付注3-8 「雇用リスク」の計測について

雇用リスクは家計の雇用環境に対する不確実性を表しており、消費者態度指数の構成項目である雇用環境DIから、カールソン・パーキン法によって求めている(計測方法については小川(1991)、土居(2001)を参照)。カールソン・パーキン法による期待値と分散の計測は、2つの仮定を基づいている。

(仮定1) 各家計は、t 期において雇用環境(ここでは有効求人倍率の逆数)の善し悪しを感知しうる共通の臨界点(δt)を有する。臨界点は期間を通じて一定(δt=δ)。
(仮定2) 各家計が雇用環境に対して持つ主観的確率分布の中央値の全家計についての分布は、正規分布N(μt, σt2)に従う。

雇用環境に対する予測の平均値μt、分散σt2は、[1]~[4]式によって計算することができる。

数式

 臨界点(δ)の計算は合理的期待仮説を仮定しており、下記の式に基づいている。

数式

qt は今後半年間(1991年3月までは今後1年間について)の雇用環境の予測の平均値で、Ωt-1は過去の雇用環境からなる情報集合を表している。これは、過去の情報に基づいた各世帯の予想の平均値は、今後半年間の雇用環境の平均値に合致し、分散もまた同様に過去に基づいたものと合致していることを示している。

δは[5]~[7]式によって計算することができる。mは、Ωt-1にどこまで過去の雇用環境の情報が含まれるかによって決定され、実際の計算では、Ωt-1を過去3年間(つまりmt-11)として求めた。

数式

実際に、カールソン・パーキン法によって求めた雇用環境の予測の平均値(μt)と分散(σt2)を用いて貯蓄率(家計調査ベース、二人以上・勤労者世帯)を推計すると、μtやσt2の上昇は貯蓄率に対してそれぞれ有意に押し上げる結果となった。

数式

(備考)

  1. 内閣府「消費動向調査」、総務省「家計調査」、「国勢調査」、「人口推計」、厚生労働省「職業安定業務統計」により作成。
  2. 雇用環境の実績は有効求人倍率の逆数。予測の分散は1000倍している。実質可処分所得の単位は万円で、逆数にして1000倍している。