第3章 「Society 5.0」に向けた行動変化 第1節

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第1節 第4次産業革命の社会実装

AI、ロボット、ビッグデータなど近年急速に進展している第4次産業革命のイノベーションを、あらゆる産業や社会生活に取り入れることにより、様々な社会課題を解決するのが「Society 5.0」1。本節では、こうした第4次産業革命がもたらす様々な変化と、それが経済社会へどのような影響をもたらし得るかについて、他国との比較も交えながら、整理する。

1 第4次産業革命の進展と経済構造への影響

第4次産業革命がもたらす変化、新たな展開

近年の情報通信ネットワークの発達やIoT、AI、ビッグデータ、ロボットの発展等により、第4次産業革命とも呼ばれる大きなイノベーションが生まれている2。具体的には、相互接続されたスマートな機械やシステムを通じて、これまでデータ化されていなかった情報、例えば、人間や機械の位置や活動状況などの情報がデータ化され、ネットワークを通じて集積されてビッグデータとなり、それが解析・利用されることで、新たな付加価値が生まれている。これまでデータ化されてこなかった情報も含めてビッグデータが利用可能となったことで、AIによる機械学習の技術が一層発展するとともに、データ解析の結果をロボットにフィードバックすることで、機械による自動化の範囲が飛躍的に拡大しようとしている3

第4次産業革命の新たな技術革新は、人間の能力を飛躍的に拡張する技術(頭脳としてのAI、筋肉としてのロボット、神経としてのIoT等)であり、豊富なリアルデータを活用して、従来の大量生産・大量消費型のモノ・サービスの提供ではない、個別化された製品やサービスの提供により、個々のニーズに応え、様々な社会課題を解決し、大きな付加価値を生み出していく。

まず、AIやロボットによって、様々な分野で自動化が進む。例えば、これが自動車の運転、物流の局面で成し遂げられれば、交通事故の削減や地域における移動弱者の激減につなげられるほか、人手不足に直面する物流現場の効率化につながり、過度な業務負担も大幅に軽減される。自動翻訳によるコミュニケーションの進化は、国際的な知見を獲得したり、我が国の知見を海外に発信したりするに当たり、これまで大きなハードルであった言葉の壁をバイパスすることができる可能性を秘めている。このようにAIやロボットがもたらす自動化・効率化、代替力によって、人間の活動の重点は、五感をフルに活用した頭脳労働や、チームワークの下で互いに知恵を出し合うコミュニケーションなどにシフトしていくこととなる。

次に、画質や音質が飛躍的に進歩したIoT技術により、これまで地理的な制約で提供することができなかった新しいサービスの提供が可能になる。例えば、交通の便が悪い地方の住民や子育てに忙しい都市部の住民が、大きなコストを払うことなく必要な医療や教育のサービスの提供を受けることができる。わざわざ商店やコンビニエンスストアに買い物に行かなくてもスマートフォンのアプリで商品を注文し、これをタイムリーに受け取ることも可能となる。

20世紀までの経済活動の代表的な基盤は、安定的な「エネルギー」と「ファイナンス」の供給であった。天然資源の乏しい日本にとって、エネルギー供給は日本経済の潜在的な「弱み」であり、金融面でも、日本は世界的な競争から遅れを取っているのが現状である。こうした「弱み」を、ブロックチェーン技術等を活用した集中から分散型によるセキュリティの確保や、新しい決済手法、スマートエネルギーマネジメントなど、最新の技術革新を取り入れることにより、国際競争で十分互角に戦える「強み」に変えることが可能となる。

さらに、21世紀のデータ駆動型社会では、経済活動の最も重要な「糧」は、良質、最新で豊富な「リアルデータ」になってくる。データ領域を制することが事業の優劣を決すると言っても過言ではない状況が生まれつつあり、これまで世の中に分散し眠っていたデータを一気に収集・分析・活用する(ビッグデータ化)ことにより、生産・サービスの現場やマーケティングの劇的な精緻化・効率化が図られ、個別のニーズにきめ細かく、かつリアルタイムで対応できる商品やサービス提供が可能になる。例えば、個人の健康状態に応じた健康・医療・介護サービスや、時間や季節の変化に応じた消費者のニーズの変化を的確に捉えた商品、農産品の提供などが可能となる。ものづくり、医療、小売・物流など、現場にあるリアルデータの豊富さは、日本の最大の強みであり、サイバーセキュリティ対策に万全を期しながら、そのデータ利活用基盤を世界に先駆けて整備することにより、新デジタル革命時代のフロントランナーとなることを目指すべきと考える。

第4次産業革命による日本の経済構造への影響

第4次産業革命の進展は、日本の経済構造にも大きな影響を与えると考えられる。一つは雇用や働き方への影響である。第2章で詳しくみたように、AIやロボットによる労働の代替が進む場合、中スキルの労働者が減少し、労働の二極化が進展する可能性が考えられるものの、働き方の見直しや人材育成をしっかりと行うことができれば、少子高齢化によって人手不足感が高まる日本においては、むしろ人手不足を補うポジティブな効果が得られる可能性も高い。

他方、産業面に与える影響については、第4次産業革命・イノベーションの社会実装が進むにつれて、業種の壁が限りなく低くなり、産業構造が変わる可能性が指摘されている4。こうした産業構造への影響が考えられる背景の一つとしては、第4次産業革命により生み出される新たな商品やサービスは、従来のバリューチェーンとは大きく異なるプロセスで生産・流通されるものであることが指摘できる。例えば、従来の典型的なバリューチェーンでは、素材購入、製造、卸売、配送、小売といった各段階を経て消費者に商品が渡ることが一般的であり、消費者はこうしたバリューチェーンのうち最終段階の小売についてしか企業を選択する余地がなかった(第3-1-1図(1))。

これに対し、電子コンテンツなどのサービスを消費者が購入する場合には、まずは、携帯電話・タブレットないしはパソコンといったハードの機器を選択し、それら端末において契約している通信ネットワークを用い、端末にインストールされたOS及びその上で作動するアプリを用いて、代金決済の可能なコンテンツストアにアクセスし、電子コンテンツを購入するというプロセスになる。これらはバリューチェーンとして統合されたものではなく、消費者は端末、通信契約、OS及びアプリ、コンテンツストアといったそれぞれの段階で複数の選択肢から好みの機器やサービスを選ぶことができることから、その意味で従来のバリューチェーンに対して「レイヤー構造」になっていると呼ぶことができる5第3-1-1図(2))。こうしたレイヤー構造においては、各レイヤーの企業は常に消費者による選択にさらされるため競争が激しくなるとともに、その時々のイノベーションの進展によってレイヤー間の補完性が変化し、優位性が逆転する場合もある。例えば、パソコンのOSにおいて支配的な競争力を持っていたとしても、下位レイヤーである通信手段やハードの機器がパソコンからスマートフォンに移行することにより、スマートフォンと補完性の高いOSの優位性が急に高まり、パソコンと補完性の高いOSの優位性が急激に失われることもある。こうしたレイヤー構造化は、デジタルコンテンツの分野だけでなく、第4次産業革命によって従来の産業へも広がりつつある。例えば、自動車産業の場合も、自動車の運転によって収集された走行履歴や道路情報、位置情報などがネットワークにつながりビッグデータとして集積され、無人自動走行等に活用されるようになった場合、自動車そのものは下位レイヤーとなり、その上位レイヤーとして、データ通信のための車載機器、通信サービス、データ集積・解析サービスといった様々なレイヤーが誕生する可能性がある。このように、様々な物がインターネットにつながるIoTの進展は、産業構造を大きく変え、日本の産業の競争力にも大きな影響を与える可能性がある。

以下では、こうした問題意識の下に、第4次産業革命による新技術の経済社会への実装化の状況について、eコマースやシェアリング、IoTやロボットなど生産面の動向、FinTech、無人自動走行に向けた取組状況に焦点を当てて概観する。

2 集中化が進むプラットフォーム・ビジネスとデータ獲得競争

プラットフォーム・ビジネスにおいて、我が国は大きく出遅れ

eコマースやイノベーションの進展とともに、そうした技術や付随するデータを活用し、企業や消費者を相互に連結する、オンライン・プラットフォームの役割が重要となっている。オンライン・プラットフォームには様々なものがあり、一般にはインターネットでの販売・取引市場、検索エンジン、SNS等、広範なインターネット上の取引を仲介する場やシステムを指す。こうしたオンライン・プラットフォームの存在は、ユーザーやサービス提供者にとって、<1>開業の容易さ、注文・配送の一括化等の取引費用の節約、<2>店を渡り歩く必要がない等の包括的な閲覧性、<3>一つのウェブサイトで買い物、動画・音楽鑑賞、ゲームなどを楽しめる等の範囲の経済性、<4>売り手と買い手のマッチング効率の向上といった利点を持つとともに、プラットフォームの提供者(プラットフォーマー)には膨大なビッグデータの収集とその活用によって広告・宣伝、マーケティング等を通じ大きな利益がもたらされると考えられる。

オンライン・プラットフォームには上記のような経済的な特性のほか、ネットワークに連結される利用者の規模が大きくなるほど、個々のユーザーのメリットが拡大する「ネットワーク効果」(規模の経済性)が存在することが指摘されている6。具体的には、より多くのユーザーがプラットフォームを利用すれば、そこで提供されるサービスの質や量が増加し、それがユーザーにとってさらに当該プラットフォームを利用する魅力を高めるという効果が働く。ネットワーク効果が大きい場合には、ユーザーを拡大するためにサービスが無料となることも多く、それが規模の拡大を一層加速する傾向がみられている。また、一度利用すると他のプラットフォームに切り替えるためのスイッチングコストが存在するため、先行事業者が有利になることが多く、プラットフォーム・ビジネスへの新規参入が限定される傾向もみられる。

以上のようなプラットフォーム・ビジネスの特性を踏まえて、主要な国について、オンライン・プラットフォームを有する企業の規模をみるために、2018年3月末時点の時価総額を比較すると、こうしたプラットフォーム・ビジネスの先駆者であるアメリカでは、主要4社の合計で2.7兆ドル(約287兆円)と圧倒的な規模を有しているほか、中国では、外国企業のアクセスを制限していることもあり、自国内の企業が大規模な国内需要を取り込んでおり、主要2社で9千億ドル(約96兆円)と相応の規模を有している。一方、我が国は、両国と比べて、先行者利益の獲得ができておらず、国内主要企業の株価時価総額はわずか4兆円程度にとどまっており、アメリカ、中国に比べて大きく出遅れている様子がうかがえる(第3-1-2図)。

ただし、前述のとおり、プラットフォーム・ビジネスではネットワーク効果やスイッチングコストの存在のために、既存企業の寡占による競争の阻害、データの囲い込みといった問題(「データ覇権主義」)が生じたり、新規企業の参入が難しくなることでイノベーションを阻害する可能性もあることから、長期的にみると、巨大なプラットフォーマーの存在には一長一短があることには注意する必要がある。

インターネット販売の利用は拡大

オンライン・プラットフォームの発展・普及に伴って、オンラインでの財やサービスの商取引(eコマース)が急速に拡大している。主要な国について、BtoCのeコマースの市場規模をみると、近年はとりわけ中国での規模の拡大が著しく、2017年におけるBtoCのeコマースの規模では、中国が1兆1千億ドル(約125兆円)と最も大きくなっており、世界第二位の市場であるアメリカの5千億ドル(約50兆円)を大きく上回っている(第3-1-3図(1))。

中国におけるBtoCのeコマースの規模が急拡大した要因としては、<1>もともと人口規模が大きいことに加え、<2>農村部を含めて所得が上昇し消費支出が増加する余地が拡大したこと、<3>小売の店舗網の発達が不十分であった一方でスマートフォンの普及等により通信施設や決済システムの整備が進んだこと、<4>電子商取引を扱う大型の企業の台頭や政府による発展支援や規制緩和が行われたこと、<5>製造業の生産能力余剰の解消のため潜在的な消費需要を顕在化する手段として電子商取引が注目されたこと等が影響していると指摘されている。

他方で、我が国のeコマース市場規模は、英国やドイツと同程度の規模にとどまっている。ただし、近年では、我が国のeコマース市場は財・サービスともに市場規模が拡大してきており、2017年における市場規模は全体で16.5兆円となっている(前掲第3-1-3図(1))。

また、1年間にインターネット販売を利用した人の割合を国際比較すると、英国、デンマーク、ドイツなど欧州諸国で利用者割合が高い傾向がみられるが、我が国の利用率については、諸外国やOECD加盟国の平均と比べてやや低い(第3-1-3図(2))。こうしたことを踏まえると、我が国においては、今後、eコマースの利用率が上昇し、市場が拡大していく余地は大きいものと考えられる。

シェアリングエコノミーは今後拡大が見込まれている

オンライン・プラットフォームを利用して行われるビジネスとして、eコマースのほかに、シェアリングやマッチングといったビジネスも拡大している。民間機関の調査をみると、近年のシェアリングエコノミー産業の市場規模は、これまでのレンタル産業の市場規模の1割未満の150億ドル(約1兆5千億円)にとどまっている(第3-1-4図)。

ただし、シェアリングエコノミーの市場規模は今後10年程度の間に大幅な拡大が見込まれており、民間機関の予測では、貸出やクラウドファンディング、オンラインでの派遣やクラウドソーシング7、民泊などの宿泊サービス、カーシェアリング等、多岐に亘るサービスで拡大が見込まれている。

こうした売り手と買い手を直接結び付けるマッチング機能の向上は、潜在需要の喚起や、新ビジネスとイノベーション創出を促すと考えられる。ただし、労働のシェアリング、民泊、衣服などのモノのシェアリングといった様々なシェアリングエコノミーに対する認知度や利用意向を、日米独で国際比較すると、日本ではいずれの分野でも米独に比べて認知度・利用意向とも低くなっている(第3-1-5図)。

この背景としては、従来型のサービス提供では、業法規制によって品質確保が図られることが多く、サービスを提供する事業者が品質の責任を負っているが、シェアリングエコノミーにおいては、サービスを提供する個人が責任を負っていることから、サービス品質にばらつきがあり、業法規制によるサービス品質管理は行われないことが通常であるため、利用者が安全性や信頼性の面で慎重になっている可能性が考えられる。今後、我が国においてシェアリングサービスが普及するためには、認知度を上げることと同時に、「シェアリングエコノミー推進プログラム」に基づき、民間団体等による自主的ルールの普及展開により、安全性・信頼性を一層高めていくことが重要な課題であると考えられる8

3 生産面・サービス供給面の改革:AI、IoTとロボティクスの普及

様々な産業において、新技術の導入や検討

我が国では、これまでも生産や流通の現場で、様々なデータを基に生産・流通の管理が行われ、また、生産現場でのロボット等の活用も広く行われてきた。しかしながら、第4次産業革命により、センサー等を通じた設備の稼働状況の把握や、インターネットの閲覧履歴を利用した詳細な顧客情報などが入手可能となり、これまでデータ化されることがなかった情報がビッグデータとして集積されることで、そうした情報を解析することにより新たなサービスが生み出されるとともに、工場の自動化率の引上げ、単純事務の機械化、農作物育成や建設工程管理の適正化、物流の効率化、飲食・宿泊・介護サービス等の一部機械化などが可能になっている。

我が国の産業においても、IoTやAI、ロボットなどの新技術を用いて生産面・サービス供給面の効率改善や顧客へのきめ細かな対応を図る動きが広がっている。2018年に実施した内閣府の企業意識調査をみると、IoT・ビッグデータ、AIなどの新技術の導入・活用や、それに向けた中期計画の策定が進みつつあることが分かる(前掲第2-1-5図(1))。

こうした新技術の導入状況の詳細について、2017年に実施した内閣府の企業意識調査をみると、ロボットについては、我が国のモノづくりの強さを反映して、製造業を中心に既に導入がなされているほか、クラウドについても、製造業のみならず、サービス業でも導入が進んでいる。一方、IoTやAIは導入を検討している産業は多いものの、既に導入済みであるのは、IoTについては電気・ガスや金融・保険業9、AIについては金融・保険業や一部の製造業に限られており、今後の導入の進展が期待される10第3-1-6図)。

産業用ロボットの市場規模は拡大、日本はIoTの導入で後れ

次に、こうした新技術の活用状況について、国際的な動向を確認する。日本はロボット技術においては国際的にも比較優位を有していると考えられるが、産業用ロボットの市場規模について民間機関の調査をみると、世界の市場規模は2016年の114億ドル(約1.2兆円)から2020年には233億ドルまで急激に拡大することが見込まれており、我が国についても、2016年の17億ドル(約0.2兆円)から2020年には30億ドルに拡大していくことが見込まれている(第3-1-7図)。

他方、IoTの導入状況と今後の導入意向について国際比較すると、導入状況については、アメリカは40%を超えているのに対し、日本は20%程度となっているほか、今後の導入意向については、アメリカ、ドイツともに70%~80%程度となる一方で、日本は40%程度にとどまっており、日本企業の取組はやや慎重になっている面がみられる(第3-1-8図)。この背景について、企業における産業データの取扱い・利活用における課題・障壁に関する調査結果をみると、日本の企業では、他国と比較して、「収集されたデータの利活用方法の欠如、費用対効果が不明瞭」と「データを取り扱う人材の不足」を懸念していると答える企業の割合が高いため、こうしたことが日本でのIoTの導入率や導入意向の低さに影響している可能性が考えられる11

コラム3-1 新技術を利用した「クラウド」サービス

最近、「クラウド」という言葉をよく耳にするようになりました。このクラウド、明確な定義がある訳ではありませんが、一言でいえば「ユーザーがインフラやソフトウェアを持たなくても、インターネットを通じて、雲(クラウド)の中にあるコンピュータを地上から利用するイメージで、必要な時に必要な分だけサービスを利用する」という考え方です。今まではハードウェアを自前で購入したり、ソフトウェアをパソコンにインストールしなければサービスが使えなかったのが、クラウドの出現によってハードウェアの購入やソフトウェアのインストールなしに利用できるサービスがたくさん生まれているのです。

このクラウドについては、産業用の用途のみならず、スマートフォンなどを活用した個人によるサービス利用も多いことから、世界の市場規模は2015年実績で932億ドル(約11兆円)とかなり大きく、今後も2020年にかけて3倍程度に拡大することが見込まれています((1))。

また、クラウドサービスを利用する企業の割合を国際比較してみると、フィンランド、スウェーデンといった北欧諸国の割合が最も高くなっていますが、我が国はそれらに次いで3番目に高く、主要国の中でも利用が進んでいることが分かります((2))。

さらに、民だけでなく官の側にも、様々な分野で多量のデータが蓄積されています。この行政が保有する膨大なデータをオープン化(誰もが利活用できるインフラ化)することにより、新たなクラウドサービス、ビッグデータを活用したイノベーションや新ビジネス創出、次世代ヘルスケア・システムの構築などが可能となっていくと考えられます。

4 金融面の変化:FinTech/キャッシュレス化の進展

新しい情報技術でFinTechが進展

近年、AIやビッグデータ、オンライン・プラットフォームの活用に加え、ブロックチェーンや分散型台帳技術12といった新しい情報技術を、支払決済サービスをはじめとする様々な金融サービスに応用していく、FinTech(フィンテック)と呼ばれる金融イノベーションが、先進国や新興・途上国を含め、グローバルに進行している。このような動きが世界的に進んでいる背景としては、需要面・供給面の両方の要因を指摘することができる13

まず、需要面の要因としては、経済のグローバル化や人々のライフスタイルの多様化に伴い、金融サービスに対する需要が複雑化かつ多様化していることが指摘できる。すなわち、経済のグローバル化に伴い、新興国や途上国においても、様々な金融サービスへの需要が拡大しているほか、安価なクロスボーダー送金などへのニーズも高まっている。また、eコマースやシェアリングエコノミーなどの拡大に伴い、新しい金融サービスへのニーズも生まれている(第3-1-9図(1))。

また、供給面では、<1>スマートフォンでの取引、<2>AIとビッグデータ分析、<3>ブロックチェーンと分散型台帳技術といった、金融サービスに大きなインパクトを及ぼし得るいくつかの新しい情報技術が、ほぼ同時期に登場してきたことも指摘できる。

日本はキャッシュレス化で遅れ

こうした先端的な金融サービスを使った決済送金・資産管理・融資に関する利用動向を国際比較すると、我が国はアメリカや英国と比べて、利用の意向のみならず、利用率も相対的に低い(第3-1-9図(2))。

また、電子決済を用いた取引動向をみても、我が国は諸外国と比べて、家計最終消費支出に対する電子決済の取引額の割合が極めて低い(第3-1-9図(3)、(4))。具体的には、カードの一人当たり年間取引額でみると、日本は4千ドル程度(約50万円弱)と、アメリカや英国の1万8千ドル程度(約200万円)と比べると4分の1程度にとどまっており、特に短期で決済されるデビットカードの利用が極端に少ないのが特徴である。プリペイドカードなどを含む電子マネーについては、日本はイタリアに次いで相対的に利用金額は大きいもの、金額自体は370ドル程度(約4万円)と、カード決済に比べて少額である。このため、カード及び電子マネーを合わせた電子決済の割合は、日本では消費額の2割程度にとどまっており、国際的にみても、最も割合の高い韓国の96%は例外的としても、英国の69%、中国の60%14、アメリカの46%等と比べて、かなり低い割合となっている。こうした背景には、日本では偽造紙幣が少なく現金への信頼が高いことや、ATMの利便性が高いために現金の入手が容易なことに加え、店舗側からみると電子決済に必要な端末導入コストや支払サービス事業者の手数料が高いこと等が指摘されている15

これまでみてきたような各種金融商品へのインターネットを通じたアクセスの容易化や電子決済の普及は、利用者の取引費用を大きく低下させるとともに、eコマースなどをはじめとする各種サービスの利便性を高めると考えられ、今後の進展が期待される。

5 次世代モビリティ・システム、次世代ヘルスケア・システムの動き

自動車の無人自動走行や環境対応に向けた動きが見込まれている

自動車産業は、単独の産業としては最も大きな市場規模を持ち、日本が比較優位を持つ産業の代表例であるが、近年、電気自動車(EV)をはじめとする環境対応車の普及に加え、第4次産業革命の進展によって、テレマティクスサービス(車両の運行状況や位置情報などをインターネットでつなぐことで、車両の保守管理、燃費削減、運転支援、運転関連情報などのサービスを提供するもの)や無人自動走行に向けた取組が広がりつつある。こうした構造変化は、これまでのバリューチェーンを大きく変え、日本の競争力にも影響が及ぶ可能性があることから、その動向が注目されている。

具体的には、電気自動車の普及は、これまでのように蓄積されたノウハウや工作技術が必要とされてきた内燃機関や機械系の制御部品へのニーズが減少し、より汎用性の高い電子モーターや電子系制御部品に置き換わることで、自動車のモジュール化が進むとともに、テレマティクスの普及や無人自動走行化に向けた技術開発が進む過程で、これまでハードに一体化された車両単位から、車両制御OS、車載情報端末、通信などが新たなレイヤーとして分離する可能性が高い。実際に、車両制御OS、車載情報端末、通信などの新たなレイヤーには、自動車関連企業だけでなく、IT関連企業など異業種が参入しつつある状況にあり、今後、自動車のEV化、スマート化が進むことが見込まれる中で、これまで熟練の技術や生産効率性などに依存してきた既存の自動車メーカーの競争優位は、ソフトに優位性を持つ上位レイヤーを担う企業との組合せによっても大きく影響を受ける可能性が高い16

最後に、こうした動きが今後どのようなペースで進展していく可能性があるかについて確認する。我が国や欧米では自動運転システムの定義をレベル0からレベル5の6段階に分けて定義しているが17、現在では、自動運転システムが操舵や加減速のどちらか(レベル1)、ないし両方をサポート(レベル2)するところまでしか実用化されていない。また、本格的な自動運転といえるレベル3(特定の場所で緊急時を除き自動運転)については、一部対応した車種が導入されている状況である。なお、民間機関の調査をみると、世界市場で完全自動運転システムといえるレベル4(特定の場所で完全自動運転)、レベル5(場所の限定なく完全自動運転)の本格的な実用化は2025年以降と予測されているが、2035年には世界の新車販売台数(乗用車)の2割を超えるとの見方もある(第3-1-10図(1))。

また、環境対応車について、民間機関の調査をみると、2015年の実績で世界市場では214万台、日本市場では89万台となっているが、2020年には世界市場では2倍の450万台程度、2030年には6倍の1200万台程度に拡大するとの見方もある(第3-1-10図(2))。

次世代ヘルスケア・システムの構築に向けた動きが進んでいる

医療・介護分野でも、データや技術革新の積極的な導入や活用を行い、個人・患者本位の新しい「健康・医療・介護システム」を構築することで、医療機関や介護事業所による個人に最適なサービスの提供や、保険者や個人による予防・健康づくりを進めるなど、次世代ヘルスケア・システムの構築に向けた動きが進んでいる。

具体的には、政府が2018年6月に決定した「未来投資戦略2018」において、個人の健診・診療・投薬情報が医療機関等の間で共有できる全国的な保健医療情報ネットワークについて2020年度からの本格稼働を目指すこととされた。また、ICT化や現場ニーズを踏まえたロボット・センサー、AI等の開発・導入を推進し、医療・介護現場の生産性向上を図ること、住み慣れた地域・我が家において安心して在宅で医療やケアを受けられるよう、服薬指導を含めた「オンラインでの医療」全体の充実に向けた所要の制度的対応を進めることなどが挙げられている。


(1)この点、政府が2018年6月に決定した「未来投資戦略2018」では、「Society 5.0」を構築する原動力として、新しい技術やアイデアをビジネスに活かす民間のダイナミズムの重要性を指摘しており、産業界は様々なつながりにより付加価値を創出するConnected Industriesに自らを変革し、イノベーションをけん引することが期待される、としている。
(2)第4次産業革命は、18世紀末以降の水力や蒸気機関による工場の機械化である第1次産業革命、20世紀初頭の分業に基づく電力を用いた大量生産である第2次産業革命、1970年代初頭からの電子工学や情報技術を用いた一層のオートメーション化である第3次産業革命に続くものとされている。
(3)AIには、正式な定義があるわけではなく、人間の頭脳のように「知的にみえる」アプリケーションの総称として用いられることが多いため、その中のロジックやアルゴリズムがどうなっているかは問われていないが、最近の実装例をみると、大量なデータに対して統計的な分析やシミュレーションを組み合わせることで、対象となる物事をコンピュータが自動的に分析・予測する、「機械学習」と呼ばれるアルゴリズムが用いられることが多い。
(4)詳細は、経済産業省・産業構造審議会(2017)を参照。
(5)詳細は、根来・浜屋(2016)を参照。
(6)詳細は、経済産業省(2016)を参照。
(7)インターネットを通じて単発の仕事を不特定多数の人に委託する方法。詳細は第2章・第1節を参照。
(8)この点、多くのシェア事業者において、提供者と利用者のプロフィールや評判の可視化(本人確認、相互レビューの仕組み等)、エスクロー決済(信頼の置ける第三者を仲介させて取引の安全を担保する決済の仕組み)の提供、トラブルに対応した賠償責任保険の提供など様々な取組が実施されており、今後の安全性・信頼性の一層の向上が期待される。詳細は、内閣官房・情報通信技術(IT)総合戦略室/シェアリングエコノミー促進室(2017)を参照。
(9)既にIoTを導入している具体的な事例としては、<1>電気・ガスではスマートメーターの活用、<2>保険業では、コネクテッドカーから運転データを収集・分析し、運転方法に対するフィードバックや、運転の安全度に応じた適切な保険料の設定を行うサービスの提供などがある。
(10)既にAIを導入している具体的な事例としては、<1>金融業では、個人向け融資において、AIが入出金履歴や利用料金の支払い状況などから信用力を判定する例、<2>保険業では、膨大な過去の保険金支払データをAIにより分析することで、不正の疑いがある保険金請求を効率的に検知する例、<3>製造業では、工場内の様々なデータ(温度、圧力、流量等)の関係性をAIにより分析することで、運転の安定化や異常の予兆の早期検知を実現している例などがある。
(11)詳細は、総務省(2017)を参照。
(12)ブロックチェーンは、仮想通貨(ビットコイン等)の技術基盤を狭義に指す用語として使われる一方、分散型台帳技術は、ブロックチェーンを含めて、帳簿を分散的に管理することを可能にする技術全般を表す用語として使われることが多い(詳細は、日本銀行(2018)を参照)。
(13)本項の整理は、日本銀行(2018)に基づく。
(14)中国については、BIS(国際決済銀行)の統計ではデータが把握できないため、「Better Than Cash Alliance」(国際連合の資本開発基金(UNCDF:United Nations Capital Development Fund)が推進している電子マネーによる支払いの促進プログラム)の調査結果を参照している。同調査によれば、中国の2015年のリテール取引のうち約60%が、スマートフォンなどを活用した非現金手段による決済であると試算されている。
(15)詳細は、経済産業省(2018)を参照。
(16)詳細は、中村・根来(2016)を参照。
(17)我が国の「官民ITS構想・ロードマップ2018」や欧米では、「SAE International J3016」の自動運転システムの定義を採用している。
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