第2章 人生100年時代の人材と働き方 第3節

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第3節 働き方の多様化が進む中で求められる雇用制度の改革

少子高齢化の一層の進展が見込まれる中で、性別・年齢に関わりなく、希望する人が能力を十分に発揮して働ける環境を整備することは非常に重要な課題である。また、平均寿命が延伸する中で、長く自分にあった仕事を続けていくためには、ライフステージに合わせて就業と学び直しの行き来ができる環境を整備し、技術進歩に合わせてスキルアップを図ることが必要である。こうした変化を踏まえると、今後の労働市場には、個々の働き手が自分にあった働き方を選択できるような多様性が求められる。そこで、本節では働き方の多様化がもたらす効果と、そのために求められる制度変化について分析を行う。

1 多様な働き方の導入とその効果

ここでは、働く時間や場所によらない柔軟な働き方の導入、ワーク・ライフ・バランス(WLB)の促進、雇用の流動化に焦点を当てて、多様な働き方の導入状況やその背景をみるとともに、そうした働き方の変化が企業や労働者に与える影響について定量的な分析を行う。

柔軟な働き方・WLBの導入状況

企業における働き方の見直しの動向をみるために、まず、柔軟な働き方やWLBの取組状況の現状について内閣府の企業意識調査によって確認する。柔軟な働き方として、フレックス制度とテレワークの2種類、WLBの取組として、有給休暇取得促進、長時間労働の是正の2種類に焦点を当てる。

過去5年程度におけるこれらの取組状況の変化をみると(第2-3-1図(1))、主にWLBの取組を積極化させている企業の割合が高く、特に長時間労働是正については、65%程度の企業が積極的に進めている。一方、柔軟な働き方制度の取組を積極的に行っている企業の割合は低く、特にテレワークについては取組を行っていないと回答している企業は7割近くある。また、働き方の見直しは、企業規模と相関が高く、従業員規模が大きいほど柔軟な働き方やWLBの取組をより積極化させている傾向がある(第2-3-1図(2))。

次に、それぞれの取組を積極化させている背景について確認する。柔軟な働き方やWLBの取組を積極化させたと回答した企業にその理由を尋ねたところ(第2-3-1図(3))、全般的には、従業員の意欲向上・健康維持、従業員の離職の防止等を主な理由として回答する割合が高い。取組の動機として、従業員の福利厚生を高めることで、離職を防止しようとする狙いがあることがわかる。また、テレワークやフレックス制度の取組を積極化している企業においては、生産性向上や競争力強化、女性の活躍推進を理由に挙げている割合が高くなっている。女性活躍と働き方の関係性については後述するが、より柔軟な働き方を推進することで、女性の正社員比率が高まり、企業収益も上昇する可能性がある63

働き方の見直しは生産性を高める可能性が高い

では、こうした働き方の見直しはどのような効果を上げているのであろうか。積極的に取組んでいる内容別に、過去1年前と比較した労働時間の変化をみると(第2-3-2図(1))、おおむね半分程度の企業において総労働時間を削減できたと回答している。特に、テレワークを積極化させている企業においては6割以上の企業で労働時間が減少している。一方、働き方の見直しを行っていない企業においては、労働時間が減少したと回答した企業の割合は20%程度にとどまっていることから、取組を積極化させている企業においては従業員のWLBが促進されている可能性が指摘できる。

次に、働き方の見直しが生産性に与える効果について分析する。WLBと企業の経営パフォーマンスとの関係はいくつかの参考文献があるが、国内外の先行研究の結論を踏まえれば、中長期的にWLBの取組は生産性等にプラスの影響をもたらす可能性が高いことが指摘されている(姉崎、2010)64。ただし、山本・黒田(2014)で指摘されているように、企業業績で余裕がある企業でWLB施策が導入されているという逆の因果関係が存在している点には留意が必要となる。内閣府(2017)では、企業の属性の近い企業同士を比較することで、逆の因果関係をコントロールした推計を行い、テレワークと長時間労働是正を併せて実施する場合に、生産性に対し有意にプラスの影響を与えていることを指摘している。

ここでは内閣府(2017)を発展させる形での分析を行う。まず、過去5年程度において、各種働き方の見直しを積極化させていた企業を選び、その企業と属性(企業規模・売上・業種・雇用制度等)が近く、かつ取組を積極化させてこなかった企業とマッチングさせる。その上で、両企業群における2012年度から2016年度の4年間の労働生産性の伸び率の差を計算し、取組を積極化させていた企業の方が生産性の伸びが高くなっていたのではないかとの仮説を検証する。

第2-3-2図(2)は、定義が若干異なる2種類の労働生産性を用いて推計した結果をプロットしたものであるが65、値がゼロより高ければ、取組を積極化させた場合の方が、そのプラス分だけ労働生産性の伸び率が高かったことを示している。フレックス勤務、有給取得促進、長時間労働においては、それぞれ単独では有意な結果ではなく、労働生産性に対する影響は不明である。一方、有意になっている取組をみると、テレワーク単体(+13~14%ポイント程度)、テレワークと長時間労働是正の組み合わせ(+18%ポイント程度)、テレワークとフレックス勤務の組み合わせ(+16%ポイント程度)となっており、これらの取組を積極化させた企業においては、生産性が向上していたと考えられる。

すなわち、テレワーク等の取組について積極化させてきた企業と、同じような企業属性を持つが取組を積極化させてこなかった企業を比較すると、積極化させた企業においては労働生産性の伸び率が年平均で3~4%ポイント程度高くなっていることが示唆される。また、テレワーク単体でも効果があることが見込まれるが、テレワークとフレックス勤務や長時間労働是正の取組を組み合わせることで、さらにその効果が高まることが示唆される。このように、逆の因果関係をコントロールしても、柔軟な働き方の促進は、生産性を向上させる可能性が高いと考えられる。

WLBの促進は育児・自己啓発・趣味・買い物時間に影響

働き方の見直しにより労働時間が削減できる可能性について述べたが、より効率的に働き、労働時間を短縮させることは、労働者自身にとってはどのようなメリットをもたらすだろうか。例えば、労働時間が短縮され、自由時間が増えることで、平日でも趣味や自己啓発などを行いやすくなることが考えられる66

ここでは、労働時間と他の生活時間の関係性を確認するために、労働時間が1%減少した際に、育児、自己啓発、趣味、買い物を平日に行うようになる確率67がどの程度変化するかについて正社員として働いている人を対象に推計を行った。推計結果によると(第2-3-3図(1))、労働時間が減少することは、すべての項目に対してプラスかつ有意な影響を与えていることが示唆されており、特に育児をする確率の変化が大きくなっている。

次に、育児、自己啓発、趣味、買い物を平日に行っている正社員を対象に、労働時間が1%減少した場合に、各項目を行う時間がどの程度変化するかの弾力性を推計した。推計結果をみると(第2-3-3図(2))、労働時間の1%の減少は、各項目を行う時間を0.34 ~0.37%程度増加させるとの関係性がみられている。労働時間の短縮は、各項目を行うようになる確率を高めるだけでなく、行っていた場合には、その実施時間も高める可能性が高いと考えられる。

以上の結果を総括すると、WLBを促進することで労働時間の短縮を図ることは、様々なメリットを労働者にもたらす可能性が高いと考えられる。育児時間については、男性の参加率が低いことが指摘されているが68、労働時間について男女間の格差を縮小させることで、家庭や育児の負担をより平等にしていくことにつながる可能性がある。また、自己啓発の時間を確保することは、第2節の分析でみたように、今後の技術革新への対応という観点からも重要である。さらに、買い物時間が増加すれば消費拡大に、趣味の時間を確保できることは生活の質を向上させることにつながる可能性があると考えられる。

雇用の流動化は企業業績を高めるか

多様な働き方を実現し、職業人生を長く続けることができる環境を整備するためには、就業と学び直しの間の移動をより容易にすることが必要となるが、このことは、ある程度の雇用の流動性が必要となることも意味する。労働市場にとって、どの程度の雇用の流動化が最適かは、各国企業の戦略やそれに伴う人材育成方法等によって異なり、企業特殊的訓練を重視してきた日本企業においては、雇用の流動性が低いことが均衡点であったと考えられる(Morita、2001)。しかし、山本・黒田(2016)は、少子高齢化や技術革新等の環境変化により、長期雇用慣行等の企業戦略が最適とは言えなくなってきた結果、最適な雇用の流動性の水準も変化している可能性を指摘している。事実、彼らの雇用の流動性と企業業績に関する実証分析の結果によると、多くの企業の流動性は最適な流動性の水準を下回っていることが確認されている。

第2-3-4図(1)は、企業の雇用の流動性(ここでは離入職率69)の階級別に企業業績(ROA70、または、付加価値率71)との関係をみたものである。離入職率の4分位のうち、もっとも低いグループに属する企業のROAの平均は3.8%であるが、もっとも高いグループに属する企業のROAは4.4%であり、より流動性が高い企業の方が、業績が高いという関係性がみられる。また、ROAの代わりに、付加価値率を使っても同様の関係性がみられており、第I分位では12.7%であるが、第IV分位では19.5%となっている。

また、山本・黒田(2016)では、雇用の流動性が一定程度高まると企業業績も改善するものの、あまりにも流動性が高い企業では逆に業績も低下する傾向(逆U字の関係)がみられることが指摘されている。ここでは、同様に、雇用の流動化と企業業績の関係に逆U字の関係がみられるのか検証した。推計結果をみると(第2-3-4図(2))、ROA・付加価値率ともに、離入職率の2乗項はマイナスであるが、ROAでは係数が有意でないものの、付加価値率は有意となっており、雇用の流動化と企業業績の間に逆U字の関係性が存在する可能性が弱いながらも示唆されている。また、推計に使用した企業の多くは、流動性と企業業績が正の関係にあることが確認される。

こうした推計結果を踏まえると、急速な技術革新が進むとともに、働き手の職業キャリアが伸びる中では、多様な働き方を実現し、ある程度の流動性の高まりを許容することは企業業績の観点からは望ましい可能性があると考えられる。

2 多様な働き方に向けた制度面の課題

多様な働き方の実現に向けては、どのような環境整備が必要であろうか。雇用の円滑な移動を高めるためには、終身雇用制度や管理職のあり方の改革、マッチング機能の強化等が必要である。また、女性・高齢者の活躍に向けて必要な制度、フリーランサーに関する制度上の整備についても指摘を行う。

日本的雇用慣行はどこまで変わったか

長期雇用を前提とする日本的雇用慣行が最適となるには、環境変化が緩やかなことと、利害対立の少ない同質的な構成員のいることが必要であると指摘されているが72、技術進歩等の変化が早い環境下や、多様なキャリア形成が求められる社会では、日本的な雇用慣行が十分適応しなくなってきている可能性も考えられる。では、日本的な雇用慣行がどこまで変化したのか、長期雇用慣行制度の変容に注目してその動向を確認する。

性別・年齢階級別に平均勤続年数の推移をみると(第2-3-5図(1))、全般的に緩やかな減少傾向がみられる。男性の40代、30代、20代の平均勤続年数について2000年と2017年との差をみると、それぞれ1.8年、1.2年、0.6年少ない。女性の40代、30代、20代の平均勤続年について同様に17年間の変化をみると、それぞれ0.6年、1.2年、0.8年減少している。Kawaguchi and Ueno(2013)による実証研究では、教育年数等をコントロールしても、より若い世代においては勤続年数の低下が観測されており、企業規模や産業によらず長期雇用が減少していることを指摘している。

しかし、国際的にみると日本の長期雇用は依然として維持されていることが考えられる。日本・ドイツ・英国・アメリカの4か国を対象に25~54歳の労働者における勤続年数の分布を性別にみると(第2-3-5図(2))、特に男性において日本は企業の定着率が高くなっていることがわかる。勤続年数が10年以上の男性の割合は、日本では半数以上と4か国の中では最も高く、日本の次に高いドイツと10%ポイント程度、最も低いアメリカとは20%ポイント程度の差が生じている。一方、女性では、勤続年数が1年未満の割合は日本が最も低いものの、勤続年数10年以上の割合はドイツが最も高くなっている。女性に対する長期雇用の慣行は、国際比較からは明確には読み取れない。Kambayashi and Kato(2016)は、日米を比較した実証分析を行い、日本では勤続年数を重ねた男性における雇用の安定性は、アメリカと比較して高く、両者の雇用安定性の差は過去10年でさらに広がったと指摘している。

長期雇用慣行については、全般的に減少している可能性が高いと考えられるものの、国際的にみれば男性を中心に流動性は低く、依然として長期雇用の慣行が強く残っていることが考えられる。

変化が求められる平均的管理職

多様なキャリア形成が実現するにつれて、従業員の働き方も多様化すると、長期雇用慣行や画一的な正社員を前提とした人事制度では、生産性が上がらない等の問題が発生する可能性が考えられる。キャリア形成が複線化する中、個々人に対応したマネジメントが重要となると考えられることから、企業における管理職の役割が非常に重要になってくる。

そこで、企業意識調査の結果から、管理職に昇進させる際に重視する項目について点数化を行い、企業の雇用方針別にみた際に違いがみられるかを分析した。まず、女性正社員を積極的に活用している企業と、活用していない企業とで管理職に重視する項目に違いがあるかをみると(第2-3-6図(1))、女性正社員を積極的に活用している企業では年齢・勤続年数等の年功的な項目の点数が低く、マネジメントの点数が高い傾向がある。また、正社員の中途採用を推進している企業と、推進していない企業とを比較すると(第2-3-6図(2))、中途採用を推進している企業では年功的な点数が低く、逆に専門性の点数が高くなっている傾向がある。従業員の多様化に対応するべく、年齢や勤続年数にこだわらず、より適切なマネジメントができる人や専門性の高い人を管理職に昇進させていることが推察される。

また、日本の昇進制度の問題点として、入社年次により一律に昇進し、実際の昇進に差がつく年齢が欧米と比較すると遅いという制度が、グローバル化や女性活躍推進といった側面からも弊害が大きいことが指摘されている(大湾・佐藤、2017)。そこで、昇進の現状を確認するために、ここでは課長級及び部長級を管理職として、その役職についている労働者割合を性別・年齢階級別に2015~17年、2005~07年(10年前)の2時点で比較を行った(第2-3-7図)。

まず、男性においては、40~44歳における課長級割合が減少する一方、50~59歳における課長級割合が増加している。部長級割合でも、45~49歳の割合が減少し、55~59歳の割合が増加している。全般的に40代の管理職割合が減少し、50代での管理職割合が上昇するなど、昇進がさらに遅くなっている傾向が確認できる。女性においては、課長級では45歳以降、部長級では50歳以降で割合が増加している。ただし、女性の場合、昇進速度が変化したというよりも、全般的に管理職に就く割合が増加したと考えられる。

多様な従業員が存在する中では、管理職の役割が非常に重要であることは前述した通りだが、昇進が遅い場合、その管理職としての経験が年を取らないと得られないため、若い世代における人材育成機会の損失につながることが指摘されている73。多様な働き方を推進していく上では、入社年次により一律に昇進を管理するような制度についても変更が迫られていると言えよう。

マッチングの効果、効率性を高める必要

多様な働き方ができるようになり、雇用が流動化した際には、より効率的に労働需給のマッチングを行うことが重要となってくる。特に、技術進歩に伴い、定型業務から非定型業務の職業へと労働移動を促進する際には、非定型の高スキルを必要とする職業のマッチングを効果的に行うことが必要不可欠である74

この点の考察を深めるため、現在の職業をどのようにみつけたかについて、回答者を転職後の職業別に集計した上で、各職業の中におけるハローワーク、インターネットの転職情報サイト、家族や知人の紹介、求人情報誌・広告、人材派遣会社等の5種類の転職経路の割合を確認した(第2-3-8図)。なお、これらの転職経路は、転職の際に利用が多い上位5経路でもある(付図2-4)。

ハローワークでは、介護サービス関係の求人・求職が多いこともあり75、社会福祉専門職が多く入職しているほか、事務職や生産工程・労務職等の割合が高い。次に、転職情報サイト経由では、技術職、サービス職、営業・商品販売職の入職割合が多くなっている。ハローワークでは11%であったIT技術・専門職の割合は転職情報サイト経由では20%にまで増加している。ハローワークでも転職情報サイトでも割合が低かった管理職は、家族や知人の紹介で転職している割合が33%と他の職業より高い点が特徴である。人材派遣会社経由では事務職が多く派遣されており、求人情報・広告等では生産工程・労務職、サービス職、運輸通信関連職の転職割合が高い。

これらの大まかな傾向をまとめると、事務職や生産工程・労務職等の比較的定型的業務が多いと思われる職業は、ハローワーク、求人情報・広告等、人材派遣会社でマッチングしている場合が多く、技術職や管理職等の非定型の専門的な職業では、転職情報サイトや家族や知人の紹介等の経路で転職している割合が高い。

一般に、職業紹介業務は、幅広い候補者を対象にすることで、求人・求職側の双方にとってより適切なマッチングが実現する可能性がある。例えば、ハローワークにおける人材不足分野に係る就職支援の拡充やマッチング機能の充実等を行い、転職や再就職を支援していく取組が重要である。また、職業情報を総合的に提供する職業情報提供サイトの構築やジョブ・カードの更なる活用の促進等により労働市場の「見える化」を進めることも必要である。こうした取組を進める際には、AI等の新技術を活用し、サービスの利便性やマッチングの精度を上げていくことも検討すべきであろう。

女性が一層活躍できる環境整備

第1節でも指摘したように、女性活躍を推進することは少子高齢化が進展する日本経済にとって非常に重要な課題である。女性活躍は企業業績にもプラスの効果を与える可能性が指摘されており、例えば、女性活躍等のダイバーシティを推進することで、女性の視点を活かしたイノベーションや、働き手のモチベーション向上等の経営効果が見込める可能性がある76。また、女性活躍推進のため、女性が働きやすい制度の導入や女性の能力が発揮できる環境を整備することで、企業業績がさらに向上する効果も考えられる。そこで、女性正社員比率、女性管理職割合の階級別に企業のROAを比較すると(第2-3-9図(1)(2))、女性正社員比率では必ずしもその傾向は明確ではないが、女性管理職割合では、0%の企業では4.0%であるが、5%以上の企業では4.3%であるなど、若干ではあるがROAが高い傾向にある。また、企業属性等も加味した過去の実証分析の結果をみると、女性活用を進めている企業ほど利益率が高くなるといった結果が報告されている77

次に、どのような特徴をもっている企業が、企業方針として女性正社員を積極的に活用する確率が高くなるのかについて、プロビットモデルを用いた分析を行った(第2-3-9図(3))。結果をみると、育児支援制度や介護支援制度を活用している企業や、テレワークやフレックス勤務等のより柔軟な働き方の取組を積極的に行っている企業では、女性正社員の活躍を推進するとの方針を掲げる確率が高くなっている。

また、女性正社員を積極的に活用する方針の企業では、実際に女性の正社員や管理職の割合が高い。企業の属性等をコントロールしても、女性正社員を積極的に活用する方針の企業では、女性正社員比率が6.6%ポイント、女性管理職割合が5.4%ポイント高いとの結果が得られている(第2-3-9図(4))。育児支援制度や介護支援制度の活用が進んでいる企業でも、同様の傾向がみられており、女性正社員比率が3.5~5%ポイント、女性管理職割合が2.5%ポイント高くなっている78

育児支援制度や柔軟な働き方が女性正社員や管理職割合を引き上げる背景には、出産等によりキャリアが中断されないことがあると考えられる。妊娠前に正社員であった女性が出産前後1年経過後にどのような雇用形態についているかをみると(第2-3-10図(1))、2000年代前半では育児休業制度を利用して引き続き正社員として働いていた女性は36%にすぎなかったが、2010~2014年では半数以上の女性が育児休業制度を利用して引き続き正社員で働いている。妊娠前にパートタイム労働者等であった女性についても、出産後に働いている割合は近年増加している。このように育児休業制度の活用等により労働市場から退出しない女性が増加したことが、前掲第2-1-10図(2)でみたように、M字カーブが解消されつつあることの背景にある。しかし、依然として3割の女性正社員、7割強のパートタイム労働者等の女性は出産を契機に労働市場から退出しており79、人的資本の蓄積が活かされなくなっている。人材を外部ではなく内部から登用する傾向がある日本型の雇用慣行においては、一度就業を中断した女性は、正社員として希望する仕事に再就職できる機会に恵まれづらくなることが指摘されており80、こうした出産や育児が不利になる労働市場の構造には見直すべき課題が多い。

労働市場からの退出を防ぐためにも、育児休業取得率を最大限に高めることが重要である。出産・育児に関わる負担は女性だけでなく、男性も負うべきものであるが、育児休業取得率の推移を性別に確認すると(第2-3-10図(2))、女性は80~90%の間でおおむね横ばいで推移しているのに対し、男性の取得率は徐々に増えてはきているが、2017年でも5.1%の水準に過ぎない。さらに、育児休業の取得期間についても男女差が非常に大きく、女性では約65%の人が10か月以上の期間を取得しているが、男性では5日未満が約57%、1か月未満が約83%となっている81

また、第1節で確認したように、女性の半数以上がパートタイム労働者等の非正社員として働いているが、こうした背景に、正社員として働く負担が大きいため、より柔軟に働けることをその理由としている割合が高い(第2-3-10図(3))。また、現時点ではパートタイム労働者として働いているが、正社員になりたいと考えている女性では、勤務地、勤務時間、職種を限定した正社員として働くことを希望している割合が多い(第2-3-10図(4))。多様な正社員制度の普及や技術革新等を活用した柔軟な働き方の導入により、正社員を希望する女性が正社員になりやすい環境を整備していくことが重要である82

以上を総括すると、女性活躍の促進は企業業績を向上させる可能性があり、そのために、育児・介護支援制度の積極的活用や柔軟な働き方の促進を後押しすることが重要である。特に、育児休業の取得を男女ともに促進することで、女性の離職を防ぐことや、多様な正社員制度の普及や柔軟な働き方の導入等により、女性がその能力を十分に発揮できる環境整備を行うことが求められる。

高齢者が働きやすい環境整備

労働意欲もある元気な高齢者が労働市場で一層活躍できる環境整備は、少子高齢化がより進行する日本経済にとって重要である。ここでは、60代の就業選択にどのような要因が関係しているのかを分析した研究結果を基に、今後必要な制度改革を考察する。

内閣府政策統括官(経済財政分析担当)(2018)は、2005年に50~59歳かつ雇用者であった男性を対象に、2015年までの10年間にわたって追跡調査を行った個票データを用いて、60代の就業選択モデルを推計した83。このモデルを用いると、各種病気を原因とした通院や親族への介護、在職老齢年金制度や継続雇用制度等の有無、学歴や職種などといった様々な要素が、60代の就業選択行動にどのように影響するかに関してシミュレーションを行うことが可能となる。こうした諸要因の中でも、高年齢者の就業意欲の高まりを背景として、在職老齢年金制度や継続雇用制度等の有無に焦点を当てたシミュレーション結果を示した。

まず、在職老齢年金制度から概観する。在職老齢年金制度とは、60歳以降に厚生年金保険に加入しつつ老齢厚生年金を受給する場合において、基本月額84と総報酬月額相当額85に応じ、老齢厚生年金の受給額の一部あるいは全部が支給停止される制度である。この制度は、現役世代の負担に配慮し、一定の賃金を有する高齢者については年金給付を制限すべきとの観点で導入されている一方、就業意欲が抑制される影響があることが既存研究の中で指摘されてきた86。そのため、在職老齢年金制度の改正が行われており、就業意欲の抑制効果は緩和されてきたことも指摘されている87。仮に、この在職老齢年金制度が存在しなかった場合、現状と比較して就業選択確率がどのように変化するかをシミュレーションした結果によると(第2-3-11図(1))、フルタイム就業を選択する確率が上昇し、パートタイム就業および非就業を選択する確率が低下することが示されている。年齢別にみると、60~64歳では年齢が上がるにつれて影響が大きくなる傾向がある。なお、このシミュレーションでは財政への影響を考慮していないことに留意する必要がある。

次に、すべての企業に継続雇用制度等が存在していた場合についてのシミュレーション結果をみてみよう(第2-3-11図(2))。実線はモデルから推計される現行制度におけるフルタイムの就業選択確率であるが、仮にすべての企業に継続雇用制度等が存在していたと仮定すると、点線で示された就業選択確率へ上方にシフトする。年齢が上がるとシフト幅は縮小していく傾向があるものの、平均的には25%ポイント程度、就業選択確率が上昇しており、この上昇幅は上記でみた在職老齢年金制度の影響を大きく上回っている。

内閣府の企業意識調査によると、65歳を超える定年延長・継続雇用制度があり・活用されている企業は40%、定年制度がない企業は3%と、65歳を超える雇用に積極的な企業は4割程度となっている(付図2-5)。しかし、65歳を超える定年延長や継続雇用制度の導入を検討している企業も26%程度あることから、このような動きがより活発になれば、高齢者の就業が拡大する効果は大きい可能性が考えられる。

高齢者の活躍を促すためには、個々人の健康を増進することに加え、年金制度の設計や企業の人事制度が重要となると考えられる。企業での定年年齢の引上げや継続雇用制度等を整備することは、高齢者の就業状況を大きく左右するため、より年齢に縛られない働き方が可能となる。年金制度や企業の人事制度の設計については様々な選択肢を比較衡量し、就業意欲のある人々の就業を促すようなバランスの取れた制度設計を行うことが必要である。

雇用関係によらない柔軟な働き方へのサポート

ネットを通じたジョブ・マッチング機能の向上等もあり、今後はフリーランス等の雇用関係によらない柔軟な働き方が増える可能性が考えられるが、このような働き方にはどのような制度的な課題があるのかについて最後に考察する。ただし、フリーランスといってもその形態は様々であり、2018年の調査によると88、副業としてフリーランスを行う割合が41%と最も多く、次に個人事業主等の自営業系(29%)、複数の企業と契約ベースで仕事を行う複業系(26%)がある。

割合が最も多い副業についてより詳細にみると、正社員の副業を認めている企業の割合は12%であり、8割弱の企業では認められていない(第2-3-12図(1))。ただし、認めていない企業の中でも、懸念が解消されれば認める企業と、今後も認める予定がない企業とに二分されている。許可されていない背景について確認すると(第2-3-12図(2))、本業への支障を懸念する回答が多く、特に従業員数の少ない企業でその傾向が強い。また、従業員規模が多い企業では労働時間の管理・把握が困難になるとの懸念が高くなっている。日本型雇用システムでは、正社員は労働時間が長く、組織への忠誠も含めて評価がなされた結果、副業を制約する傾向にあったと考えられるが89、今後多様な働き方を推進していく中で、日本型雇用システムの変化していくことにより、副業がより一般的になってくる可能性もある。また、副業を認めることは、企業にとってもメリットにもつながると指摘する声もある90

このような副業を含めこれまでの働き方が変化するに伴い、これまでは少なかったトラブルや問題点が表面化してくると考えられるため、制度面の見直しが必要とされてくる。フリーランス・クラウドワーカー等の独立自営業者に対するアンケートでは、作業内容・範囲、一方的な仕様・作業期間等の変更、報酬の遅延等がトラブルになったことが多いとの結果となっている(第2-3-12図(3))。こうしたことを踏まえ、独立自営業者の間では、契約内容等でトラブルが起きた際の制度の充実や報酬に関する取り決めの明確化等を求める声が多くなっている(第2-3-12図(4)91。雇用関係によらない働き方をする者の中には、病気・出産等による休業、受注状況の悪化、廃業等の際に公的な支援が十分に得られず、収入が途絶するリスクがあることも指摘されている92。こうした指摘も踏まえながら、実態把握と並行して法的保護の必要性を含めて検討を行っていくことが必要である。

また、制度面の整備という観点からは働き手の保護に加え、労働需要側である企業にとってもフリーランス等の外部人材が活用しやすい環境整備を行うことも必要である。企業側に対するアンケート調査では、フリーランス人材の活用の障壁として費用対効果が不明との回答割合が高い93。企業が今後充実してほしい分野を確認すると(第2-3-12図(5))、現在活用している企業では、能力資格等の整備、教育訓練に対する支援・助成を挙げる割合が高く、今後の活用を検討している企業では能力資格等の整備に加え、活用にあたってのセミナーや適切な市場ルールの整備を挙げる割合が高くなっている。このような分野を整備していくことで、フリーランス活用に係る不透明性が低下していくことが期待される。


(63)後述する第2-3-9図を参照。
(64)姉崎(2010)は、WLBが企業業績に影響するメカニズムとして、優秀な人材の確保、従業員の定着率の向上、従業員の働く意欲の向上、業務運営の効率化、の4つの経路を指摘している。
(65)付加価値額を雇用者数で割ったものを労働生産性と定義しているが、ここでは雇用者数に常用労働者を用いた場合と、正社員数を用いた場合の2種類の推計を行っている。詳細については、付注2-5を参照。
(66)例えば、内閣府「平成29年度 国民生活に関する世論調査」では、自由時間が増えた場合にしたいこととして、旅行、趣味・娯楽、スポーツ、教養・自己啓発等の希望が多い。
(67)ここでの確率とは、各項目を平日に15分以上行う確率を指す。なお、育児時間については、世帯員に10歳未満の子どもがいる者のみを対象にしている。
(68)例えば、内閣府(2017)を参照。
(69)離入職率=(離職者数+入職者数)÷雇用者数。正社員のみ。定年退職や再雇用は離入職者数には含まない。
(70)ROA(総資本利益率)=利益÷総資本。利益は営業利益を用いた。
(71)付加価値率=付加価値額÷売上高。付加価値率が高い場合、企業が新しく創造した価値の割合が大きいと考えられる。
(72)大湾・佐藤(2017)を参照。
(73)大湾(2017)では、この他にも高齢化と企業家率の間には国際的に相関関係があるとの研究を紹介しており、高齢層が管理職を占拠することで、若い世代が管理職のスキルを取得できる機会を奪うことがこの背景にあると述べている。
(74)技術進歩の影響を分析したBrynjolfsson and McAfee(2014)でも、政策提言の一つとして、労働市場におけるマッチングの強化を指摘している。
(75)厚生労働省「職業安定業務統計」を参照。
(76)経済産業省(2012)では、事例研究等の結果、女性活躍推進が多面的な経営効果を持たすことを確認している。
(77)山本(2014a)、Siegel・児玉(2011)等。
(78)この他にも、山本(2014b)による実証分析では、労働時間の短い企業、雇用の流動性の高い企業、賃金カーブが緩く賃金のばらつきの大きい企業、WLB施策の充実している企業で、女性正社員比率や女性管理職割合が高くなっている。
(79)リクルートワークス「全国就業実態パネル調査2018」によると、2017年末に1~5歳の子どもがいる女性で、一番下の子どもの妊娠がわかった時には就業していたが、2017年末では非就業になっている女性の割合は3割程度となっている。
(80)原(2017)を参照。
(81)厚生労働省「平成27年度雇用均等基本調査」を参照。
(82)鶴・久米(2016)は、実証分析の結果を踏まえ、職務や勤務地等を限定した働き方を、男性も選択できるようにすることで、夫が家事・育児負担を担うようになり、女性就業が促進されることを指摘している。
(83)個票データは厚生労働省「中高年者縦断調査」を使用した。60代の就業選択モデルには、構造型の就業選択関数(多項ロジットモデル)を用いた。データの定義および分析の詳細は、内閣府政策統括官(経済財政分析担当)(2018)を参照。
(84)加給年金額及び繰下げ受給による増額を除いた老齢厚生年金の月額。
(85)毎月の賃金(標準報酬月額)と直近1年間の賞与(標準賞与額)の総額を12で割った額とを合計した額。
(86)例えば、樋口・山本(2002)、石井・黒澤(2009)等。他方、山田(2012)では、60代については、一部の年齢を除き、在職老齢年金制度による就業抑制効果が確認できないとされている。
(87)浜田(2010)を参照。
(88)ランサーズ(2018)を参照。
(89)紺屋(2016)を参照。
(90)萩原・戸田(2016)では、企業が副業を認めた際の利益として、人材育成、人材求心力、柔軟な組織体制、生産性向上、ビジネスの情報と人脈の5つを指摘している。
(91)連合総合生活開発研究所(2017)のクラウドワーカーを対象とした調査では、最も受けたい保護として、最低報酬額が27.5%で最も多く、一方的な理由による解約の制限(11.3%)、危険・健康障害の防止措置(11.3%)と続いている。
(92)経済産業省(2017)を参照。
(93)経済産業省(2017)「平成28年度産業経済研究委託事業(働き方改革に関する企業の実態調査)報告書」を参照。
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