第3章 高齢化・人口減少と財政の課題
日本経済の成長力の弱さの背景として、第2章では企業・家計のリスク対応力の問題を取り上げた。そこでは、「ローリスク、ローリターン」の罠から抜け出すために、投資先の選別を行い、企業活動の適切な動機付けを与える「ガバナンス」機能を確立することの重要性を述べた。しかし、我が国において「ローリターン」の期待を作り出しているもう一つの背景に、他の先進国と比べて急速な高齢化とそれに伴う人口減少がある。
2030年くらいまでを展望すると、高齢化・人口減少が経済成長にマイナスに働くとしても、労働力率の上昇や生産性の向上が十分あればこれを軽減することも可能である。ただ日本の場合、財政面で既にGDP比147.6%1の政府債務残高を抱えている。大きな負担を先送りしているわけで、高齢化が進み財政に一層の負荷がかかると、これが民間の活力を削いでしまう危険がある。こうした形で「政府が日本経済のリスク」とならないよう、今のうちに財政の在り方を検討しておく必要がある。
以上のような問題意識から、本章では、高齢化・人口減少に伴って対応を迫られる財政の問題のうち、特に財政構造に関する論点を中心に検討する。具体的には、第1節で高齢化・人口減少が経済成長や経済構造に及ぼす影響を概観した後、第2節では、高齢化・人口減少により最も直接的に影響を受ける財政分野である社会保障の給付と負担について論ずる。第3節は高齢化・人口減少の下での歳入面での個別論点、第4節では高齢化・人口減少の影響が目立って現れている地域経済の問題を扱う。最後に、第5節で主な論点のまとめを行うこととする。