付注2-1 「追い貸し・金利減免」を受けていた企業の割合の推計について

1.概要

「追い貸し・金利減免」を受けていた企業とは、銀行の追い貸しや金利の減免などにより、業績が悪化しているにもかかわらず倒産処理などを先延ばしし、生き延びていた企業のことである。先行研究によれば、1990年代の日本の経済停滞の要因として「追い貸し・金利減免」を受けていた企業の増加があげられている。例えば、「追い貸し・金利減免」を受けていた企業の生産性が低いことや、「追い貸し・金利減免」を受けていた企業の増加が健全な企業に不利な競争環境をもたらすことで、全体としての生産性の向上を抑制してきたことなどが報告されている。

2.「追い貸し・金利減免」を受けていた企業の割合の推定方法

「追い貸し・金利減免」を受けていた企業の割合は、中村・福田(2008)に基づき推定を行った。これはCaballero et. al.(2006)を改良した方法で、最低限支払うべき利息をカバーできない収益状況にある企業が金利減免や追加貸出を受けた場合に、「追い貸し・金利減免」を受けたとするものである。

具体的には、次のような収益性基準と金融支援基準の双方を満たす企業を「追い貸し・金利減免」を受けた企業と考える。収益性基準とは、[1]営業損益+受取利息配当金、[2]利払前税引前損益、のいずれかが「最低支払利息」を下回る場合に満たすものである。一方、金融支援基準とは、実際に支払った利息が「最低支払利息」よりも低い場合(金利減免などを受けたとみなせる場合)、または、前年度の借入金残高(1年以内返済長期借入金残高を控除したもの)に対して当年度の借入金残高が増えている場合(新規貸出があったとみなせる場合)に満たすものである。

ここで、「最低支払利息」とは以下の式より計算されるもので、健全な企業(金利減免などを受けていない企業)が支払うべき利息の下限を表す。

数式

以上の式は、次のような考え方に基づいている。第一に、借入金については、健全な企業は借入時点におけるプライムレート以上の利子を支払うはずである。従って、短期借入金については、短期借入金に短期プライムレートをかけた額を、健全な企業が支払うべき利息の下限とした。一方、長期借入金については、そのうちいくらの額が何年前に借入されたものかという期間構成がわからないという問題がある。ここでは、長期借入金は過去5年間にわたって1/5の額ずつ借入されたと仮定した。
第二に、社債・転換社債については、長期借入金と同様に期間構成が分からないという問題がある。ここでは、企業は過去5年間のうち自己の有利な時点で社債・転換社債を発行したと仮定した。また、社債・転換社債のクーポンレートは、普通社債よりもクーポンレートが低いと考えられる転換社債で統一した。

3.参考文献

中村純一・福田慎一(2008)、「いわゆる「ゾンビ企業」はいかにして健全化したのか」、『経済経営研究』Vol.28(1)、日本政策投資銀行設備投資研究所

Caballero, R., Hoshi, T., and A. Kashyap (2006) “Zombie Lending and Depressed Restructuring in Japan,” NBER Working Paper No.12129.