平成19年度
年次経済財政報告
(経済財政政策担当大臣報告)
−生産性上昇に向けた挑戦−
平成19年8月
内閣府
第3章 労働市場の変化と家計部門への影響
第3章のポイント |
第3章 労働市場の変化と家計部門への影響
バブル経済崩壊後に経済構造改革が進む中で、労働力の柔軟かつ積極的な活用とともに雇用形態の多様化が進み、我が国の労働市場にも様々な変化がみられる。これまでの労働市場における制度の変化は、今回の長期にわたる景気回復の過程で企業部門の雇用調整を促す役割を果たす一方、家計部門にとっては雇用環境・所得環境にも大きな変化をもたらした。特に今回の景気回復の過程では、企業が雇用面での調整を推し進めた結果、非正規雇用の増加という形で雇用形態の多様化が進行した点が着目される。
マクロ経済的な観点からみれば、労働市場の柔軟性が高いほど経済全体としても様々な外的な要因に対して短期間で適切に対応することが可能となり、効率的な資源配分が可能となると考えられる。また、労働者にとっても、選択肢の増加というメリットもある。今回の景気回復局面における雇用形態の多様化という流れは、基本的にはこのような観点からも評価できる。国際競争などに直面する企業は、体質強化のため、状況に応じた多様な雇用形態を利用する必要性もあり、実際に雇用形態の多様化は企業部門の高収益体質への転換のために重要な役割を果たした。家計部門にとってみても、賃金面では厳しい要素がある一方で、雇用の確保や選択肢の拡大などの積極的な評価も必要と考えられる。
これまでの雇用形態の多様化により、雇用者の約3人に1人が非正規雇用という状況に至っている。こうした非正規雇用の増加に伴う雇用形態の多様化の進展は、従来の労働組合という仕組みを通じた賃金交渉などが直接適用しにくい状況をもたらしており、効率的な賃金決定の仕組みという点でも新たな課題を提示している。今後、長期的に維持可能な成長経路を確保するという観点から、雇用形態の多様化の影響と必要な政策対応について検討することが求められるといえる。
こうした状況を踏まえ、本章では、進行する労働市場の変化の中で、家計部門を取り巻く雇用・労働環境の変化とその対応に着目して分析を行う。第1節では、雇用形態の多様化の実態とその背景としてIT化、グローバル化などとの関係について分析する。第2節では、海外の実例なども踏まえながら、雇用が多様化した場合に雇用保護制度が労働市場へどのような影響を及ぼしているかについて検証を行う。第3節では、経済理論・実証的な視点から賃金交渉の仕組み、企業の人事評価制度の変化に焦点を当てる。第4節では、雇用形態の多様化と関連付けられる格差拡大の問題について、諸外国の格差拡大の歴史的な流れ、雇用形態の多様化に対する政策対応としての所得再分配などについて分析する。最後の第5節で、まとめを行う。