第1章 緩やかな回復が続く日本経済の現状 第3節
第3節 財政金融政策の動向
アベノミクスの3本の矢は、5年目を迎えた。これまでの取組により、デフレではないという状況になったが、デフレに後戻りすることなく持続的な物価上昇が展望されるというデフレ脱却までには至っていない。ここでは、財政・金融政策の動向を概観することで、これまでの政策動向がどのように実体経済に影響を与えてきたのか分析するとともに、今後の課題について明らかにする。
1 長短金利操作付き量的・質的金融緩和と実体経済への波及
日本銀行は、2013年4月に導入された量的・質的金融緩和について、累次の緩和強化策を取り入れ、さらに2016年1月のマイナス金利政策の導入、同9月のイールドカーブ・コントロール政策の導入の決定など、経済や物価の動向に合わせた金融緩和の取組を続けている。本項では、こうした累次の緩和強化策の実体経済への波及についてみていく。
●金融緩和により、銀行貸出は増加
消費者物価は、2016年前半の為替の円高方向への動き等を反映した耐久消費財価格の下落などもあり、2016年初めから横ばいで推移している。こうした中、日本銀行は、早期の2%の物価安定目標の実現に向け、2016年1月には金融機関の日銀当座預金の一部(政策金利残高)にマイナス0.1%の金利を適用することを含めた「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入を決定した。これにより、イールドカーブは全体的に押し下がり、一時、新発20年債がマイナスの利回りを付ける場面もあった。企業金融や個人向けの住宅ローンの金利も、こうした動きに沿って低下し、銀行の貸出は、個人や非製造業向けを中心に増加している。このように金融緩和の効果は着実に実体経済に波及している(第1-3-1図(1)(2)(3)(4))。
一方、イールドカーブのフラット化が進むことで、銀行の短期調達、長期貸出による利鞘が縮小している。こうした金融環境の変化は、金融機関にポートフォリオ・リバランスを促すことで、リスク資産への投資が進み、経済全体の成長を促す効果が期待できるが、イールドカーブのフラット化が進み過ぎると金融機関が利鞘をとれなくなり、その結果、金融機関の適切なリスクテイキング行動を阻害し、金融仲介機能へ影響が出る可能性もある(第1-3-1(5))。
こうしたことから、日本銀行は、2016年9月に「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入し、長短の金利水準を金融市場調節方針の操作目標とした26。本施策の導入後のイールドカーブをみると、短期金利がマイナスを維持する中、スティープ化も図られており、10年より長いところではプラスとなっている。以下では、こうした金融環境が家計や企業に対して与えた影響を概観する。
●金利の低下等により住宅着工は増加
家計の住宅取得意欲は高まっており、住宅着工の動向をみると、2016年初から夏場にかけて大幅に増加しており、年換算で100万戸を超える月もあった(第1-3-2図(1)(2))。その後、年末にかけてやや落ち着いたものの、1月には2020年東京大会向けの選手村の着工もあって100万戸を超えるなど、おおむね横ばいで推移している。
2016年度の着工を利用関係別にみると、持家、貸家及び分譲のすべてで増加しているが、特に、貸家の着工が大幅に増加した。金利低下のほか、2015年の相続税に係る税制改正の影響もあって、貸家建設のインセンティブが高まったことが指摘されており、個人の貸家業に対する貸出残高をみると、2017年3月時点で28兆円を超え、前年から1兆円程度増加している27(第1-3-2図(3))。
我が国は、一世帯当たり人数の減少によって、人口減少下でも世帯数が増加しているが、2020年以降は世帯数も減少すると推計28されており、人口動態に沿って住宅ストックの調整が必要となる。最近の住宅ストックの積み上がりについて、住宅・土地統計調査を基に滅失率を推計し、一定の仮定の下、建築着工統計に基づいて試算してみると、世帯数の伸びに対して住宅ストックの伸びが大きくなっている可能性が示唆される(第1-3-2図(4))。さらに地域別にみると、北海道では世帯数が減少しているのに対して住宅ストックは増加しており、その他地域においても世帯数の伸びに対して住宅ストックの伸びが大きい地域も見受けられる(付注1-3)。住宅に占める空き家の割合(空き家率)は、2003年に12.2%、2013年に13.5%と増加傾向にあり、住宅市場の需給バランスの動向には留意が必要である。
●家計の現預金選好の高まり
家計のバランスシートをみると、資産・負債両面で増加している。資産側では、現預金比率は2002年以降の景気回復局面と比較すると高い水準となっている(第1-3-3図(1)(2))。現預金比率は他の金融資産の価格が下落することでも増加するが、家計がリスク性資産ではなく、現金・預金を増やしている面も大きい。負債側では、低金利環境下で住宅ローン残高が増加しているが、消費者金融なども増加している。
預金金利が低下する中で、前述のとおり平均余命は伸長しており、「人生100年時代」における資産形成のためには、家計の金融資産をバランスのとれたポートフォリオに移行させていくことが必要である。
家計の貯蓄から資産形成の動きを後押しするため、2014年に導入されたNISA(少額投資非課税制度)は、着実に普及・定着が進んでいるものの、開設されたNISA口座のうち稼働しているものは半分以下との調査29もある(第1-3-3図(3))。こうした状況も踏まえ、特に少額からの積立・分散投資を強く後押ししていくとの観点から、2018年1月より、主に投資未経験者による利用を念頭に置いた積立NISAが導入される。積立NISAを含むNISA制度等の活用を促進することで、貯蓄から資産形成への流れを後押ししていくことが重要である。
投資に対して消極的な理由としては、投資に興味がないとするものが多いが、投資に係るリスクや知識の欠如などを理由に挙げるものも多い30。金融機関は安定的な資産形成に適した金融商品を開発するとともに、若年層を始め将来に向けた資産形成の必要性の高い層の理解が深まるよう、丁寧に説明していく必要がある。また、金融資産の大宗を保有する高齢者世帯についても、本人の理解力を考慮した上で、適切な商品選択を促し、安定的な資産形成につなげていくことが重要である。
●幅広い業種で設備投資向け資金需要がみられる
前述のとおり企業収益が回復する中、企業の設備投資は持ち直しており、設備投資向けの借入も増加している。製造業では、設備投資資金向け貸出金が2014年7-9月期以降前年比で上昇しており、幅広い業種で積極的な資金需要がみられる(第1-3-4図(1))。非製造業では、2012年7-9月期以降安定的に前年比プラスとなっている(第1-3-4図(2))。特に増加寄与が大きい不動産については、貸家建設の盛り上がりなどを反映していると考えらえる。また、飲食・宿泊などのサービス業では、2020年東京大会を控え、インバウンド需要の取り込みを狙った積極的な投資を行っているものとみられる。建設投資の持ち直しを反映して建設業なども押上げに寄与している。
他方で、企業の金融資産の内容をみると、2012年以降、好調な企業収益を背景に海外への投資意欲が高まった結果、対外直接投資や対外証券投資が増加している。また、株価の上昇により資産価値が総体として増加する中、現預金も増加しており、結果として現預金比率は2006~07年頃の水準を上回っている。経済ショックへの備えや事業拡大のため、企業は手許流動性を確保しようとする傾向が強いとみられる(第1-3-4図(3))。
名目金利を消費者物価で実質化した実質金利をみると、2016年以降、物価が横ばいとなったことにより、やや上昇した結果、2016年央には一時2013年以来高い水準となった。その後物価がプラスに転じたことからこのところ下落傾向にある。今後、物価の安定的な上昇により、実質金利が押し下がっていくことで、さらに企業の投資意欲の醸成が期待される(第1-3-4図(4))。
●低金利の下、年金基金は運用利回りの確保に向け取組
金融緩和の下で国債を始めとする国内債券の利回りが低下する中で、全体としてのリスクを抑えながら年金財政上必要な利回りを確保していくため、年金積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、長期的な経済・運用環境の変化に即し、従来、国内債券に偏っていた基本ポートフォリオを2014年10月に見直し、株式等への分散投資を推進した。
資金循環統計から公的年金(GPIF以外も含む)の資産をみると、2014年以降債務証券が減少する一方、株・投資信託受益証券、対外証券投資が増加している(第1-3-5図)。
GPIFでは、専門人材の採用など必要な体制整備を図りながら、資産全体の5%を上限に、インフラやプライベートエクイティ、不動産などの「オルタナティブ資産」への投資も開始している(2015年度末で資金全体の0.06%)。
2 基礎的財政収支黒字化への取組
大胆な金融政策と合わせて、政府は機動的な財政政策によりデフレ脱却に取り組んできた。他方で、厳しい財政状況の下、歳出・歳入改革の取組により基礎的財政収支は改善してきた。財政の信認確保のためには、今後も歳出・歳入両面から改革を一層進めていく必要がある。本項では、こうした財政健全化の取組について概観するとともに経済成長に資する財政政策について、主に公共投資や人的投資について考察する。
●基礎的財政収支は税収の伸び悩みから改善に遅れ
国・地方の基礎的財政収支の動向をみると、2009年度を底に改善しており、2012年度以降、景気が持ち直しから緩やかに回復する中、消費税率の引上げもあって歳入が増加しており、社会保障関係費が増加する中でも改善を続けている(第1-3-6図(1)(2))。2015年度には2010年度の水準からの対GDP比赤字半減目標(対GDP比3.2%)よりも小さい3.0%の赤字31となった。
ただし、2016年度については、前述したような年度前半の世界経済の減速、為替の円高方向への動きや金融資本市場の変動等の影響により税収が当初見込みより減少したことや、「未来への投資を実現する経済対策」による歳出増などから、若干悪化することが見込まれている。
金融緩和の財政への影響をみると、低金利を背景に、債務残高が増加する中でも利払い費は減少傾向で推移している(第1-3-6図(3))。国は、長期的な利払い費の圧縮のため、長期債、超長期債への転換を進めており、平均償還年限は2009年の6年5か月から、2017年には9年0か月になると推計されている32。
債務残高対GDP比について各国の動向をみると、2008年の金融危機以降、いずれの国でも上昇がみられるが、我が国は英国とともに上昇のテンポが速いグループにあると言える。他方でドイツは、2008年の水準へ回帰する動きをみせている(第1-3-6図(4))。財政の持続性確保のため、政府目標である基礎的財政収支の2020年度までの黒字化と債務残高対GDP比の安定的な引下げを実現していくことが重要である。特に、社会保障関係費については、高齢化の進展により今後も増加していくことが見込まれているが、データヘルス33や予防等を通じた国民の健康増進や、医療や介護の地域差を「見える化」することによる課題認識の共有と解決に向けた行動変容の促進を図ることなどにより、その伸びを抑制していくことが重要である。
●法人税収は好調な企業収益を背景に増加傾向
歳入の1割強を占める法人税収は、好調な企業収益を背景に2010年度以降前年度比でおおむね増収傾向にあるが2015年度、2016年度は減収となった。法人税収の動向は、GDP成長率やGDPのうち法人所得が占める割合(法人分配率)に表れるマクロ環境の動向、実効税率、さらに繰越欠損金などを加味して算出した実際の課税対象となる法人所得(=課税ベース)によって変動するため、それぞれの要因に分解して分析することができる。
2015年度までの法人税収の動向を実質GDPや課税ベース等に分解すると、2010年度以降課税ベースの拡大が税収の押上げ要因となる中、実効税率の引下げが税収の下押しに効いている(第1-3-7図(1)(2))。課税ベースの拡大は企業収益が改善を続ける中で、税制改正によって租税特別措置の縮減や外形標準課税の拡大等により課税ベースが拡大したことによる。繰越欠損金についても、長い目で見ると解消が進んでいる。他方で、実効税率については、2012年度以降段階的に引き下げられており、2015年度からは、2016年度に20%台となる成長志向の法人税改革により、さらなる法人実効税率の引下げが実施されている。
内閣府(2010)で議論しているように、各国のデータをみると法人実効税率と法人税収の間には負の関係がみられる。法人実効税率の引下げが法人税収に負の影響を与えるとは限らないことの背景には、税率引下げによる経済活性化効果に加え、課税ベースの拡大などが同時に実施されたことや、法人部門への所得シフトなど、様々な要因が総合的に寄与した結果であるとの指摘もある。税制の改革に留まらず、規制改革や行政手続きの簡素化・IT化などによりビジネス環境を改善することで、我が国の立地競争力を強化し、経済成長につなげることで、雇用も拡大し、法人税以外も含めた幅広い分野での税収の増加が期待される。
●雇用者数の増加が給与所得税収を押上げ
次に歳入の2割弱を占める所得税収のうち給与所得税収の動向をみてみよう。給与所得税収は、一人当たり賃金や雇用者数の動向によって変動するほか、累進課税の下、所得が増加すれば適用される税率が高くなるため、平均税率の変動にも左右される。
第1-3-8図(1)では、給与所得税収を上記の3つの要因に分解しているが、2013年度に平均税率が上昇したため大幅に増収となった後、雇用者数の増加を背景に緩やかに増加している。
第1-3-8図(2)にみるように、所得税の納税者数は雇用者数の増加とともに増加しており、雇用・所得環境の改善が税収を押し上げていることがわかる。さらなる雇用の拡大により、今後も税収を押し上げていくことが重要である。
●経済成長と公共インフラ
前述のとおり、財政健全化に向けては、名目経済成長を確保するとともに歳出・歳入の両面から改革の取組を進めていく必要がある。我が国の公共事業関係費は、厳しい財政事情の中でも、当初予算ベースで2014年度以降約6兆円を維持している。
公共投資については、高い乗数効果を根拠として、特に90年代に景気後退期における景気刺激策として活用されていたが、「ムダ」や「高コスト」といった批判もあり、2000年代初頭から歳出削減の対象となっていた34。
一方、質の高い公共インフラの整備は、民間投資を誘発するとともに、生産性を高め、中長期的に経済成長を後押しするものであり、真に経済成長につながる投資への重点化を進めることで経済成長の原動力となる。
例えば、急増するインバウンド需要については、受入れのための空港港湾等の容量がボトルネックとなってしまえば、海外からの需要を逸失することにもつながりかねず、また、物流量の拡大に対して道路等の交通インフラが不足すれば、混雑等により生産性の低下が生じかねない。
こうしたことを踏まえ、政府は首都圏空港の空港処理能力の拡大や大型クルーズ船の受入環境改善に向けた空港港湾の機能強化を推進している(第1-3-9図)。こうした取組により、クルーズ船の外国人受入人数は2016年には約200万人と前年の約8割増、成田・羽田両空港を経由して入国した外国人数は2012年以降約540万人増加している。
また、Eコマースの拡大等の物流量の増大に対応する三大都市圏環状道路等の整備により、混雑する都心部を経由せずに物流網が構築できるほか、圏央道沿線への物流施設や工場立地が進んでいる。短期的な景気対策ではなく、長期的な成長力の強化に重点を当てた公共投資を進めることで、我が国の経済成長を促し、雇用を創出しているといえる。
一方、高度経済成長期以降に集中的に整備された道路や上下水道、学校といったインフラの維持管理・更新等が必要となっている。国は、インフラの戦略的な維持管理・更新等を推進するため、2013年に「インフラ長寿命化基本計画」を策定し、その下で所管府省庁による行動計画を策定・実施しており、また、地方自治体においても管理する公共施設等に関する維持管理・更新等を進めるための公共施設等総合管理計画の策定が進められている。
厳しい財政事情の下、効率的かつ効果的なインフラの更新を行っていくためには、民間の資金や創意工夫の活用を図るPPP/PFIの活用も重要である。
●経済成長に向けては人材への投資も不可欠
経済成長の観点からは、資本と同様に労働の質を向上させていくことが大切である。我が国の教育政策は、小中学校については義務化・無償化しているほか、高等学校等についても授業料を支援するための高等学校等就学支援金及び低所得世帯の授業料以外を支援する高校生等奨学給付金制度により教育の機会均等を図っているところであり、2016年の高等学校等への進学率は98.7%となっている。他方で、企業が研究開発投資により、技術革新を軸とした成長を目指している現状に鑑みれば、一般的な教養を中心とした初等中等教育に留まらず、最先端の技術を理解した上で、その応用やさらなる発展を担うことができる人材を確保することが必要である。アメリカなど先進国では、IT化などの経済構造の変化により、需要が高まる高学歴の人材の賃金が相対的に高くなるという現象が報告されている。我が国では大学・短大や専修学校(専門課程)といった高等教育機関への進学率の上昇により高学歴化が進んでおり、今のところ超過需要による賃金格差の拡大は起きていないが、今後とも技術革新が進展する中で、最先端の技術を習得し付加価値をもたらす高い教育を受けた人材を確保していく取組が必要である35。その際、国内外のヘルスケア産業への需要の増加やインバウンド需要の高まり、AIやIoTの経済社会への定着・深化といった我が国を取り巻く経済社会構造の変化を踏まえ、必要となる人材を優先的に育成していく体制を整備することで、教育の費用対効果が高まる。また、こうした人的投資は年齢に関係なく重要である。社会人の学び(リカレント教育)を推進し、付加価値の高い産業への労働移動を促すことで経済全体の成長力を強化するとともに、労働者の就業能力の向上や賃金上昇につなげることが重要である。
教育の効果を子どもの将来賃金の変化で計測すると、就学前児童への教育の実施や家庭訪問による親への指導といった介入は、初等中等教育や高等教育より効果が高いという研究がある36。我が国の労働者を対象とした研究でも、幼少期の家庭の蔵書数などの家庭環境が賃金や学歴に影響をもたらすという結果が報告されている37。幼少期の家庭環境が生涯所得に大きな影響を与えるのであれば、子どもの能力の成長を促す積極的な介入を行うことが格差の縮小のためにも必要となる。
このように人的資本への投資は経済成長の基盤としてインフラ投資と同様に重要であり、効果的・効率的な支援が必要である。
コラム1-3 2020年東京大会による経済効果
2020年に開催されるオリンピック・パラリンピック競技大会に向けた官民の投資が進んでいる。まず、競技施設については、事業規模約1,530億円の新国立競技場の工事が進捗するなど、既に多くの施設が着工しており、2019年のテストイベントまでの完成を目指し、工事が進捗している。また、競技に参加する選手のための宿泊施設、いわゆる選手村については、2017年1月に着工しており、大会後、住宅として整備される際に追加される分も含めると約5,650戸が整備される予定である。さらに、2020年東京大会によるインバウンド需要の増加を見込んだ、飲食宿泊施設への投資も拡大している。
こうした効果は、一時的なものに終わらせてはならず、「オリンピック・レガシー」として長期的に我が国経済を底上げするものとすることが必要である。英国政府はロンドン市とともに、2012年のロンドン大会におけるレガシーとして、ロンドン東部の再生や大規模なプロモーションによるインバウンド需要の増加や雇用創出といった経済効果があったと分析している。2020年東京大会においても、オリンピック・レガシーの思想に基づき、組織委員会が「東京2020アクション&レガシープラン」38をとりまとめるなど、大会後の東京・日本そして世界に何を残し、創出していくのかについて議論が続けられている。開催都市である東京都は、競技施設と周辺の商業施設や宿泊施設等との連携によって臨海部をスポーツエリアとして一体的に整備していくこととしているほか、政府においても、「明日の日本を支える観光ビジョン」に基づき、首都圏空港の機能強化やクルーズ船の受入環境改善、民泊を含めた宿泊施設の容量拡大などを図るとともに、文化発信、多言語化・キャッシュレス化など、2020年に4,000万人、2030年に6,000万人の訪日外国人旅行客数目標の達成に向け、2020年東京大会後も見据えた観光先進国に向けた取組が進められている39。