平成20年度年次経済財政報告公表にあたって

日本経済は、2002年の初めから息の長い回復を続けてきました。しかし、2008年に入って回復が足踏み状態となっており、景気は3度目の「踊り場」を迎えています。

昨年度の白書では、海外経済の動向や素材価格の高止まりといった「リスク」に引き続き注意が必要であると指摘しました。現在の経済の状況をみると、アメリカ経済の減速や原油価格等の高騰というかたちで、まさにこのリスクが顕在化したことになります。そして、これらは今後の日本の景気をさらに下振れさせるリスク要因でもあります。

景気の先行きをみるうえでは、どういう要因がリスクとして存在しているのか、また、それが顕在化する場合、どういうかたちで影響が出てくるのか、常に注意していなくてはなりません。

今回の白書では、アメリカ経済の減速は、日本からアメリカへの輸出が減少するという直接ルートと、他のアジア諸国からアメリカへの輸出が減少し、それを受けて日本からアジア諸国への輸出が減少するという間接ルートの両方で、リスクが顕在化したと分析しています。また、原油価格高騰による海外への所得流出は企業と家計に負担増をもたらしますが、第一次石油危機の際に、物価上昇と同時に賃金が上昇し、結局は企業の負担増に帰着したのに比べ、今回は企業も家計もともに負担を担い、“痛み分け”のかたちでリスクが顕在化していることが分析されています。

景気動向におけるリスク要因の抽出はおもに「短期」の問題ですが、リスクに対して強靭な体質をつくっていくことは「中期」の課題です。最近のリスク顕在化の過程で、日本経済が海外発のショックに弱いという脆弱性も明らかになりました。その背景として、原油・原材料の輸入依存度の高さ、賃金の伸び悩みからくる内需の弱さ、国内外の資産が十分に活用されていないこと、などがあると白書では分析されています。

リスクへの対応力は、企業や家計にとっても重要な課題です。企業は、為替リスクなどマーケットで生じるリスクに対してヘッジする一方、事業面では積極的にリスクをとって収益向上の機会をつくります。そのための資金を株式などのリスクマネーとして供給するのは家計です。しかし、我が国は、企業のリスクテイク行動、家計から企業へのリスクマネーの供給のいずれにおいても弱く、今回の白書では、様々な角度からこの原因を探っています。

「長期」の課題として、我が国は人口減少という構造問題に直面しています。人口構造の変化は、リスクというよりかなりの確率で実現が予測されるものですが、それによって潜在成長率がどうなるかは、長期に及ぶリスク要因として捉えておく必要があります。特に、経済成長と財政構造とは、相互に密接に影響を及ぼしあう要因であり、相互にリスク要因でもあります。

このように、今回の白書では、「リスク」を軸に、短期・中期・長期の観点から分析を行いました。本白書により、日本の経済と財政に対する認識が深まり、日本経済が抱える課題の解決に貢献できれば幸いです。

平成20年7月 

経済財政政策担当大臣

経済財政政策担当大臣 大田弘子