第1章 景気回復の長期化を目指す日本経済
第1章のポイント
第1節■景気の踊り場からの出口へ向けて
● バブル後の負の遺産の処理が済み、景気回復は4年目を迎えている。2004年後半にはIT関連分野における調整を主因に踊り場に入った。IT関連財の在庫調整は着実に進展しており、かつてのITバブル崩壊時に比べ短期で終了する見込み
● このように戦後平均を上回る景気回復が続いている要因としては、雇用、設備、債務の「3つの過剰」がほぼ解消し企業体質が強化されたこと、労働分配率が長期的な均衡水準に戻ったこと、団塊世代の大量退職を控えている要因により家計の雇用や所得環境が改善していることなどが挙げられる
第2節■景気動向の留意点
● 原油価格は2002年以降高騰しているが、石油依存度の低下などから日本経済への下押し圧力はこれまでのところ大きくない。しかし、企業収益圧迫、先行き不透明感による企業・家計の慎重化、世界経済の減速などのリスクには注意
● 輸出は2004年後半以降伸び悩み。高成長を続ける中国向けも電気機器や一般機械が鈍化。輸出は日本の生産に影響を与えることから海外経済動向に注目
第3節■集中調整期間から重点強化期間へ
● 集中調整期間においては、緩やかな景気回復が持続。また、主要行の不良債権問題が正常化し金融システムが安定化するなど、所期の目的がほぼ達成された。他方、緩やかなデフレが続いており、この克服は依然として重要な課題
● 人、財、資本の資源配分は流動的かつメリハリが利くようになっており、供給サイド強化の動きを示唆。それを反映し、失業率は低下、生産性は持ち直し
第4節■財政金融政策の評価
● 国と地方の基礎的財政収支赤字は2005年度までの3年で1.5%ポイント改善の見込み(2002年度は5.5%の赤字)。そのほとんどは公共投資削減による。景気回復を反映して歳入増も改善に寄与。他方、社会保障費は引き続き赤字拡大要因
● 2001年からの量的緩和政策について、中長期の金利上昇を抑制するという時間軸効果はみられた。物価に対する先行きの予想が高まりデフレ克服に資するよう、市場の動向や期待を踏まえつつ、実効性のある金融政策運営が重要
第5節■景気の将来展望
● IT関連財の在庫調整の進捗、雇用と所得の改善による消費の緩やかな増加等により民需中心の回復が続くと見込まれるが、原油高の長期化、景気の成熟化に伴う在庫調整や資本ストック調整の自律的な循環の可能性には留意
第1章 景気回復の長期化を目指す日本経済
日本経済は回復を続け、2002年初からの景気拡張局面は戦後平均(33か月)を上回り4年目を迎えている。景気回復により企業部門は改善が続いているが、その好調さの家計部門への波及は遅れていた。しかし、2005年には雇用や所得環境の改善を通じてようやく波及がみられるようになり、成長は着実さを強めることが期待されている。
これまでの拡張局面は一本調子ではなく、その過程に2度の一時的な調整局面が含まれている。一度目は2003年前半におけるイラク戦争の時期である。二度目は2004年後半からのIT関連分野における世界的な調整の時期である。前者の調整は、戦争終結とともに先行き不透明感が払拭され、内外経済ともに回復基調を取り戻した。後者は、IT部門の在庫調整の進展とともに、企業部門の好調さを背景とした民間需要の底堅さによって、徐々に乗り越えようとしている。
本章では今回の景気回復の特徴を明らかにし、回復が長期化する可能性と留意点を検討する。まず、底堅さを増す家計部門と体質改善が進む企業部門を取り上げ、バブル崩壊後日本経済が長期停滞に陥った主因である負の遺産を清算し、足腰の強い経済構造になりつつあることを示す。そして、IT部門を中心に海外経済の変動が日本の輸出に与える影響や原油価格高騰の景気押下げ効果等について分析する。さらに、集中調整期間における構造改革の進捗状況と経済的な成果を整理し、本年度から始まる重点強化期間の課題を考察する。あわせて、歳出歳入の一体改革を掲げる財政政策や量的緩和が続いている金融政策についても評価を行う。