第2章 人生100年時代の人材と働き方 第4節
第4節 本章のまとめ:人生100年時代の社会へ
●技術革新・少子高齢化は労働市場の変化を迫る
AI等の技術革新が労働市場に与える影響としては、定型的な業務が機械に代替される可能性、情報通信技術の発達によりテレワーク等の柔軟な働き方やオンラインの仲介で働くフリーランス等が拡大する可能性がある。どの程度の雇用者が代替されるかは議論が分かれているものの、これまでのIT技術が労働市場に与えた影響を踏まえると、特に、定型業務の代替がこれまで以上に進む可能性が非常に高い。日本では諸外国と比較して、事務職を中心にまだ定型業務が多く残っており、ITの利用頻度も少ない企業が多いことから、そうした企業については、まずはITをうまく活用して働き方を見直し効率性を高める必要がある。同時に、スキルの二極化への対応を考えることが重要である。さらに、技術革新は、労働を代替するだけでなく、新しい仕事を創出することや、機械では代替できない非定型の専門的な仕事の需要を高めることが指摘されており、定型業務の職場から非定型業務の仕事への労働移動を円滑なものにすることも重要である。
テレワーク、フレックス制度等の導入や、クラウドワーカー等の雇用関係によらない働き方の普及状況については、現状の日本では、そのような柔軟な働き方を実施している企業や、オンラインの仲介で働くフリーランスの割合が、諸外国と比較して限定的である。
また、少子高齢化が進み、人手不足が深刻化している日本経済では、新技術を活用することで、女性や高齢者の就業をより促進することが重要である。近年、正社員女性が増えているものの、女性雇用者の半分以上は非正社員であり、男性に比べて女性が定型業務を行う傾向が国際的にみても日本は非常に顕著である。また、高齢者については、高い健康寿命と人手不足を背景に、労働参加が進んでいるが、ITスキルには課題を抱えている。新技術の活用とITスキルを向上させる取組により、柔軟に無理なく働ける環境を整備することで、年齢・性別によらず、それぞれが持つ能力を十分に発揮できる形での労働参加が進展すると考えられる。
●人生100年時代・技術革新に対応したスキルの育成が重要
第4次産業革命に対応するためには、先端技術を専門に扱うIT人材を育成するとともに、専門家以外の働き手も、学び直しによって基礎的なIT技術を身に付け、機械では代替できない読解、分析、伝達等のスキルを伸ばしていくことが重要である。
先端技術を専門に扱うIT人材については、日本は先進諸国と比べて就業者に占める割合が少なく、また、大学等の高等教育機関で理工学系を専攻する学生の割合も低い。加えて、企業が必要とする知識分野としてプログラム系や通信ネットワーク系を多く挙げているのに対して、該当する専攻分野で学ぶ人材は不足しており、ギャップが生じている。このため、企業に勤めるIT人材の多くが企業に入ってから必要な専門知識を学んだとしている。こうしたことから、大学等が社会のニーズに応じてカリキュラム編成などを柔軟に見直していくことが重要である。
また、専門人材の育成以外にも、学校教育においてITの活用を進めるとともに、IT技術で代替が困難な読解力や分析能力といった技能を伸ばしていくことや、大学において専攻分野に関わらず一定程度のITリテラシーを育成することも重要である。
技術革新に対応した社会人のスキルアップについては、現在の日本では、主に企業の教育訓練によるところが大きく、新技術の導入を積極的に行っている企業ほど教育訓練にも力を入れている。また人材育成方針としては、管理職になる人材については自社内での育成が重視されている一方、研究開発人材やIT人材は、比較的中途採用で補強する傾向もみられる。教育訓練への投資は企業の生産性を高めることが実証的にも示されており、同時に、社員の自己啓発の支援を行っている企業の生産性はさらに高まることから、企業内訓練と企業外での自己啓発の双方をうまく活用することが重要である。
他方、大学等で学び直しを行う社会人の割合は、日本では国際的にみて低く、その背景としては、勤務時間が長く学び直しの時間がとれないことに加え、学び直しに適した教育訓練コースを設定している大学や質の高いリカレント教育を提供している大学が少ないことがあると考えられる。こうした点を踏まえると、社会人の学び直しを促進するためにも、大学改革等を進め、より実践的で質の高い教育機会を提供することが重要である。また、企業側においても、従業員の自己啓発を適正に評価し、支援する姿勢が求められる。
●働き方を見直すことは企業・労働者の双方にプラスになる
技術革新によって時間や場所によらない柔軟な働き方が可能となる中で、WLBを促進し、女性や高齢者の就業を促進することについては、多くのメリットがある。テレワーク等の柔軟な働き方を促進することは、企業の生産性にプラスの影響をもたらす可能性が高い。また、柔軟な働き方の導入による労働時間の削減は、自己啓発、趣味、買い物、育児を行う機会を増やすことから、労働者の生活の質の向上にもつながる。
女性や高齢者が働きやすい多様な働き方を実現するためには、制度面を含めた環境整備を行う必要がある。技術革新の進展や高齢化による就業年数の延伸によって就業と学び直し等の行き来が盛んになると、長期雇用を前提とする流動性の低い日本的雇用慣行は、技術進歩等の環境変化が激しい中では最適とは言えなくなってきている。また、働き手が多様化すれば、個々人の働き方に応じたマネジメントを行う管理職の役割はこれまで以上に重要になり、従来のような入社年次により昇進を管理するような制度を見直し、適切な人材を管理職へ昇進させていくことも大切である。
女性活躍の促進はダイバーシティによる効果等によって企業業績に対してプラスの効果をもたらすと示唆される。このため、男女の育児休業の取得、柔軟な働き方の促進、限定的正社員制度の導入などの取組を促進し、女性の離職を防ぎ、十分に能力を発揮できる環境整備を進めることが求められる。また、高齢者の活躍を促すためには、年金制度や企業の人事制度の設計について様々な選択肢を比較衡量し、就業意欲のある人々の就業を促すようなバランスの取れた制度設計を行うことが必要である。
多様な働き方の普及や就業と学び直しの広がり等による雇用の流動化や技術進歩に対応した労働移動を円滑なものとするためにも、労働市場のマッチング機能を強化することや、フリーランスなど雇用関係によらない働き手に対するセーフティーネットのあり方等についても検討を続けていくことが必要である。