付注2-2 財政再建等に関する先行研究
1.財政再建の方法について
Alesina and Ardagna (1998)
60~94年のOECD20か国のデータを用いて、財政再建策の成功例と失敗例を定義し、その要因を分析。金融政策のスタンスの違いによる財政再建の成否への影響は見られないものの、成功した財政再建策では、歳入の増加よりも、移転支出や人件費を中心とした歳出削減が積極的な役割を果たしたと指摘している。また、財政再建の成功は、その後の経済成長率の上昇にも寄与したとしている。Ardagna (2007)も、1970-2006年のOECD25か国のデータに基づき、Alesina and Ardagna (1998)と類似の分析を行ない、ほぼ同様の結論を得ている。
Lambertini and Travares (2003)
デンマークやスウェーデンの財政再建の試みを分析。財政再建が成功した例では、公共投資の削減や公共部門の民営化努力といった歳出削減と、租税や社会保障負担の増加といった歳入の増加の両者が同時に起こっている。また、自国通貨の減価を背景とする経常収支の改善が国内産業の競争力を高めたことも、財政再建の成功を後押しする重要な要因であったとしている。
Leigh, Plekhanov and Kumar (2007)
OECD諸国の14の事例を用いて、短期・長期の財政再建が経済活動に与える影響や、最近の財政再建の成功例において重要であった要因などを分析。財政再建は短期的には経済活動を縮小させる効果があるものの、政府の効率性を失わせるような過度の歳出削減は行なわないとの前提の下、長期的には経済活動を拡大させることができるとしている。
McDermott and Wescott (1996)
70年~95年の工業国における財政拡大と財政再建の経験に基づき、財政動向と経済動向との相互作用を分析。財政再建努力は、特に中期的に見て、景気の下押し圧力とはならないこと、移転支出や公務員給与といった歳出の削減に特化した財政再建は、税制改革による歳入重視の財政再建よりも公的債務の削減に有効であることなどを指摘している。
2.財政制度と財政再建の関係
Von Hagen and Harden (1994)
財政制度において、予算担当大臣の他の閣僚に対する権限の優位性の程度が財政運営に及ぼす影響を分析。フランスと英国では、予算担当大臣が他の閣僚に対して支配的な権限を持つ制度となっており、両国は大規模な公的部門を抱えながらも、フランスでは財政赤字の問題に直面することなく、また、英国では過去20年間にわたって、相対的に低位な成長率にとどまることもなかったと指摘。反対に、予算担当大臣が他の閣僚と比べて特別な権限を与えられていない国として、アイルランド、イタリア、ベルギー、ギリシャ、ポルトガルを例示しており、最初の3か国では90年代の初期まで債務残高のGDP比率が高水準であり、他の2か国では債務残高のGDP比率が急速に高まっていると指摘している。
Perotti, Strauch and von Hagen (1998)
欧州通貨同盟の維持に当たって課題となるEU加盟国の財政の持続可能性について分析。過去25年間におけるOECD20か国の大規模な財政拡大の事例に基づいて、予算編成に係る意志決定過程を管理する財政の制度面が財政収支や財政赤字の動向にとって重要であるとしている。
3.財政運営の経済に及ぼす影響
Ardagna, Caselli, and Lane (2007)
OECD16か国の数十年間のデータを用いて、政府債務残高及び財政赤字の水準が長期金利に与える影響を分析。財政赤字の増加は長期金利の上昇をもたらし、単年の財政赤字が長期金利の上昇に及ぼす効果よりも、持続的な財政赤字が長期金利の上昇に与える効果の方がはるかに大きなものとなるとしている。また、債務の水準が平均的な水準を上回っている国において、長期金利上昇の効果がより大きく見られていることから、財政赤字の長期金利に与える影響は非線形であるとしている。加えて、OECD諸国全体としての債務の増加が加盟各国の長期金利の上昇をもたらす効果も確認しており、また、債務残高や財政赤字の水準を欧州通貨同盟のように国際的に管理した場合においても、個別の政府の財政政策は当該国内の金利水準に影響を及ぼし続けるとしている。
Alesina, Ardagna, Perotti, and Schiantarelli (2002)
OECDの60~96年のデータを用いて、財政政策の効果を分析。財政支出は、政府部門の雇用の増加を通じて、民間部門の労働コストを上昇させることで、民間企業の利益や投資に対して大きなネガティブの効果をもたらすとしている。その効果は、政府部門の雇用者への賃金支払い額が大きい財政支出の場合において、より大きなものとなり、また、このネガティブな効果は、中期に渡って影響があるとしている。加えて、財政支出がもたらす効果よりは小さいものの、租税負担の増加についても、利益に対してネガティブな効果を与えるとしており、租税政策の中でも、特に労働者に対する税負担の増加は、より大きなネガティブな効果を生むと指摘している。
参考文献
Alesina, A. and S. Ardagna (1998) “Tales of Fiscal Adjustments,” Economic Plicy, vol.13(27), p487-545, Octber
Ardagna, S. (2007) “Determinants and Consequences of Fiscal Considerations in OECD Countries”
Lambertini, L., and J. Tavares (2003) “Exchange Rates and Fiscal Adjustments: Evidence from the OECD and Implications for EMU”
Leigh D., A. Plekhanov and S. Kumar (2007) “Fiscal Adjustments:Determinants and Macroeconomic Consequences,” IMF Working Papers No.178
McDermott, C. John and F. Wescott (1996) “An Empirical Analysis of Fiscal Adjustments” IMF Staff Papers, vol.43, p725-53, December
Von Hagen and Ian H. Harden,(1994), “National Budget Processes and Fiscal Performance,” European Economy, Report and Studies, 3, p311-418
Perotti, R., R. Strauch and H. Hagen (1998) “Sustainability of Public Finances,” CEPR Discussion Paper No.1781
Ardagna S., F. Caselli, T. Lane (2007) “Fiscal Discipline and the Cost of Public Debt Service: Some Estimates for OECD Countries” The B.E. Journal of Macroeconomics, Vol.7
Alesina, A., S. Ardagna, R. Perotti and F. Schiantarelli (2002) “Fiscal Policy, Profits, and Investment” The American Economic Review, vol.92, No.3, p571-589, June