノベーションがもたらす効果・影響と日本の立ち位置

◇イノベーションの進展は、これまでもコンピュータや通信機器などをはじめとする資本財の価格を低下させ、新技術の急速な普及をもたらしており、今後も新技術の普及によって企業の生産性が大きく高まることが期待されます。

◇その反面で、こうした機械化の動きが一部の定型的な労働を代替してきた可能性には留意する必要があります。具体的には、企業の生み出す付加価値のうち、賃金に回る割合を示す労働分配率が、日本やアメリカ、ドイツなどの主要先進国で低下する傾向がみられます(3)。

◇ただし、日本は、今、雇用環境が大幅に改善し、人手不足感が多くの業種で生まれており、第4次産業革命の技術革新を一気に取り入れていく大きなチャンスでもあります。同時に、イノベーションによる生産性向上の成果を、賃金や教育訓練の形で人材への投資に還元していくことが重要です。


(18)最新の第3版(2005年版)は、OECDとEurostatとの共同作成となっている。このオスロ・マニュアルに準拠して、約80か国が民間企業のイノベーションに関するデータを収集している。
(19)例えば、ある企業は大きな技術的改良を伴うものをイノベーションに該当すると認識する一方、別の企業では小規模なものであってもイノベーションであると認識する可能性がある。
(20)こうした分類は、IMD(International Institute for Management Development:スイスのローザンヌに本部を置く著名なビジネススクール)が公表している、国際的な競争力に関するランキング(Digital Competitiveness Indicators)などの考え方を援用したものである。
(21)Grundke et al.(2017)が作成した指標であり、数値が高いほど、労働者のICT関連技術を有効活用するスキルが高いことを表す(当該指標は、OECDのSurvey of Adult Skills(PIAAC)において調査されている、インターネット利用、WordやExcel、プログラミング言語の使用などのスキル習熟度を用いて作成されている)。
(22)例えば、Romer(1990)やBarro and Sala-i-Martin(2004)などを参照。
(23)なお、企業及び政府を合わせた国全体の研究開発支出(対名目GDP比率)でみても、日本は2016年で3.1%と、アメリカの2.7%や、ドイツの2.9%を上回っている。
(24)「日本再興戦略2016」では、「第4次産業革命を実現する鍵は、オープンイノベーションと人材である。技術の予見が難しい中、もはや『自前主義』に限界があることは明白である。」と指摘している。
(25)共著者の割合に応じて国に論文数を割り振る計算方法(fractional count)による。
(26)CIOは、情報や情報技術に関する役員レベルの責任者を指す。通常、経営戦略に沿って、ICTに関する戦略や投資計画の策定などの意思決定を行うほか、情報セキュリティ面でのチェック機能を持ち、情報の漏洩を防ぐ役割を持つ。
(27)加藤・永沼(2013)は、2000年代に人的資本投資が低迷した背景として、不況期における厳しいリストラ圧力のもと外部研修等の支出が削減されたほか、主に製造業における正規雇用の縮小トレンドのもとで、新卒一括採用・終身雇用を前提とした企業内部での人材育成の機会が抑制されてきた可能性を指摘している。
(28)Gordon(2012, 2016)は、18世紀後半の第1次産業革命において、単に蒸気機関を導入しただけでは生産性の向上が図られず、蒸気機関の性質に合わせて、工場のレイアウトが大幅に変更され、そこで働く人々が新しい労働環境に慣れた後に、生産性の劇的な向上が生じた、と指摘している。このほか、Allen(2009)は、新しい技術が生産性向上につながるためには、そうした技術を用いることにより経済的利益を生み出せる環境が整っている必要がある、と指摘している。
(29)無形資産の定義に関する代表的な研究としては、Corrado et al.(2005, 2009)がある。
(30)この点、ドイツでは、企業経営者が債務超過を知りつつ企業経営を継続した場合、刑事あるいは民事訴訟の対象となる可能性があるなど、法制度全体として企業の新陳代謝を促す仕組みになっている(木下(2014))。また、欧州委員会は、経営困難に直面した企業が早期に事業再構築に着手できるよう、加盟国に対して適切な法改正を促している(European Commission(2014))。
(31)アメリカのバブソン大学と英国のロンドン大学ビジネススクールの起業研究者による、「正確な起業活動の実態把握」、「各国比較の追求」、「起業の国家経済に及ぼす影響把握」を目指した調査。
(32)金融仲介機能の低下が非効率的な資本の蓄積を通じて先進国の労働生産性を下押ししている、という点については、いくつかの実証分析事例が存在する。Levine and Warusawitharana(2014)は、金融危機により資金調達面の制約が厳しくなると、高収益が見込めてもリスクが大きい企業のプロジェクトが実行されなくなるため、経済全体の生産性成長率が低下する可能性があるという結果を得ている。また、Ferrando and Ruggieri(2015)はユーロ圏を対象とした実証分析により、資金調達面の制約が各国の労働生産性を下押しする傾向があり、特に中小企業へのインパクトは大企業に比べて有意に高いことを示している。こうした先行研究のサーベイに関する詳細は、中島・西崎・久光(2016)を参照。
(33)この点、経済産業省「第四次産業革命に向けたリスクマネー供給に関する研究会」の中間取りまとめ(2017)では、投資家から金融仲介、企業、事業へという資金の流れを考えると、このような我が国の資金全体の流れを、経済成長に必要なハイリスク・ハイリターンの事業への投資にもっと向けられるように、金融仲介のあり方、企業のインセンティブを変えていく必要がある、との指摘がなされている。
(34)最新の2017~2018年調査では、137の国・地域を対象にしている。
(35)最新の2017年調査では、63の国・地域を対象にしている。
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