はじめに

日本経済は久々に試練のときを迎えている。多くの経済指標は「横ばい」を示し、長期にわたった景気回復に「黄信号」が灯っている。世界経済が大きな変動を示す中で、果たして日本経済はどこへ向かうのだろうか。

このような局面では、景気の先行きが私たちにとって重大な関心事となるが、同時に、構造的な問題を考え直す絶好の機会でもある。日本経済はバブルの負の遺産を清算し、着実にその健全性を高めてきたはずであった。しかし、世界経済の中に日本経済を位置づけて眺めると、これまでの歩みの中で忘れてきた課題はないか、改めて点検が必要なことが分かる。特に、「サブプライム住宅ローン問題」の衝撃を目の当たりにすると、日本経済を取り巻く「リスク」にどう対処するか、という問題の重要性が浮かび上がる。

そこで、本報告では、「短期」「中期」「長期」の3つの視点から日本経済を取り巻く「リスク」を捉え、以下のような章立てで議論を進める。

第1章「世界経済の変動と日本経済」では、日本経済を取り巻く「短期」のリスクについて考える。すなわち、「日本の景気回復はなぜ足踏み状態となったのか」「先行きはどうか」「サブプライム住宅ローン問題とその日本への影響は、世界経済の構造変化とどう関係するのか」「原油・原材料価格の高騰や円高は日本の物価や賃金にどう影響したか」といった問いへの回答を試みる。その過程で、日本経済の脆弱性がどこからくるのか、という「中期」につながる論点にも触れることとしたい。

第2章「企業・家計のリスク対応力」では、「中期」の視点から企業や家計のリスクへの取組を検討する。「日本企業のリスクヘッジ能力は十分か」「日本企業はなぜリスクを取らないのか」「日本の家計はなぜリスク資産投資が少ないのか」といった点の検討を通じ、日本経済の成長力を高めていくための方策を探る。

第3章「高齢化・人口減少と財政の課題」は、2030年頃までを展望した「長期」のリスクを扱う。急速に進む日本の高齢化・人口減少は、しばしば日本経済の構造的なリスクとされる。こうした人口面の変化を踏まえ、「社会保障の給付と負担はどうあるべきか」「経済構造の変化に対応して歳入の構造はどう変わるべきか」「高齢化の影響が先鋭に現れる地方財政をどうすべきか」といった事項を点検する。

コラム1 経済財政諮問会議

<経済財政諮問会議とは>

経済財政政策に関し、内閣総理大臣のリーダーシップを十全に発揮することを目的として、2001年1月に設置された。

<現在のメンバー>

福田康夫内閣総理大臣(議長)、町村しん孝内閣官房長官、大田弘子経済財政政策担当大臣、増田寛也総務大臣、額賀ふく志郎財務大臣、甘利明経済産業大臣、白川方明日本銀行総裁、伊藤隆敏東京大学大学院経済学研究科教授(兼)公共政策大学院教授、丹羽宇一郎伊藤忠商事株式会社取締役会長、御手洗冨士夫キヤノン株式会社代表取締役会長、八代尚宏国際基督教大学教養学部教授

<最近の主な活動>

2006年12月~2007年1月 「日本経済の進路と戦略」(いわゆる「進路と戦略」)の審議(閣議決定(1/25))
2007年5月~6月 「経済財政改革の基本方針2007~「美しい国」へのシナリオ~」
(いわゆる「基本方針2007」)の審議(閣議決定(6/19))
2007年8月 「平成20年度予算の全体像」の審議(諮問会議取りまとめ(8/7))
「概算要求基準」の審議(閣議了解(8/10))
2007年12月 「平成20年度予算編成の基本方針」の審議(閣議決定(12/4))
2007年12月~2008年1月 「日本経済の進路と戦略-開かれた国、全員参加の成長、環境との共生-」
(いわゆる「進路と戦略」)の審議(閣議決定(1/18))
2008年4月~6月 「経済財政改革の基本方針2008~開かれた国、全員参加の成長、環境との共生~」
(いわゆる「基本方針2008」)の審議(閣議決定(6/27))