第1章 景気回復力の展望

日本経済は、2001年中悪化を続けたが、2002年に入って悪化テンポが次第に弱まり、景気は底入れし、一部に持ち直しの動きがみられるようになった。今後の景気回復力の強さや持続性は、どのように展望できるであろうか。本章の目的は、今回の景気底入れの背景を明らかにするとともに、底入れ後における景気の回復力について検討することにある。

第1節では、景気の現状と今回の景気底入れの特徴を整理し、並行して進行しているデフレの要因及び影響について明らかにする。デフレについては、財・サービス価格面だけでなく、資産価格面についても検討する。第2節では、今回の景気底入れまでの局面において各経済主体がどのような行動をとったのかを、企業部門、銀行部門、家計部門に分けて検証する。第3節では、マクロの財政金融政策はどのように運用され、またそれはマクロ経済にどのような影響を及ぼしたのかを分析する。最後に、第4節では、景気底入れ後の日本経済を取り巻く環境を整理し、先行きについてどのように展望できるかを検討する。

結論をあらかじめ要約しておけば次のようなことになる。

景気が底入れした背景には、過去例を見ないような急速かつ大幅な生産調整が行われたなかで、世界経済の回復を背景に輸出が大幅な増加を示したことがある。しかし、他方で、企業や銀行のバランスシートや雇用等の調整は引き続いて進められており、これを受け家計の消費行動も低迷している。

輸出の増加や生産の持ち直しが企業収益の増加や雇用・所得環境の改善をもたらせば、次第に民間需要が回復に向かうことが期待される。しかし、企業や銀行の調整はまだ続くので、景気に対する下押し圧力は続き、当面の景気回復力は脆弱なものにとどまる。加えて、世界的な株価下落がみられるなかで、世界経済の先行き不透明感が強まっている。世界経済等の動向が日本経済を下押しする事態となれば、企業部門を起点とする景気回復が腰折れする可能性も否定できない。