平成19年度

年次経済財政報告

(経済財政政策担当大臣報告)

−生産性上昇に向けた挑戦−

平成19年8月

内閣府


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第5節 まとめ

 本節では、これまで述べてきた今後の成長に向けた生産性向上と企業部門の動向を考える上で重要なポイントを改めて振り返る。

●資本と労働の相互関係を意識した持続可能な生産性向上の重要性
 日本経済が労働力人口の減少の下で成長を続けていくためには労働生産性の向上が必須条件となる。労働生産性の上昇を実現するための手段は複数存在するが、資本と労働の相互関係を総合的に把握する必要がある。労働生産性を高めるためには適切な資本蓄積を実現することで技術革新の停滞や金融市場の資金配分の歪みを回避し、経済全体の生産性を長期的に向上させることを目指すべきである。一方、企業単位での人員削減などによる生産性向上は、短期的に企業の資本効率を高めても、経済全体では失業増加を招き、経済社会の活力を損なう可能性もある点に留意が必要である。労働生産性の上昇を目指していく際には、経済全体としての雇用の在り方などとのバランスもとりながら、企業・産業・マクロという各レベルで持続可能な生産性向上を目指していく必要がある。

●経営の不確実性の増す中で求められる企業の生産性上昇に向けた取組
 企業が直面している経済は90年代の長期停滞以前のものではない。少子高齢化という人口動態の変化、経済の一層のグローバル化の進展に伴う国際競争の激化、ITなどの技術革新の浸透など、経営を取り巻く環境は大きく変化している。これらに対応しながら、企業部門の高い効率性を通じて生産性向上を実現していくことが求められている。
 多くの企業では、資産効率が改善する一方、設備投資は潤沢なキャッシュフローの範囲にとどまっている。関心が高まっているM&Aの効果はこれまでのところ費用節約面でのシナジー効果にとどまっており、生産性改善をより強く意識したM&A活用の余地が残っている。人的資本投資への対応は、企業によってばらつきがみられ、今後の労働生産性上昇に向けての課題も残る。今後、企業単位で新たな成長経路を積極的に模索していく中で、経済全体の生産性上昇が実現していくことが期待される。

●ITの有効活用は業務慣行や組織実態を含めた綿密な検証が必要
 生産性を更に上昇させるため、IT資本の有効活用がいわれてきた。しかし、単純にITを導入するだけでは、十分な効果を生まないのが、IT活用の困難なところである。企業のIT化に関しては、IT活用を経営と結び付けるため、それを担うCIO(最高情報統括責任者)の果たす役割が注目されている。実際にIT投資評価を実施しているCIOによる情報ネットワークの全体最適化は、労働生産性の上昇に影響している可能性があった。個々の企業においては、どのような経営課題を抱えているかを把握し、その課題を解決して成長力を高めていくための経営戦略にIT活用を合致させていくことが重要である。それと同時にアメリカにみられたような情報化投資による生産性の上昇を実現していくためには、日本企業の業務慣行や組織実態も含めた綿密な検証が必要である。

●人材面、資金面双方におけるイノベーション・システムの再構築
 国のイノベーション・システムは、その国の制度や慣行も含めて様々な要因によって左右される。我が国の「日本型」イノベーション・システムは、戦後復興期以降の経済成長において非常に大きく貢献してきた。優秀な人材が企業内で育成され、大企業を中心として長期的な効果を考えた研究開発投資が行われてきた。
 イノベーションにとって非常に重要な要素である人的資本の活用については、かつての発展を支えた技術者達が引退していく中、技術の伝承の面でも断絶が起こるリスクが懸念される。また、新たな環境変化の下で理工系の高度人材の確保や産学官の連携の重要性が増してきている。
 資金面でも、欧米においては政府の負担割合が多いことに加えて、投資家によるベンチャーへの投資や大学などによる研究開発も盛んである。一方、我が国に目を転じると、民間の特に大企業による研究開発投資を中心としてイノベーションが行われてきた。この点においても構造変化により成果を上げにくくなってきており、公的部門の支援や教育研究機関の活用などが今後は重要になってくる。人材面、資金面双方において変化の必要に迫られている我が国のイノベーション・システムについては、長期的な効果を考えた再構築が必要である。

●今後の企業部門の展望と課題
 長期にわたる景気回復局面の過程で、企業部門の効率性を確保し、高い生産性を実現するためにどのようなガバナンスが求められるかという問題意識が強まってきた。高い業績パフォーマンスを実現している企業は、厳しい事業環境にかかわらず、リスクテイクや他企業と差別化された行動を選択するための経営の意思決定能力が優れていると自己評価している。こうした企業は、決して極端な「株主主権」的な考え方を持ち合わせているわけではなく、本業を通じた企業価値の向上を目指す観点から、明確な経営目標を持ち、社内でそれを十分に共有し、意思決定スピードを上げるような組織特性を有している。その意味で、従来の「日本型」経営と矛盾する特徴を有しているわけではない。今後も日本企業が発展していくためには、非効率性につながらないように株主などによる監視機能が十分働くような制度基盤を整備していくとともに、人的資本や組織資本を十分活かしていくことが可能となるような企業統治の在り方を目指していく必要がある。


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