平成22年度

年次経済財政報告

(経済財政政策担当大臣報告)

―需要の創造による成長力の強化―

平成22年7月

内閣府


目次][][][年次リスト

第3節 住宅需要を巡る論点

 第1節で見たように、我が国における家計関連需要がGDPに占める割合の低下は、主として住宅投資の減少にある。また、住宅の必要数は世帯数との関係が深いことから、個人消費以上に長期的な展望が悲観的となりやすい。本節では、世帯数の動きや高齢化の進展との関係から始めて、住宅の量と質に影響を及ぼす様々な要因を検討し、住宅投資やリフォームの活性化へ向けた課題を考えてみたい。


1 人口動態と住宅需要

 ここでは、人口動態が住宅投資・リフォームの動向にどう影響を及ぼすかを中心に検討する。具体的には、「住宅の量と質をどう見るか」「高齢化は住宅需要にどう影響するか」「高齢化でリフォーム需要は高まるか」といった論点について考える。

(1)住宅の量と質をどう見るか

 世帯数の増加テンポの鈍化を踏まえると、今後の住宅投資は着工戸数では頭打ちとなる可能性が高い。以下ではまず、この点について数量的に確認する。戸数が頭打ちとなるなかで重要さを増すのが住宅の質の向上と既存ストックの活用である。これらの状況についても把握しよう。

●住宅着工戸数の将来推計
 今後の世帯数の展望などを踏まえ、住宅着工戸数の水準がどの程度になるかを考えてみよう。具体的には、住宅着工戸数を世帯数の増加などに対応したストックの増分と、世帯数が変化しなくともストックの老朽化などにより必要となる建替えに分けて、いくつかの代替的な想定の下に推計してみる。その結果を見ると、次のようなことが分かる(第2−3−1図)。
 第一に、世帯数は依然増加を続けるが、そのテンポは鈍化すると見込まれている。特に、2006〜2008年の世帯数の伸びが近年のトレンドとの対比で高めだったため、その反動で2009年以降の世帯数の増加テンポの低下が急になる。一方、新設着工戸数に影響を及ぼすもう一つの重要な要因として空家率の動向があるが、近年では住宅需給のミスマッチを背景に空家率は上昇傾向で推移している。
 第二に、上記のような世帯数、空家率の動向を踏まえ、空家率や建替率に過去のトレンドを基にいくつかの前提を置いて住宅の将来需要を機械的に推計すると、ストック増分が年間35万〜41万戸程度、建替分が40万〜46万戸程度となる。これを最近5年間の住宅着工戸数と比べると、建替分は大きく変化しないものの、世帯数の伸びの鈍化を反映してストック増分は大幅減となる。
 第三に、このような機械的な推計では織り込めない点として、住宅の質の改善を巡る動向がある。推計では空家率の上昇が続くと想定したが、リフォームによって既存住宅の質を改善し、空き家を建替えずに再度居住する動きが広がる可能性もある。その場合、住宅着工戸数は推計よりさらに減少する。他方、現状では耐震基準、環境性能などが不十分な住宅ストックも多く、81年の新耐震基準以前のマンションの建替えなどが進めば、推計より住宅着工戸数が増加する可能性もある。

●一人当たり床面積は増加
 今後、少子高齢化とともに世帯の増加テンポが鈍化することを踏まえると、住生活の豊かさを追求するためには、住宅の質をいかに向上させていくか、既存(中古)住宅をいかに活用するかといった観点が一層重要となると考えられる。まず、近年における住宅投資、住宅ストックの「質」と「量」の関係を簡単に把握するため、工事費予定額(フロー)、1戸当たり床面積(ストック)を要因分解しよう(第2−3−2図)。
 第一に、90年代以降、住宅着工の実質工事費予定額は減少傾向で推移している。この間、名目ベースの工事予定額も減少基調であり、住宅投資デフレーターは緩やかに上昇している。なお、この間、「国民経済計算」における民間住宅投資もすう勢的に水準を落としてきており、工事費予定額の減少を反映した動きとなっている。
 第二に、工事費予定額の増減を着工戸数、戸当たりの床面積、床面積当たりの予定額の3つの要因の寄与に分けると、床面積当たりの予定額は横ばい圏内で動いているため全体を押し下げてはいない。床面積当たりの予定額は住宅投資の「質」をある程度示していると考えられ、この事実からは「質」は落ちていないといえよう。また、戸当たりの床面積も一種の「質」と見ることができるが、これは2000年代になって全体の押下げに寄与している。もっとも、これには世帯人員の減少が影響している可能性がある。
 第三に、住宅ストックの1戸当たり床面積は5年ごとに振れているが、これをいくつかの要因に分けると、一人当たり床面積については2003年までプラス寄与、2008年にかけては寄与がない状況となっている。一人当たり床面積も一種の「質」を示すと考えられるが、世帯人員が減少しても床面積は影響を受けず、結果として底堅く推移してきたといえよう。

●我が国は既存住宅の取引が少ない
 我が国は既存(中古)住宅の取引件数が少ないといわれるが、実際はどうであろうか。また、既存住宅の質を高めるリフォームは活発であろうか。この点について、他の先進主要国との比較を行ってみよう(第2−3−3図)。
 第一に、新築住宅と既存住宅の取引件数について比較を行うと、我が国を除きすべての国で既存住宅の取引件数が新築住宅の件数を上回っており、住宅取引件数のうち既存住宅の取引が約7割〜9割を占める。一方、我が国はほとんどが新築住宅であり、既存住宅の取引件数は1割強にとどまっている。
 第二に、我が国について時系列で見ると、既存住宅件数は緩やかな増加傾向を続けており、住宅取引件数に占める割合も上昇傾向にある。しかし、その増加は数%にとどまっており、我が国では既存住宅の取引の浸透は進んでいないといえよう。
 第三に、我が国では、住宅投資に対するリフォーム投資の割合が低い。住宅投資のGDP比では我が国の水準は英国とフランスの中間にあるが、リフォーム投資のGDP比は非常に小さく、我が国はリフォーム投資に消極的であるといえよう。リフォームは継続して居住するためだけでなく、住み替えに伴い発生することも多く、リフォームの低調さの背景には既存住宅取引の少なさもあると考えられる。また、我が国の住宅の耐用年数が短いために、リフォームではなく建替を選択することが多いことも考えられる。

2−2 住意識の日米比較
 他の主要国と比べて我が国で既存住宅取引が少ない背景の一つとして、新築住宅と既存住宅に対する意識の違いを挙げることができる。2007年にリクルート住宅総合研究所の「持ち家層の住意識日米比較調査24」の結果を基に調べてみよう(コラム2−2図)。
 同調査によると、過去に持ち家を購入した回数は、アメリカでは2回以上との回答がほぼ半数であるのに対し、我が国は1回が7割強であり「家は一生に一度の買い物」という傾向が強い。持ち家の取得時期、転職・転勤の有無など雇用慣行の違いも要因として考えられるが、我が国における既存住宅に対する需要の弱さが持ち家の買い替えの機会を狭めている可能性もある。
 そこで、日米で住宅に関する考え方を比較すると、我が国では「新築の家の方が性能、機能の面で安心」とする割合が8割強であるのに対し、アメリカでは5割強にとどまる。また、我が国では「見知らぬ人が長年住んだ家に暮らすのは気が進まない」とする回答が過半を占めるのに対し、アメリカでは2割強と少数派になっていることが分かる。我が国における新築住宅に対する選好の強さが改めて確認される結果といえよう。


(2)高齢化は住宅需要にどう影響するか

 住宅に対するニーズは世帯数と世帯の構成、なかんずく世帯主年齢による差が大きいと考えられる。そこで、世帯主年齢等に着目して、どのような形態の住宅が需要されているのかを明らかにしよう。また、我が国の世帯の年齢構成がどう変化しつつあるのかについても確認しておこう。

●35歳を超える時期から一戸建てや共同住宅購入が増加する傾向
 住宅投資の形態は、年齢によって傾向が異なると考えられる。若年時には購入資金を準備する負担が大きいが、高齢になるほど利用できる期間も限られてしまうだろう。また、住宅投資に対するリスクの考え方も年齢により異なってくる。さらに、時代や世代によっても住宅投資に対する考え方に差がある可能性がある。そこで、年齢、時代及び世代の影響を分けて見ることができるコーホート分析を、総務省「住宅・土地統計調査」の一戸建て、共同住宅(マンションなど)及び借家について行った(第2−3−4図)。すると以下の点を指摘できる。
 第一に、年齢効果を見ると、一戸建て、及び共同住宅においては35歳未満の層では押下げに寄与しているが、借家においては押上げに寄与している。これは、35歳になるまでは住宅投資を行う準備のため借家で対応しているが、その後35歳を超えてから一戸建てや共同住宅を購入する傾向が強まってくることを示している。このうち、一戸建ては40歳代をピークに緩やかに購入傾向は低下するが、共同住宅については65歳以上まで購入傾向は強まり続ける。
 第二に、時代効果を見ると、一戸建て、共同住宅、借家のいずれも、年齢効果に比べ非常に振幅が小さくほぼゼロである。これは、年齢効果に比べると、時代が住宅投資に与える影響は比較的小さいといえよう。ただし、2003年から2008年の間に着目すると、一戸建て、共同住宅のいずれもマイナスである中、借家はプラスである。これは、改正建築基準法施行に伴う住宅投資の落ち込みが影響している可能性がある。
 第三に、世代効果については、昔の世代になるほど一戸建て志向が強く、若い世代ほど共同住宅志向が強い傾向が見られる。一方で、借家の世代効果は小さい。
 まとめると、住宅投資の形態については年齢による違いが重要で、若いときは借家で、その後、30歳代後半に入った頃から一戸建て又は共同住宅に移っていく。特に高齢者の共同建て志向は強い。また、世代効果として、最近の世代になるほど共同住宅を許容する傾向があることが分かった。

●中古一戸建ては30歳未満、中古共同建ては高齢者に好まれる傾向
 では中古住宅についても、年齢、時代及び世代の違いにより志向に違いが見られないだろうか。上記と同じ統計を基に、コーホート分析を行い、年齢、時代及び世代の影響について分析したところ、次のような結果が得られた(第2−3−5図)。
 第一に、年齢効果について見ると、中古一戸建ては30歳未満が押上げに寄与しているが、それ以上の年齢になると押下げに寄与しており、一定の年齢を超えると中古一戸建てを敬遠する傾向があることが分かる。一方、中古共同建ては、50歳未満では押下げ、それ以上では押上げに寄与しており、中古共同建ては、むしろ高齢者に好まれる傾向がある。
 第二に、時代効果について見ると、中古一戸建てについては、2003年までは押下げ寄与が見られることから、中古一戸建てを敬遠する傾向が同時期まで続いたといえる。一方、中古共同住宅については安定しており、時代効果は比較的小さいと考えられる。
 第三に、世代効果について見ると、中古一戸建てに対しては、基準としている44年〜48年生まれの世代をピークにそれよりも若年層、高齢者層のいずれも押下げに寄与している。これは、中古一戸建てに対しては、44年〜48年生まれの世代が最も許容しており、これよりも若年層、高齢者層のいずれも中古一戸建てを敬遠する傾向にあるといえる。一方、中古共同住宅については、昔の世代ほど中古共同住宅を敬遠し、最近の世代になるほど許容する傾向が見られる。
 中古住宅といっても、一戸建てと共同住宅では傾向が大きく異なり、年齢効果については、中古一戸建ては若年層に好まれる一方、中古共同建ては高齢者に好まれる傾向がある。

●40歳代以上の女性世帯主の世帯が増加
 我が国の人口は全体として減少しているが、世帯数は依然増加が続いている。ここでは、85年以降を5年ごとに区切り、我が国の世帯数の増減を世帯主の性別、年齢別の寄与に分解してみよう。その際、将来推計のデータを用いて、2030年までの予想を基にした人口動態の見通しを確認する(第2−3−6図)。その結果から、以下のような状況が分かる。
 第一に、50歳以上の男性が世帯主の世帯に着目すると、2000年までは各年齢層とも増加するなかで全体として一定の増加率を維持してきたが、その後は伸びが鈍化し、2005〜2010年にはおおむね横ばいになった。内訳を見ると、団塊の世代が60歳代に入ることから50歳代については減少寄与となり、次の2010年からの10年間は60歳代がマイナス寄与となっている。すなわち、今後の高齢者層の人口動態については、かなりの部分が団塊の世代の動きの寄与で説明されることが分かる。
 第二に、50歳以上の女性が世帯主の世帯は、一貫して増加している。2000年以降は伸びが鈍化しているものの、2010年からは再び伸びが高まると見込まれる。内訳を見ると、2010年からの10年間は、50歳代の世帯数の寄与が目立つ。これは、配偶者の死去に伴う単身世帯の増加を主因とする動きと考えられる。団塊の世代の影響は、男性の場合と同様であるが、やや寄与が小さくなっている。
 第三に、40歳代以下の若年世帯主の世帯については、男性では以前から減少が続いていたが、女性は独身で働き続ける割合が高まっていることから高い伸びで推移してきた。2010〜2020年については、男性は30歳代を中心に減少テンポが速まると見込まれる。女性も2010年以降は全体では減少に転ずるが、40歳代は引き続き大きくプラスに寄与すると見込まれている。
 このように、今後の世帯数は人口の減少に伴って増加ペースが鈍化せざるを得ないが、40歳代以上の女性世帯主の増加がある程度下支えに働くことが考えられる。前述のように、住宅需要は量的には低調な推移が見込まれるが、女性向けや高齢単身向けの住宅など、必要とされる住宅形態に変化が生じ、これが新たな住宅着工につながる可能性もある。

(3)高齢化でリフォーム需要は高まるか

 これまでの検討で、我が国では今後、住宅投資の「質」が一層重要となること、一方で既存住宅の取引が少なくリフォームに消極的であることが分かった。ここではそのリフォームの現状と潜在需要について、高齢化との関係に重点を置きつつ調べてみたい。

●リフォームの大半は高齢者が実施
 我が国におけるリフォームの状況を概観しよう。すなわち、統計に基づき時系列的に振り返るとともに、家計側から見たときに年間どの程度のリフォーム支出をどのような部分に対して行っているのか、どの年代層による寄与が大きいのかを確認する。その結果からは、以下の点を指摘できる(第2−3−7図)。
 第一に、リフォーム市場の規模を89年以降で見ると、「広義のリフォーム(増築・改築に、設備等の修繕維持(改修等)及びリフォームに関連するエアコン、家具などの耐久消費財等の購入を加えたもの)」は96年に9兆円程度でピークに達した後、緩やかに減少して2008年には6兆円強となっている。このうち住宅着工に含まれ、国民経済計算上の住宅投資につながる「増築・改築」はウエイトが非常に低く、かつ、減少傾向にある。一方、国民経済計算上の家計消費及び中間消費につながる「改修等」は2002年まで増加基調が続いた後、やや弱い動きとなっているが、最近では「広義のリフォーム」の大部分を占めている。
 第二に、総務省「家計消費状況調査」で見ると、1世帯当たりのリフォーム支出額には、1世帯平均で年間1万円程度が充てられていることが分かる。この内訳を見ると、内装及び外装のリフォームのウエイトが高く、それぞれ4割程度を占める。残る2割が給排水と庭等に関連した支出である。
 第三に、上記調査による年齢階層別の集計値に、各年齢階層の世帯数を乗じることで改めてマクロ的なリフォーム支出総額を試算すると、2002年以降、7兆円弱から6兆円弱まで緩やかな減少傾向にあったことが分かる。リフォーム市場の規模の統計とは、定義が異なるがおおむね一致した結果が得られた。この結果を年齢階層別に見ると、65歳以上の高齢者の支出総額は減少しておらず、2009年には全体の半分近くを占めていることが分かる。また、55歳以上の年齢層では総額の約3/4を占め、リフォーム支出は高齢者層に偏在しているといえよう。

●戸建てのリフォームでは特に高齢者に存在感
 リフォームについては高齢者層のウエイトが高いことが分かった。それでは、住宅の形態によってリフォームの施主の年齢構成に違いは見られるのだろうか。住宅リフォーム推進協議会の「住宅リフォーム実態調査」(2009年度)を用い、戸建てとマンション別に、リフォーム施主の年齢及び契約金額の傾向について分析を行った(第2−3−8図)。すると以下の点を指摘できる。
 第一に、リフォーム施主の年齢について見ると、前記の分析結果と同様に、全体として50歳代以上の施主が圧倒的に多い。このような高齢者のウエイトの高さは、戸建て住宅で顕著である。一方、マンションでは、40歳代未満も3割程度のウエイトを占めており、特に30歳代が比較的目立っている。
 第二に、戸建て住宅のリフォーム契約金額について、500万円以上を「高額リフォーム」とすると、40歳未満の施主でその割合が特に高くなっている25。40歳代以上については、「高額リフォーム」の割合は幾分低下するが、70歳以上に至るまで年齢区分による大きな違いはない。なお、70歳以上では高齢に対応したリフォームを行うため、1000万円超の割合が40歳代に次いで多い。
 第三に、マンションのリフォーム契約金額については、戸建てとは逆に、高年齢になるほど「高額リフォーム」の割合が高くなる傾向にある。すなわち、マンションに関して若年層によるリフォームも相当程度あるが、彼らはそれほど多くの支出を伴わない小規模なリフォームを中心に行っていることが分かる。

●我が国の高齢者が抱える住宅の問題の多くはリフォームで対応可能
 我が国において、今後、リフォーム需要が拡大する余地はあるのだろうか。この点について、内閣府「高齢者の生活と意識 第6回国際比較調査」を基に考えてみよう。ここでは、データの得られる日本、アメリカ、韓国、ドイツ、フランスの5か国について、住宅に対する高齢者の意識を検討すると、以下のような推論が可能である(第2−3−9図)。
 第一に、「身体機能が低下した場合に住居に問題が生じるか」という問いに対しては、「非常に問題がある」又は「多少問題がある」を合わせた割合は我が国が最も多く、4割を超えている。しかし、そのための対応として考えられる改築や引っ越し等の手段に対してのスタンスを見ると、我が国は、特に「改築」した上で自宅にとどまりたいとする回答が少ない。住宅に対して問題を認識してはいるが、住宅そのものへの対応には消極的である。その一方で、「改築」せずに自宅にとどまりたい、あるいは、老人ホームや病院に入居、入院したいと考えている者が多い。
 第二に、現在の住宅について感じる問題点について、「住まいが古くなりいたんでいる」などのリフォームで対処可能な問題と、「住宅が狭い」などの対処が容易ではない問題にカテゴリー分けを行い、その割合を比較したところ、我が国ではリフォームで対処可能な問題の割合が比較的高く5割強に上ることが分かった。この回答からも、我が国の高齢者はリフォームを通じた改善可能な問題を残したまま、現在の住居に住み続けているケースが多いことが分かる。
 第三に、他国について見ると、アメリカ、ドイツ、フランスの欧米諸国は、リフォームで対処可能な問題の割合は2割程度にとどまっており、リフォームでは対処しにくい問題の方が多く残っている結果であった。しかし、韓国については、リフォームで対処可能な問題が多く残されており、我が国と同様の傾向が見られた。
 現在の住宅について、身体機能が低下した場合に問題が生じるという意識はあるが、実際に改築等で対応することには積極的ではない。一方で、現時点で感じる問題について、リフォームで対処可能な事項が多い。こうしたことから、現在、我が国では諸外国と比べリフォームに消極的であるが、潜在的な需要は十分に存在するものと推察される。


2 住宅需要を取り巻く所得・金融環境

 これまで、主として高齢化という中長期的なトレンドが住宅投資・リフォームに及ぼす影響について検討したが、次に、やや短期的な視点から、「住宅購入に当たって影響を及ぼした要因は何か」「住宅購入のための所得、貯蓄は十分か」「事業者側の資金繰りに問題はないか」といった論点について調べてみよう。

(1)住宅購入に当たって影響を及ぼした要因は何か

 ここではまず、前回の拡張局面を中心に、過去における住宅着工の回復パターンを改めて振り返る。その後、金利や政策の動向を含め、どのような要因が住宅購入に影響を及ぼしたのかを調べる。また、住宅ローン金利の動向について、やや詳しく見ておく。

●2000年代は着工が総じて低調だったが、後半に向け分譲、貸家を中心に増加
 新設住宅着工の増減を持家、貸家、戸建分譲、共同建て分譲の寄与に分けた場合、景気拡張局面においてどのような特徴があるのだろうか。ここでは過去の3回の景気拡張局面について、景気の谷からの動きを振り返ってみよう(第2−3−10図)。
 第一に、持家については、ほとんど目立った寄与が見られない。第12循環の2年目に減少し、その反動もあって3年目に大幅に増加に寄与しているが、このような動きは例外的である。持家の購入は、2次取得者による場合が多いのではないかと見られることや、建替も含まれることから、景気動向にはそれほど大きく左右されずに住み替えが可能であり、結果として振れが小さくなっていることが考えられる。
 第二に、いずれの景気拡張局面においても、共同建て及び戸建分譲の増加が、特に回復初期を中心に見られる。分譲住宅の着工は、通常、ディベロッパーによって行われる。ディベロッパーの方が個人に比べ、景気動向をにらみながら資金調達をはじめとした事業計画を機動的に立案、実施することができると考えられる。このため、個人が進める持家の着工と比べ、景気動向に対して感応的になっているのであろう。ただし、第14循環では、回復初期の着工の動きは総じて低調で、4年目から分譲住宅が安定的に増加するようになった。
 第三に、貸家については、いずれの景気拡張局面においても増加のタイミングは景気の谷からやや遅れる傾向が見られる。貸家の場合、採算面が強く意識されるとともに、雇用情勢を含めた景気の回復が確認されてからでないと着工しづらいことが、こうした遅行性をもたらした可能性がある。第14循環では、2年目から貸家が増加し始めたが、堅調な伸びを示したのは4年目以降である。

●家計収入や地価などと並んで金利動向も住宅投資を後押し
 家計から見た場合、どのような要因が住宅の購入を促したと考えられるのだろうか。国土交通省「住宅市場動向調査」を用い、分譲住宅、注文住宅(持家)、中古住宅別に、住宅購入に当たって「プラスの影響を受けた」割合から「マイナスの影響を受けた」割合を差し引いたDIについて、2002年度以降26の動きを追ってみよう(第2−3−11図)。特徴的な点は以下のとおりである。
 第一に、「家計収入の見通し」については、期間中、総じてマイナスとなっており、購入に対しマイナスの影響を及ぼしてきた。賃金の伸びが弱い状況が続いたが、このことが住宅購入をためらわせる面があったことを示している。マイナスの影響の強さは、注文住宅、分譲住宅の順で強く、平均的に必要とされる資金の多寡を反映していると見られる。なお、ここでは図示していないが、「景気の先行き」は、「家計収入の見通し」と比べ幾分水準が高いものの、動きとしてほとんど同じであった。
 第二に、「地価/住宅の価格相場」については、総じてプラスの影響を及ぼしてきた。これは、この間、地価が軟調であったことを反映していると見られる。もっとも、2006〜2007年度には首都圏を中心に地価や住宅価格が持ち直す動きがあり、家計もこれに反応したことが分かる。注文住宅の購入は土地を含む場合が多いため、2007年度には強く反応してDIがマイナスとなった。
 第三に、「金利動向」「住宅施策」はおおむねプラスの影響を及ぼしており、いずれも2003年度の水準が高く、その後はプラス幅が縮小傾向にある。このうち「金利動向」については、2006年度に大きくDIが低下しており、当時の量的緩和解除、ゼロ金利政策解除に伴う市場金利の上昇、先高感が影響を及ぼした可能性がある。「住宅施策」については、平成16年度税制改正により住宅ローン減税が継続されたが、減税額が年々縮小する仕組みであったことから、DIも次第に低下したと考えられる。
 以上から、家計が住宅を購入する際、収入や地価などと並んで金利の動向も意思決定に重要な影響を及ぼしたと考えられる。

●2006年頃に住宅ローン金利が上昇
 住宅購入に当たっては、住宅ローンを組むケースも多いと考えられる。最近は低金利が続いているものの、高額かつ長期のローンであるため、わずかな金利の変動でも家計への影響は無視できない。ここでは、住宅金利の推移を確認した上で、家計は固定金利と変動金利のどちらを選好しているかを調べよう。現時点では低金利が続いているが、住宅購入者はどのような金利形態を選択しているのだろうか。この点については、国土交通省の「民間住宅ローンの実態に関する調査」を用い、2002年からの住宅ローンにおける金利選択の選好の変化を確認する(第2−3−12図)。すると、以下の特徴が指摘できる。
 第一に、一般の住宅ローンのうち固定金利指定型27の金利については、金融機関が金利変動リスクをヘッジしようとするため、円金利スワップレートに沿った動きをすることが多いと考えられる。具体的には、スワップレートに金融機関マージンを上乗せしたものが店頭金利となり、これからキャンペーンなどの金利優遇分が控除されたものが、債務者の実際の金利となる。2002年以降の10年スワップレートの推移を見ると、おおむね1〜2%程度の範囲で動いているが、2006年にはピークを付けた。一方、変動金利型の金利については、短期プライムレート+1%から金利優遇分を控除して決まることが多い。短期プライムレートは振れが少なく、金融政策の動きに反応する形で推移している。なお、固定金利は代表的な長期金利である長期国債の金利との連動性が高いと考えられる。
 第二に、証券化支援型の住宅ローンとして35年固定の「フラット35」が2003年に創設されたが、当初は10年物スワップレートと同様に大きく変動した。2006年以降は比較的安定しており、2.5〜3%程度の範囲で推移している。「フラット35」の金利は、証券化市場の需給に応じて決まるが、市場の厚みが特に乏しかった当初は、金利が振れやすかったと見られる。なお、「フラット35」のうち政策的な優遇を伴う「フラット35S」が2005年度から創設されている。
 第三に、変動金利と固定型金利(固定金利指定型、固定金利及びフラット35)の比率を見ると、固定型金利が選択されることが多いことが分かる。これを詳細に見ると、2006年頃から固定金利指定型(10年未満)の割合が急減する一方、固定金利指定型(10年)と変動金利型への2極分化が進んだことが分かる。一方で、この時点では結果的に短期プライムレートはピークを迎えており、短期金利に先安感が出てきたと考えられる。そうしたなかで、変動金利型を選ぶことで、将来の利子負担の軽減を期待する家計が増えたと見られる。他方で、固定金利指定型(10年)が増えた要因として、3年スワップ金利と10年スワップ金利の差が2006年から縮小していたことが挙げられる。すなわち、固定金利の中での10年もの金利負担の割安感が強まり、結果として、固定金利指定型(10年未満)から同(10年)へのシフトが進んだと考えられる。

(2)住宅購入のための所得、貯蓄は十分か

 第1章での住宅取得能力の分析を年収倍率の形に簡素化した上で、家計の所得分布を考慮した分析を行う。また、貯蓄(金融資産)の保有状況との関係でも、家計の住宅購入余力を評価する。

●首都圏の30歳代では年収5倍を満たす2人以上世帯は少数
 家計所得の面から住宅購入の余力がどの程度あるかを簡単に捉える方法として、住宅価格の年収倍率に着目しよう。ローンを借入れた場合の返済負担を考えると、一般的には、住宅価格が年収の5倍程度の範囲であれば、購入が可能な状況にあると考えられる。もちろん、これは金融資産の保有額その他の要因で変わり得るので、全体的な傾向を見るための一つの近似にすぎないことに注意が必要である。ここでは、住宅の一次取得者が多い首都圏の30歳代世帯について、新築マンション価格の年間収入に対する倍率が4〜6倍以下となる世帯の割合を試算する(第2−3−13図)。
 第一に、年収5倍を満たす世帯の割合は、2006年まではおおむね2割前後であったが、2007年には1割程度に低下している。余裕を持って借家から持ち家に移行できると見られる年収4倍を満たす世帯は1割以下の状況が続いており、2007年以降は極めて少なくなっている。一方、年収6倍であれば、過去においては3〜4割、2007年以降も2割が該当している。
 第二に、このように年収5倍の条件を満たす世帯が減少したのは、主としてマンション価格の上昇によると考えられる。年間収入については2007年には前年比で減少しているが、それでも2003〜2005年の水準とほぼ同じである。
 第三に、2009年についてはデータが揃っていないが、景気悪化に伴い年間収入は減少した一方、新築マンション価格はほとんど低下していないと見られる。したがって、年収倍率という観点では新築マンションの購入余力は一層低下している可能性が高い。こうした層は中古マンションに流れ、それが中古マンション価格の押上げ要因となっていると考えられる。

●所得面から見たリフォームの余力は2005年以降横ばい
 それでは、中高年層が住宅リフォームを行う場合、所得の状況から見た余力はどうなっているのだろうか。ここでは、50歳代、60歳代の持ち家世帯が、平均的な内容のリフォームを実施するとして、その契約額が年収の1倍以下である層の割合を推計した(第2−3−14図)。
 第一に、50歳代のうち年収倍率1倍を満たす割合は、90年代後半には7割を超えていたが、2000年代には6〜7割の範囲内で推移している。この推計ではリフォームの契約額は一定と置いているので、こうした動きは2000年代にかけて年収が減少したことを反映している。もっとも、割合が6〜7割ということは、多くの世帯でリフォーム余力があることを示している。
 第二に、高齢時にリフォーム資金を借入れる場合は退職後の収入も考慮する必要があり、その意味では60歳代での年収倍率がより重要であると考えられる。60歳代の年収は50歳代の7割程度である。したがって、同じ年収1倍でも60歳代にとっては条件が厳しく、90年代後半には4割程度、2000年代半ば以降は3割程度となっている。
 第三に、60歳代の世帯でも、年収倍率を1.5倍にまで条件を緩めれば、多数の世帯がこれに該当することになる。具体的には、90年代後半で65%前後、2000年代後半でも6割前後となる。しかし、高齢層の場合は借入期間をある程度短くすることが必要であり、年収の1.5倍のリフォーム契約は家計を大きく圧迫する懸念がある。

●貯蓄面から見た30歳代の住宅購入余力は安定的に推移
 住宅購入やリフォームに当たって考慮すべき家計側の状況として、所得のほかに貯蓄(金融資産)がある。住宅購入等に必要な費用に対し貯蓄がどの程度あるかは、住宅の一次取得者や長期借入の困難な高齢者にとっては特に重要である。こうした観点から、30歳代の潜在的住宅購入力と50歳代、60歳代のリフォーム余力を推計してみよう(第2−3−15図)。
 第一に、首都圏マンション平均価格の1割以上の貯蓄がある世帯を、貯蓄面から見たとき「潜在的購入力がある」とすると、30歳代の非持家世帯(2人以上世帯)では3割強がこれに当たる。ここで、「貯蓄」としては、流動性の観点から保険等を除いたものを用いており、30歳代の平均では2009年末時点で500万円である。
 第二に、2000年代を振り返ると、2006年までは、30歳代で潜在購入力のある世帯の割合は4割前後で推移している。このように長期にわたり変化が少なかった背景には、所得と違って貯蓄残高の変化が緩やかだったこと、世帯間の貯蓄格差も大きく変化していないことが考えられる。
 第三に、50歳代、60歳代のリフォーム余力について同様の試算を行うと、50歳代では割合が5割弱で安定的に推移したが、60歳代では2006年にかけて上昇し7割を超えた後、大きく低下して5割強となっている。これは、60歳代では株式などのリスク資産の保有比率が高く、株式市場等の動向を反映して資産額が変動したためと考えられる。

2−3 国民経済計算(SNA)におけるリフォームの扱い
 リフォームは、国民経済計算(SNA)において、どのように扱われているのだろうか。国連の93SNAで定めている取扱いと、我が国の四半期別GDP速報(QE)におけるリフォームの計上方法を確認してみよう。
 93SNAではリフォームのうち、住宅の機能・価値を高める、又は住宅寿命を大きく延ばすものを“major renovations or enlargements(以下、増改築・改修)”として総固定資本形成に計上する。一方、住宅の機能・価値が変わらない、又は居住を継続するために定期的・経常的に行うものを“ordinary maintenance and repair(以下、通常の修理・修繕)”として、中間消費に計上することとしている。すなわち、93SNAにおいては、増改築・改修はGDPにカウントするが、修理・修繕はGDPには含まれない。なお、両者の区別は明確なものではないとされている。
 一方、我が国のQE推計でも増改築は総固定資本形成(住宅投資)に計上している。しかし、改修(断熱改修、太陽光発電システムの導入、バリアフリー改修など)については、通常の修理・修繕との区別の困難性や基礎統計の制約から、個人消費や中間消費に振り分けられ、住宅投資には計上されない。通常の修理・修繕については、基本は中間消費としているが、一部は個人消費に計上されている。
 なお、改修は住宅滅失のテンポを緩やかにすることで、長期的には住宅ストックを増加させる可能性があり、これが実現すれば、持ち家の帰属家賃の押上げを通じてGDPが増加することになる。

コラム2−3図 国民経済計算(SNA)におけるリフォームの扱い


(3)事業者側の資金繰りに問題はないか

 これまでは住宅を購入する側の状況について分析を行ってきた。しかし、貸家や分譲住宅を中心に、事業者を取り巻く金融環境も重要な要素になると考えられる。もっとも、住宅関連だけに限定してこうした問題を捉えるのは難しいため、ここでは、オフィスビルなどの関連も含めた不動産業を対象として議論を進めることとする。

●金融機関の貸出態度に左右される不動産業の資金繰り
 一般に、企業の資金繰りは景気後退局面で悪化し、景気回復とともに改善に向かう傾向にある。当該企業の売上や利益といった実物面に加え、資金調達の難易度などの金融面の要因が、こうした資金繰りの状況に影響を及ぼすと考えられる。そこで、過去の景気循環の景気の谷の前後における、不動産業の資金繰りと資金調達環境について、日本銀行の全国企業短期経済観測調査を用いて確認しよう(第2−3−16図)。その結果を見ると、以下の特徴が指摘できる。
 第一に、不動産業の資金繰り判断DIは、恒常的にマイナス、すなわち「苦しい」超の状態にあるが、景気の谷を過ぎるとマイナス幅が縮小に向かうのが一般的である。景気の谷までの動きは時期により異なるが、2009年前後の動きについては、谷まで急速に資金繰り判断が悪化した後、緩やかに改善する形となっている。
 第二に、実物面の動向を示す指標として国内需給判断DIに着目すると、水準は常にマイナスである上に、景気の谷を過ぎても改善がやや遅れる傾向にある。今回についても、2009年6月までは悪化が続き、2010年3月にはっきりと改善するまでは横ばい圏内の動きであった。
 第三に、金融機関の貸出態度判断DIも、総じてマイナスで「厳しい」超となっているが、2002年前後を除けば谷からの改善方向の動きは明確である。2002年前後の低調な動きは、不良債権問題を背景に不動産業への貸出が厳しい状況であったことを反映していると見られる。今回は、景気の谷以降、着実に改善し、2010年3月にはリーマンショック時の水準にほぼ戻っている。
 以上の比較からは、不動産業の資金繰り判断は、国内需給よりも金融機関の貸出態度判断との連動性が強い。金融機関側は不動産の需給動向や採算性を踏まえた貸出を行うものと見られるが、同時に、金融機関自身のバランスシートの状況なども貸出態度を通じて不動産業の資金繰りに影響を及ぼすと見られる。

●不動産業の資金調達は銀行借入中心だが短期のウエイトが高い
 このように不動産業の資金繰り判断にとって金融機関からの貸出の動向が重要であるが、それでは、実際の資金調達の動向はどのように推移しているのだろうか。銀行貸出の状況と特徴を把握するとともに、銀行以外の調達ルートとして不動産証券化の動向を見てみよう(第2−3−17図)。
 第一に、銀行から不動産業に対する貸出金は、バブル経済が続いた90年代前半まで増加を続け約60兆円にまで達し、不動産業に対する資金供給が続けられていたことが分かる。しかし、その後増加ペースは鈍化し、アジア金融危機を経た90年代後半からは貸出金は減少に転じ、2000年前半にはボトムである約50兆円にまで減少した。2000年代半ば以降、再び増加に転じたが、その増加ペースは極めて緩慢なものであり、過去のピークである60兆円には達していない。
 第二に、不動産業への貸出は、他の業種と比べて短期資金の割合が高い。財務省「法人企業統計」により短期借入比率を見ると、90年代と比べ2000年代には低下してきているものの、全産業、あるいは非製造業の平均より高い水準にある。また、長期適合比率(固定負債と純資産の合計に対する固定資産の比率)についても、他業種の平均的な水準より高い状態が続いている。
 第三に、不動産証券化の実績額は2007年まで拡大基調が続き、9兆円弱に達した。著しい成長ではあるが、銀行貸出と比べると規模は依然小さいものといえよう。内訳では、私募ファンドなどの「J−REIT以外」が半分以上を占める。J−REITについては2007年には頭打ちとなっている。2008年には景気悪化の影響もあって大幅に規模が縮小している。

●J−REITを通じた住宅への資金流入は東京に集中
 では、不動産証券化の一つである不動産投資信託(J−REIT)において、住宅の占める割合はどの程度なのだろうか。投資信託協会「不動産投信の組入不動産全体の状況」を基に、不動産投資信託における用途別保有不動産額(鑑定評価額)について確認すると、以下のような点が分かる(第2−3−18図)。
 第一に、2010年2月末時点で、J−REITの保有不動産に占める住宅の割合は2割弱となっている。最も割合が高く、全体の半分以上を占めているのがオフィスである。商業・店舗は2割弱で、住宅と同程度のシェアを占めている。このように、住宅のウエイトはそれほど高いものではないが、不動産証券化による資金調達が拡大した場合、住宅投資にも効果が及ぶと考えられる。
 第二に、2001年からの推移を振り返ると、J−REITの保有不動産額全体は、2007年までは拡大が続いていた。その後は、おおむね横ばいとなっている。内訳を見ると、当初はほとんどがオフィスであったが、次第に商業・店舗が加わるようになり、2004年頃から住宅もある程度の割合を占めるようになった。2007年には住宅は2010年2月と同程度の金額に達したが、その後は頭打ちが続いた。
 第三に、J−REITが保有する住宅の所在地は、東京都の主要5区で約1/3、23区では3/4近くを占めている。一方、関東地区以外の住宅は1割程度に過ぎない。このように、現在のところJ−REITを通じた住宅への資金流入は、東京に極端に集中しており、地方圏には、拡大の余地が大きく残っているといえよう。


3 住宅投資・リフォーム活性化への課題

 ここでは、高齢化が進み需要の量的拡大の持続が期待できないなかで、質の向上を図りつつ、住宅投資やリフォームを活性化するための方策を論じる。具体的には、「『環境』は住宅投資・リフォーム活性化の鍵となるか」「既存住宅市場やリバースモーゲージは発展するか」「都市機能の集積で住宅の価値を高められるか」といった論点について検討する。

(1)「環境」は住宅投資・リフォーム活性化の鍵となるか

 政府や関係団体は、これまで、住宅や建築物の環境面からの性能評価、支援に努めてきている。その基本になるのが省エネ法に基づく「省エネ基準」で、新省エネ基準が日本住宅性能表示基準の省エネ対策等級3に、次世代省エネ基準が等級4にほぼ対応している。以下では、これらを含めた環境性能に基づく代表的な評価・優遇制度の現状を調べ、環境に関連した住宅投資・リフォームの需要拡大の可能性を探る。

●環境共生住宅やCASBEEの普及テンポは緩やか
 これまでに導入された環境関連の評価・優遇制度のうち、歴史の古い順に、環境共生住宅、CASBEE(建築環境総合性能評価システム)、長期優良住宅の普及状況について概観しよう(第2−3−19図)。
 第一に、環境共生住宅は、省エネ等の環境性能に加え、周辺自然環境との調和や快適な住生活を目指すもので、共同住宅の場合は省エネ対策等級では3以上が条件28である。この制度の奨励のため、地方公共団体による事業者への補助や融資も行われている。99年以来、その戸数は増加して2008年で4500戸程度に達したが、住宅着工戸数全体との対比では極めて小さい数字となっている。
 第二に、CASBEEは建築物の環境性能を総合的に評価する制度であり、評価対象とする様々な建物の用途に対応した基準29が用意されている。一定規模以上の建築物に対してCASBEEによる評価書を添付した環境計画書の届出を義務付ける自治体が増加したため30、2004年の開始から自治体版CASBEEの届出件数31は増加を続けており、2008年には1200件に達している。ただし、集合住宅全体を1件として届出する場合があることを踏まえても水準としては低く、CASBEEに対する認知度は低いといえる。
 第三に、長期優良住宅は、省エネ性能に関しては次世代省エネ基準(省エネ対策等級4に相当)が条件となっている。2008年4月からモデル事業として長期優良住宅を供給する事業者への補助制度が導入され、2009年には住宅ローン減税の優遇が開始されたことなどから急速に普及が進み、2010年5月時点で累計70,413件が認定されている。
 なお、以上で紹介したほか、最近では、次世代省エネ基準を条件とする住宅版エコポイント、省エネ対策等級4を条件とする優良住宅取得支援制度(フラット35S)など、環境性能の高い住宅に対して様々な支援制度が創設されている。

●住宅の長寿命化のために許容できるコストアップは2割程度
 それでは、消費者はどの程度までなら環境性能の高い住宅を購入するためのコストアップを許容するのだろうか。ここでは、長寿命住宅に対する負担意思額を見ることで、間接的ながらこの問題を考えよう。具体的には、住宅金融支援機構「住宅の住まい方に関する意識調査」(2008年度)の結果を参考にする(第2−3−20図)。
 第一に、長期優良住宅について、何らかのメリットがあれば10%までのコストアップを許容できるとした者(住宅取得予定者が対象)は、全体の9割近くを占めている。当然ながら、コストアップの程度が高まれば、許容できる者の割合は減少する。20%のコストアップまでならば「許容できる」は6割強、30%までなら4割弱、という結果であった。
 第二に、上記の結果を基に、許容できるコストアップ率の回答分布から、平均的な水準を試算すると、おおむね2割程度となる。すなわち、回答者を平均すれば、長期優良住宅に何らかのメリットがある限り、2割程度のコストアップであれば許容できることを意味する。
 第三に、10%までのコストアップであれば、許容するための条件として「住宅が長持ちする」ことが最も多い。これが20%以上の場合は、「長期的にみて住宅の維持コストが安くなる」ことを条件とする者が多くなる。住宅取得コストの増加は将来の維持コストの低減である程度回収が必要ということであり、環境性能に着目する場合も省エネによるコストの回収が鍵となることが推察される。

●持家と比べ省エネ性能の改善が遅れる貸家
 コスト増への許容範囲のほかに、環境性能の高い住宅の普及に際しては、貸家における省エネの誘因が弱いことがネックになることが考えられる。契約の内容にもよるが、貸家の場合、家主が住宅の省エネ性能を決定するのに対し、光熱費を負担するのは借家人であるとすれば、家主の省エネ投資が過小になる可能性がある。この点を実際のデータを確認してみよう(第2−3−21図)。
 第一に、プレハブ建築物について、業界団体加盟の11社が供給した住宅のうち省エネ等級4(次世代省エネ基準に相当)の割合を見ると、戸建住宅が8割を超えているのに対し、集合住宅では1割にも満たない。しかも、数年前からすでに戸建住宅の多くは省エネ等級4であったが、集合住宅では2008年になってようやく数%の割合まで上昇してきた。このように、プレハブの集合住宅では高度の省エネ性能の達成が著しく遅れている。
 第二に、この状況を利用関係別に対応させると、戸建住宅が属する一戸建てのカテゴリーは持家がほとんどを占めるのに対し、集合住宅が属する長屋建、共同住宅では、ほとんどが貸家での利用が想定されている。我が国の貸家は比較的短期の居住を予定しているワンルームタイプが多く、借主にとっても長期の効率性を考えにくい面はあるものの、持家と貸家でここまで省エネ性能に差があるのは、建築主が直面する誘因の違いと考えざるをえない。
 第三に、上記のように誘因の欠如に伴う過小な省エネ投資は、「エネルギーパラドックス」として知られ、欧米において広く研究が行われている。例えば、アメリカにおける研究の一つでは、持家居住者と借家居住者で、保有する冷蔵庫や皿洗い機などの省エネ性能に大きな差があることが報告されている32。こうした誘因の問題にどう対応するかも、環境性能の高い住宅の普及に当たっての課題といえるだろう。

(2)既存住宅市場やリバースモーゲージは発展するか

 前述したように、我が国の住宅市場については新築が主であり、中古市場の規模は小さく十分に整備されているとはいいがたい。また、リバースモーゲージなど、住宅関連の商品についても普及が進んでいない。以下では、こうした論点について検討する。

●質の高い既存住宅への潜在需要は存在
 既存住宅市場が未発達である背景として、供給側では対象となる住宅ストックそのものの不足や質に関する情報の不足、需要側では消費者の新築志向の高さなどが指摘されている。これらの問題について順次点検してみよう(第2−3−22図)。
 第一に、我が国では確かに古い住宅ストックの数が少ない。すなわち、91年から2000年までに建てられた住宅数が最も多く、それよりも古くなるに従い戸数は減少していく。特に60年代より古い住宅は急速に減少している。一方、アメリカの建築時期別の住宅件数については、70年代にピークが見られるが英国では見られず、最近の住宅戸数の分布は我が国と大差がない。しかし、50年以前の住宅ストック数に着目すると、我が国は米英と比べ少ない。背景の一つには、住宅の「寿命」ともいうべき滅失住宅の平均築後年数が短いこともあろう33
 第二に、住宅金融支援機構「住宅の住まい方に関する意識調査」により新築住宅に対するこだわり意識を確認すると、住宅建築・購入の計画がある回答者のうち4割強が「新築、中古にはこだわらない」であり、潜在的な中古需要は少なくない。「こだわらない」とする前提として、立地条件が良いこと、住宅の状態が良好なことを挙げる者が多いが、特に20歳代では「住宅の状態が良好であれば、新築、中古にはこだわらない」が非常に多い。
 第三に、上記のような消費者意識を踏まえると住宅の性能評価が重要であるが、このうち設計住宅性能評価を見ると、2000年度の開始以来、2006年までは交付件数が拡大し、新設住宅着工に対する比率は2割程度に達した。ただし、その後は頭打ち傾向となっている。性能評価を取得すれば将来の転売時に有利となる可能性があるが、一方で取得にはコストが伴う。したがって、消費者の節約志向が高まるような時期には、コストを伴う性能評価取得の誘因は弱まることが考えられる。

●リバースモーゲージの潜在需要は存在
 リバースモーゲージは、現在住んでいる住宅を担保として、老後における必要な資金を確保し、融資については利用者が亡くなった後に、担保不動産を用いて清算する仕組みである。リバースモーゲージの仕組みは、生活資金の調達、リフォーム費用の捻出など、色々な使い方が考えられる。ここでは、住宅を高齢者にも使いやすいようにリフォームするための費用を捻出するための仕組み、という設定の基に、リバースモーゲージの活用可能性について検討する(第2−3−23図)。
 第一に、我が国の主要な取扱機関について見ると、2009年の時点で累積件数が2500件程度と低調である。このうち最も件数が多いのは民間銀行であり、次いで、厚生労働省の「不動産担保型貸付制度」が多くなっている。なお、民間銀行の商品は高額の不動産を持つ高齢者を主たる対象とするのに対し、公的機関の制度は福祉的な色彩が強いものと考えられる。
 第二に、我が国でリバースモーゲージの普及が進まない背景として、バブル崩壊後の不動産価格の下落、未発達の既存住宅市場、消費者の意識の問題などが指摘されている。一方で、高齢者の持家比率が高いことは、リバースモーゲージの発達に有利な条件である。また、前述のように、リフォームに対する高齢者のニーズは潜在的には高いと見られる。したがって、一定の土地資産がある場合など、老朽化した持家の建て替えやリフォームのため、リバースモーゲージの活用も考えられよう。
 第三に、木造密集地における高齢者に関するケーススタディによれば、「リバースモーゲージを(条件によっては)利用したい」とする意向が少なくないことが分かった。具体的には、対象者を資産状況等と仮に住み替えを行う場合に必要になる費用の関係により、[1]借金不要層、[2]リバースモーゲージの対象となる層、[3]持ち出しが必要となる層に区分した上で、各区分での利用意向を見ると、[2]のリバースモーゲージの対象となる層については、「(条件によっては)利用したい」とする割合が5割を超える結果であった。
 リバースモーゲージの普及は進んでいないが、地域やターゲットが適切であれば、既存住宅市場が未発達である等の課題は存在するものの、リバースモーゲージを組み込んだ住環境改善のための仕組みを構築できる可能性があり、それを受け入れる素地はあると考えられる。

●海外では担保割れ保険の活用などを背景にリバースモーゲージが普及
 我が国の状況とは異なり、米欧ではリバースモーゲージが普及しているとの指摘もある。もしそうだとすれば、どのような背景があるのだろうか。ここでは、アメリカ、英国におけるリバースモーゲージの普及状況について調べてみよう(第2−3−24図)。
 第一に、アメリカのリバースモーゲージとしては、住宅都市開発省(HUD)が提供するHECM(Home Equity Conversion Mortgage)、ファニーメイによるHome Keeperなどが知られている。しかし、Home Keeperの新規受入が停止されたことから、ここではHECMの利用件数を見ると、2000年以降、急速な普及が進んでいる。その背景には、リバースモーゲージの証券化の進展のほか、高齢者に対する年金商品等の販売手段として活用されたことなど34が指摘されている。
 第二に、アメリカでは2007年にサブプライムローン問題が顕在化したが、HECMの伸びは鈍化するにとどまっている。その背景として、もともとHECMには政府保証が付されていることに加え、住宅評価上限の引上げ、高齢者住宅購入用の新制度の導入等の対策を講じたことなどが挙げられる。
 第三に、英国における「エクイティ・リリース」(モーゲージ団体のSafe Home Income Plan加盟の金融機関によるリバースモーゲージ制度)の貸出実績を見ると、90年末から急速に拡大し、2003年頃には新規貸出の伸びは止まったが、融資残高は増加を続けている。90年末から市場が拡大した要因として、従来のエクイティ・リリース商品にあった担保割れリスクについて、前述のモーゲージ団体が担保割れリスクを回避するための保険を付すようになったことを指摘できる。
 以上をまとめると、両国では2000年代に住宅バブルが発生した点を割り引く必要があるが、担保割れリスクに対する保険制度の存在が制度の普及、存続を支えた面があるといえよう。

(3)都市機能の集積で住宅の価値を高められるか

 都市計画そのものに着目し、生活の利便性を含め、住宅の質の向上を図る道はないのだろうか。我が国の都市構造を確認し、集積の度合いの変化がどのような影響を与えるのか確認する。

●市街地の人口密度はやや上昇
 我が国では長期にわたり市街地の拡散が進み、集積のメリットが活かされない状況になってきたといわれる。そこで、90年以降における都市の集積状況を確認してみよう。具体的には、全国の人口集中地区(DID)、東京都区部のそれぞれについて、人口密度等の推移を見ると、次のような点が分かる(第2−3−25図)。
 第一に、DIDの面積に着目すると、90年以降もそれまでの基調を受け継いで拡大が続いている。DIDはいわば「都市的地域」であるので、我が国全体としては、都市の拡大が続いてきたといえよう。
 第二に、DIDでは人口も増加しており、結果として、人口密度はおおむね横ばい圏内で推移している。やや仔細に見ると、90年代前半は人口密度は幾分低下したが、その後はわずかながら上昇に転じ、2000年代にはやや上昇テンポが高まっている。したがって、我が国の「都市的地域」は、最近になって再集積への動きが出てきたことになる。
 第三に、東京都区部の人口密度(夜間人口)を見ると、90年代においては幾分低下し、いわゆるドーナツ化現象が生じていた。しかしながら2000年代には都心を中心に人口密度が上昇に転じている。これは、都市再開発プロジェクトの相次ぐ実施などを背景に、都心回帰の流れが進み始めたことを示していると考えられる。

●人口集中地区における集積メリットが地価に反映
 人口集中地区において集積が進んだ場合、地価に対してはどのような影響があるのだろうか。そこで、我が国の都市について、DIDにおける人口密度、及び都市化度(DIDにおける人口が当該都市の総人口に占める割合)と、地価の上昇率との関係を確認した(第2−3−26図)。すると、以下の特徴が指摘できる。
 第一に、DID人口密度と地価上昇率との関係を見ると、両者の間には緩やかながら正の相関が観察される。いうまでもなく、DID人口密度が高いほど、地価の水準が高い傾向にある(図は省略)。その上さらに地価の上昇率が高いとすれば、地価の格差が拡大していることになる。2000年代後半においては、集積が進んだ都市の魅力が増し、こうした結果となったと考えられる。
 第二に、都市化度と地価の上昇率との関係についても、DID人口密度の場合と同様に、緩やかながら正の相関が観察される。もっとも、都市化度では上限の100%に近い都市の数が相対的に多い。そうした都市の中には、DID地区の人口密度が高くても、DID地区以外の周辺地域の人口密度に大きなばらつきがあり、これが都市化率の高い都市の間で地価上昇率の差につながっていると考えられる。
 第三に、中心市街地活性化計画が認定された都市をそうでない都市と比べると、同じ人口集積度(DID人口密度や都市化率)であっても、認定された都市の方が平均的には地価上昇率が高い。この要因として、人口集積度が中程度の一部の都市において、コンパクトシティ化へ向けた取組みが評価されたことが地価上昇につながったことも考えられる。

●容積率引上げにより床面積当たりの地価が低下
 大都市において集積のメリットを拡大させる有力な方法として、容積率の緩和が提案されることがある。そこで、東京都区部のデータ35を用いて、容積率規制と住宅地の地価の関係を調べてみよう。具体的には、区ごとの平均的な指定容積率3637と地価、及び床面積当たりの地価の関係をプロットした(第2−3−27図)。結果を見ると、以下のようなことが分かる。
 第一に、2000年、2008年のいずれにおいても、指定容積率が高いほど地価が高い傾向が見られる。ただし、現実の容積率が高いほど指定容積率が高めに設定される傾向があると考えられるため、この結果は、もともと集積が進んだ地区での地価の高さを確認している面がある。
 第二に、2000年と2008年を比べると、2008年の方が回帰線の傾きが急であることから、指定容積率の高い地区ほど地価の上昇率が高い傾向が強まっていることが分かる。容積率の制約が特例措置等を通じて幾分緩和されたことなどを背景に、指定容積率が高い地区ほど集積が急速に進み、土地の評価が高まった結果と考えられる。
 第三に、指定容積率が高いほど、住宅床面積当たりの地価は逆に低いという関係が観察される。すなわち、指定容積率が高ければ土地の価値は高まる一方、実際の容積率も上昇して床面積が増えるが、両方の効果を合わせると床面積当たりでは地価は低くなる。その結果、住民1世帯当たりの土地代の負担額が低下し、建物部分の質の向上に資金を回すことが可能となる。
 なお、以上は住宅地としての利用に着目した分析であるが、商業地についても容積率の緩和は立地する企業の生産性上昇につながるなど、集積のメリットを確保するために重要な役割を果たすことが期待される。


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