第1章 景気動向と好循環の進展

[目次]  [戻る]  [次へ]

第1節 経済再生の前進と最近の景気動向

政府は、新たに「三本の矢」(「大胆な金融政策」、「機動的な財政政策」、「民間投資を喚起する成長戦略」)からなる経済政策を一体的に推進することによって、デフレ脱却・経済再生と財政健全化の双方を進めてきた。その結果、デフレ状況ではなくなる中、所得から支出へといった経済の好循環が着実に回り始めるなど、マクロ経済環境は大きく転換し、企業や個人のマインドも大きく変化した。同時に、消費税率の8%への引上げ等を通じて2015年度の基礎的財政収支赤字の対GDP比を2010年度に比べて半減するという目標も達成される見込みとなるなど、財政健全化も進展してきている。

本節では、こうした経済再生に向けた動きを確認するとともに、消費税率引上げや原油価格下落などの影響を受けて変動する最近の景気動向について概観する。

1 デフレ脱却・経済再生の前進

我が国経済は、2012年末に持ち直しに転じて以降、企業収益の拡大が賃金上昇や雇用拡大につながり、消費の拡大や投資の増加を通じて更なる企業収益の拡大に結び付くという経済の好循環が回り始める中、総じてみれば、個人消費を中心に内需が主導する形で回復してきた。特に、日本経済を悩ませてきた3つの過剰(過剰債務、過剰設備、過剰雇用)の解消が進む中、企業の直面していた「六重苦」の改善が進み、デフレの下で家計が直面していた所得の低下にも歯止めがかかり、経済の各分野で、1990年代初のバブル経済の崩壊以来、およそ四半世紀ぶりとなる良好な経済状況がみられるようになった。以下では、その状況について整理する。

およそ四半世紀ぶりとなる良好な経済状況の出現

我が国経済の再生に向けた動きを経済全体の観点から確認するため、まず、GDPの動向をみてみよう。2015年1-3月期の実質GDPを、景気が持ち直しに転じた2012年10-12月期との対比でみると2.4%増加している(第1-1-1図)。また、デフレ状況ではなくなる中、名目GDPについては、同期間中に5.8%増加し、2015年1-3月期にはほぼ500兆円となった。2015年1-3月期の名目GDP成長率は、原油価格下落の影響により輸入デフレーターが大幅に低下し、GDPデフレーターが上昇した結果、前期比年率9.4%増と現行(平成17年)基準の国民経済計算で遡及できる1994年以降最大の伸びとなった。

名目GDPの増加は、所得面からみれば、企業や家計の所得の増加に対応している。以下ではこれらの動きを確認しよう。

企業収益の動向をみると、2014年4月の消費税率引上げに伴う駆け込み需要の反動の影響により一時的に足踏みがみられたものの、総じて改善傾向で推移しており、2014年度の企業収益は、2013年度に続き過去最高水準となった1第1-1-2図(1))。これは、好調な内需等を背景に、デフレ状況ではなくなる中、内需関連企業がコストの上昇を販売価格に転嫁しやすい状態が続いたことや、円安方向への動きにより輸出企業等を中心に収益が改善したことなどが挙げられる。こうした企業の収益力の高まりを背景に、東証1部上場株式の時価総額は1989年の水準を超え、2015年5月には過去最高額を更新した。

経済の好循環が生まれるためには、企業収益の改善が、労働需要の増加、賃金の上昇を通じて雇用・所得環境の改善につながることが重要である2。有効求人倍率をみると、2015年4月には23年ぶりの高水準となる中、失業率についても18年ぶりとなる水準にまで低下した。また、2015年3月の高卒の就職内定率は23年ぶり、大卒は7年ぶりの高水準となった。所得の動向をみても、名目雇用者報酬は、2014年度に、17年ぶりの高い伸びとなった(第1-1-2図(2))。

最近の所得の動きについて名目総雇用者所得を用いてみると、2013年3月以降、前年比でプラスが続くなど、増加傾向が続いている(第1-1-2図(3))。こうした動きを、一人当たり賃金と雇用者数の動きに分けてみてみよう。一人当たり賃金(現金給与総額)は、2013年にはパート比率の上昇による下押し寄与が続く中で弱めの推移となっていたが、2014年は総じて緩やかな増加傾向に転じた。この背景には、(1)1999年以来の規模となる賃金引上げの動きを受けてフルタイム労働者の所定内給与が増加したこと、(2)労働需給が引き締まりつつある中でパートの時給も増加したこと、(3)好調な企業決算を反映して夏季・冬季賞与が増加したこと、等が挙げられる。また、株価の上昇等を背景に家計の金融資産残高も過去最高となっている。

一方、雇用者数は、生産年齢人口が減少している中にあって、増加傾向が続き過去最高水準で推移している。これは失業率が低下する一方、女性や高齢者の労働力率の上昇により成長力の天井を高めることにつながっている。2015年4月以降、実質総雇用者所得は前年比プラスとなるなど賃金・雇用の両面から、労働者の所得は堅調な動きが続いている。

原油価格下落により交易条件は改善

ここで、対外面も考慮した実質ベースの国民所得である、実質GNIの動向をみてみよう。実質GNIは、実質GDPに交易利得(マイナスの場合は交易損失)と海外からの所得純受取を加えたものである。2014年10-12月期には所得の純受取が、2015年1-3月期には交易利得が、それぞれ大きく寄与したことから、実質GNIの成長率は実質GDPを上回る伸びとなった(第1-1-3図)。

海外からの所得の純受取は、我が国企業の海外拠点の収益の拡大から、振れを伴いつつも、長い目でみれば増加傾向にある。他方、交易利得は、2008年末から2009年初を除き、総じて実質GNIの押下げに寄与することが多かった。交易利得は、交易条件(輸出価格/輸入価格)の動きにほぼ連動する。2000年代は、輸出価格が、電気機械での技術進歩率の高さや国際的な競争環境の激化を背景に下落する動きもある中で、輸入価格は鉱物性燃料の価格上昇もあり上昇していたことが、交易条件の悪化に寄与していた3。2015年1-3月期における交易条件の改善は、2014年末以降、原油価格が急速に下落したことによる影響が大きい4。原油価格の下落は、我が国全体の実質所得を増加させる。企業においては仕入れコストの低下から利益率が改善する。またガソリン価格といった石油関連製品などの消費者物価が下落することを通じて、家計の実質所得を増加させる。為替の円安方向への動きにより、輸入価格の上昇が利益を圧迫する懸念があった中小企業においても、原油価格下落による収益性の改善がみられており、原油価格下落の恩恵が幅広い主体に広がることが期待される(付図1-1)。

バランスシート調整が進展し「三本の矢」の一体的取組で期待が好転

およそ四半世紀ぶりとなる良好な経済状況がみられる背景にはいくつかの要因が考えられる。

第一に、バブル経済の崩壊以降、家計や企業などでみられたバランスシート調整の動きは長きにわたって経済活動を抑制する要因となってきたが、そうした経済活動上の重しが解消されていたことが挙げられる。企業のいわゆる「3つの過剰」(過剰債務、過剰設備、過剰雇用)は、広く解消されてきている。実際に、企業の有利子負債・総資産比率の推移を業種別・企業規模別にみると、2000年代に入り、いずれも低下傾向となっていた(第1-1-4図)。企業の設備過剰感をみても、近年、ほぼ解消されており、雇用過剰感は不足状態となっている。

デフレ脱却に向けた動きの進展に加え、円高や貿易自由化の遅れ、高い法人税、環境制約、雇用環境に加え不安定な電力事情といった、いわゆる「六重苦」の解消が進展し、経済環境が好転することを背景に、企業収益は増加を続けている。こうして増加した収益を、企業は負債圧縮などバランスシート改善のために用いる必要性は低く、国内拠点の維持更新や高機能化などの前向きな投資へ活用し始めるようになったと考えられる。

第二には、日本経済がバランスシート調整を乗り越えていった上で、「三本の矢」の一体的な取組によって人々のマインドが好転したことが挙げられる。株価については、政策への期待などから2012年秋以降上昇し、2013年には前年比57%上昇と41年ぶりの大きな伸び率を記録した。急速な株高の進行などのマーケットの動きを受けて企業や家計のマインドが改善したことは、実体経済の改善にも影響を与えることとなった。経済政策に市場が反応し、人々のマインド改善を通じて実体経済にプラスの影響を及ぼしたが、こうした動きは従来の景気回復メカニズムとは異なったものであった5

2 最近の景気動向

我が国の景気は、前述のような経済の前向きな動きに支えられているが、最近の景気動向について、消費税率引上げや原油価格下落などの影響も併せて、以下で整理する。

消費税率引上げの影響等を受けて経済は大きく変動

およそ四半世紀ぶりとなる良好な経済状況がみられているものの、2014年4月に実施された消費税率引上げに伴う駆け込み需要とその反動の影響等を受けて我が国経済は大きく変動した。実質GDPの動きをみると、駆け込み需要の影響もあり、2014年1-3月期にはプラス成長となったが、その反動や夏の天候不順等の影響もあって同年4-6月期、7-9月期には2四半期連続のマイナス成長となった(前掲第1-1-1図(2))。

特に、個人消費については、同年4-6月期に前期比5.1%減と大きなマイナスとなって以降、反動減からの回復が緩やかなものにとどまった。この背景には、駆け込み需要の反動や夏の天候不順の影響に加え、輸入物価の上昇や消費税率引上げを含む物価上昇の中で結果的に賃金上昇が物価上昇を下回り、消費者の支出抑制傾向が強まったことが考えられる。住宅投資についても、同年4-6月期に前期比10.8%減と大きなマイナスとなった後、2015年1-3月期にプラスとなるまでの間、3四半期連続のマイナスとなった。一方、公共投資をみると、平成25年度補正予算及び平成26年度当初予算の早期執行を受けて、7-9月期、10-12月期とプラス寄与となり、景気を下支えした。

2014年夏以降、景気の回復力に弱さがみられる中で、低所得層における消費の抑制傾向6や、中小企業や地方への景気回復の波及に遅れがみられるようになった。こうした状況の下、政府は、2014年末に、2015年10月に予定していた消費税率の10%への再引上げを18か月延期し、2017年4月に行うことを決定した7。その際、2017年4月の消費税率引上げに向けては、引上げを確実に実施すること、経済再生と財政健全化の双方の実現を目指し、2020年度の財政健全化目標の達成に向けた計画を策定することを明確にした。同時に、個人消費の弱さや地域ごとに景気回復にばらつきがみられること等を踏まえ、経済の脆弱な部分に的を絞り、かつスピード感をもって対応を行うことで、経済の好循環を確かなものとするとともに、地方にアベノミクスの成果を広く行き渡らせることを目的として、「地方への好循環拡大に向けた緊急経済対策」8を取りまとめた。

消費税率引上げの影響が和らぐ中のプラス成長

2014年夏以降、景気の回復力に弱さがみられるようになった我が国経済ではあったが、2014年末以降、消費者マインドが下げ止まり、個人消費や住宅投資などが底堅く推移する中、生産にも持ち直しの動きがみられるようになった。加えて、米国や中国向けを中心に輸出が持ち直しに向かう中で、2014年10-12月期には、実質GDP成長率は3四半期ぶりにプラスとなった。2015年に入り、家計や企業における前向きな動きがより明らかなものとなる中、2015年1-3月期には、実質GDPは、個人消費、住宅投資、設備投資と民需がそろって増加し、2四半期連続のプラス成長となった。

このように、消費税率引上げによる影響が和らぐ中で、2014年度後半にはプラス成長に転じた我が国経済ではあるが、年度全体の成長率をみると、個人消費を始めとして弱さがみられ、前年度比0.9%減となった。これは、後述するように、前回消費税率引上げ時の1997年度に同0.1%増だったことと比べると低い伸びとなった。

2015年に入っても、景気の回復基調が続いている。個人消費は、雇用・所得環境の改善傾向を背景に、持ち直しの兆しがみられるようになった(第1-1-5図(1))。新設住宅着工戸数についても、反動減の緩和や住宅ローン金利が低下傾向で推移してきたこと等を背景として、2015年春先以降、持ち直しの動きがみられてきている(第1-1-5図(2))。このように、家計部門の支出については、駆け込み需要の反動減の局面を脱し、総じて持ち直しに向かいつつある。

設備投資は、企業収益が改善傾向にある中、このところ持ち直しの動きがみられている(第1-1-5図(3))。公共投資については、工事の進捗を示す出来高は、平成25年度補正予算や平成26年度当初予算などを受けて、2013年半ば以降、高めの水準で推移しており、消費税率引上げに伴う需要の落ち込みを下支えした(第1-1-5図(4))。

輸出は、2014年初以降、総じて横ばい圏内の動きで推移してきたが、同年秋以降、アメリカの景気回復を背景に同国向けの資本財輸出が増えたこと、また、中国を中心としたアジアにおけるスマートフォン製造向けの情報関連財需要に応じた輸出が伸びたことなどにより持ち直しの動きがみられるようになった(第1-1-5図(5)、(6))9。他方、2015年に入ると、上述のスマートフォン製造向けの輸出が一服したこともあり、おおむね横ばいとなっている。

このように我が国経済は、好循環の動きが続く中、およそ四半世紀ぶりとなる良好な経済状況を達成しつつある。2014年4月に実施された消費税率引上げに伴う駆け込み需要とその反動の影響を受けて大きく変動したが、最近ではそうした影響を乗り越えつつあり、景気は緩やかな回復基調が続いている。こうした好循環の動きを拡大させ、景気が回復を続けていくためには、個人消費、設備投資の回復とともに、中小企業や地方を含めてその動きを拡大・深化させていくことが重要となるが、以下では、家計、企業部門、地方経済における動きを検証していく。

3 消費税率引上げによる家計部門への影響

消費税率引上げは、持続可能な社会保障制度の確立や、社会保障給付の充実とともに、財政健全化に資するものである。同時に、幅広い家計に負担されることから、家計の支出行動に影響を与える。本項では、個人消費と住宅投資を対象に、消費税率引上げの影響を整理する。

消費税率引上げとデフレマインドが残る中での名目賃金の伸び悩みが消費を下押し

前回の消費税率引上げ時の1997年度(以下本節において「前回」という。)と異なり、2014年度(以下本節において「今回」という。)の実質GDP成長率は前年比0.9%減とマイナスとなった。その要因としては、前述のとおり、消費税率引上げ後の個人消費の回復力等に弱さがみられたことが挙げられる。消費税率引上げに際して、政府は、駆け込み需要と反動減を平準化させるための施策や、低所得者等を対象とした給付金の支給等を含む「経済政策パッケージ」(2013年10月1日閣議決定)を決定した10。さらには、経済界、労働界、政府において、「経済の好循環実現に向けた政労使会議(以下「政労使会議」という。)」を開催し、2013年12月に共通認識を取りまとめた11。こうした中で、2014年の春闘では、定期昇給を含む賃金引上げ率(日本労働組合総連合会最終回答集計調査)は2.07%(賃金改善分は0.38%)となり、15年ぶりとなる伸び率となった。

そうした中にあって、個人消費の回復の動きが弱いものにとどまった要因について、消費税率引上げによる影響も含めて、整理しよう(第1-1-6図)。

消費税率引上げが、消費税率引上げ後の個人消費に与える影響は、駆け込み需要の反動減(異時点間の代替効果)と、価格上昇による実質所得の減少による効果(所得効果)に分けられる。このうち、駆け込み需要の規模については、今回は3兆円程度と推計され、2014年度の個人消費を前年比2.0%ポイント程度、GDP全体を同1.2%ポイント程度押し下げたと計算される12。前回の駆け込み需要は2兆円規模とされていることから13、今回の駆け込み需要の反動による個人消費の下押し効果は前回よりも大きかった。その背景には、消費税率の引上げ幅が今回(3%ポイント)の方が前回(2%ポイント)より大きかったことが挙げられる14

この駆け込み需要の反動を除いた消費の動き(前掲第1-1-6図における「その他」)をみると、前回と比較して、今回は前年比減少に寄与している。消費の変動には様々な要因が影響を与えると考えられるが、消費を支える大きな要因である実質総雇用者所得の動きを確認すると、前回は前年比0.6%増であったことに対し、今回は同1.5%減と減少した。実質総雇用者所得の内訳をみると、今回の方が物価上昇による下押しが大きくなっており、これには、主として、今回の方が消費税率引上げ幅が大きかったことのほか、輸入物価の上昇等により、物価上昇率が今回の方が高かったことが影響している15。消費税率引上げによる物価上昇が個人消費に与えた影響を機械的に計算すると2兆円台半ばとなり、2014年度の個人消費を前年比0.9%ポイント程度、GDP全体を同0.5%ポイント程度押し下げたと考えられる16。こうした中で、雇用者数や一人当たり名目賃金の増加は、全体としては、前回をやや下回る伸びにとどまった(前掲第1-1-2図(3))。このうち、雇用者数については、今回は、前回と異なり生産年齢人口が減少する中にあってほぼ同程度増加した17。一方、一人当たり名目賃金は、企業経営者等にデフレマインドがなお残る中で、結果的に、消費税率の引上げを含めた物価の上昇を下回る低めの伸びにとどまった。

さらに、後述するような低所得者層における抑制的な消費スタンスがみられた。また、2014年夏の天候不順18も消費を下押ししたと考えられる。

今後、消費の持ち直しの動きを確かなものとしていくためには、デフレマインドを払しょくすること、また労働生産性を引き上げることによって、実質賃金の伸びを高めていくことが重要である。

60歳未満を中心とした低所得者層が消費を抑制

2014年度において個人消費の落ち込みが大きくなった背景を探るために、属性別の消費動向を確認しよう。総務省「家計調査」を用いて、所得階層別の消費支出の動きをみると、低所得者層(所得階層5分位のうち第Ⅰ分位と第Ⅱ分位、年間収入が約450万円未満の世帯)の消費支出が、消費税率引上げ後に相対的に低い水準で推移した(第1-1-7図(1))。なお、低所得者層における消費支出の相対的な弱さは、総務省「家計消費状況調査」においても確認される(付図1-2)。低所得者層の消費が弱めとなった背景としては、低所得者層において、マインドが相対的に弱めで推移する中で19、消費の抑制傾向が強まったことが考えられる。こうした低所得者や地方での消費の弱さを受けて、個人消費を喚起し、地方へアベノミクスの成果を広く行き渡らせるため、「地方への好循環拡大に向けた緊急経済対策」を決定した20

どのような低所得者の消費が弱かったのかをより子細に分析するために、総務省「家計調査」の個票データを集計した(第1-1-7図(2))。世帯主の年齢別にみると、低所得者層のうち、60歳未満の現役世代での消費の回復の遅れが、消費の持ち直しの動きが弱かった一因として指摘できる。60歳以上の高齢者世帯では、消費税率引上げ後、消費に持ち直しの動きがみられる。一方、60歳未満の現役世代では、2014年末頃まで減少傾向が続くなど、回復の動きが鈍い。なお、2014年4月前後の動きをみる限り、駆け込み需要とその反動については、特に大きな差はみられない。また、2015年に入ってからは、共に増加傾向にある。

低所得者層の中で、年齢によって消費の動きに違いがみられたのはなぜだろうか。一つの要因として、金融資産の保有状況が異なることが挙げられる。高齢者は個々のばらつきが大きいものの、総じてみると、これまでに得た所得等によって、現役世代に比べて多額の金融資産を有する。例えば、総務省「全国消費実態調査」(2009年)によると、年収200~400万円未満の世帯において、金融資産残高が1,000万円以上である世帯の割合は、現役世代(20~59歳)では1割程度となる一方、高齢者(60歳以上)では5割程度となっている21。このため、資産を多く保有する高齢者においては、株価の上昇22を受けた金融資産の増加もあって、消費活動が強めだったと考えられる。

なお、高齢者と現役世代では、所得の動きやその先行きの見通しも異なっているとみられる。高齢者の可処分所得に対しては、年金給付制度の変更が相対的に大きな影響を及ぼし、現役世代については賃金や社会保険料23等の動向が大きく影響すると考えられる。現役世代の消費が相対的に弱くなった点に鑑みると、賃金の上昇を継続的に実現していくことに加え、社会保障制度に対する安心感を確保することや社会保険料の上昇を抑制することの重要性が示唆される。

住宅投資は、反動減が緩和し、金利低下や各種政策効果もあって持ち直し

住宅投資についても、消費税率引上げに向けた駆け込み需要とその反動がみられた。消費税は、原則として住宅の引渡し時点の税率が適用されるが、2013年9月までに請負契約又は一定の建物の譲渡契約を締結した場合には、引渡しが2014年4月以降となっても、経過措置として旧税率である5%が適用される24。このため、2013年9月にかけて受注が大きく増加し、その受注がラグをもって着工に反映されることになった。

利用関係別に着工の動きを前回と比較してみよう。持家では前回と同様に、明確な駆け込み需要とその反動がみられている(第1-1-8図(1))。次に、貸家では、反動減の動きがみられるものの、前回とは異なり、下げ止まる時期が早く、またその後も振れを伴いつつ総じて堅調に推移している(第1-1-8図(2))。この背景には、2015年1月の相続税の課税強化に伴い、節税目的での貸家建設需要が高いことが挙げられる。最後に、分譲住宅では、前回は、振れの大きい動きながら同程度の水準で推移したのに対し、今回は、消費税の旧税率が適用される契約期限の前後に、比較的大きな増減がみられた25第1-1-8図(3))。ただし、今回についても、持家ほどには明確な駆け込み需要と反動がみられない。分譲住宅については、消費税率を直接負担する住宅の購入者ではなく、デベロッパーが、長期的な需要見通し等に基づき供給計画を立てるため、駆け込み需要とその反動が生じにくいものと考えられる。

住宅投資における駆け込み需要について、トレンドからの実績値のかいりとしてその規模を推計すると、着工戸数ベースで6~7万戸程度、金額ベースで1兆円程度(実質GDPの0.2%程度)となる26。前回の駆け込み需要は1996年の住宅着工戸数を約9万戸押し上げたと推計されており27、今回はその3分の2程度の規模となっている。こうした違いの背景としては、消費税率引上げ時の経済社会構造や経済政策の違いがある。例えば、住宅購入を活発に行うことが期待される人口(20~59歳)は、1997年から2013年にかけて1割程度減少しており、市場規模の縮小がうかがえる。また、今回は、日本銀行による「量的・質的金融緩和」を受けて、住宅ローン金利が低い水準となっている(第1-1-8図(4))。さらに、政府は、住宅ローン減税の拡充やすまい給付金などの平準化措置をとった。これらの政策の結果、今回、税率の引上げ幅が大きいにもかかわらず駆け込み需要の規模が小さくなった可能性がある。

反動減が明確に現れた持家、貸家の最近までの動きをみると、前回とは異なり、持ち直しに向けた動きが明確となっている。この要因としては、前回は、1997年秋以降、アジア通貨危機や国内の金融システムに対する懸念の広がりがみられたのに対し、今回はそうした大きなショックがなかったことが挙げられる。また、前述のような金利の低下や、各種の住宅取得支援策28が、住宅取得能力を押し上げていることも指摘できる29。今後は、こうした政策による下支え効果に加え、所得の着実な改善によって、住宅投資の持ち直しが続くことが期待される30

4 企業部門の動向

家計部門に消費税率引上げの影響がみられる中で、企業部門にはどのような影響が生じたのだろうか。また、企業収益が高水準を維持する中で、企業の投資行動にはどのような変化がみられているのだろうか。中長期的な企業の投資行動の傾向も踏まえて、検討する。

在庫の積み上がりが生産を抑制、2014年末には輸出の増加から持ち直し

企業活動の動向について、まず製造業の生産の動きから確認しよう。鉱工業生産は、駆け込み需要に対応した増産の動きから、2014年初にかけて増加したが、自動車生産の動きに強く影響され、その後減少に転じた31第1-1-9図(1))。この間、在庫の動向をみると、2014年初までは、企業は慎重な生産計画の下で、在庫の取り崩しによる出荷対応をとっていたものの、消費税率引上げ後には、需要の回復が緩慢なものにとどまる中で、在庫が積み上がり、生産を抑制した。特に、消費税率引上げに伴う駆け込み需要の反動の影響を強く受けた耐久消費財(自動車等)では、在庫水準の上昇が顕著であった(第1-1-9図(2))。

2014年末頃からは、生産は持ち直しの動きがみられている。業種別にみると、輸送機械は2014年半ばより、総じて横ばい圏内の動きが続いているものの、電子部品・デバイスや、はん用・生産用・業務用機械が、相対的に堅調な動きを示している(第1-1-9図(3))。その背景には、電子部品・デバイスについては、スマートフォン需要の高まりにより、関連部材(IC、液晶デバイス等)の輸出が年後半からアジア向けを中心に増加したことがある(第1-1-9図(4))。また、はん用・生産用・業務用機械については、アメリカ向けの資本財が、同国の設備投資や住宅投資の回復を受けて増加したことも挙げられる32。ただし、2015年の春先には、スマートフォンの新製品の作りこみの動きが一服したこともあり、生産は増勢がやや緩やかとなっている。

海外経済は、アメリカなど先進国を中心とした成長が続いていくものとみられるが、その不確実性はなお大きい状態が続いている33。アメリカでは、リーマンショック以降に導入・拡大された量的緩和政策(非伝統的金融政策)からの正常化に向けて、2014年10月に債券購入プログラムが終了した後、景気の回復状況を見極めながら、金利の引上げ時期を探る状態が続いている。また、ヨーロッパでは、ECBが大規模な国債買入れを伴う量的緩和政策を2015年3月に開始したこともあり、景気の回復とデフレの回避が期待されているが、ギリシャの債務問題の帰趨等については引き続き留意が必要である。さらに、中国においては、投資依存型から消費主導型へと経済構造のリバランスを図ろうとしているが、構造改革に伴う経済成長の鈍化や、不動産市況の悪化などが、景気の下振れ要因となっている。

このように世界経済の先行きに対する不確実性が大きく、外需にしっかりとした増加基調がまだみられない中、今後、生産がはっきりと回復していくためには、個人消費や設備投資といった内需の持ち直しが明確化していくことが重要である。

対外投資や無形資産投資だけでなく、国内固定資産投資の更なる増加が必要

企業の設備投資は、2013年半ば以降、企業収益が改善する中で緩やかな持ち直しの動きが続いてきた。しかし、過去最高水準となっている企業収益と比べてみると、その水準はなお低く、回復の動きは弱めとなっている(第1-1-10図(1))。こうした動きの背景には、以下のとおり、幾つかの要因が考えられる。

第一に、先行きの経済成長の見通しが低い水準にとどまっていることである。設備投資は、足下だけではなく、先行きの経済成長の見通しに影響される度合いが強いと考えられる。企業による先行きの経済成長率の見通しについて、内閣府「企業行動に関するアンケート調査」をみると、3年先の成長率、5年先の成長率ともリーマンショック前に比べてなお低い水準で推移している(第1-1-10図(2))。

第二に、対外投資の拡大である。企業の固定資産の内訳をみると、有形固定資産や土地は2000年代前半より緩やかな減少傾向で推移してきた一方、長期保有株式が趨勢的に増加している(第1-1-10図(3))。長期保有株式には、海外子会社への出資金(買収に伴う株式取得を含む)など、対外投資にかかるものも多く含まれている。対外投資を拡大すると同時に、国内ではより付加価値の高い製品や工程に特化するなど、国際分業を進めてきたと考えられる。

第三に、固定資産への投資の他に、研究開発やソフトウェアなど無形資産に対する投資も重視されていることである34。我が国の企業の無形資産のうち多くを占めているとみられる研究開発の動向をみると、売上高研究費比率はリーマンショック後に売上高が落ち込む中で上昇した後、2013年にかけて売上高が増加する下でも、同程度の水準が維持されている(第1-1-10図(4))。このように、研究開発に対する積極的な姿勢が維持されている背景には、生産する財・サービスの高付加価値化が進む中で、無形資産投資の役割が重視されていることがある。

労働需給が引き締まりつつある中、今後、我が国の成長力を供給面から押し上げていくために、生産性向上に向け国内資本の果たす役割の重要性は高まっている。成長戦略の着実な推進・加速により、企業の経営環境を改善し、我が国の成長期待を高めていくと同時に、企業においても国内の設備投資以外への投資(対外投資、無形資産投資)や新事業の開拓などを含め、稼ぐ力をより強化するための新たな投資行動が求められている。

一方で、2012年秋以降の為替の円安方向への動きにより輸出採算性が改善していることや、新興国における人件費の上昇等を背景に、国内拠点を再評価する動きがみられる35。株式会社日本政策投資銀行によるアンケート調査(2014年6月時点調査)によると、企業の中期的(3年程度)な内外の供給能力の見通しについては、2012年以降、海外の供給能力を増加させるとする企業の割合が3年連続で低下する一方、国内の供給能力を増加させようとする企業の割合は上昇している。こうした中で、2013年末頃からは、減価償却費を上回る設備投資が実行されるようになったことから、国内の有形固定資産が増加に転じる動きもみられる(前掲1-1-10図(3))。今後、こうした明るい動きを一段と強化し、成長力強化と生産性向上の動きをより確かなものとしていくことが期待される。

5 地域経済の動向

アベノミクスの「三本の矢」の一体的な取組の下、地方経済にも景気回復の波及は緩やかに及んでいる。内閣府「地域経済動向」における景気判断によれば、2012年10-12月期との対比では、全ての地域で景気判断が大幅に改善している。

経済の好循環の拡大を確かなものとしていくためには、各地方がそれぞれ地域内の資源を活用し、生産性の高い産業を創出するとともに、地域に人材を呼び込んでいくことが重要である。そうした観点から、地方経済における好循環の波及の進捗と生産性向上に向けた取組の現状を概観する。

雇用・賃金の改善は緩やかに波及

経済の好循環が進む中で、企業収益の改善が雇用・所得環境の改善に波及することが重要であるが、雇用情勢は全ての地域において着実に改善している。有効求人倍率をみると、2015年1-3月期は、北陸や東海等では1倍を超える一方で、北海道、九州、沖縄では1倍を下回るなど、地域によるばらつきはみられるものの、有効求人倍率は全ての地域で改善している(第1-1-11図(1))。特に、2012年から2014年にかけての女性と高齢者の労働参加が進んでおり、全ての地域において労働参加率が上昇している(第1-1-11図(2))。

賃金については、財務省「財務局調査による『賃金の動向』について」をみると、ベースアップを実施した企業は、2013年度は全国で12.7%であったが、2014年度には全ての地域で増加し、41.8%となった36。2015年度はベースアップを行う(予定を含む)企業の割合が増え、全国で47.1%となっている(第1-1-11図(3))。また、2015年度の引上げ率を前年度と比較すると、「上回る(予定を含む)」とする企業が50.0%、「同程度(予定を含む)」とする企業が35.6%となっており、賃金の更なる上昇が見込まれている。さらに、最低賃金については、全ての都道府県において引き上げられている。

地域別に一人当たり賃金(現金給与総額)と就業者数の動きをみると、東京が他地域に比べ先行して改善してきたが、2013年後半以降、地方でも一人当たり賃金が増加に転じ、就業者数も増加傾向にある。雇用・賃金の改善の動きは、東京から都市部、そして地方へと緩やかに波及しているといえる(第1-1-11図(4))。なお、東京では賞与支給月に他の地域に比べ給与水準が上昇する傾向にあるが、これは企業収益の変動が賞与に反映される傾向があること、企業収益の好調な大企業が東京に集中していること等の影響が出ていると考えられる。

今後、地方でも期待される消費の改善

消費の改善状況について、地域への波及状況をみると、百貨店売上高は東京や大阪などの大都市(10都市)では持ち直しの動きがみられるものの、地方(10都市以外)では依然としてマイナスの動きが続いているなど、消費の回復に足踏みがみられる(第1-1-12図(1))。

しかしながら、賃金の改善は地方へと緩やかながら着実に波及しており、今後、消費が持ち直していくことが期待される。また、2014年末以降の原油価格下落を受けて、エネルギー価格の上昇により抑えられていた消費が今後持ち直していくことが期待される。特に消費に占めるエネルギー関連の支出割合が高い北海道、東北、四国においては、消費者物価上昇率は全国を下回っており(第1-1-12図(2))、こうした効果が高いと見込まれる。さらに、内閣府「景気ウォッチャー調査」によると、「地方への好循環拡大に向けた緊急経済対策」に基づくプレミアム付商品券の発行等を契機とする地方の今後の消費喚起にも期待が高まっている。

地方創生の取組の下、地域の資源の活用などが重要

地方への好循環の波及の動きをより確かなものとしていくためには、各地方がそれぞれ地域内の資源を活用し、生産性の高い産業を創出していくとともに、安定的な雇用を生み出していくことが重要である。政府は2015年6月に「まち・ひと・しごと創生基本方針2015」を閣議決定し、地方創生の深化を目指して<1>各地域の「稼ぐ力」の引き出し、<2>熱意と意欲のある地域へのインセンティブを通じた「地域総合力」の引き出し、<3>民間の創意工夫を最大限に活用した「民の知見」引き出しに取り組むことなどを取りまとめた。

同基本方針に成長分野として掲げられた観光業の動向についてみると、アジア諸国向けのビザ要件の緩和等を背景に、こうした国からの訪日外客数が増加し、2014年は前年比29.4%増の1341万人となった。この動きは、海外からのLCCの地方空港への乗り入れ、クルーズ船入港時の入国審査手続きの簡素化といった規制改革や免税対象品の拡大・免税手続きの簡素化等の動きとあいまって、地方にも大きな経済効果をもたらしている37。2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向け、今後とも高い伸びを続けると見込まれる外国人観光客の需要を地方に取り込んでいくことが地域の活性化にとって重要であるが、その一方で、宿泊、飲食など観光関連のサービス産業の生産性は低く38、IT化の推進など一層の生産性向上に向けた取組が求められる。また日本版DMO39等の新たな戦略推進主体の形成等により、観光地域づくり、ブランドづくりを推進していくことが必要である。

同じく農業についてみると、商談機会の確保や輸出に必要な情報提供等の輸出振興の取組により、農林水産物輸出は拡大を続けており、2014年の輸出額は前年比11.1%増の6,117億円と過去最大となっている。うち農産物は野菜・果実等(りんご、ながいも等)を中心に前年比13.8%増、水産物も同5.4%増となった。農産品輸出は、地域経済を広く底上げすることが期待されており、引き続き農林水産業の輸出振興の取組を進めることが重要である。また、農業従事者の高齢化が進展し、農業の生産性や所得は低水準に止まっており、経営規模の拡大や法人化、青年層の新規就農40、さらには地域資源を活用した6次産業化を進めることで、生産性の高い農業を目指すことが重要である。


(1)売上高経常利益率をみても、このところ5%台で推移しており、おおむね過去最高の水準を維持している。
(2)詳細については、第1章第2節を参照。
(3)詳細は、内閣府政策統括官(経済財政分析担当)(2015)を参照。
(4)原油価格の下落とその影響については、第1章第2節を参照。
(5)内閣府(2013)を参照。
(6)詳細は後述の「消費税率引上げによる家計部門への影響」を参照。
(7)「平成27年度予算編成の基本方針」(2014年12月27日閣議決定)を参照。
(8)2014年12月27日閣議決定。
(9)詳細は、山田・塩田(2015)を参照。
(10)具体的には、自動車取得税の引下げ及びエコカー減税の拡充等や、臨時福祉給付金、子育て世帯臨時特例給付金が実施された。なお、住宅投資に関する施策については、別途後述。
(11)取りまとめでは、(1)賃金上昇に向けた取組、(2)中小企業・小規模事業者に関する取組、(3)非正規雇用労働者のキャリアアップ・処遇改善に向けた取組、(4)生産性の向上と人材の育成に向けた取組、という4点について、政労使が共通認識を持つとともに、それぞれが具体的な取組を進めることを確認した。
(12)実質雇用者報酬、金融資産、人口動態(高齢化)等を説明変数とする消費関数を推計し、駆け込み需要のダミーの係数を用いて算出した。推計の詳細は付注1-1を参照。
(13)経済企画庁(1998)を参照。これは、1997年度の個人消費を前年比1.5%ポイント程度、GDP全体を同0.9%程度ポイント押し下げたとみられる。
(14)異時点間の代替効果は、異時点間の相対価格の変化が大きいほど、大きくなる。他の要因も含めた詳細な検討については内閣府(2014a)を参照。
(15)消費税率引上げによる直接的な影響を除いた消費者物価上昇率(総合)は、1997年度は前年比0.6%、2014年度は同0.9%と試算される(内閣府による試算)。
(16)脚注12と同じ消費関数を用いて機械的に計算したものであり、幅をもってみる必要がある。なお、前述の経済政策パッケージや政労使会議などによる消費を下支えする施策の効果は考慮していない。詳細は付注1-1を参照。
(17)雇用者数の増加には、女性や高齢者での労働力率の上昇や、失業率の低下が寄与している。詳細は、第1章第2節を参照。
(18)夏場の天候不順(低温・多雨)が2014年7-9月期の個人消費に与えた影響は、幅があるものの、▲0.05~▲0.5兆円程度と試算される。詳細は、内閣府(2014d)を参照(計算の前提(8月のデータを基に推計したもの)については、内閣府(2014b)を参照)。
(19)内閣府「消費動向調査」によると、消費者の収入見通しは2013年年央から2014年前半にかけて低下しているが、低所得者ほど低下幅が大きくなっている。詳細は、内閣府政策統括官(経済財政分析担当)(2015)を参照。
(20)具体的には、地域住民生活等緊急支援のための交付金(地域消費喚起・生活支援型)(プレミアム付商品券事業、ふるさと名物商品・旅行券事業等)の交付、待機児童解消加速化プランの推進等から成る。
(21)内閣府(2015a)を参照。
(22)日経平均は、2014年10月における一時的な急落を除き、総じて上昇傾向で推移した。金融資本市場の動向については、第1章第3節を参照。
(23)持続的な社会保障制度の確立に向けて、年金におけるマクロ経済スライドの導入や各制度での各種歳出の抑制策と併せて、社会保険料についても改革が進められてきた。例えば、国民年金保険料は2005年4月から2017年4月まで2004年価格で毎年260円ずつ、厚生年金保険料は2004年10月から2017年10月まで毎年0.354%ずつ引き上げられ、2017年以降の保険料水準が固定されることが決まっている。
(24)こうした経過措置は、前回の消費税率引上げ時にも適用された。
(25)分譲では、2013年9月の前に、駆け込み需要による着工の前倒しが一部で生じた可能性がある。デベロッパーには、消費税率引上げに伴う9月までの駆け込み販売を見込んで、着工の時期を夏場に集中させる誘因があったと考えられる。建築確認を取得した後、分譲住宅の販売広告が可能となるため、おおむね着工と同時期に販売をすることができる仕組みとなっている。
(26)持家、貸家について、それぞれ住宅投資関数を推計し、推計値からのかいりを駆け込み需要とみなしている。推計の詳細は付注1-2を参照。なお、ここで推計した駆け込み需要には、2015年1月の相続税の課税強化(基礎控除額の引下げ、最高税率の引上げ)による貸家の着工戸数への影響といった、消費税率引上げ以外の要因も含まれる可能性に留意が必要である。
(27)経済企画庁(1998)を参照。
(28)住宅ローン減税制度等の拡充、すまい給付金、フラット35Sの金利引下げ幅拡充、省エネ住宅ポイント、住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置の拡充等。
(29)詳細は、鈴木・佐藤・八木(2015)を参照。
(30)分譲住宅については、総じて横ばい圏内の動きが続いているが、労務費を中心とする建設費が、ここ数年の中で高い水準で推移していることに加え、都心でのマンション用地確保困難化が、供給面の課題となっている可能性もあり、注視が必要である。
(31)駆け込み需要のピークは2014年3月であったが、新車販売のピークは同年1月であったため、自動車生産の影響を強く受ける鉱工業生産も1月をピークに減少した。
(32)詳細は、山田・塩田(2015)を参照。
(33)以下に述べる海外経済のより詳細な動向については、内閣府(2015b)を参照。
(34)前掲第1-1-10図(3)における無形固定資産は、企業会計上認識される範囲であり、研究開発や自己創設のブランド資産等は含まれないことに留意が必要である。これらを全て含んだ無形資産の推移については、内閣府政策統括官(経済財政分析担当)(2015)を参照。
(35)詳細は、内閣府(2014c)を参照。
(36)また、経済産業省「中小企業の雇用状況に関する調査集計結果概要」(2014年8月)においては、常用労働者一人あたり平均賃金の引き上げ(定期昇給分含む)の状況について「引き上げる/引き上げた」とする企業の割合は2014年度は13年度に比べて全ての地域で増加し、全国では2013年度の56.8%に対し、14年度は64.5%に増加している。
(37)外航LCCの発着は、国土交通省「我が国へのLCC(低コスト航空会社)の就航状況」によると、LCCの発着便数(2015年1月(2013年10月下旬)の発着便数(便数/週))は成田、羽田、関西、中部を除くと、新千歳18(5)、福岡61(30)、那覇28(7)等。外国船社のクルーズ船の寄港は、国土交通省「2014年の我が国のクルーズ等の動向について」によると2014年の外国船社のクルーズ船寄港回数の上位5港の寄港回数(2013年の寄港回数)は、博多99(19)、長崎70(35)、石垣69(59)、那覇68(41)、横浜48(32)。免税店の新設は、観光庁「免税店(輸出物品販売場)の都道府県別分布」によると、2015年4月の免税店数(2014年10月からの増加率)は全国18,779店(100.6%)、沖縄県347店(151.4%)、沖縄と免税店の多い上位9都道府県(東京、大阪、北海道、福岡、神奈川、千葉、京都、愛知)を除く37県計4,564店(155.0%)等。
(38)総務省・経済産業省「平成24年経済センサス-活動調査」によれば、2011年のサービス業の生産性(事業従事者1人当たり付加価値額)は485万円であったが、宿泊業・飲食サービス業は185万円。
(39)Destination Management/Marketing Organization。様々な地域資源を組み合わせた観光地の一体的なブランドづくり、ウェブ・SNS等を活用した情報発信・プロモーション、効果的なマーケティング、戦略策定等について、地域が主体となって行う地域観光づくりの推進主体。
(40)農林水産省「新規就農者調査」によると、2013年の新規就農者全体のうち39歳以下の者は26.3%。また、新たに法人等の常雇いとして雇用されることにより農業に従事することとなった者(新規雇用就農者)のうち39歳以下の者は59.8%。
[目次]  [戻る]  [次へ]