第3章 人的資本とイノベーション

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前述のとおり、震災を受けた中長期的な成長の姿を展望する上でも、また、グローバルな知識経済化に対応しながら「開国」を進めるためにも、研究開発ストックやブランド資産を始めとする無形資産への投資と効率的なマネジメントが重要である。このうち民間企業の保有資産に関する分析は第2章で行ったが、マクロ的に重要な無形資産である人的資本の扱いは限定的であった。そこで、本章では、人的資本の蓄積とマネジメントについて考える。「平成22年度年次経済財政報告」で示した成長会計によれば、我が国では労働力の質の向上が生産性上昇に相当程度寄与したとされる。一方、企業経営者等の実感として、「人材不足」が我が国の企業、ひいては日本経済低迷の一因として語られる。このギャップは、成長会計での労働力の質が年齢や学歴構成等から推計されるのに対し、現実の人材の価値は技術や市場、企業組織などの変化に適合した配置、活用ができているかどうかに依存するからであろう。

こうした問題意識から、以下では、次のような論点について検討する。第一に、産業構造のダイナミックな進化を生みだし、イノベーションの先導役として渇望される「起業家」、その重要な部分を担う自営業者が増えない背景を探る。第二に、既存企業の内部で、専門性の高い人材、あるいは研究開発や海外進出を担う人材が十分に確保できているのか、いないとすれば何が問題かを明らかにする。第三に、人材の部門間配分を担う労働市場の機能を点検した上で、我が国の労働市場等の特性を踏まえたイノベーションシステムの在り方を議論する。

  1. 同報告の第3-1-11図参照。90年代後半、2000年代ともに、日本の「労働の質」の労働生産性上昇率に対する寄与度は、米欧より大きくなっている。
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