はじめに

2004年度までの4年に及ぶ集中調整期間はほぼ所期の目的を達した。本年度からは2年間の重点強化期間に入り、新たな成長に向けた基盤の強化を図ることが課題となっている。そのためには、小さくて効率的な政府を構築することが大きな役割を担うが、その基本的な考え方の一つが「官から民へ」である。それは、政府が引き続き行うものを精査し、民が行えるものは民に任せていく取組を進めることである。小さな政府を築いていけるかどうかが、将来の少子高齢社会における経済活力の維持にとってかぎを握っている。

重点強化期間終了後の2007年度から重要な変化が起ころうとしている。総人口の減少と団塊世代の大量退職である。日本は先進国の中で最も早く人口が減少する国であり、しかもその減少度合いはどの先進国よりも大きいという事実を我々は直視し、その経済的影響を分析し政策的対応を進めていく必要がある。

このような問題意識の下に、本年の報告は3つの章から構成される。それぞれの分析結果をまとめると以下のとおりである。

第1章は、景気動向を振り返り、日本経済の現状分析と今後の展望を行う。1990年代以降の日本経済停滞の大きな要因であった負の遺産の調整がほぼ終了したことを示す。特に、不良債権処理はオフバランス化の進展を主因として目標どおりの処理が実現した。雇用情勢の改善によって消費を支える動きが徐々に現れつつあることが判明した。これらの結果、さらなる改革を進め、これまでの成果を持続的な成長につなげていくことが重要となっている。

第2章は、官から民への流れについて、これまでの達成状況と今後の課題を明らかにする。日本経済の長期発展の底流には「官から民へ」がある。国民の意識を分析すると、一定の条件下では小さな政府が志向されていることが明らかとなった。自治体サービスでは2003年から指定管理者制度が施行されているが、民間事業者が参入することによってサービスが効率化している現状が分かった。市場化テストは今後本格導入されていくが、官業の民間への開放によって経済活性化にもつながることが期待される。

第3章は、総人口の減少と団塊世代の大量退職の始まりという「人口の波」が経済に及ぼす影響を多面的に検討する。団塊世代の人件費増加圧力がバブル崩壊後には若年雇用に下押し圧力を与えた可能性があるが、近年ではその世代の定年退職が視野に入り、若年雇用が盛り上がりつつあることを示す。また、団塊世代は、サービスや時間の消費が堅調であり、金融資産選択においてリスク許容度が高いことから、これからも経済を先導していく見込みであることを明らかにする。

本年度からの重点強化期間においては、日本経済が今後も活力を維持できるかどうかの岐路に立っていることが理解され、望ましい政策が選択されることが重要である。そのための構造改革の取組強化に貢献することを本報告は目的としている。

コラム1 経済財政諮問会議

<経済財政諮問会議とは>

経済財政政策に関し、内閣総理大臣のリーダーシップを十全に発揮することを目的として、2001年1月に設置された。

<現在のメンバー>

小泉純一郎内閣総理大臣(議長)、細田博之内閣官房長官、竹中平蔵経済財政政策担当大臣、麻生太郎総務大臣、谷垣禎一財務大臣、中川昭一経済産業大臣、福井俊彦日本銀行総裁、牛尾治朗ウシオ電機(株)代表取締役会長、奥田碩トヨタ自動車(株)取締役会長、本間正明大阪大学大学院経済学研究科教授、吉川洋東京大学大学院経済学研究科教授

<最近の主な活動>

 骨太の方針

2001年の小泉内閣発足後毎年、骨太の方針(経済財政運営と構造改革に関する基本方針。略称「基本方針」)が策定されている。「基本方針2005」(2005年6月閣議決定)では、集中調整期間を経て、日本経済が“バブル後”と呼ばれた時期を抜け出し、重要な2年間を迎えているとしている。その上で、平成18年度までの重点強化期間における課題として、1「小さくて効率的な政府」をつくること、2新しい躍動の時代に向けて、少子高齢化とグローバル化を乗り切る基盤をつくること、3デフレを克服し、民需主導の経済成長をより確実なものとすること、の3つを挙げ、それに対する取組を示している。

 予算の全体像及び予算編成の基本方針

「基本方針2004」を踏まえ「17年度予算の全体像」(2004年7月諮問会議取りまとめ)では、モデル事業と政策群の大幅拡充や評価等の予算への反映などの予算制度改革、国の一般歳出及び歳出総額を実質的に16年度の水準以下に抑制などの方針を示し、17年度予算の概算要求基準が閣議了解され、「平成17年度予算編成の基本方針」が諮問会議の審議を経て閣議決定(2004年12月)された。

 改革と展望

2002年1月に「構造改革と経済財政の中期展望」(「改革と展望」)が諮問会議の審議を経て閣議決定され、その後、毎年1月に改定されている。本年1月に閣議決定された「改革と展望-2004年度改定」においては、2010年代初頭に国・地方を合わせた基礎的財政収支の黒字化を目指し、2006年度までの間、政府の大きさが2002年度の水準を上回らない程度とすることなど中期的な経済財政運営の基本方針が示されている。また、構造改革への取組をより本格化することにより、2006年度以降、名目成長率は2%程度(実質1.5%程度)あるいはそれ以上の成長経路を辿るとの展望を示している。

 郵政民営化基本方針

郵政民営化については、2003年10月以降諮問会議で審議が重ねられ、2004年9月には、民営化時点における組織形態の枠組み(窓口ネットワーク会社、郵便事業会社、郵便貯金会社、郵便保険会社をそれぞれ独立させ、持株会社を設立させる等)や各事業会社(例えば、郵便事業会社については、広く国内外の物流事業への進出を可能とすること、郵便のユニバーサルサービスの提供義務を課すこと等)等の在り方等を含む「郵政民営化の基本方針」が諮問会議の審議を経て閣議決定された。この基本方針に沿って法案策定作業が進められ、2005年4月に関連法案が閣議決定された後、国会へ提出された。

 三位一体改革

地方行財政改革については、「基本方針2002」で、国庫補助負担金、交付税、税源移譲を含む税源配分の在り方を三位一体で検討することとされた。その後、「基本方針2003」では、おおむね4兆円程度を目途に国庫補助負担金の廃止、縮減等を行うことなどが示された。さらに、「基本方針2004」(2004年6月閣議決定)では、国庫補助負担金改革の工程表、税源移譲の内容及び交付税改革の方向を一体的に盛り込むことや税源移譲はおおむね3兆円規模を目指すことなど、2006年度までの三位一体の改革の全体像を2004年秋までに明らかにすることなどが示された。

<専門調査会の主な活動>

 「日本21世紀ビジョン」の報告

「基本方針2004」において、将来の人口減少や少子高齢化の下で、制約条件とみなされる変化を新たな成長に結びつけ、経済社会の更なる発展のための戦略を取りまとめることとされた。諮問会議の下に設置された専門調査会において、2030年の「この国のかたち」について審議が進められ、2005年4月に「日本21世紀ビジョン」が諮問会議に報告された。ビジョンでは、ここ1~2年の重点強化期間において将来の成長の基盤を確立するため集中的な改革を行わなければならないとしている。そして改革の先の目指すべき将来像として、開かれた文化創造国家、時持ちが楽しむ健康寿命80歳、豊かな公・小さな官などが示された。

ホームページで情報公開
経済財政諮問会議
会議配布資料は当日、会議の議事要旨は3日後に掲載

コラム表1 経済財政諮問会議の最近の活動